空ウォッチを活用したシチズンサイエンスによる気象研究
気象研究所では,首都圏降雪現象の実態解明を目的に,シチズンサイエンス(市民参加型の研究手法)による降雪観測「#関東雪結晶 プロジェクト」 を実施しています.この取り組みでは,降雪時の雪結晶画像のほか天気等の気象状況の情報を募集しており,シチズンサイエンスのための気象アプリ「空ウォッチ by 3D雨雲ウォッチ」 を活用しています.空ウォッチの詳細はアプリページ (外部リンク)をご覧ください.
ここでは,空ウォッチを活用した気象研究において,市民のみなさまに観測のご協力をお願いする,天気や大気現象の知識を紹介します.シチズンサイエンスによる気象研究へのご協力をよろしくお願いします.
お知らせ(2019年12月26日)
気象アプリ「3D雨雲ウォッチ」のメンテナンスにより,「空ウォッチ」が一時閉鎖されることとなったため,2019年12月以降の「#関東雪結晶 プロジェクト」 では参加方法を一時的に従来のSNS・メールを活用した方法に戻すこととしました.参加方法の詳細は「#関東雪結晶 プロジェクト」 のページをご覧ください.
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天気とは
空で起こる現象(大気現象)には、雨や雪、霧や雷など、さまざまな種類があります。天気 とは、空を見上げたときの大気現象と雲に着目した、大気の総合的な状態のことをさします。
ここでは、天気を決める雲のことと、空ウォッチを活用した気象研究で扱う天気について紹介します。
撮影:荒木健太郎
撮影:荒木健太郎
雲について
空に浮かんでいる雲は、小さな水滴や氷の粒が集まったものです。雲は晴れやくもり、雨などの天気を変化させるだけでなく、雷や雹といった大気現象もつかさどっています。
まず、空全体を見渡したときに占める雲に覆われた部分の割合を雲量 (うんりょう)といい、これによって晴れやくもりが決まります。雲量は0から10までの整数で表し、雲が全天をほぼ覆っていても隙間がある場合には10−,雲はあるけど雲量1に満たない場合は0+と表現されます。
撮影:荒木健太郎
雲は大きく分けて10種類あり、これを十種雲形 (じっしゅうんけい)と呼んでいます。雲の高さによって下層雲・中層雲・上層雲と分類されています。その雲が氷の粒だけでできているか、氷と水が混ざっているか、水だけでできているかによって、氷雲・混合雲・水雲という分け方をすることもあります。
十種雲形を見分けるためのフローチャートを使えば、見上げた空で出会った雲が何という名前なのかがわかります。空を観測する際には、ぜひ雲の名前もチェックしてみてください。
巻雲(けんうん)
上層雲のひとつで、高い空に現れる、氷だけでできた雲です。上空の強風に流され、繊維状、毛羽(けば)状の姿をしています。すじ雲(ぐも)、はね雲(ぐも)、しらす雲(ぐも)とも呼ばれています。
巻積雲(けんせきうん)
秋の風物詩の雲で、上層雲のひとつです。うろこ雲(ぐも)、いわし雲(ぐも)、さば雲(ぐも)とも呼ばれます。上空の不安定な層で発生したツブツブや波紋のような小さな雲で構成されており、雲が虹色に染まったり穴が開くことがあります。空を見上げて手をのばし、水平線から30度(地平線からげんこつ3個分くらい)以上の高さの空で個々の雲が人差し指に隠れれば巻積雲です。
巻層雲(けんそううん)
高い空を覆うように広がる雲で、うす雲(ぐも)とも呼ばれています。上層雲のひとつです。
氷の粒でできた雲で、「ハロ」 という光の輪が太陽や月のまわりに現れます。
高積雲(こうせきうん)
多彩な姿をもつ中層雲のひとつで、ひつじ雲(ぐも)、叢雲(むらくも)、まだら雲(ぐも)などの愛称で親しまれています。
巻積雲 と見た目が似ていますが、空を見上げて手をのばしたとき、個々の雲は指1〜3本分くらいの大きさです。
高層雲(こうそううん)
朧雲(おぼろぐも)とも呼ばれる雲で、中層雲のひとつです。広範囲を覆うことが多い雲です。
