文字のサイズを変更できます:小さい文字サイズ|標準の文字サイズ|大きい文字サイズ 最終更新日:2019年12月27日
Contents
Research Activity
#関東雪結晶 プロジェクト
雪が降ったら雪結晶観測にご協力くださいsnow
雲のこと
雲研究に関する一般向け情報をまとめています.
顕著現象の報道発表一覧
顕著な大気現象が発生した際に速報的に解析を行い,報道発表をしています.
Access
〒305-0052
茨城県つくば市長峰1−1
気象庁気象研究所
台風・災害気象研究部
第二研究室(5階)
 
現在の場所:ホーム > 台風・災害気象研究部 > 第二研究室 > 荒木健太郎 > 南岸低気圧に伴う雪研究 > 気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」

気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」

 気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」が日本気象学会より2019年12月27日に発刊されました.本気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」は3号分冊で,239号「I:概観」では先行研究のレビューや南岸低気圧による大雪に関わる基礎的な事項を紹介し,大雪の気候学的特徴や2014年2月の大雪時の雪氷災害の実態について解説しています.240号「II:マルチスケールの要因」では,大気循環場,総観スケール,メソスケール,雲・降水過程に注目した研究について紹介し,さらに,241号「III:雪氷災害と予測可能性」では,大雪時の積雪物理や多岐に渡る雪氷災害の詳細,低気圧や雲・降水の予測可能性,雪氷災害の予測可能性についての知見を紹介し,最後に今後の展望について述べています.
 以下に,それぞれの目次と,「はじめに」より抜粋した気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」についてや,関連情報を掲載しています.

南岸低気圧による大雪 T:概観(気象研究ノート239号)編集:荒木健太郎・中井専人

  • はじめに 荒木健太郎・中井専人
  • 第T部 南岸低気圧による大雪の概要
    • 第1章 南岸低気圧による大雪と災害の特徴
      • 1.1 南岸低気圧による大雪研究のこれまで 荒木健太郎
      • 1.2 アメリカ北東部における大雪 "Northeast Snowstorm" 荒木健太郎
      • 1.3 南岸低気圧に伴う関東甲信地方の大雪の気候学的特徴 荒木健太郎
      • 1.4 2014年2月の南岸低気圧による大雪における被害と対策 上石勲・中村一樹

南岸低気圧による大雪 U:マルチスケールの要因(気象研究ノート240号)編集:荒木健太郎・中井専人

  • 第U部 大雪の背景場 ― 大気循環場と南岸低気圧
    • 第2章 南岸低気圧による大雪と大気循環場
      • 2.1 冬季日本の降雪変動における熱帯からの遠隔強制 植田宏昭・木部亜有美・齋藤美香・井上知栄
      • 2.2 エルニーニョ現象と南岸低気圧の関係 植田宏昭・雨貝裕介・早崎将光
      • 2.3 2014年2月の熱帯気象と大気循環場 田中昌太郎・大野浩史・齋藤仁美・竹村和人
      • 2.4 東京の雪の長期変動とユーラシアンパタン 立花義裕
      • 2.5 北西太平洋ブロッキングと関東・北日本太平洋側の降水 山崎哲・本田明治・吉田聡
      • 2.6 2014年2月14〜16日の大気循環場の特徴 本田明治・山崎哲・吉田聡・岩本勉之
    • 第3章 南岸低気圧と総観スケール環境場
      • 3.1 南岸低気圧に伴う関東平野の雪と雨の総観スケール環境場 荒木健太郎
      • 3.2 関東平野に大雪・大雨をもたらす南岸低気圧の特徴 荒木健太郎・吉田聡・北畠尚子・加藤輝之
      • 3.3 南岸低気圧による関東大雪における総観・メソ環境場と雲の相互作用 荒木健太郎・北畠尚子・加藤輝之
      • 3.4 黒潮大蛇行の南岸低気圧への影響 中村啓彦・早崎将光・見延庄士郎
      • 3.5 2013年1月14日の南岸低気圧の発生・発達過程 渡邉俊一・新野宏
      • 3.6 本州内陸における多降水・多降雪の発現と南岸低気圧の発達段階 上野健一・安藤直貴
  • 第V部 メソスケール気象場と降水システム・雲物理
    • 第4章 南岸低気圧による大雪のメソスケール気象場
      • 4.1 Cold-Air Dammingと沿岸前線を伴う関東大雪のメソスケール気象場 荒木健太郎
      • 4.2 2014年2月の大雪発生要因と過去事例との比較 加藤輝之・荒木健太郎
      • 4.3 2014年2月関東甲信大雪時の降水の推移と地上気象要素の分布 中井専人
      • 4.4 高密度地上観測網による2014年2月関東大雪の観測研究 荒木健太郎
      • 4.5 2014年2月の関東甲信地方大雪事例における総観・メソスケール環境場 荒木健太郎
    • 第5章 降雪雲の雲物理・降雪種
      • 5.1 南岸低気圧に伴う関東甲信地方大雪時の降雪・雲物理特性 荒木健太郎・村上正隆
      • 5.2 2014年2月14-15日に甲府盆地にもたらされた南岸低気圧に伴う大雪の特徴 佐野哲也・大石哲
      • 5.3 2014年2月の南岸低気圧がもたらした降雪粒子の特徴と関東甲信地方の雪崩の多発との関係 石坂雅昭
      • 5.4 2014年2月大雪時の東京西部と山梨東部の降雪粒子種の特徴 山下克也・石坂雅昭・本吉弘岐・中井専人・荒木健太郎・村上正隆・斎藤篤思・田尻拓也
      • 5.5 2014年2月関東甲信大雪時に日本海側で観測された降雪雲 中井専人・本吉弘岐・石坂雅昭・山下克也

