文字のサイズを変更できます:小さい文字サイズ|標準の文字サイズ|大きい文字サイズ 最終更新日:2025年5月30日
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雲のこと
雲研究に関する一般向け情報をまとめています.
#関東雪結晶 プロジェクト
雪が降ったら雪結晶観測にご協力くださいsnow
顕著現象の報道発表一覧
顕著な大気現象が発生した際に速報的に解析を行い,報道発表をしています.
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大雪のメカニズム解明研究

 日本は世界でも有数の豪雪国です.冬季には,日本海上で発達したJPCZ(日本海寒帯気団集束帯,Japan sea Polar air mass Convergence Zone)により,日本海側を中心に狭い範囲で短時間で積雪が急増する「集中豪雪」とも呼べるような大雪となることがあります.また,南岸低気圧の通過に伴って首都圏など太平洋側で大雪が発生することがあります.
 ここでは,荒木@気象研台風二研が現在取り組んでいる大雪のメカニズム解明研究,関連する成果等の情報を載せています.

南岸低気圧による首都圏の大雪の研究

 首都圏では少しの積雪でも交通等に甚大な影響が及びます.2014年2月14〜15日には観測史上の最深積雪を大幅に超える積雪深が各地で観測され,これに伴い関東甲信地方の各地で雪崩や雪の重みによる建物被害,交通障害,人身事故が多発しました.首都圏の降雪現象は南岸低気圧と呼ばれる低気圧の接近・通過に伴って発生することが知られていますが(荒木 2016),その正確な予報は難しい現象です(気象庁 2015).
 首都圏で雨が降るか雪が降るかは大気下層の気温場が非常に重要ですが,下層気温場はメソスケール現象であるCold-Air Damming(荒木 2015a)や沿岸前線(荒木 2015b)の強さや位置によって大きく左右され,これにより雨と雪の地域も大きく変化します.これらを正確に予測するためには,南岸低気圧の位置・発達度合,低気圧に伴う雲・降水,地表面の温度・状態などを全て正確に予測する必要があります.このため,まずは首都圏の降雪現象の実態解明を目的とした研究を進めています.

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2014年2月15日の衛星SuomiNPPによる可視画像.

南岸低気圧の進路と首都圏の雨と雪の経験則について

 南岸低気圧の進路と「関東で雨が降るか,雪が降るか」については,過去には経験則が予報に使われていました.「低気圧が八丈島の北側を通ると暖気が入るため,関東では雨が降る」「八丈島の南側を通ると暖気が入らず,寒気の中にいるので雪が降る」というものです.しかし,2014年2月に関東甲信に歴史的な大雪をもたらした低気圧は,関東に上陸し,そのときでも大雪の持続していた地域がありました.経験則が当てはまっていなかったのです.
 そこで,過去60年分ほどのデータを調べたところ,低気圧の進路だけで関東で雪が降るか雨が降るかを判断はできないことが明らかになりました(荒木,2019).この経験則が広まった当時の調査研究では,事例数が少なく,期間も限定的で偏っていました.より詳しく調べたところ,そもそも日本全体,広い範囲で寒気の強いときに雪が降っていたことがわかりました.
 とても強い寒気が流入していれば進路に関係なく問答無用で雪が降りますが,気温が微妙なときは予測が難しいです.そのような場合,雲の広がりや雲の中で何が成長するか,Cold-Air Damminや沿岸前線などのメソスケールの現象も複雑に関係するので,予測が難しくなるのです.大雪の発生メカニズムの解明や予測精度向上に向けて研究を続けています.

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東京の雨雪と南岸低気圧の進路.荒木(2019)より.

南岸低気圧による大雪の総観・メソスケール環境場

 南岸低気圧による関東甲信地方の大雪は,大気循環場から総観スケール,メソスケール,雲物理過程など,マルチスケールの現象が相互に作用する複雑な環境場で発生します.そこで,南岸低気圧の通過に伴って関東平野で顕著な大雪となる総観スケール環境場の統計解析を行いました(荒木ほか,2019).
 関東で顕著な大雪となるとき,寒帯ジェットと亜熱帯ジェットの二重ジェット構造(Double Jet Structure)が存在していることがわかりました.寒帯ジェット入口と亜熱帯ジェット出口における非地衡風の二次循環による大気下層へのフィードバックを通して,メソスケールの大雪環境場である関東平野におけるCold-Air Dammingや沿岸前線を形成・強化しやすい環境場となっていました.また,オホーツク海低気圧とシベリア高気圧,寒帯ジェット入口における非地衡風の二次循環の存在が,大陸から北日本への寒気吹き出しを強化する.これによって形成された北日本付近から太平洋に張り出した高気圧は,関東平野におけるCold-Air Dammingや沿岸前線の形成・強化に寄与し,関東甲信地方の大雪の原因となるのです.さらに,南岸低気圧の北東象限における雲・降水粒子成長に伴う中層の非断熱加熱が大気上中層のThicknessを増大し,亜熱帯ジェット出口と寒帯ジェット入口の位相を固定することで,上層のジェットによる非地衡風の二次循環を通した大気下層へのフィードバックを維持していました.このような低気圧・降水と上層システムの相互作用が,関東平野における降雪の環境場を持続させ,結果として降雪期間が長くなり,顕著な大雪をもたらしていることが考えられます.