太陽がすりガラスを通したようにぼんやりと見えます。
乱層雲(らんそううん)
雨や雪を降らせる雲で、中層雲のひとつです。雨雲(あまぐも)、雪雲(ゆきぐも)とも呼ばれています。
暗い色をしており、雲の底が乱れていることが多い雲です。
層積雲(そうせきうん)
空を曇(くも)らす代表格で、下層雲のひとつです。うね雲(ぐも)やくもり雲(ぐも)とも呼ばれます。
高積雲 と同様、多彩な姿をしています。
層雲(そううん)
おとなしい性格の雲で、地上に最も近い高さに現れる下層雲のひとつです。
層雲は霧雲(きりぐも)とも呼ばれており、地面に達すると霧 に分類されます。
積雲(せきうん)
モクモクとした雲で、暖かい時期に出会いやすい下層雲のひとつです。雲の底が平らになっているのがポイントです。見た目からわた雲と呼ばれたり、天気を崩さない積雲は好天積雲(こうてんせきうん)とも呼ばれます。
特に上方に発達した積雲は雄大積雲に分類され、これはその姿から入道雲とも呼ばれています。
積乱雲(せきらんうん)
荒天をもたらす典型的な雲で、雷雲(かみなりぐも)とも呼ばれます。
高い空まで発達しており、雲の頭の一部は滑らかな毛羽(けば)状になっています。限界(対流圏上部)まで発達して行き場をなくした雲が、横に広がる「かなとこ雲(ぐも)」も特徴です。
雷を伴い、大雨や竜巻などの原因にもなります。
晴れ・くもり
気象観測では、晴れ〜くもりを次のように決めています。
快晴 雲量が1以下
晴 雲量が2以上8以下
薄曇 雲量が9以上で,巻雲・巻積雲・巻層雲が見かけ上最も多い
曇 雲量が9以上で,上記以外の雲が見かけ上最も多い
観測の際には、一方向の空だけでなく、全方向の空をチェックして雲量を判断するのがポイントです。空ウォッチを活用した気象研究では、「快晴」「晴」「薄曇」を「晴れ 」、「曇」を「くもり 」としています。
いずれも荒木健太郎「雲を愛する技術」より
雨
雨は、空から水滴が降る現象です。また,多数の細かい水滴が一様に降る現象を霧雨と呼んでいます。空ウォッチを活用した気象研究では、これらを合わせて「雨 」としています。
みぞれ
みぞれは、雨と雪が混在して降る現象です。
雪のような白いものが空から降ってきていても、雨が混じっていたらみぞれです。多くの場合、雪結晶はとけて形がわからなくなっています。
撮影:荒木健太郎
雪
空から氷の結晶や氷の粒が降ってくる現象は、気象観測では次のように決まっています。
雪 空気中の水蒸気が昇華してできた氷の結晶が降る現象
霧雪 ごく小さな白色で不透明な氷の粒が降る現象
細氷 ごく小さな氷の結晶が徐々に降る現象(ダイヤモンドダスト)
雪あられ 白色で不透明な氷の粒が降る現象
氷あられ 白色で半透明な氷の粒が芯となり、そのまわりに水滴が薄く氷結した氷の粒が降る現象
空ウォッチを活用した気象研究では、これらを合わせて「雪 」としています。
雪結晶
「雪は天から送られた手紙である 」(物理学者・中谷宇吉郎博士)という言葉があります。これは、雪結晶はその結晶が成長する雲の中の気象状況によってその姿が変わるため、地上に舞い降りてきた雪結晶を観察することで雲の特性がわかるというものです。
(右図)雪結晶の種類と気温,氷飽和を超える水蒸気量との関係(小林ダイヤグラム:Kobayashi, 1961を改変).荒木健太郎「世界でいちばん素敵な雲の教室」 より.
雪結晶は様々な姿をしています。近年用いられている雪結晶のグローバル分類では、氷晶やみぞれ,雹なども含めて大分類8個、中分類39個、小分類で121個にもわけられています。
雪結晶はスマートフォンで手軽に撮影することが出来ます。雪結晶の撮影方法の詳細は「#関東雪結晶 プロジェクト」のページ をご覧ください。
空ウォッチを活用した気象研究では、この中から代表的なものを選び、投稿時に複数選択をお願いします。雪結晶撮影は、周囲の安全を確認 の上で行ってください。
(右図)雪結晶の分類.荒木健太郎「ろっかのきせつ」 より.
