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気象研究所研究開発課題評価報告

GNSSによる火山性地殻変動の検出とその評価手法の高精度化

終了時評価

評価年月日:平成29年3月3日(書面開催)

研究代表者

岡田 純(火山研究部 第一研究室 研究官)

研究期間

平成28年度

終了時評価の総合所見

pdfファイル:137KB

研究の動機・背景

火山地域における地殻変動観測は、地震や火山化学の観測と並び、火山活動の監視と防災において主要な役割を担っている。とくに、GNSSなどの衛星測位技術は、火山活動評価・予測の有力なツールとして世界中の火山で応用されており、近年、火山噴火メカニズムの解明や火山危機の現場で大きな貢献を果たしている。日本においては、全国に国土地理院によってGEONET(GNSS連続観測システム)が整備されるとともに、活火山周辺で様々な機関が独自にGNSSの連続観測・キャンペーン観測を実施しており、活火山の地殻変動を精査するためのデータの蓄積がある。ただし、気象庁を含めた各機関のデータは通常個別に解析されており、それらの解析結果を寄せ集めて火山監視に活用することについては妥当性の検証が必要である。本研究課題では、これまで個別に解析されていたGNSSデータを統合して解析する環境を新たに構築し、深部を含む火山のマグマ・熱水システム全体場の議論を可能にすることを目指す。

研究の成果の到達目標

本研究課題では、まず、対象とする火山(候補)に関する文献・資料の整理を行い、利用可能なデータセットの所在・品質・利用可能性を精査する。対象となる火山の選定後は、その火山のGNSSデータに適した解析戦略を立て、解析ソフトウェアであるBernese5.2(Dach et al., 2013)の立ち上げを行う。Bernese Processing Engine (BPE)を用いることで、Ambiguityの整数化などの作業をルーチン化し、解析の自動処理を行う。世界、あるいは東アジア太平洋地域に展開されている比較的安定なIGb08の基準点(fiducial sites)を選点し、これらの点の座標値によって解を拘束させる。IGSのアンテナ絶対位相特性モデルに基づく暦を使用し後処理の精密解析を行う。パラメータのチューニングは先行研究の結果も視野に入れて試行錯誤で行う。解析後は、Bernese の出力ファイルから座標値の抽出を行い、GMT(Wessel and Smith, 1998)などを用いて解析結果の可視化を行う。時系列解析を行い火山性地殻変動の有無を確認する。使用した生データと出力ファイルは将来的に火山活動評価に生かせられるよう、統一フォーマットで保存・管理する。また、火山の選定や観測点の状況(老朽化や崖・スロープ、障害物などの存在の有無)確認のために、火山監視・警報センターで実施している機動観測等に参加する。

1.研究結果

(1)成果の概要

本研究課題では、東北地方太平洋沖地震の余効変動の影響で火山活動評価に困難さが生じている東北地方の火山を中心に文献や資料(火山活動解説資料や噴火予知連資料等を含む)を調査した。このうち、蔵王山、吾妻山、磐梯山については、現地調査を実施し、現在の火山の活動状況の把握、観測点のコンディション(老朽化や崖・スロープ、障害物などの存在の有無)の点検、文献の収集を行った。現地調査は、東北大学の火山研究者や噴火記念館の学芸員、仙台管区気象台火山センターの職員らと共同で実施し、それぞれの火山に関する知見の収集・情報交換に努めた。検討の結果、近年、地震活動の消長に伴う地殻変動(例えば、吉田・他, 2012)が報告されている吾妻山を対象火山として選んだ。

次に、気象庁及び国土地理院のGNSS連続観測データの収集(データ期間:2014-2015年, データ形式: RINEX)を行った。データの保管及び解析用データプールとして大容量HDDを利用した。昨年8月と10月に行われたGNSS測位技術に関する講習会及び測地学会で得た最新の知見も参考にGNSS解析戦略を立て、設定パラメータのチューニングを行った。解析用ソフトウェアはBernese5.2を使用し、IGS精密暦を用いてBPEによる24時間毎の精密解析を行った。座標値をIGb08測地成果に準拠するため、日本周辺のIGS基準点データも同時に解析した。座標値の精度は観測点毎に異なるが、概ね±5~6㎜(水平)であり、良好な結果が得られている。

