気象研究所研究開発課題評価報告
火山ガス観測による火山活動監視・予測に関する研究
事前評価
- 副課題1 火山ガス放出量観測に基づく火山活動監視・予測
- 副課題2 火山ガス組成観測に基づく火山活動監視・予測
事前評価の総合所見
1.研究の目的
気象庁の噴火予警報業務の改善に資するために、火山ガスの観測によって水蒸気噴火など火山噴火の前兆を早期に把握する監視手法を開発し、火山活動予測の高度化を図る。
2.研究の背景・意義
(社会的背景・必要性)
平成26年9月27日に長野・岐阜県境の御嶽山において発生した水蒸気噴火では、火口周辺で多数の死者・負傷者が出るなど甚大な被害が発生した。
この戦後最大の人的被害をもたらした噴火災害を踏まえ、火山噴火予知連絡会火山観測体制等に関する検討会から「御嶽山の噴火災害を踏まえた活火山の観測体制の強化に関する報告」(平成27年3月)、中央防災会議防災対策実行会議火山防災対策推進ワーキンググループからは「御嶽山噴火を踏まえた今後の火山防災対策の推進について(報告)」(平成27年3月26日) という提言が出された。これらの中で、気象庁に対し、「水蒸気噴火を繰り返してきた火山の噴火の兆候をより早期に把握するための技術の開発を行うこと」、「火山ガス成分観測について技術開発を行うべき」とされた。
これらの報告を受け、気象庁では、御嶽山をはじめ水蒸気噴火が繰り返し発生している吾妻山、草津白根山などの火山に、多成分の火山ガスを連続観測する装置の整備を進めている。気象研究所はこれらの装置を活用した火山監視のための観測手法を確立するとともに、さらに噴火の前兆をより早期に把握するための技術開発を進める必要がある。
前記の火山に加え、口永良部島や、阿蘇山、浅間山、箱根山など、この1年の間に噴火した火山が多くあり、噴火の前兆をより早期に把握するための技術開発は早急に着手すべき課題である。
(学術的背景・意義)
水蒸気噴火の先行現象の規模は小さく、地殻変動など地球物理的な観測項目では、その変動が現れるのは火口付近など狭い領域に限られる場合が多く、前兆的変化を捉えにくい。そのため、地磁気観測や火山ガス観測も含めた複合的な監視が有効である。特に、マグマや熱水から地表に到達する火山ガスの組成や放出量に前兆的な変化が現れた事例は多い。例えば、草津白根山の1976年 水蒸気噴火の場合、地震活動に有意な変化は認められなかったが、噴火の1カ月程前に山頂および山腹の火山ガス組成が変化するなど明瞭な変化が現れ、事前に火山活動の高まりと、異常があるならば水釜火口であろうと予測された。この事例のように、水蒸気噴火の前兆を捉えるには火口付近での地殻変動観測などとともに、火山ガス組成の観測など地球化学的手法が有望である。また、有珠山2000年 噴火では地震活動は噴火直前にしか活発化しなかったが、土壌ガス(CO2)放出量には数か月前に変化が現れており、マグマが関与する噴火においても、火山ガスなどの地球化学的観測によって早期に前兆を捉えることができる可能性がある。
従来、気象庁では、地震観測や地殻変動観測など地球物理学的な手法を中心に火山活動の監視・評価を行ってきたが、地球化学的な観測は必ずしも十分行われてこなかった。地球化学的な観測は無人連続観測が困難であったことが理由の一つである。しかし、近年、商用電源がない地域でも火山ガスの連続観測が可能になりつつあり、このような技術を活用した火山活動監視の実用化が可能となっている。
地殻変動や地震などの地球物理学的な現象はマグマや熱水の動きや山体への力学的作用に基づいて発生する。一方、火山ガスはマグマや熱水系の温度や圧力の変化に結びついて変化し、地球物理的観測データとはまったく異なる情報を与えてくれる。このため、両者を組み合わせて解析を行い、融合的に解釈することが、火山活動の理解を進めるために必要であり、火山活動評価・予測の高精度化に結びつく。
