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気象研究所研究開発課題評価報告

エンベロープを利用した同時発生する地震に対応した震源決定の試み

終了時評価

評価年月日:平成29年3月3日(書面開催)

研究代表者

小木曽仁(地震津波研究部 第三研究室 研究官)

研究期間

平成28年度

終了時評価の総合所見

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研究の動機・背景

(1)概要

地震がほぼ同じ時刻に複数の場所で発生すると、観測される波形は重なり合ったものとなり、通常の地震波発現時刻を用いた震源決定が困難となる。一方、地震波形、特に高周波成分のエンベロープは波動の伝播中に地球内部の複雑な構造の影響を受けるため、その形状は複雑となる。すなわち、同一観測点で観測される波形でも、震源の位置が異なると異なったエンベロープが観測される。この特徴を生かして、地震の重なりあった観測波形から複数の地震の震源を決定できる手法を開発する。

(2)研究の学術的背景

一般に、大きな地震(本震)が発生すると、その震源域内で多数の余震が発生する。余震の震源位置は本震の震源断層や震源過程と密接な関係があり、その決定は重要な課題である。しかし、短時間に多くの地震が発生するため、観測される地震波形はさまざまな地震が重なり合ったものとなり、従来の地震波発現時刻を用いた震源決定は難しいものとなる。

他方、近年の地震観測網の充実に伴い、観測された波形には多様な特徴があることが明らかになり、特徴そのものの解析や、その波形を生み出す媒質としての地球内部構造の推定が盛んに行われてきた。特に、決定論的な議論が難しい、地震波の波長と同程度の不均質性(短波長不均質)も観測波形の多様性を生み出すことが明らかとなっている。

本研究では、短波長不均質の推定を通して地震波の理論エンベロープ(地震波形の包絡線)を計算する。この理論エンベロープをさまざまな震源と観測点の組み合わせによって計算することで、仮定した震源に対する理論エンベロープのデータベースが作成できる。このデータベースを活用することで、単一に発生した地震のみならず、同一時刻に異なる場所で発生した地震のおおよその震源位置が推定可能かどうか調査する。

(3)当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

近年明らかにされてきた特に高周波地震動の複雑性を同時に発生する地震の分離に活用しようという試みはあまりなされていない。また、本研究は適用可能な地域を前もって決定しておく必要があるが、あらかじめ計算が可能な理論波形を用いることで、短時間のうちに震源計算結果が得られるものと期待される。

(4)最終的に資する気象業務

いままで震源決定が困難とされてきた地震、例えば巨大地震直後の広い震源域にわたる余震活動の早期震源決定

1.研究結果

(1)成果の概要
  • エネルギー輸送理論に基づいて、地震波が等方的に散乱される場合、及び、非等方的に散乱される場合について、発震機構の影響や速度等の地下構造が3次元的に不均質であることを考慮した理論エンベロープ計算プログラムを作成した。
  • 上記の作業を実施するとともに、理論エンベロープ波形を用いて同時に発生する地震を震源決定している例があるかどうか先行研究を調査したところ、当初計画していた方法と類似した研究例があることがわかった。外部資金(科研費)への応募という点を考慮すると、似た手法では採択の可能性が低いと考えたため、当初計画とは異なる手法を考案することとした。
  • 理論エンベロープ波形を使用せず、かつ、同時に発生する地震の震源決定が可能な手法を考察したところ、データ同化を用いた地震動の実況把握手法が活用可能ではないかという結論に至り、科研費応募書類を作成し、若手(B)に応募した。
(2)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)

研究当初はあらかじめ合成した波形(理論波形)を活用する予定であった。しかし、学会や文献等を調査しているのち、他の研究者がすでに取り組んでいる内容と類似していることがわかり、外部資金へ応募しても採択の可能性が低いと考えたため、当初予定していた手法とは異なる手法を考案することとした。

(3)成果の他の研究への波及状況
  • 科研費に応募した手法はデータ同化を活用するという点で、重点研究「緊急地震速報の予測手法の高度化に関する研究」と共通している部分がある。科研費に応募した研究課題が採択され、この課題を実施することになれば、データ同化を用いた地震動把握において相互作用が見込まれ、重点研究の進展にもつながることが期待できる。
  • 本研究で作成した理論エンベロープ波形計算プログラムは、現実に近い散乱パラメータを用い、また、震源時間関数などの影響を畳み込むことによって実際に観測されるエンベロープ波形と似た波形を計算することが可能である。この理論エンベロープ波形を活用することにより、現在の重点研究におけるさまざまな数値実験が可能となる。
(4)事前評価等の結果の研究への反映状況

特になし。

(5)今後の課題

特になし。

2.自己点検

(1)到達目標に対する達成度

当初予定していた手法とは異なるが、同時に発生する地震の震源を決定するというテーマに対して、他の研究者が取組んでいない手法を考案し、外部資金に応募したという点で、到達目標を達成したと考えている。また、本研究で作成したプログラムは今後さまざまな数値実験に活用することが可能である。

(2)研究手法及び到達目標の設定の妥当性

当初予定していた手法は他の研究者がすでに取り組んでいる内容と重なってしまったという点はある。しかし、そのようなことを調査するための研究課題であると認識しているので、当初の研究手法の設定には問題はなかったと考えている。

(3)成果の施策への活用・学術的意義

特になし。

(4)総合評価

同時に発生する地震の震源決定という課題に対して、当初予定していた手法は科研費に採択されない可能性が高いと考え、別の独自の手法を考案し、応募書類を作成して平成29年度の科研費に応募した。当初予定とは異なる経過となったが、外部資金応募のためのfeasibility調査という若手研究の性格を考慮すると、このようなことも十分あり得ることである。独自の手法を考察したうえで科研費に応募したという点で、本研究課題ではその目的を達したと考えている。

3.参考資料


参考資料:図
参考資料:説明文


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