文字のサイズを変更できます:小さい文字サイズ|標準の文字サイズ|大きい文字サイズ 最終更新日:2023年11月29日
Contents
Research Activity
#関東雪結晶 プロジェクト
雪が降ったら雪結晶観測にご協力くださいsnow
雲のこと
雲研究に関する一般向け情報をまとめています.
顕著現象の報道発表一覧
顕著な大気現象が発生した際に速報的に解析を行い,報道発表をしています.
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〒305-0052
茨城県つくば市長峰1−1
気象庁気象研究所
台風・災害気象研究部
第二研究室(5階)
 
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一般向け情報

 雲科学・気象学の教材として利用できそうな解説資料,空・雲・雪などの観察方法の解説,オンラインの記事,講演会の映像,関連する資料等を掲載しています.広く一般向けの情報のほか,子ども向け,中高生向け,気象キャスター等の解説者向け,自治体防災担当者向けの情報等があります.在宅での気象学の学習などにご活用ください.

コンテンツ

一般向け情報

書籍

雲や空について解説した短編動画集

 ここでは著書「空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑」(解説動画リスト)と「世界でいちばん素敵な雲の教室」(解説動画リスト)に収録した雲や空についての解説動画のうち,いくつかを抜粋して掲載しています.

一般向け講演等の映像資料

 ここでは広く一般向け(中高生以上)の講演会等の映像資料をまとめています.このほかに子ども向けの出演・講演映像と,気象予報士や防災担当者向けの講演映像もあります.

子ども向けの学習用教材等

気象観察・教材

 ここでは小さなお子さまから小学生程度の学習用教材として参考になりそうなものを紹介します.長期休暇や休校期間中には,ぜひ気象に関する現象の観察をしてみてください.

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 雲関連の教材としては,以下の書籍がオススメです.

ぬりえ

 気象絵本「せきらんうんのいっしょう」と「ろっかのきせつ」のぬりえをA4サイズのPDFで公開しています.下の画像をクリックするとPDFが表示されます.印刷してお子さまとぬりぬりしてください.

せきらんうんのいっしょう ろっかのきせつ

Web記事・出演・講演映像など

 小学生などのお子さま向けのオンラインで公開されている記事や出演・講演映像をまとめています.

気象学を学びたい方向け教材等

 ここでは主に気象学を志す大学生・大学院生や,気象予報士(受験生含む),気象庁やメディア,民間気象会社,自治体などで気象解説・防災業務に携わっている関係者をはじめ,気象学を学びたい方向け教材について紹介しています.

教科書・教材など

 気象学を学びたい方向けの教材として,オススメのものを紹介します.

気象予報士・防災担当者向け講演映像など

 ここでは気象学を志す学生さんや,気象解説業務などに携わる気象予報士,防災担当者向けの講演映像をまとめています.

  • 2016.11.05「顕著気象をもたらす雲の科学」荒木健太郎

     ゲリラ豪雨と呼ばれるような局地豪雨,集中豪雨,竜巻や雹などをもたらす積乱雲のしくみ,関連する最新の研究成果について紹介したもの.NPO法人気象キャスターネットワークの研修会での講演.気象キャスター等の解説者,気象予報士,学生等に向けた話.

  • 2018.08.22「シチズンサイエンスによる雪結晶観測「#関東雪結晶 プロジェクト」のこれまでとこれから」荒木健太郎

    KYOTOオープンサイエンス勉強会主催の「第22回KYOTOオープンサイエンス・ミートアップ」での講演.気象研究所「#関東雪結晶 プロジェクト」の概要や主な成果の他,オープンサイエンスの観点から見たシチズンサイエンスによる観測研究についても議論しました.オープンサイエンス関係者を想定して講演したもの.一般の方でもフォローできる内容です.

  • 2017.01.17「南岸低気圧に伴う関東降雪研究の最前線」荒木健太郎

    ウェザーマップ研修会(2017年1月17日開催)での講演.温帯低気圧としての南岸低気圧の特性(ライフサイクルや前線・気流構造,発達環境場),関東における冷気層形成メカニズム,Cold-Air Damming,沿岸前線などのメソスケール気象,降雪に関わる雲物理過程について解説しています.さらに,関東大雪時の総観・メソ環境場,降雪特性等に関する最新の研究成果についても紹介しています.最後に,現状では予測の難しい関東の降雪現象について,予報作業・解説業務における着目点や注意点をまとめています.予報業務従事者,気象キャスター,気象解説者向け.

