文字のサイズを変更できます:小さい文字サイズ|標準の文字サイズ|大きい文字サイズ 最終更新日:2025年5月30日
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気象庁気象研究所
台風・災害気象研究部
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豪雨の実態解明・予測研究

 毎年のように大雨による水害が発生しており,監視・予測技術の高度化が求められています.気象庁は「急に強く降り,数十分の短時間に狭い範囲に数十mm程度の雨量をもたらす雨」のことを「局地的大雨」と呼んでおり,この現象はしばしばメディアなどから「ゲリラ豪雨」と呼ばれることがあります.また,「同じような場所で数時間にわたり強く降り,100mmから数百mmの雨量をもたらす雨」は集中豪雨といわれています.これらの現象の発生前の正確な予測が難しく,まずは実態解明を行うことが必要です.ここでは,これらの豪雨の実態解明と予測の研究について取り上げます.

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2013年9月3日に茨城県つくば市付近で発生した局地的大雨.荒木(2014)「雲の中では何が起こっているのか」より.

 多くの大雨には,積乱雲が関係しています.そして,積乱雲が発生するためには,大気下層の空気が自由対流高度まで持ち上げられなければなりません.これは対流の起爆(CI: Convection Initiation)と呼ばれており,積乱雲による大雨発生に必要不可欠なメカニズムです(荒木 2014).CIが起こるためには,大気下層の空気を持ち上げる上昇流が必要です.この上昇流を作るメカニズムとして,特に下層の収束と前線による力学的な強制力が重要です.

 しかし実際には,局地前線などの前線上のすべての場所で積乱雲が発達するわけではなく,下層の鉛直シア,局地前線と水平ロール対流・地形・森林や都市などの土地利用が異なる地域との位置関係,前線の交差点(トリプルポイント:Triple Point)など,局地前線上で特に上昇流が大きくなる位置で積乱雲が発達すると考えられています.

 たとえば,関東平野でもこのようなCIプロセスによる局地豪雨例が解析されています.2009年8月9日に千葉市で3時間積算降水量が150 mmを超える局地豪雨が発生しました.この事例では,局地豪雨をもたらした積乱雲群が発生する前の環境場として,下図のように気温や相対湿度,風などによる不連続線(局地前線)によるTriple Pointが観測されていました.このようなTriple Pointの存在は気象庁アメダス観測だけではわからず,さらに高密度な環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」の地上気象観測値を使うことでわかったものです.

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高密度地上気象観測により観測されたTriple Point.Araki et al. (2015)より作図.

 特にこの事例では,気象庁の現業メソモデルで降水予測が出来ていませんでした.そこで,高密度地上気象観測値を数値予報モデルの初期値に組込んで(データ同化),予報実験を行いました.すると,高密度地上気象観測値をデータ同化した実験では,観測された局地豪雨に非常に近い降水が再現されました.これは,初期値に詳細な水平収束分布を表現できたこと,水平収束分布(海風前線など)を維持するための気温分布を表現できたこと,大雨発生に必要な水蒸気分布を表現できたことが重要であると思われます.

 ただし,日本における積乱雲による大雨のCIプロセスはまだ調べられていないことが非常に多く,今後もメカニズム解明・高精度予測の研究を継続していく必要があります.

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高密度地上気象観測結果のデータ同化による大雨予測.Araki et al. (2015)より作図.

 また,九州では梅雨末期にたびたび集中豪雨が発生しており,その要因として「線状降水帯」が指摘されています.線状降水帯は,次々と発生する発達した積乱雲が列をなして組織化し,数時間にわたって狭い範囲に大雨をもたらす線状に伸びた強い降水域のことです.日本で発生する集中豪雨の約7割が線状降水帯によるものと考えられており,線状降水帯は甚大な災害をもたらす要因の一つとして近年特に注目されています.

 2020年7月上旬に九州を中心に記録的な大雨をもたらした「令和2年7月豪雨」では,特に球磨川流域で,7月3〜4日に線状降水帯が発生し,大規模な河川氾濫や土砂災害が発生しました.また,7月6〜7日には九州北部地方でも線状降水帯が発生し,大規模な水害がもたらされました.

 このような大規模な災害をもたらす線状降水帯の正確な予測は,現状ではまだ難しく,高精度予測のためには実態解明の研究が必要不可欠です.本研究では,令和2年7月豪雨において九州で発生した線状降水帯の特徴を定量的に評価するとともに,記録的な大雨の要因について,近年九州北部地方で発生した線状降水帯による豪雨(平成30年7月豪雨,平成29年7月九州北部豪雨)との比較を通して詳細に調査をしました(Araki et al. (2021)).

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令和2年7月豪雨で2020年7月3〜4日に球磨川流域における記録的な大雨の要因の概念図.気象研究所報道発表資料より.

 球磨川流域に記録的な大雨をもたらした線状降水帯は,小低気圧の影響に加えて,上空に寒気が流入して非常に不安定な大気の状態で発生していたことが分かりました.一方で,2018年と2017年のいずれの線状降水帯の事例でも明瞭な小低気圧は確認されず,2020年の事例に比べて風が弱いために大気下層の水蒸気流入量も小さくなっていました.記録的な大雨をもたらす線状降水帯は,事例毎に違いもあるため,さらなる実態解明の研究が必要です.

 今後,さらに詳細な解析を進めるとともに,豪雨をもたらす線状降水帯の監視・予測技術の高度化に役立てるための研究を行う予定です.

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