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樹枝状(じゅしじょう)
雪の結晶といえば樹枝状の結晶が有名です。枝分かれした構造などを持っています。大きさは数mmくらいです。
藤野丈志氏提供.
複合板状(ふくごうばんじょう)
雪結晶が成長する中で、少なくとも2種類以上の結晶の成長過程を経たものです。多くは数mmくらいの大きさです。
藤野丈志氏提供.
角板状(かくばんじょう)
六角形の結晶です。小さな結晶が多いですが、大きいと1mmくらいあります。
藤野丈志氏提供.
交差角板状(こうさかくばんじょう)
角板が交差した形をしている結晶です。鎖のように連なっているものや放射状になっているものもあります。
藤野丈志氏提供.
砲弾状(ほうだんじょう)
その名の通り砲弾のような形をしている結晶です。集合している場合もあります。
藤野丈志氏提供.
鼓状(つづみじょう)
角柱状の結晶の底面で角板や樹枝が成長したものです。和楽器の鼓のような形をしています。
藤野丈志氏提供.
角柱状(かくちゅうじょう)
六角柱の形をした結晶です。小さいものが多いですが、大きい結晶は1mmをこえるものもあります。
藤野丈志氏提供.
針状(しんじょう)
六角柱が縦にのびて針のような形になった結晶です。大きさは数mmくらいです。
藤野丈志氏提供.
雪片(せっぺん)
いわゆる「ぼたん雪」で、複数の雪結晶がくっついて降ってきたものです。個々の雪結晶の形がわかる場合には、それぞれの形を投稿時に選択してください。
藤野丈志氏提供.
雲粒付(うんりゅうつき)
雪結晶に雲粒が付着したものです。雪結晶の表面を見ると白いツブツブがくっついています。雲粒付着の程度には何段階かありますが、雲粒付着が確認できたらこれも選択して投稿をお願いします。
藤野丈志氏提供.
霰(あられ)
雲粒付結晶がさらに成長したものです。もともとの雪結晶が雲粒で覆われてわからなくなっています。
藤野丈志氏提供.
積雪深(せきせつしん)
雪が積もっている状態を積雪といいます。この深さ(積雪深 )の観測をする際には、ひらけた場所の積雪に定規などをさして測り、その写真を撮影します。空ウォッチを活用した気象研究では、観測した積雪深が含まれる値を選んで写真を添えて投稿をお願いします。また、周囲の積雪している様子についても投稿いただければと思います。
撮影:荒木健太郎
撮影:荒木健太郎
凍雨(とうう)
凍雨 は、空から降ってきた雪がとけて再び凍ってできた、透明または半透明の氷の粒が降る現象です。上空に暖気が流入しているときなどに観測されやすく、冬の関東などで観測されることがあります。
撮影:荒木健太郎
雹(ひょう)
雹 は、透明な層と半透明な層とが交互に重なってできた氷の粒またはかたまりが降る現象です。霰と同じような成長メカニズムで発達した積乱雲 から降ってきますが、霰 は直径5mm未満、雹は直径5mm以上という違いがあります。
雹の観測・投稿は、必ず雹が降り終わってから安全確保 の上で行ってください。
町田和隆氏・小沢かな氏提供
雷
雷は、光だけの「電光(でんこう)」、音だけの「雷鳴(らいめい)」、その両方の「雷電(らいでん)」があります。雷の放電現象は、積乱雲 に伴ってのみ発生します。
空ウォッチを活用した気象研究では、電光のみの場合は「雷」とはせず、 音を伴っている「雷鳴」もしくは「雷電」を「雷 」としています。雷の観測・投稿は、必ず安全確保 の上で行ってください。
NOAA Photo Libraryより
竜巻
竜巻は、地上に生じる激しい空気の渦のことで、積雲 または積乱雲 から垂れ下がる柱状・ろうと状の雲(ろうと雲)を伴っています。
空ウォッチを活用した気象研究では、地上の渦と、地上には達していないろうと雲も含めて、「竜巻 」としています。竜巻を見かけたらすぐに安全確保をしてください 。もし安全確保の上で撮影されたデータなどがあれば、投稿をお願いします。
NOAA Photo Libraryより
霧(きり)