  • 2017.01.07「南岸低気圧による大雪の研究」荒木健太郎

    NPO法人気象キャスターネットワーク研修会(2017年1月7日開催)での講演.予報業務従事者,気象キャスター,気象解説者向け.

  • 2017.01.07「糸魚川大火と局地気象」荒木健太郎

    NPO法人気象キャスターネットワーク研修会での講演.2016年12月22日に新潟県糸魚川市で発生した火災について,延焼の気象学的要因を考察したもの.過去に行った新潟県の「だし風」の調査結果(荒木 2010)を含め,局地風やフェーンに関する解説もしました.気象キャスター等,解説者向けのものですが,気象初学者でも理解できる内容です.

  • 2015.10.29「防災担当者のための顕著気象学」荒木健太郎

    第8回京都市防災・まちづくりCafeでの講演.豪雨をもたらす雲のしくみや情報利用などについて.自治体防災担当者向け.

科学的な自由研究ガイド

 「自由研究ってどうやればいいの?」とお困りのご家庭のために、学校では習えない「科学的な自由研究」の取り組み方をまとめました。ご家庭だけでなく、学校などでも自由に印刷して配布等できます。ぜひご活用ください。

以下は4枚まとめ版です。書き込める総ルビの詳細版はPDFでご用意しています。

雲や空を観察してみよう

 雲は身近な大自然です.そして天気は雲によって左右されています.雲のことを知ると,天気にふりまわされなくなるだけでなく,空も雲も楽しみながら生活できるようになります.ここでは,お子さまから楽しめる雲や空の観察のコツについて紹介します.

雲の名前を調べよう

 空に浮かんでいる雲は、小さな水滴や氷の粒が集まったものです。雲は晴れやくもり、雨などの天気を変化させ、虹などの美しい空を見せてくれるだけでなく,ときには雷や雹,大雨,大雪,竜巻などをもたらし気象災害の要因となることもあります。
 雲のモクモクしている部分は,氷点下の空でもだいたい液体の雲の粒(雲粒)でできていて,モヤッとしている繊維質な毛羽状になっている部分は氷の粒(氷晶)でできています.雲の粒の落下速度は1秒あたり1 cm程度ですが,大気中にはそれを超える上昇流がいたるところに存在しているため,雲粒は落下できず雲は空に浮かんでいることができます.しかし,雲粒が成長して落下できるようになると,地上では雨が降ります.

  • 関連解説雲の微物理過程の研究
    雲の粒のしくみや,雲の粒がどのように成長して雨や雪になるかなどを解説しています.
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撮影:荒木健太郎

 雲は大きく分けて10種類あり、これを十種雲形(じっしゅうんけい)と呼んでいます。雲の高さによって下層雲・中層雲・上層雲と分類されています。その雲が氷の粒だけでできているか、氷と水が混ざっているか、水だけでできているかによって、氷雲・混合雲・水雲という分け方をすることもあります。
 十種雲形を見分けるためのフローチャートを使えば、見上げた空で出会った雲が何という名前なのかがわかります。空を見上げるときには、ぜひ雲の名前もチェックしてみてください。

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十種雲形.「世界でいちばん素敵な雲の教室」より.
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十種雲形の雲分類フローチャート.
世界でいちばん素敵な雲の教室」より.

 もし長期休暇の自由研究など,継続して雲の観察をできる機会があれば,ぜひ同じ場所で毎日同じ時間(1日4回,9・12・15・18時など)に観察をして,記録してみてください.その日の気圧配置によって現れる十種雲形の種類が異なったり,1日のなかで時間によって特徴が変わるのが見えて来ると思います.もちろんこのような雲の変化は地域によっても異なる場合があります.ぜひ観察をして雲と空の特徴とその理由を考察してみましょう.


空の色を楽しもう

 空は時間帯や気象状況によって多彩な色に染まります.太陽から届く光にはさまざまな波長があり,そのうち私たちが目で認識できる光は「可視光線(かしこうせん)」と呼ばれています.光の色は波長によって異なり,それらが重なって白い光になっています.また,光が粒子にあたって進む向きを変えることを「散乱」と呼んでおり,光の波長よりも大きい雲の粒に光があたると,色(波長)に関係なく同じように散乱される「ミー散乱」が起こります.このため,雲粒で散乱される光は白い光となり,雲は白いのです.また,モクモクした雲の底は灰色になっていることがあります.これは,雲の中にさした光が弱まってしまって,雲の底まで届いていないためです.影が暗く見えるのと同じ理由です.