南岸低気圧による大雪 V:雪氷災害と予測可能性(気象研究ノート241号)編集:荒木健太郎・中井専人

  • 第W部 非雪国における雪氷災害
    • 第6章 太平洋側の積雪物理・雪崩
      • 6.1 南岸低気圧による関東甲信地方の多雪地域の積雪水量と積雪特性 河島克久・和泉薫・伊豫部勉・松元高峰
      • 6.2 降水形態の違いによる被害分布の差異 中村一樹・高橋徹
      • 6.3 2014年2月14日〜16日に通過した南岸低気圧の降雪による雪崩の特徴 中村一樹・上石勲
      • 6.4 関東甲信大雪時の樹林における雪崩発生条件について 松下拓樹
      • 6.5 2014年2月の関東甲信大雪時に発生した雪崩の運動の特徴 池田慎二・秋山一弥・松下拓樹
    • 第7章 多様な雪氷災害の実態と対策
      • 7.1 大雪による集落孤立の実態と対応課題−山梨県を中心に− 沼野夏生
      • 7.2 降雨を伴う大雪による建築物の被害 高橋徹・千葉隆弘・中村一樹
      • 7.3 南岸低気圧通過時に発生する森林の冠雪害 松元高峰・伊豫部勉・河島克久
      • 7.4 送電線への重着雪現象による雪害発生メカニズムの解明と対策評価に関する取り組み 杉本聡一郎・西原崇・松宮央登・石川智巳
      • 7.5 大雪による温室の被害とその対策 森山英樹
      • 7.6 大雪時の山梨県内の貨物車の移動と除雪後の交通状況 佐々木邦明
    • 第8章 降雪観測・予測情報利用を通した雪氷災害対策
      • 8.1 WebGISによる複合要素の可視化システムの関東大雪事例への適用 田口仁・荒木健太郎・上石勲・臼田裕一郎
      • 8.2 WebGISを活用した関東地方の雨雪判別と降雪情報について 中山秀晃・水谷勝・落合孝太・大門禎広
      • 8.3 ウェザーリポートデータと数値モデルから見える関東平野の雨雪分布と局地気象の対応 −雪氷対策に向けて− 日下博幸・内藤邦裕・一澤智宏・秋本祐子・坂本晃平・越山大貴
      • 8.4 シチズンサイエンスによる高密度雪結晶観測 荒木健太郎
  • 第X部 南岸低気圧による大雪の予測可能性
    • 第9章 大雪をもたらす擾乱と大気・雲・降水の予測可能性
      • 9.1 南岸低気圧とそれに伴う降水現象の予測可能性 荒木健太郎
      • 9.2 爆弾低気圧の予測可能性 吉田聡
      • 9.3 大雪予測における数値モデルの水平・鉛直解像度と境界層過程依存性 加藤輝之
    • 第10章 南岸低気圧による雪崩の予測可能性
      • 10.1 雪氷災害発生予測システムの適用 平島寛行・本吉弘岐・山口悟・上石勲
      • 10.2 積雪変質モデルを用いた雪崩発生予測 小松麻美
    • 第11章 南岸低気圧による大雪研究の現状と課題 荒木健太郎