霧 は、ごく小さな水滴が大気中に浮かんでいる現象で、見通しが1km未満の場合をいいます。見通しが陸上でおよそ100m以下の霧は、濃霧と呼ばれます。濃霧かどうかの基準は地域によって異なり、見通しが300m以下の霧の場合などもあります。霧は夜間の放射冷却などによって地上で発生するほか、層雲 が地上に接することでも発生します。
撮影:荒木健太郎
霜(しも)
霜 は、大気中の水蒸気が昇華して、地面や地面付近のものに付着した氷の結晶のことです。うろこ状、針状、羽状、扇子状があります。冬の朝には、ほかにも植物のとがった葉っぱの先端部分などで凍結した水滴(凍結水滴)なども見られます。空ウォッチでは、これらを合わせて「霜」としています。
晴れて風が弱く、最低気温がおおむね2℃以下の冬の朝に観測しやすいです。雪結晶撮影の練習として、スマートフォン用マクロレンズを使用して撮影してみましょう。霜結晶には、朝陽を浴びると虹色に輝きながらとけていく「シンデレラタイム 」があります。儚く美しい時間をお楽しみください。
撮影:荒木健太郎
撮影:荒木健太郎
焼け空
日の出・日の入り前後の時間は、空が赤く染まることがあります。これは、太陽高度が下がることで、太陽光の通る大気層の距離が長くなり、レイリー散乱の影響を受けて赤い波長の光が空で広がるためです。
空ウォッチを活用した気象研究では、朝焼け・夕焼けの空を「焼け空 」としています。
虹
虹は、太陽や月と反対側の空で雨が降っているときに現れる、虹色の円弧です。光が水滴内で屈折・反射することなどで生まれ、二重になることもあります。
空ウォッチを活用した気象研究では、光の干渉で生まれる過剰虹、湖などの水面での反射光で生まれる反射虹、雲粒で生まれる白虹なども含め、「虹 」としています。
彩雲
彩雲は、太陽や月の近くの水雲で光が回折することで生まれる虹色の雲です。特に巻積雲 ・高積雲 で観測しやすく、積雲 でも見られることがあります。観測時には太陽を直視しない ようにして、太陽を建物などで隠して撮影してください。彩雲は色の並びが不規則ですが、太陽を中心に同心円状に虹色が並ぶ光環という現象もあります。
空ウォッチを活用した気象研究では、これらを合わせて「彩雲 」としています。
ハロ・アーク
ハロ・アークは、氷雲で太陽や月の光が屈折・反射するなどして生まれる現象です。巻層雲 が出ているときは22°ハロが見られますが、この他にもハロ・アークの種類は様々で、氷雲を観察していると美しい空の輝きに出会えます。
空ウォッチを活用した気象研究では、これらを合わせて「ハロ・アーク 」としています。
動画解説
空ウォッチを活用したシチズンサイエンスによる気象観測の知識について,動画で解説 しています.
空ウォッチを活用したシチズンサイエンスによる気象研究 (5分49秒)
空ウォッチを活用したシチズンサイエンスによる気象研究について解説しています.
VIDEO
観測の知識:空ウォッチを活用したシチズンサイエンスによる気象研究 (23分10秒)
空ウォッチを活用したシチズンサイエンスによる気象研究において観測する,天気や大気現象について解説しています.
VIDEO
雪結晶の観測の知識:空ウォッチを活用したシチズンサイエンスによる気象研究 (16分53秒)
空ウォッチを活用したシチズンサイエンスによる気象研究において観測する,雪結晶の分類や観測方法について紹介しています.
VIDEO
報道発表
補足情報
空ウォッチを活用している「#関東雪結晶 プロジェクト」 は,気象研究所課題解決研究「台風・顕著現象の機構解明と監視予測技術の開発に関する研究 」(2019年度〜2023年度)の「副課題2:顕著現象の実態解明と数値予報を用いた予測技術の研究」と,文部科学省科学研究費補助事業「首都圏の高精度雨雪判別手法確立に向けた降雪機構の実態解明」(課題番号:17K14394)の一環として実施しているものです.上記科研費研究による株式会社エムティーアイへの委託開発により,特に降雪現象についての詳細な情報が「空ウォッチ by 3D雨雲ウォッチ」 (外部リンク)で投稿できるようになっています.「空ウォッチ」は,株式会社エムティーアイが運用する気象アプリ「3D雨雲ウォッチ」の機能のひとつです.