 青い空に白い雲,当たり前のように見かけるこのような空にもワケがあります.光の波長より小さい大気分子や大気中の微粒子(エアロゾル)に光があたると,波長の短い光が強く散乱する「レイリー散乱」が起こります.空の青は,青い光が空で散乱したものなのです.

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青い空と灰色・白い雲.
世界でいちばん素敵な雲の教室」より.
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空が青いしくみ.
世界でいちばん素敵な雲の教室」より.

 太陽高度の低い朝や夕方には,空が赤く染まることがあります.朝や夕方など太陽の高度が低い時間には,太陽からの可視光線の通る大気層の距離が長くなるため,レイリー散乱が効いて波長の長い赤い色だけが空に広がり,私たちの目に届くようになるのです.焼け空の赤は,光たちが壮絶な散乱を経て生み出されたものなのです.

 空の焼け色がいちばん赤くなるのは,日の出直前の東の空と,日の入り直後の西の空です.太陽からの光が通る大気層の距離が長いほど赤くなるため,夕方では太陽高度が低くなるにつれて空が青から黄金色(こがねいろ)に変わり,日の入ごろにはきれいなオレンジ系に,そして日の入直後は深い赤に色づきます.また,巻雲や巻積雲,高積雲などの上層雲や中層雲が出ていて,太陽のいる方向の空の天気がよいときにはとてもきれいに空が焼けることがあります.日の出直前や日の入直後では,太陽光が高い空の雲でミー散乱し,その光がレイリー散乱の影響を受けながら私たちの目に届くため,深く美しい赤に染まるのです.

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真っ赤に焼ける空.
世界でいちばん素敵な雲の教室」より.
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焼け空が赤くなるしくみ.
世界でいちばん素敵な雲の教室」より.

 空はいつでもきれいですが,特にオススメなのが「薄明(はくめい)」の空です.日の出前や日の入後の時間は「薄明」と呼ばれており,英語ではトワイライト(Twilight)です.薄明は太陽高度によって3つに分類されています.太陽高度が0(地平線)から−6度は屋外で活動できる明るさの「市民薄明」,−6〜−12度は海と空の境界が見える明るさの「航海薄明」,−12〜−18度は6等星が肉眼で確認できない明るさの「天文薄明」です.特に市民薄明では,さまざまな空色を楽しむことができます.

 薄明の時間帯は,光源となる太陽が地平線に隠れているため,影がなく暖かい色の空になり,魔法のように美しい空の写真が撮れるため,「マジックアワー」と呼ばれています.「ゴールデンアワー」と呼ばれることもあります.市民薄明の空は焼けるだけではなく,あたり一面が青に染まるブルーモーメントにも出会えます.ブルーモーメントは,焼け色のない日の出前と日の入後のわずかな時間に訪れ,天気がよくて雲が多くない状況で出会いやすい現象です.ブルーモーメントで空が濃い青色に染まる時間帯はブルーアワーと呼ばれ,この青色は大気によるレイリー散乱だけでなく,成層圏のオゾンの影響があると考えられています.

 このように,天気が良ければ1日に2回も薄明の時間の美しい空色を楽しめます.お住まいの地域や季節によって日の出・日の入りの時間は変化するため,「各地のこよみ(国立天文台)」などからお住いの地域の日の出・日の入りの時間を調べ,ぜひ綺麗な空の色を楽しんでみてください.

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虹を見つけよう

 虹は偶然でしか出会えないと思われる方が多いかもしれませんが,虹に出会いやすくなるコツがあります.

 とは,太陽と反対側の空で雨が降っているときに現れる,赤から紫までの色の並んだ円弧状の光のことです.「レインボー(Rainbow,雨の弓)」というように,太陽の光が雨滴の内部に入るときと出るときに屈折して,虹の光が生まれています.太陽の光が強いほど明るい虹色になり,ときにはダブルレインボーにも出会うことができます.ダブルレインボーは2重になっている虹のことで,内側の虹は主虹(しゅこう),外側の虹は副虹(ふくこう)と呼ばれています.よく見ると,主虹は内側が紫で外側が赤,副虹は内側が赤で外側が紫と,色の並びが逆になっています.色の並びが違いについて虹の弧のてっぺん付近で考えると,主虹の虹色は,雨滴の上部から入った光が内部で1回反射して下部から出るとき,副虹の虹色は,雨滴の下部から入った光が内部で2回反射して上部から出るときに生まれます.よく雨滴内部での反射回数で色の並びの違いを説明されることが多いのですが,主虹と副虹の色の並びが異なるのは雨滴の中で光が逆方向に回って色が分かれているからなのです.また,主虹のさらに内側の空は,雨滴で屈折した光が重なって明るくなっています.一方,主虹と副虹の間の空は光が集まりにくいために暗く,「アレキサンダーの暗帯(あんたい)」と呼ばれています.