気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」について

 首都圏を含む太平洋側の地域では,冬季に南岸低気圧の通過に伴ってしばしば降雪がもたらされるが,ひとたび大雪となると社会的影響が極めて甚大なものになる.大雪に伴う雪氷災害では交通への影響が深刻であり,集落の孤立やサプライチェーンの断絶等にも結び付く.しかし,それ以外にも農業温室の被害,建築物の被害,送電線への着雪による停電,樹林への冠雪被害,雪崩など,雪氷災害の実態は多岐に渡っている.これが顕在化したのが,2014年2月の関東甲信地方における大雪による広域雪氷災害である.
 南岸低気圧による大雪に関する先行研究は少ない.地球規模の大気循環場から総観・メソ,雲・降水に積雪過程など,マルチスケールの要因が南岸低気圧による大雪に伴う雪氷災害に関係しているにもかかわらず,その理解はあまり進んでいなかった.そのようななか,2014年2月の大雪による広域雪氷災害を受けて,科学研究費補助金(特別研究促進費)「2014年2月14-16日の関東甲信地方を中心とした広域雪氷災害に関する調査研究(研究代表者:和泉薫)」が実施され,現地調査等の研究がなされた.また,2014年度日本気象学会秋季大会では,スペシャル・セッション「南岸低気圧による大雪:その要因,実態,予測可能性」,2015年8月には気象庁気象研究所において有志による研究集会「南岸低気圧とそれに伴う気象・雪氷災害に関する研究会」が開催され,分野横断的な議論が重ねられてきた.これらの成果を踏まえ,2016年12月には気象庁講堂においてシンポジウム「関東の大雪に備える」も開催され,気象学・雪氷学・雪工学に加え,気象キャスターも交えて情報伝達についても議論されてきている.さらに,その後の研究として,2017年3月27日に南岸低気圧による大雪に伴って発生した那須岳における雪崩災害について,科学研究費補助金(特別研究促進費)「2017年3月27日に栃木県那須町で発生した雪崩災害に関する調査研究(研究代表者:上石勲)」が実施され,雪氷災害の実態やそれをもたらす気象場の理解も進んできている.
 そこで,本気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」では,大気循環場,南岸低気圧を含む総観スケール環境場,メソスケール環境場,降雪雲の雲物理・降雪種,積雪物理,関連する気象・雪氷災害とその対策,観測・予測情報利用,予測可能性など,様々な観点から南岸低気圧による大雪について取り上げ,最新の知見について紹介する.特に今回は気象学だけではなく,雪氷学や雪工学,災害情報学などの様々な分野に身を置く研究者を執筆者として招き,多様な雪氷災害について包括的に理解することを目的としている.そのため,本気象研究ノート「南岸低気圧による大雪」は3号分冊とし,239号「I:概観」では先行研究のレビューや南岸低気圧による大雪に関わる基礎的な事項を紹介し,大雪の気候学的特徴や2014年2月の大雪時の雪氷災害の実態について解説する.240号「II:マルチスケールの要因」では,大気循環場,総観スケール,メソスケール,雲・降水過程に注目した研究について紹介する.さらに,241号「III:雪氷災害と予測可能性」では,大雪時の積雪物理や多岐に渡る雪氷災害の詳細,低気圧や雲・降水の予測可能性,雪氷災害の予測可能性についての知見を紹介し,最後に今後の展望について述べる.
 本気象研究ノートの読み方として,南岸低気圧による大雪について初学者の方は,まず239号「I:概観」を手に取っていただくのが良いだろう.ただし,この号はレビューが主であるため,読者の皆様が興味を持たれた分野の最新の知見については,レビューの中で記載している240号「II:マルチスケールの要因」241号「III:雪氷災害と予測可能性」の参照先をご覧いただきたい.また,各分野の研究者や技術者の読者の皆様においては,ご自身の関係する分野の部分のみではなく,ぜひ近隣の分野の原稿にも目を通していただきたい.南岸低気圧による大雪という現象を扱う研究分野は多く存在するため,ご自身の専門外の分野における研究動向も知ることで,分野横断的な研究が進むことを期待している.なお,本気象研究ノートで紹介している研究内容は発展途上のものも含んでおり,著者間で表現や解釈の異なる箇所もあることを承知の上でご覧いただきたい.
 本気象研究ノートが,気象学・雪氷学をはじめとする研究者や技術者,研究を志す学生,予報現場に身を置く予報担当者・解説者や,防災担当者など,多くの方の活動の一助となれば幸いである.本気象研究ノートで取り扱っている話題はいずれも熱く,そして今後も発展させていくべきものばかりであるので,意欲の高い学生の読者の皆様と,一緒に研究を進められる未来を楽しみにしたい.また,気候・気象・雪氷・雪工学・災害情報等の各研究分野や,情報伝達・行政等の分野の様々な関係者の協力のもと,「南岸低気圧による大雪」という現象と上手く共生できる社会創りがなされることを願ってやまない.
(「はじめに」より)

関連情報