統計的手法に基づいた地震発生予測モデル:η値
地震発生予測モデルの構築を目指しています.
このページでは,モデルB「η値モデル」について簡単に解説します.詳細については,論文をご覧ください.
G-R則からの逸脱
地震の規模別頻度分布は大局的にはG-R則に従いますが,詳細にみれば上に凸になったり蛇行したりするなどG-R則に従わないこともあります.1990年以降に東日本の太平洋沖で発生したM7.0以上の本震前の規模別頻度分布はG-R則から逸脱し,本震後にG-R則に従う傾向にあることがわかりました.
G-R則からのずれの程度はパラメータη値[宇津, 1978]で表すことができるため,このη値に基づいたシンプルな予測モデルを提案しました.規模別頻度分布がG-R則に従う場合の理論値は2で,2未満だと上に凸の分布,2より大きいと下に凸の分布となります.例えば,100個のデータから求めたη値が1.70以下であれば,G-R則から十分逸脱していると判断できます.
図1.地震の規模別頻度分布.
2008年5月8日に茨城沖で発生したM7.0の(左)本震前,(右)本震後の地震活動です.◇は各Mのイベント数,◆は◇のイベント数を積算したものです.青線はG-R則,緑線は改良G-R則,橙線は二区間G-R則を当て嵌めています.
規模別累積頻度分布(◆)に注目すると,本震前は上に凸となってG-R則から逸脱していますが,本震後はG-R則に概ね従っています.
この領域の地震活動を調べていた当時,本震前の規模別頻度分布が上に凸の変な形をしており,
G-R則(青線)と横軸の交点付近の規模である本震(M7.0)が起きたので,何やら意味あり気だな~と思っていました.
最近になって,他の地域・地震についても同様に調査したところ,次に示すようにη値の時間変化が明らかになりました.
η値の時間変化
図2.η値の時間変化.
領域A-E(論文のFig. 1参照)については,本震(緑棒)前のη値(赤線)は1.70より小さく,本震後のη値(青線)よりも小さい傾向を示しています.一方,2011年東北地方太平洋沖地震M9.0の余震域Fでは逆の傾向を示しています.
この特徴から,予測対象をM7-8クラスの地震とし,η値に基づいたシンプルな予測モデルを構築しました.
予測モデル
以下に予測モデルの流れを示します.
- 東日本の太平洋沖に緯経度0.25°間隔のグリッドを779個配置し,各グリッドから半径r以内の地震(M4.0以上)を抽出する.ここでrは50または100 kmとする.
- 1990年1月1日~あるイベントまでにM4.0以上の地震が100個以上あるグリッドで,η値を推定する.
- η値が1.70 以下となったグリッドが将来の震源域(余震域)に含まれるというアラームを出す.
この手順に従って回顧的に予測した結果,r = 50 kmはM7前半,r = 100 kmはM7後半~M8前半の余震域との対応が良いことがわかりました.
すなわち,予測対象の規模をあらかじめ設定し,それに応じた半径を用いて本予測モデルを適用すれば,規模も含めた予測が出来,効果的であると考えられます.
図3.η値に基づいた予測マップ.
(左)M7前半,(右)M7後半~M8前半の地震が将来,暖色系の領域を余震域に含んで発生するという予測マップです.1990年~2018年3月31日のデータを用いて,2018年4月1日~の予測をしています.
M7前半(M7.0-7.5)の地震を予測対象とした場合,内陸では北海道十勝及び茨城付近,海域では北海道東方沖,宮城沖のアウターライズ,及び関東東方沖に顕著なアラームの塊があります.
M7後半~M8前半(M7.6-8.5)の地震を予測対象とした場合,北海道東方沖及び関東東方沖~南東沖に顕著なアラームの塊があります.
過去との類似性も考慮すると,特に関東南東沖において今後M8クラスの地震が発生する可能性が高くなっているかもしれません.これらアラーム域の地震活動の推移に今後注目しておく必要がありそうです.
なお,2011年東北地方太平洋沖地震の余震活動はまだ続いているため,当分の間,余震域内のアラームは無効扱いです.
まとめ・今後の課題
規模別頻度分布が大地震前に上に凸の分布となってG-R則から逸脱する特徴がみられ,それに基づいた地震予測モデルを提案しました.アラーム域(図3)の地震活動の推移に今後注目しておきましょう.
本予測モデルは,地震活動を基に予測を行うため,普段の地震活動が低調な地域で突然発生する大きな地震は予測できないという限界が残念ながらあります.
MGRモデルも上に凸の分布を利用した予測モデルですが,時間変化が無いことを前提としているため,本予測モデルのコンセプトとは異なります.どちらの予測モデルが有効なのかを明らかにするため,データの蓄積と更なる検証が必要です.