 このように,虹は太陽と反対側の空で雨が降っていて,太陽の光がさしているときに出会うことができます.つまり,レーダーの雨量情報を確認しながら雨雲が通り過ぎるタイミングで太陽と反対側の空を見上げれば,虹と出会う確率が飛躍的に上がるのです.テレビの天気予報などで「大気の状態が不安定」と言われるような場合には,積乱雲による通り雨が起こる可能性があります.そんなときにはいつもより少し空の様子を気にかけ,身の安全を確保しながら虹を探してみてください.

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ダブルレインボー.
世界でいちばん素敵な雲の教室」より.
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虹のしくみ.
世界でいちばん素敵な雲の教室」より.

 雨が降っていないときでも,空に虹色の光が現れることがあります.空の彩りは雨滴だけではなく氷の結晶(氷晶)によっても生まれ,太陽や月の光が氷晶で屈折・反射して生まれる光の現象は,総じて「ハロ」と呼ばれています.その種類や形状は実に多様で,太陽の高度によっても姿が変わります.ハロを2種類に大きく分けて,太陽を中心に22度・46度の位置に現れる光の輪だけをハロ,そのほかのものをアークと呼ぶこともあります.

 ハロやアークは氷晶によって生まれるため,上空に巻雲や巻層雲,巻積雲がいるときに出会えることが多くあります.巻層雲だけが出ているときにはほぼ必ずハロが見られます.また,巻積雲から氷晶でできた尾流雲が発生したりすると,局地的にとてもきれいなアークが現れることもあります.太陽に対してハロとアークの現れる位置は決まっているため,高い空に氷の雲が出ているときには,ぜひハロやアークを探してみてください.この際,太陽は直視しないように十分気をつけて観察しましょう.

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幻日と22度ハロ.
雲を愛する技術」より.
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ハロ・アークの出現位置.
世界でいちばん素敵な雲の教室」より.


宇宙から空を見てみよう

 地上から空を見上げるのも楽しいですが,気象衛星を使って宇宙から空を眺めてみるのもオススメです.日本付近だけでなく地球全体を見てみるとどこかに必ず低気圧に伴って渦巻く雲がありますし,カルマン渦列や波状雲など大気の流れを可視化している雲を眺めるのはとても楽しいです.また,ひまわり8号による日本付近の画像は2.5分間隔なので,雲の時間変化がよくわかります.何か不思議な雲を見かけたときには宇宙からも眺めてみて,その雲がどのような広がりでどこで生まれているのかを確認するのも楽しいです.以下で紹介しているサイトでは過去に遡っても空を見ることができますので,なかなか外で空を見上げられないときなどにぜひ活用してみてください.

  • NICT ひまわり8号リアルタイムWeb

    静止気象衛星ひまわりによる10分毎の広域の画像と,2.5分毎の日本付近の可視画像を見ることができます.何か気になる雲が出ているときに宇宙から見てみると面白いです.広域の画像では地球の縁で毎日2回焼けている空と海を見ることができます.過去にも遡れるので非常に便利です.

  • NASA EOSDIS Worldview

    NASAの極軌道衛星Terra,AQUA,Suomi NPPによるTrue Color Image(眼で見た色に補正した画像)のほか,衛星観測データを使った各種プロダクト(積雪被覆率とか森林火災の様子・熱源など)が見られます.True Color Imageは1日1回更新され,過去に遡っても閲覧することができます.

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台風に伴う雲.2017年9月14日,NASA EOSDIS worldviewのTerraによる可視画像.「雲を愛する技術」より.
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カナリア諸島のカルマン渦列.2016年5月18日,NASA EOSDIS worldviewのTerraによる可視画像.「雲を愛する技術」より.


空から天気を予想しよう

 天気予報がまだない時代,天気の変化は空や雲の様子を見たり,動物の行動を観察することで予想されていました.こうして経験的に培われてきた天気の変化を予想する技術を「観天望気(かんてんぼうき)」と呼んでいます.なかには信憑性に欠けるものもありますが,雲や空は大気の状態を反映しているものなので,雲や空にまつわる観天望気は科学的根拠のあるものが多くあります.

