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地震と潮汐との関係

潮汐が微動活動から巨大地震までの様々なスケールの地震活動に対して影響を与えている可能性が指摘されています.

ここでは,トンガ・ケルマディック海溝沿いのプレート境界型地震活動と潮汐との関係について簡単に解説します. 詳しくは,論文[Hirose et al. 2019, JGR]をご覧ください.

地表からコアマントル境界(深さ2891 km)までの任意の深さ・任意の断層面上における理論潮汐応答を計算するFortranプログラム 「TidalStrain.2」を公開中(2020/06/29-)です.

2020/06/29:「TidalStrain.2」は,2019/08/27にリリースした「TidalStrain」のバグを修正したものです.バグの詳細はこちら

2020/09/18: ボアホール式歪計の潮汐応答を用いたin-situキャリブレーション用のGreen関数計算プログラム「loadgreenf4」も「TidalStrain.2」に同封しました.


謝辞:プログラム「TidalStrain.2」のうち,海洋潮汐荷重効果の計算については国立天文台松本晃治氏作成のGOTIC2[Matsumoto et al., 2001; Matsumoto, 2004]のサブルーチン(version 2004.10.25)の多くを使用させていただきました. 手を加えたサブルーチンは,「source_mod2020/*_mod2020.f」の名を持つ15個です.また,static,loadgreenf3_mod並びにloadgreenf4は,DISPER80[Saito, 1988]の一部を利用しました.感謝いたします.

参考文献
Matsumoto, K., T. Sato, T. Takanezawa, and M. Ooe, 2001, GOTIC2: A program for computation of oceanic tidal loading effect, J. Geod. Soc. Japan, 47, 243-248.
Matsumoto, K., 2004, https://www.miz.nao.ac.jp/staffs/nao99/, 2020年6月3日閲覧
Saito, M., 1988, DISPER80: A subroutine package for the calculation of seismic normal-mode solutions, Seismol. Algorithms, pp. 293-319.

地球潮汐(潮汐)=海洋潮汐+固体潮汐

潮汐力は天体の引力に起因しており,天体の運動によって時々刻々と変化します.

潮汐は,「海洋潮汐」と「個体潮汐」の2つに分けて考えることができます.

「海洋潮汐」は潮汐力によって海面が昇降する現象で,皆さんも馴染みがあると思います.海水の移動による荷重が海底を変形させ,地下の応力状態を変化させます.

一方,「個体潮汐」は潮汐力によって地球の固体部分が弾性変形する現象です.地球はゴムまりみたいなものなので,潮汐力によって多少伸びたり縮んだりしています.人間が直接認識することは難しいですが,地表は毎日数十cm上下しています.

これら「海洋潮汐」と「個体潮汐」を足し合わせて地球潮汐,または単純に潮汐と呼んでいます. 地球内部の断層面に対する潮汐力は数~数十kPa程度で,台風前後の気圧変化と同程度の小さい変化ですが,地震の発生(トリガー作用)に影響を与えるのではないか?と考えられています.

そこで,世界でも有数の地震多発帯であるトンガ・ケルマディック海溝沿いの地震活動と潮汐との関係を調査してみました.

トンガ・ケルマディック海溝沿いの地震活動


図1.トンガ・ケルマディック地域のテクトニクス.

インド・オーストラリアプレートの下にトンガ海溝(Tt)・ケルマディック海溝(Kt)から太平洋プレートが沈み込んでおり,それに伴う地震活動が活発です.図1にはプレート境界型地震(661個)のみを示しています. 沈み込むスラブの曲率は,ニュージーランドへ南下するに従って徐々に小さくなっています[Nishikawa and Ide, 2015]. 紫線は地表のプレート境界[Bird, 2003]を示しています.ラウ海盆(LB)は東西に6.5?10 cm/yで中央海嶺型の拡大を続け[Taylor et al., 1996; Turner and Hawkesworth, 1998; Fujiwara et al., 2001],その南側の背弧海盆であるハブルトラフ(HT)はリフティングによって東西に6 cm/yで拡大しています[Parson and Wright, 1996]. ケルマディック海溝の東方沖にはルイビル海山列が北北西-南南東方向に伸びています.海溝とルイビル海山列との衝突帯は5Maから18 cm/yで南下し,その移動距離は1000 km(~10°)に達します[Ballance et al., 1989]. この絶え間ない海山列の衝突により,トンガ海溝は本来の位置(ケルマディック海溝の北方延長)より西方へ押しやられています[Lallemand et al., 1992]. 星形で示した南緯18.5°付近の山羊座海山やルイビル海山列系のMo'unga海山が沈み込みつつある領域やプチ海山群域(楕円エリア)の沈み込んだ先では地震活動が少ないことがわかっています. ルイビル海山列から北に延びるトンガ海溝は浸食型,南に延びるケルマディック海溝は付加型に分類されています[Cloos and Shreve, 1996].

トンガ・ケルマディック海溝沿いはこのような変化に富んだテクトニック環境下にあり,地震の活動様式とテクトニクスには密接な関係があると考えられます.

潮汐位相角と潮汐応力レベルの定義


図2.潮汐応力の時系列.

地震発生時刻(+)における潮汐位相角(Ψ)と潮汐応力レベル(L)の例を示しています.
潮汐位相角の定義:各時系列についてイベント前及び後の極小値の位相を-180°及び180°,極小値間の極大値の位相を0°,その間は等分割.
潮汐応力レベルの定義:ゼロ線を基準とした正負の符号を持つ指標値.ここでは,断層すべりを促進する方向(潮汐力が地震のトリガーに作用する方向)をプラスとします.

