気候・地球環境変動の要因解明と予測に関する研究


CO2増加が招く地球温暖化と海洋酸性化のしくみ

さまざまな手段を駆使して異常気象や気候変動を解明する

地球温暖化は産業活動による温室効果ガスの排出によって引き起こされ、過去に例を見ない速度で進行しています。平成30年7月豪雨とそれに続く猛暑の異常気象にも地球温暖化が影響していることが分かりました。これは気象研究所で実施している2つの課題解決型研究の一つ、「気候・地球環境変動の要因解明と予測に関する研究」の成果です。

この研究を主に担当する気候・環境研究部では、観測データや数値予報モデルなどを研究手段として異常気象の原因を探るとともに、温室効果ガスの動態や気候変動の状況を評価しています。さらに週から月単位の異常気象を調査し、十年から数百年規模の気候変動を予測しています。

異常気象や気候変動は、熱や水や炭素が地球上を循環する気候システムの中で引き起こされます。その全体像を突き止めるべく、大気や海洋などから観測データを集めて解析し、「階層的な地球システムモデル」で再現・解明と予測を進めています。

研究成果は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書に活用され、世界の気候変動の緩和策(例えば温室効果ガスの排出削減)や適応策(例えば高潮・洪水によるリスクの軽減)に活かされています。また、大気・海洋の変動や地形などをより細かく表現した日本域の気候モデルを扱う研究課題を通じて、国内各地の気候変動適応策にも活用されています。

予測の仕組みの図
大気と海洋の観測データと数値予報モデルを活用して地球の過去から現在を理解し未来を予測する本課題のイメージ図

観測と数値予報モデルを土台に地球温暖化の今と未来を知る

この研究課題では、4つのチーム(副課題)で大気・海洋・陸面の相互作用からなる気候システムを読み解き、評価して、社会が直面する諸課題の解決につながる情報を提供しています。

異常気象のメカニズム解明と季節予測可能性の評価(副課題1)では、気象庁気候情報課と協力して、最新の気象予報モデルと過去55年分の気象観測データを組み合わせて作成した「長期再解析データ」のJRA-55の一部(JRA-55C)を作成しました。現在は、より長期間の75年分の再解析データJRA-3Qの作成を協力して進めています。そして、これらの長期再解析データを使って異常気象の発生メカニズムの解明を行っています。このほか、2週間から数か月先の天候を予測する季節予測モデルの精度向上にも貢献しています。

地球温暖化予測の不確定性低減(副課題2)では、階層的な地球システムモデルを2つの用途で活用して、地球温暖化を予測し、気候変動の仕組みを解明しています。一つは気候にかかわるほぼ全要素が入った地球システムモデルによる19世紀半ばから今世紀末までの気候再現と将来予測です。将来予測の結果は、各国の気候研究機関から国際比較プロジェクト(CMIP)に提出された多数の結果と合わせて評価することにより、予測の信頼性も評価しています。もう一つは大気の状態と地形をより詳しく表現する全球大気モデルを使った、現在気候の再現と将来予測です。このモデルには、地球システムモデルに比べて梅雨や台風などの大気現象をよりよく表現できる特長があり、気候変動適応策にも役立つ温暖化予測情報の作成に役立っています。

大気中温室効果ガスの変動要因・炭素収支の解明(副課題3)では、温室効果ガス(二酸化炭素・メタン・一酸化二窒素など)を地上や航空機で観測し、海上や衛星、他国・他機関の観測データと合わせて解析し、温室効果ガスの地球規模の動きやその変動要因を調べています。大気・海・森林の間を巡る二酸化炭素の動き(炭素収支)を推定するには、長期間に及ぶ高い精度の持続的な観測が欠かせません。そこで、最新のレーザー分光計を用いた温室効果ガスの観測技術の開発なども行っています。人為的な二酸化炭素排出に伴う炭素収支の変化を正確に評価するには、人間活動の影響と自然変動の影響を区別する必要もあります。例えば、ある観測点の大気が大陸上の人間活動や森林などの影響を強く受けているかどうかを判断するために、地中に由来するラドン等の測定・解析を行っています。

海洋の生物地球化学循環と酸性化実態の解明(副課題4)では、気象研究所が観測技術を確立し、海面から水深約1,000mまでの水温・塩分・酸素・植物プランクトンなどを自律的に測定できる「水中グライダー」などを使って、海洋中の物質(炭素や酸素など)の循環と、海の渦や海流との関係等を調べています。大気と海洋の間で交換される二酸化炭素や、海洋に蓄積される炭素量も調べます。これまでの研究によると、海洋は、産業活動により排出した二酸化炭素の約25%と、温暖化によって地球に閉じ込められる熱の約90%を吸収して、地球温暖化の進行を和らげています。しかし、海洋に吸収された二酸化炭素によって海水の酸性化も世界的に進んでいます。海洋酸性化の実態評価では、気象庁が東経137度線で1980年代から続けている海の二酸化炭素観測の長期データが大きな役割を果たしています。このチームはそうした観測の測定技術や解析技術の開発・改良も行っています。