 たとえば,「太陽や月のまわりに光の輪がかかると雨」という観天望気があります.これには,低気圧が西からやってきているときはまず巻層雲が広がってハロが現れ,段々と雲が厚くなって低気圧による雨が降るという,科学的根拠があります.逆に,低気圧がやってきて天気が西から下り坂になる予報が出ているときには,天気が崩れる前に巻層雲に伴うハロと出会えるチャンスでもあるのです.

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ハロ.「雲を愛する技術」より.
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温暖前線と寒冷前線に伴う雲.
世界でいちばん素敵な雲の教室」より.

 また,山の近くではツルッとした雲と出会えることがあります.山を越える大気の流れで発生した風下山岳波という大気中の波動に伴って生まれるのが「吊るし雲」です.山頂には「笠雲」という帽子のような雲も現れることがあります.

 積雲系の雲は周囲の風があまり強くなく,雲内の上昇流が空気を乱してモクモクしますが,吊るし雲は強い風に乗るためにツルッとした姿をしています.吊るし雲をつくる雲粒子たちは,大気の波動の風上側(上昇流域)で発生し,風下側(下降流域)で蒸発するという世代交代を常に繰り返しています.

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吊るし雲.「雲を愛する技術」より.

 富士山に発生する笠雲・吊るし雲については研究がなされており,雨や突風の前兆になることが多いと考えられています.日本海に低気圧があるときにこれらの雲が発生しやすく,雲発生後に寒冷前線による荒天がもたらされるからです.この雲を見かけたら,とりあえず天気予報をチェックしましょう.レンズ状になっている吊るし雲は上空の風が強いという証拠なので,特に登山中に見かけたら天気の急変などに注意が必要です.

 このほか,「朝焼けは雨」「夕焼けは晴れ」と言われることがあります.低気圧が西からやってくるとき,西から雲が厚くなって天気が下り坂になります.この状況で,朝焼けが見えるということは東の空が晴れていて西から雨になる可能性があり,夕焼けが見えるということは西の空が晴れていて翌日も晴れる可能性があるということだそうです.しかし実際にはそうならないことも多いので,天気が気になるときは天気予報を確認するのがベストです.

 天気予報の発達した現代では観天望気のような技術は必要ないように思われるかもしれませんが,現代でもまだ正確な予測の難しい現象はあるため,観天望気が重要となることもあります.それが,積乱雲による天気の急変です.

 積乱雲は荒天をもたらす典型的な雲で,雷雲(かみなりぐも)とも呼ばれています.高い空まで発達しており,雲の頭の一部は滑らかな毛羽(けば)状になっています.限界(対流圏上部)まで発達して行き場をなくした雲が,横に広がる「かなとこ雲」も特徴です.積乱雲は局地的に発生し,30分〜1時間と寿命が短い現象なので,発生前のピンポイントでの予測が難しいのです.しかし,積乱雲に関連する雲から天気の急変を予想することができます.

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積乱雲.「雲を愛する技術」より.

 まず,雄大積雲の頭に帽子のような雲がかかることがあります.これは「頭巾雲(ずきんぐも)」と呼ばれ,雄大積雲の上昇気流が湿った空気の層を持ち上げることで生まれます.つまりこの雲が出ているときには雄大積雲はまさに勢いよく発達しているところで,大気の状態が不安定であることが読み取れます.また,積乱雲が限界まで発達するとかなとこ雲を伴いますが,かなとこ雲は上空の風に流されます.青空のなかである方向から濃い巻雲(濃密巻雲)が広がってきたら,その先には発達した積乱雲がいる可能性が高いです.さらにその雲が厚くなり,雲の底にコブ状の「乳房雲(ちぶさぐも・にゅうぼうぐも)」が現れたら要注意です.乳房雲は積乱雲の進行方向の前方に発生するため,これが真上の空に現れたら自分のいる地域に積乱雲がやってくる可能性が高いのです.

 このような雲を見かけたら,天気の急変の可能性があると考えて外出時などは特に早めに安全確保をしていただきたいのですが,現代はレーダー観測の技術も発展しています.スマートフォンなどで「レーダー」で検索すれば手軽に雨雲の位置や動きを確認できるので,自分のいる地域に積乱雲が迫ってきていないかぜひチェックしてみてください.予測の難しい大雨は「ゲリラ豪雨」と呼ばれることがありますが,雲や空の変化に気づき,レーダーの雨量情報を使って予め雨が降ることがわかっていれば,ゲリラ豪雨もただの通り雨になるのです. 一方で,レーダーの雨量情報を使っていると,雨雲が通り過ぎるタイミングもわかるので,綺麗な虹に出会えるようになります.このように,虹のような美しい現象を楽しむために気象情報を使っていると,綺麗な景色に出会えるようになるだけでなく,いざというときに自分の命を守ることにも繋がるのです.

