所長あいさつ

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 気象研究所は、気象業務に関する技術の改善・高度化のための研究・開発を担う気象庁付属の研究機関です。


 近年は毎年のように顕著な自然現象や自然災害が相次いでいます。
 令和2年7月に発生した「令和2年7月豪雨」では線状降水帯により甚大な被害が発生し、多くの人命や財産が失われました。令和3年7月の東海地方・関東地方南部を中心とした大雨では静岡県熱海市で土石流が発生しました。
 令和5年の夏は記録的な高温となり、6~8月の日本の平均地上気温は1898年の統計開始以降1位となりました。令和3年に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書によると、人為起源の地球温暖化は“疑う余地がない”とされています。地球温暖化によって、近年相次ぐ大雨等の顕著な気象現象の頻度や強度は今後さらに増加すると予測されています。
 令和6年1月1日には最大震度7の能登半島地震が発生し、240名を超える人的被害や、住家やライフラインへの甚大な被害をもたらしました。南海トラフ地震のような大規模地震や大規模な火山噴火もいつ何時襲ってくるかわかりません。


 気象研究所は、地球科学分野の専門家集団として、気象・地象・水象に関する現象の解明及び予測の研究、ならびに関連技術の開発に取り組み、気象業務の技術基盤の高度化に貢献してきました。線状降水帯については、令和3年度から4年度にその機構解明を主題とする緊急研究に取り組み、その後も大学や研究機関等と協力して、線状降水帯の観測を実施するとともに、数値モデルや観測データを用いて、線状降水帯の発生要因や発達・維持等のメカニズムに着目した事例解析を行っています。また、国内外の研究機関と積極的に連携するとともに、IPCCによる評価報告書の作成などの国際的な活動にも積極的に参画しています。さらに、令和6年能登半島地震に伴う津波の分析や、令和5年9月の緊急地震速報の改善にも貢献しています。


 国民の安全安心や社会・経済の健全な発展のために気象庁、気象研究所に寄せられる国民の期待は益々高まっています。交通政策審議会気象分科会から平成30年に提言された「2030 年の科学技術を見据えた気象業務のあり方」の下で、2030年に向けて数値予報精度向上をはじめとした研究開発を推進しています。また、令和2年には「気象業務における産学官連携の推進」、令和5年には「DX 社会に対応した気象サービスの推進」の提言をいただいており、気象庁は産学官の連携をいっそう緊密にしてDX 社会で多様化するニーズに的確に対応していくこととしています。その一環として令和5年5月、国会において気象業務法及び水防法の一部を改正する法律が可決成立したところです。


 このような背景のもと、当所におきましては、令和6年度より新しい中期研究計画のもと、①線状降水帯、台風等喫緊の課題への重点的な取り組み、②社会経済活動への貢献、温暖化への適応策などの課題への対応、③地震・津波・火山対策の強化に資する研究の遂行等、「2030年目標」の達成に向けて、研究開発を着実に推進することとしています。


 気象業務の高度化に向けて、気象研究所職員一丸となって取り組みます。今後とも、ご指導とご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


気象研究所長 中本能久