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首都圏大雪時の総観・メソスケール環境場.荒木ほか(2019)より.

南岸低気圧に伴う短時間大雪と表層雪崩

 平成29年3月27日に栃木県那須町の那須温泉ファミリースキー場付近の山岳地で表層雪崩が発生し,高校生ら8名が犠牲となりました.表層雪崩の発生には短時間での多量の降雪が要因となることが指摘されています.このため,文部科学省科学研究費補助事業「2017年3月27日に栃木県那須町で発生した雪崩災害に関する調査研究」の一環として,1989〜2017年の那須における降雪に関する統計解析に加え,3月27日の大雪について事例解析を行い,那須における短時間大雪の発生条件や降雪強化メカニズムについて調べました(荒木,2018).
 その結果,那須で雪が降る気圧配置パターンは,西高東低の冬型の気圧配置が63%,低気圧が30%であり,いずれも降雪時間が長いほど大雪になるという特徴が見られました.しかし,低気圧による大雪の場合には例外的に短時間で大雪になることがあり,これらの事例の多くは閉塞段階の低気圧が関東付近を通過していたことが明らかになりました.閉塞段階の低気圧中心の北西象限では降雪が強まりやすいことが米国東海岸における調査では報告されており,日本国内の低気圧に伴う降雪を扱った本研究でも整合的な結果が得られました.
 3月27日の大雪においても閉塞段階の南岸低気圧とその西側で発達した低気圧が関東の南東海上を通過しており,これら二つの低気圧に伴う雲が一体化し,閉塞段階の低気圧の特徴を持つ雲システムが那須に大雪をもたらしていました.高分解能数値シミュレーションの結果,このような気象条件に加えて,地形の影響によって那須岳の北〜東斜面で降雪が強化され(Seeder-Feederメカニズム),局地的に短時間大雪が発生していたことが示唆されました.

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Seeder-Feederメカニズムの概念図.風が強まり水蒸気が供給され,山岳風上斜面で発生した地形性 上昇流により過冷却の水雲(種をまかれる雲)が形成される.そこに上空の雲(種をまく雲)から雪が降り,過冷却の水雲内で雲粒捕捉成長によって雪が成長する.これにより下層の雲で降雪が強化され,山岳風上斜面で局地的に短時間大雪がもたらされたことが示唆される.気象研究所報道発表資料より.

シチズンサイエンスによる降雪結晶観測

 首都圏の降雪現象で特にわかっていないのが降雪をもたらす雲の物理特性(雲の中の大気状態や雲・降水粒子,気流構造等)です.これを明らかにするためには既存のレーダー等による観測に加え,地上での雪結晶観測が必要です.そこで,気象研究所「#関東雪結晶 プロジェクト」を実施し,市民のみなさまから雪結晶画像や天気などの気象状況の情報を募集し,降雪粒子の時空間変動・降雪雲の物理特性を明らかにする取り組みを行いました.このような市民参加型の研究手法はシチズンサイエンス(Citizen Science)と呼ばれています.これにより,首都圏の降雪現象の実態解明が進み,高精度に雨雪判別をする手法の確立や,将来的に降雪現象の予測精度向上に繋がります.

気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」

 気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」が日本気象学会より2019年12月27日に発刊されました.239号「I:概観」では先行研究のレビューや南岸低気圧による大雪に関わる基礎的な事項,大雪の気候学的特徴など,240号「II:マルチスケールの要因」では大気循環場,総観・メソ,雲・降水過程に注目した研究,241号「III:雪氷災害と予測可能性」では積雪物理や雪氷災害,予測可能性の研究,今後の展望について紹介しています.
 目次などの詳細は気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」のページをご覧ください.

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報道発表

研究課題

講演資料

  • 雪結晶で読み解く雲の心movie

    日本雪氷学会北信越支部と関東・中部・西日本支部主催の「2023年度積雪観測&雪結晶撮影講習会」での講演.スマートフォンを用いた雪結晶観測方法,雪を降らせる雲のしくみ,「天から送られた手紙」である雪結晶の読み方,地域や雲の種類による雪結晶の違いなどについて解説しています.広く一般向け.

論文等の成果

関連情報