積乱雲の観天望気
積乱雲の観天望気.「せきらんうんのいっしょう」より.

気象庁「雨雲の動き(高解像度降水ナウキャスト)」のページ.5分間ごとの過去3時間分の雨雲の動きや,1時間先までの雨雲の予測情報をチェックできます.屋外活動時などの必須アイテムです.

気象庁「今後の雨(降水短時間予報)」のページ.過去12時間の30分間ごと,今後15時間の1時間ごとの雨量の分布をチェックできます.雨の時間帯や場所がわかるのでとても便利です.

スマホで観察するミクロな世界

マクロレンズで遊ぼう

 スマートフォン(以下,スマホ)のカメラと100円ショップなどで売っているスマホ用マクロレンズを使うと,手軽にミクロな世界を楽しむことができます.100円ショップなどで売っているスマホ用マクロレンズの倍率は約10倍のものが多く,たとえばちりめんじゃこの中に紛れ込んでいるチリメンモンスターや,昆虫,花,塩の結晶なども鮮明に観察・撮影することができます.

 以降では,スマホとスマホ用マクロレンズを使った雪の結晶や霜の結晶の観察について紹介します.

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チリメンモンスター.
ろっかのきせつ」より.
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朝露のついた花弁.
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塩の結晶.

雪の結晶を見てみよう

 雪の結晶というと顕微鏡のような特殊な装置がないと観察できないように思われがちですが,実は肉眼でも観察することができ,スマホとスマホ用マクロレンズがあればより鮮明にその姿を見ることができるのです.

 「雪は天から送られた手紙である」(物理学者・中谷宇吉郎博士)という言葉があります.これは,雪結晶の成長する大気の気象状態(気温・水蒸気量)によって結晶の形が変わるため,地上で観測された雪結晶を読み解くことで上空の大気の状態を把握できるということによっています.
 典型的な雪結晶としてよく知られているのは樹枝状結晶ですが,実は雪結晶には多くの種類があります.近年用いられている雪結晶・氷晶・固体降水のグローバル分類では,氷晶やみぞれ,雹なども含めて大分類8個,中分類39個,小分類で121個にもわけられています.

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雪結晶の種類と気温,氷飽和を超える水蒸気量との関係(小林ダイヤグラム:Kobayashi, 1961を改変).「世界でいちばん素敵な雲の教室」より.
分類表
雪結晶・氷晶・固体降水のグローバル分類の一覧表.
ろっかのきせつ」をもとに作成.↑クリックでPDF表示
  • 関連解説雪結晶画像サンプル / 雪結晶の種類・読み方 #関東雪結晶 プロジェクト
    雪の結晶の分類や,雪の結晶から雪をふらせる雲の状態の推定方法について解説しています.
  • 関連解説雪について 空ウォッチを活用したシチズンサイエンスによる気象研究
    個々の雪の結晶の解説などを掲載しています.

 スマホとスマホ用マクロレンズを使用して撮影した雪の結晶をいくつか掲載しておきます.これらはいずれも茨城県つくば市で撮影したもので,関東平野でもきれいな樹枝状の結晶のほか,角板状,角柱状,針状などさまざまな雪の結晶に出会えます.さらに,スマホで便利なのは動画撮影も簡単にできるということです.そのため,スマホ用マクロレンズを使うと,雪結晶が融解する様子なども撮影することができます.

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樹枝六花.2018年1月22日気象研究所(茨城県つくば市).撮影:荒木健太郎.
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角板.2019年2月11日気象研究所(茨城県つくば市).撮影:荒木健太郎.
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四花.2018年2月2日気象研究所(茨城県つくば市).撮影:荒木健太郎.
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角板付樹枝.2019年2月11日気象研究所(茨城県つくば市).撮影:荒木健太郎.
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扇付角板.2019年2月11日気象研究所(茨城県つくば市).撮影:荒木健太郎.
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針による雪片.2019年2月9日気象研究所(茨城県つくば市).撮影:荒木健太郎.
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放射交差角板.2018年1月22日気象研究所(茨城県つくば市).撮影:荒木健太郎.
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角柱.2019年2月9日気象研究所(茨城県つくば市).撮影:荒木健太郎.
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角板鼓(かくばんつづみ).2018年1月22日気象研究所(茨城県つくば市).撮影:荒木健太郎.