ここで示した例では,イベントAは極小から極大にかけての中間で発生しているため,潮汐位相角Ψは-90°と判定されます.イベントBとCはともに極大から少し時間が経過したタイミング(Ψ=17°)で発生しています.

ある特定の潮汐位相角のタイミングで地震が発生するケースが多ければ,地震と潮汐には何らかの関係がありそうと考えることでしょう. 潮汐位相角という物差しを定義することによって,地震発生のタイミングと潮汐との関係を統計的手法を用いて極めて簡単に評価できるようになります(指標p値で判定). p値は0?1(0?100%)の値をとり,p値が小さいほどイベント発生時の潮汐位相角の偏りが顕著であることを示します.一般的には,p値が5%以下の場合に有意な相関があるとされるケースが多いです.

ただし,潮汐位相角を用いた統計的手法については,ひとつ注意が必要です.イベントBとCは同じ潮汐位相角ですが,潮汐応力レベルでは正と負,正反対の値を示します. イベントBの潮汐応力レベルは負であるため,地震の発生を抑制するセンスです.一方,イベントCの潮汐応力レベルは正であるため,地震の発生を促進するセンスを示します. つまり,潮汐位相角は便利な指標ですが,それのみに注目した解析では不十分であり,潮汐応力レベルも考慮する必要があるということです.

潮汐位相角の特徴


図3.2006年5月3日に発生したMw8.0の地震前後1日間(計2日間)の潮汐歪・応力変化.

緑線は潮汐体積歪(ΔV),赤線と青線はそれぞれ断層面上における潮汐せん断応力(Δτ)と潮汐法線応力(Δσ)を示します.右下の値は各成分の潮汐位相角です.

ΔVとΔσでは約12時間と約24時間の周期が認められ,潮汐位相角は同程度の値となっています.一方,Δτは約24時間周期の変化が目立ち,潮汐位相角は他成分と大きく異なっています.

この地震はΔτの潮汐レベルが負(地震の発生を抑制するセンス)のタイミングで発生しています.つまり,Δτはこの地震のトリガーに寄与してなさそうです. 一方,Δσは地震の発生を促進するタイミングで発生していることから,地震のトリガーに寄与している可能性が考えられます.



図4.661個の地震の潮汐位相角のヒストグラム.

ΔτもΔσもp値は5%以下を示していることから,地震と潮汐との間に高い相関があると判定されます. しかしながら,Δτについては最頻値を示す-80~-100°区間で発生した地震活動のほとんどが断層すべりを抑制するタイミングに対応しており,物理的に矛盾しています. つまり,Δτとの高相関は見かけ上のものであり,Δτは地震トリガーを支配していないと考えられます.

潮汐応力レベルの特徴


図5.潮汐応力レベルのヒストグラム(正負2区間).

灰棒は661個の地震についてです.Δσは正の時(断層すべりを促進する方向に潮汐応力がかかるタイミング),Δτは負の時(断層すべりを抑制するタイミング)に地震が多く発生していることがわかります. 破棒は地震とは関係なく出現する普段(バックグランド)の潮汐応力レベルのヒストグラムです(各地震の発生前後183日間の指標変化の15分値からなる23,225,557個のデータに基づく). 地震が潮汐と関係なくランダムに発生していれば,灰棒と破棒は同じ出現率となります. 一方,地震が潮汐応力レベルの正負に依存していれば,灰棒と破棒は異なる出現率を示し,その乖離が大きければ大きいほど地震と潮汐との相関が高くなります. 灰棒と破棒の比較(菱形は灰棒と破棒の比)から,応力レベルが正の時に地震が選択的に発生していることが見て取れます.



図6.潮汐応力レベルのヒストグラム(10区間).

図5のΔσについてもう少し詳しくみるため,区間を10個に分けたものです. 多少ばらついていますが,応力レベルの絶対値が大きいほど,地震の選択性が顕著である(レベルが大きな正の時に地震が起きやすく,大きな負で起きにくい)ことが見て取れます.

まとめ・今後の課題

トンガ・ケルマディック海溝沿いで発生したプレート境界型の地震活動について,従来用いられてきた潮汐位相角だけでなく潮汐指標値そのものにも注目しつつ,潮汐との相関を調査しました. 解析の結果,潮汐指標値の絶対値が大きいほど,地震の選択性が顕著であり(指標値が大きな正の時に地震が起きやすく,大きな負で起きにくい), せん断応力よりも法線応力の方が地震のトリガーに寄与していることがわかりました.

説明が煩雑になるので,ここでは取り上げませんでしたが,論文には,

  • 南緯20-22°及び27-29°区間は潮汐法線応力に特に敏感な地域と考えられ,プレート境界面のラフネス(凸凹)が比較的小さいエリアに対応していそうなこと
  • 潮汐法線応力に特に敏感なイベントは,静穏化(1989年,2002年,2015年頃)と活発化(1982年,1997年,2008年頃)を交互に繰り返しているようにみえること

についても取り上げています.詳しくは論文[Hirose et al. 2019, JGR]をご覧ください.

本研究を通して,潮汐応力が地震のトリガー効果を持っていることや潮汐に特に敏感な地域が示されました.この情報が地震の予測に少しでも役立つことを願います.

任意の深さ・任意の断層面上における理論潮汐応答を計算するプログラム 「TidalStrain.2」を公開中です.

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