(気象業務での意義)
気象庁は、御嶽山、吾妻山、草津白根山などにおいて整備を進めている多成分火山ガス連続観測装置によって火山活動監視を行うとともに、さらに早期に前兆をとらえることを目指している。そのためには、本研究によって、これらの装置による観測手法を確立し、観測されたデータをより適切に解析するための技術開発が必要である。一方、火山ガス組成の微細な変動を捉えるためには、火山の現場(噴気孔)で 火山ガスを採取し実験室に持ち帰り、その組成を精密に分析することも必要であり、各地の火山監視・情報センター等とも連携して技術開発に取り組む必要がある。
また、噴火の前兆や火山活動の変化は火山ガス組成のみならず火山ガス放出量にも現れるが、現状では火山ガス放出量の観測はリモートセンシング手法により人手を介して日中のみに行われている。夜間も含め自動連続観測が可能な火山ガス観測手法の開発によって、気象庁火山業務の24時間連続監視体制に取り込むことができる。
3.研究の目標
火山ガスによる昼夜連続監視が可能な観測手法を開発するとともに、火山ガス組成の精密分析などによる火山ガス放出機構のモデル化を進めることで、化学的手法に基づく火山活動監視・予測手法を確立する。
(副課題1)
火山ガス放出量を昼夜連続監視可能な土壌ガス観測手法を開発するとともに、既存の火山ガス放出量観測データや地殻変動データなど多項目の観測データを組み合わせた解析によって火山ガス放出変動機構をモデル化し、火山活動監視・予測の改善を図る。
(副課題2)
火山ガス組成の連続観測と精密分析によって水蒸気噴火などの微細な前兆変動を検出するとともに、ガス組成変動機構のモデル化を行い、副課題1の成果と合わせ火山活動監視・予測技術の高度化を図る。
4.研究計画・方法
水蒸気噴火などに起因する熱水活動に伴い、火山ガス成分の変化が期待できる。また、マグマが関与する噴火においても脱ガス環境(マグマ中の揮発性成分が発泡し、マグマから分離する時の圧力や温度)の変化によってガス組成が変化する。さらに、火山ガスの放出量も火山活動に応じて変動する。これら火山活動に関連した変動をガスセンサーを用いた観測や火山ガスの精密分析によって抽出し、火山活動監視・予測の高度化を図る。
(副課題1)
機動観測用土壌ガス観測装置によって各地の活火山における土壌ガス放出量の面的分布観測を行い、火山起源の土壌ガスの火山体からの放出量を求め、各火山の活動状況と比較する。また、土壌ガス(CO2およびH2S)放出量を連続観測可能なシステムを構築し、水蒸気噴火が懸念される火山をフィールドとして連続観測を行う。土壌ガス放出率量データへの植生など外的要因の影響評価を行い、火山活動に起因するガス成分を抽出し土壌ガス観測による 火山活動監視手法を確立する。
気象庁が地上からのリモートセンシング手法で取得している火山ガス放出量データに加え、ひまわり8号などの衛星や地上からのリモートセンシング観測データを活用し推定した火山ガス放出量データと、地殻変動や地震などを組み合わせた多項目データ解析により火山ガス放出と火山活動との関連を解明する。
(副課題2)
噴気活動が活発な全国の活火山の噴気孔などから採取した火山ガスの成分を精密に分析することによって、各火山のガス組成の特徴を明らかにする。また、気象庁が整備する多成分火山ガス連続観測装置で得られるデータ、および繰り返し採取した火山ガスの精密分析により、火山ガス組成の時間変化を明らかにし、火山活動に関連した変動を抽出するとともに、脱ガス機構をモデル化し、副課題1の成果と合わせ、火山ガス観測に基づく火山活動監視・予測手法を高度化する。