雲粒付着した十二花が融解する様子.スマホ用のマクロレンズを使用してiPhone6で撮影.
2017年1月20日茨城県つくば市.撮影:荒木健太郎.

 雪の結晶の撮影時のポイントは以下の通りです.

  • 暗い色の生地を背景にします.あらかじめ外で冷やしておくと雪結晶が融けにくくなります.
  • 雪結晶が着地してすぐがシャッターチャンスです.
  • スマホのカメラで最大ズームして接写して連写します.
  • スマホ用マクロレンズなしだと約10cm,ありだと2〜3cmまで近づくとピントが合います.
  • 少しの手ブレでもぼやけてしまうので連写しましょう.
  • スマホやカメラ等の撮影機材が濡れて故障しないようお気をつけください.
  • しっかりと防寒し,周囲の安全を十分に確認して観察してみましょう.

 雪の結晶の撮影方法のポイントやコツをまとめた資料を以下に掲載しておきます.気象研究所では,首都圏の降雪現象の実態解明を目的に,雪結晶画像や天気などの気象状況の情報を募集する「#関東雪結晶 プロジェクト」を実施しています.雪結晶を撮影したらぜひご参加ください.

  • 関連解説雪結晶撮影方法 #関東雪結晶 プロジェクト
    雪結晶の撮影方法の詳細について解説しています.
雪結晶
雪の結晶の撮影方法.「ろっかのきせつ」より.

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画像をクリックするとPDFのファイルpdfが閲覧できます.

霜の結晶や朝露を観察してみよう

 冬の朝には足元が白くなってキラキラ輝いていることがあります.そこをよく見てみると,成長した霜の結晶たちと出会うことができます.霜の結晶は雪の結晶とサイズが同程度で,冬季に頻繁に観察できるので雪の結晶の撮影の練習にもぴったりです.

 そこで,「#霜活」という取り組みも行っています.#霜活ではスマホで撮影した霜結晶の写真をTwitterやFacebook,インスタグラムなどのSNSに「#霜活」というハッシュタグをつけて投稿しています.このタグで検索してみると,多くの方の撮影された霜結晶を手軽に閲覧できます.

 霜結晶を観察しやすい条件・場所としては,

  • 気象条件:晴れた日の風の弱い朝で,最低気温が数℃以下
  • 場所:空がひらけた草地など
  • 見るところ:地面に近い植物の葉っぱの表面など
などが挙げられます.晴れた日の夜には,地表から宇宙に熱が逃げる放射冷却によって地面の温度が下がり,地面に近い空気から冷えていきます.天気予報やアメダスで観測される気温は地上高1.5mのもので,朝の最低気温が数℃以下(霜注意報の発表基準が概ね最低気温2〜4℃)だと地面付近は0℃以下に冷え,植物の葉っぱの表面にある繊維状の構造を芯にして霜結晶が成長します.このとき,霜結晶は空気中の水蒸気が昇華して氷になっています(なお霜柱は土壌中の液体の水が凍ったものです).風が吹いていると地面に近い空気がそれより上の高温な空気と混ざってしまい,霜結晶が成長しにくくなります.翌日の天気予報を見て,予想最低気温と風の強さをチェックして「#霜活」をお試しください.

 霜結晶は大きく分けると,うろこ状,針状,羽状,扇子状の4種類です.これらは雪結晶と同様に気温や水蒸気量によって形が変化します.このほか,細長い葉っぱの先端付近などでは,植物の生命活動に伴って気温の下がる朝には朝露ができ,それが凍った凍結水滴(凍露)が見られることがあります.凍結水滴は雪結晶のグローバル分類における二十面体氷晶に似た構造を持っていることがあり,表面で霜結晶が成長していたりとその姿は様々です.
 霜結晶や凍結水滴たちは,朝陽がさすと融けながら虹色の美しい輝きを放ちます.このような時間を私はシンデレラタイム荒木健太郎『雲を愛する技術』(光文社新書))と呼んでいます.儚く美しい朝の時間をぜひ楽しんでみてください.

  • 関連解説「#霜活」 #関東雪結晶 プロジェクト
    霜の結晶の観察方法などについて解説しています.

 自然現象として発生する霜は12月〜3月頃によく観測され,暖候期には出会えません.しかし,アイス菓子の表面などで成長した霜結晶であれば,真夏でも#霜活を楽しむことができます(荒木健太郎『雲を愛する技術』(光文社新書)).

