文字のサイズを変更できます:小さい文字サイズ|標準の文字サイズ|大きい文字サイズ 最終更新日:2021年2月2日
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局地豪雨の解析・予測研究

 ここ何年かで「ゲリラ豪雨」という言葉が世間では使われるようになってきています.そもそも「ゲリラ豪雨」とはいったい何なのでしょうか?

 まず「ゲリラ」という言葉には,突然発生する,予測困難,局地的などの意味合いがあります.もともとゲリラ豪雨という言葉は,現代のように観測網が充実していなかった1970年代にリアルタイムでの観測が難しい豪雨という意味で使われはじめました.レーダーや地上での観測網が発達してきた現代では,予測の難しい豪雨という意味合いに変わりました.しかし残念なことに,予測できている大雨に関して,気象情報で大雨が降ることをよびかけているにも関わらず,それを見ていない人にとって突然降ってきた雨がゲリラ豪雨とよばれることがかなり多いようです(荒木 2014).

 気象庁は「急に強く降り,数十分の短時間に狭い範囲に数十mm程度の雨量をもたらす雨」のことを「局地的大雨」と呼んでいます.近年は高解像度降水ナウキャスト等により,リアルタイムの雨雲の様子がわかるようになってきました.これを用いれば移動してくる大雨に降られることは少なくなるため,「ゲリラ豪雨」が単なる「通り雨」になることも多いと思われます.ただし,現在でも突然発生し,予測の難しい局地的大雨は多くあるため,このような大雨が本来の意味での「ゲリラ豪雨」であると言えます.最近では予測や観測の困難さとは関係なく,この局地的大雨が「ゲリラ豪雨」と呼ばれることが多いようですが,単なる「通り雨」で終わることもあれば,重大な災害を引き起こすこともあります.そのため,予測の難しく,災害をもたらしうる局地的大雨の実態把握,事前予測,防災情報の伝達等,様々な課題を解決していく必要があります.「ゲリラ豪雨」という言葉そのものは社会的にインパクトも大きいですが,定義が曖昧なため,ただの「通り雨」のように災害に結びつかないような印象を与えかねません.この意味で,特に気象解説者の方においては使用上の注意が必要です.

 ここでは,災害をもたらしうる局地的大雨を「局地豪雨」と呼ぶことにします.局地豪雨予測のためには,まずその実態把握が必要です.よく「大気の状態が不安定」な状況で局地豪雨が発生すると解説されることが多いですが,これはあくまで環境場としての必要条件であって,必要十分条件ではありません.局地豪雨が発生するときにはどのようなことが起こっているのか,高精度予測のためには何が必要なのか,現在取り組んでいる局地豪雨の実態把握と予測の研究について簡単に紹介します.

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2013年9月3日に茨城県つくば市付近で発生した局地豪雨.荒木(2014)「雲の中では何が起こっているのか」より.

 局地豪雨が発生するためには,積乱雲が発生する事が必要です.そして,積乱雲が発生するためには,大気下層の空気が自由対流高度まで持ち上げられなければなりません.これは対流の起爆(CI: Convection Initiation)と呼ばれており,局地豪雨発生に必要不可欠なメカニズムです(荒木 2014).CIが起こるためには,大気下層の空気を持ち上げる上昇流が必要です.この上昇流を作るメカニズムとして,特に下層の収束と前線による力学的な強制力が重要です.

 しかし実際には,局地前線などの前線上のすべての場所で積乱雲が発達するわけではなく,下層の鉛直シア,局地前線と水平ロール対流・地形・森林や都市などの土地利用が異なる地域との位置関係,前線の交差点(トリプルポイント:Triple Point)など,局地前線上で特に上昇流が大きくなる位置で積乱雲が発達すると考えられています.

 たとえば,関東平野でもこのようなCIプロセスによる局地豪雨例が解析されています.2009年8月9日に千葉市で3時間積算降水量が150 mmを超える局地豪雨が発生しました.この事例では,局地豪雨をもたらした積乱雲群が発生する前の環境場として,下図のように気温や相対湿度,風などによる不連続線(局地前線)によるTriple Pointが観測されていました.このようなTriple Pointの存在は気象庁アメダス観測だけではわからず,さらに高密度な環境省大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」の地上気象観測値を使うことでわかったものです.

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高密度地上気象観測により観測されたTriple Point.Araki et al. (2015)より作図.

 特にこの事例では,気象庁の現業メソモデルで降水予測が出来ていませんでした.そこで,高密度地上気象観測値を数値予報モデルの初期値に組込んで(データ同化),予報実験を行いました.すると,高密度地上気象観測値をデータ同化した実験では,観測された局地豪雨に非常に近い降水が再現されました.これは,初期値に詳細な水平収束分布を表現できたこと,水平収束分布(海風前線など)を維持するための気温分布を表現できたこと,局地豪雨発生に必要な水蒸気分布を表現できたことが重要であると思われます.

 ただし,日本における局地豪雨のCIプロセスはまだ調べられていないことが非常に多く,今後もメカニズム解明・高精度予測の研究を継続していく必要があります.

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高密度地上気象観測結果のデータ同化による局地豪雨予測.Araki et al. (2015)より作図.

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