 霜が見られなくなった暖候期でも,朝露でマクロ撮影の練習ができます.これを「#露活」と呼んでおり,同様にSNS上にハッシュタグをつけて投稿します.朝露は天然の魚眼レンズですので,水滴を通して見る景色が楽しいです.また,太陽光を受けて虹色に輝きます.ぜひミクロな世界を楽しんでみてください.

雪の結晶を作ってみよう

 夏でも雪の結晶の観察をしてみたい場合には,少し準備して雪の結晶を作ってみましょう.気象絵本「ろっかのきせつ」に掲載している雪の結晶を作る実験方法について紹介します.

人工雪結晶
雪の結晶の作り方.「ろっかのきせつ」より.

「地震雲」を不安に思われている方へ

 雲は地震の前兆にはなりません.世間一般で地震雲として騒がれている雲は,実は日常的によくある雲で,全て気象学で説明できる雲です.地震雲なるものはまず定義が曖昧ですが,地震の前兆として現れる雲とするのであれば,「地震雲はあるのかないのか」という問いに対して答えるのなら,科学に中立な立場からは「地震雲は存在が証明されていない」という説明が正確です.ただし,存在しないことを証明するという問題は難しく,このように答えると「それなら将来的に存在が証明されるのでは?」と思われるかもしれません.地震雲の説明として地下深くの状態の変化に伴って大気中に電磁波が放出されて雲ができるといわれているようですが,このプロセスはよくわかっていません.もし仮に深い地中からの電磁波が雲に何らかの影響を与えていたとしても,少なくとも世間一般で地震雲と呼ばれることの多い雲はすでに力学的・雲物理学的に説明できるため,その影響を私たちが目で見て雲の形などから判断することは不可能です.そのため,雲は地震の前兆にはならないのです.

 では世間一般ではどのよう雲が地震雲と呼ばれてしまっているのかを見てみると,最も多いのが飛行機雲です.飛行機雲は上空が湿っていれば成長して太くなりますが,見ている方向と同じ向きに飛行機雲がのびていると,雲が空に立っているように見えます.さらに,風下山岳波など上中層の大気重力波に伴う波状雲も地震雲と呼ばれることが多いです.このような波状雲は地下の異常に伴う重力場変動で発生すると主張される方もいるようですが,大気重力波の発生には大気の状態が非常に重要であり,重力場の変動は無関係です.また,青空と雲の境界がはっきり分かれている場合も地震雲と呼ばれることが多いようです.このような雲は気団の境目で発生し,青空と雲域が綺麗に分かれるということはごくありふれた現象です.ほかにも,上空の流れに伴って発生する放射状,レンズ状の雲なども地震雲として怖がられることが多いようです.真っ赤な焼け空や深紅の太陽・月も地震に関係するといわれることがありますが,レイリー散乱で説明できます.最近では彩雲やハロ,アークなどの大気光象までもが「これは地震雲ですか?」と私のSNSアカウントに問い合わせが来ます.もはや雲ではないものも含め,何でもかんでも地震と結びつけられているようです.

 ここで紹介した雲たちは,普段から空を見上げていれば頻繁に出会える雲ばかりです.地震雲という考えは,日常的に空を見ていない方がたまたま空を見上げたときに目に入った雲や,大きな地震の後に見かけた至って普通の雲に当てはめられているように考えられます.認知心理学の分野で取り扱われるのが良いかもしれませんが,自分の知らない現象を不吉なものとしてカテゴライズして安心しようという心理が働いているのかもしれません.現に「これは地震雲ですか?」と質問をされた方に「これは普通の○○雲です」というとなぜか安心されます.それで安心して終わりなのではなく,地震が不安なら日頃から備えましょう.その上で雲は愛でましょう.雲を楽しみながら雲の声を聞けば,天気の変化を観天望気で予測することはできますし,充実した雲ライフが送れるようになります.

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飛行機雲.「雲を愛する技術」より.
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焼ける波状雲.「雲を愛する技術」より.
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層状高積雲.撮影:荒木健太郎.
参考文献・関連資料

WEB会議などで使える雲壁紙100枚

 WEB会議などで使える雲壁紙100枚をご用意しました.これらの画像は,テレワーク・在宅勤務・遠隔授業などでのWEB・TV会議アプリケーション等の背景として,個人が使用することを目的として提供するものです.使用にあたってのお願いなどはリンク先のテキスト「はじめにお読みください」をご確認ください.ぜひお気に入りの雲や空を見つけてご活用ください.

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オンライン記事等

 これまでに荒木が取材対応したオンラインの記事について,Web上に残っていて全文読めるものを抜粋して掲載しています.

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