次に、気象庁及び国土地理院のGNSS連続観測データの収集(データ期間:2014-2015年, データ形式: RINEX)を行った。データの保管及び解析用データプールとして大容量HDDを利用した。昨年8月と10月に行われたGNSS測位技術に関する講習会及び測地学会で得た最新の知見も参考にGNSS解析戦略を立て、設定パラメータのチューニングを行った。解析用ソフトウェアはBernese5.2を使用し、IGS精密暦を用いてBPEによる24時間毎の精密解析を行った。座標値をIGb08測地成果に準拠するため、日本周辺のIGS基準点データも同時に解析した。座標値の精度は観測点毎に異なるが、概ね±5~6㎜(水平)であり、良好な結果が得られている。

圧力源の精密推定には、年周変動や東日本太平洋沖地震の余効変動の定量的な検討が必要であり、吾妻山については、今後、解析期間をさらに延長する必要がある。そこで、吾妻山同様、群発地震活動に伴う山体膨張が観測されているアゾレス諸島のFogo火山の2011-2012年の活動を例に、火山性地殻変動評価手法の検討を行った。その結果、深部と浅部に変動源が推定され、地下の火山性流体の挙動に関する理解が深まった(岡田・他, 2016、Okada et al., 2016)。

本研究により、火山近傍から遠方の多数の観測点(気象庁と国土地理院の観測点ネットワーク)を統一的に評価するGNSS解析環境が構築され、火山活動の抽出に有効であることが示された。また、変動源の精密推定により、深部を含む火山のマグマ・熱水システム全体場の議論が可能であることがわかった。

(2)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)

研究手法に関して、技術面での変更点は特にないが、火山性地殻変動の評価手法の高精度化については、海外の火山を例に評価手法の検討を行った。

(3)成果の他の研究への波及状況

本研究で得られた成果は、先行研究(例えば、吉田・他(2012)や鳥本(2017))の結果と時間軸上で接続可能であり、吾妻山の火山活動について長期的な評価(2003-2015年)が可能となる。本研究で検出された地殻変動が、吉田・他(2012)で推定された大穴火口直下の圧力源モデルによって説明可能であるかを検証することは、地下浅部の水蒸気噴火の発生メカニズムの特性を理解する上で非常に重要である。また、SAR観測(噴火予知連絡会検討資料など)では、より地下深部の地殻変動源の存在が示唆されており、本研究で検出された2014~2015年の吾妻山の火山活動の活発化が、どの深さの変動源の活動によるものかを判別することは、吾妻山のマグマ供給系の全体像を明らかにする上で重要である。

本研究で試作したGNSSデータの統合解析システムは、吾妻山以外の火山へも比較的容易に応用可能である。蔵王山では2013~2015年に地震活動が活発化し、全磁力観測の結果から、丸山沢噴気地熱地帯付近の地下浅部に消磁源が推定されている。GNSSデータを統合解析することにより、この活動が丸山沢だけの局所的な活動なのか、山頂の御釜を含む火山全体としての活動なのかという基本的な問いに対して重要な判断材料を提供できる可能性があり、気象庁の噴火警戒レベルの運用及び、周辺の自治体の火山防災対策への波及効果も大きい。

(4)事前評価等の結果の研究への反映状況

事前評価等で受けた指摘は特になし。

(5)今後の課題

研究代表者の岡田は、来年度の科学研究費に応募中であり、吾妻山に関しては、より長期的な時系列データを作成し、変動源の精密推定を行っていく必要がある。その際、東北地方太平洋沖地震の余効変動の影響を評価する方法として、Tobita (2016)による地殻変動時定数の推定方法など、最近の研究成果を参考にすることも有効と考えられる。また、上述した通り、GNSS統合解析システムは、他の火山への適用も可能である。蔵王山では、現在、東大地震研究所の特定共同研究「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究:蔵王山周辺の総合観測」が進展中であり、岡田は、来年度よりこの共同研究へ参画予定である。

2.自己点検

(1)到達目標に対する達成度

GNSS統合解析システムが構築され、吾妻山において火山性地殻変動の検出に概ね成功した。今後は、検出された変動に対し変動源の精密推定を行っていく必要がある。

(2)研究手法及び到達目標の設定の妥当性

対象火山の選定からGNSSデータの統合解析環境の新規立ち上げ及び解析作業は想定以上の時間を要し(他業務との兼ね合いもある)、解析結果を十分吟味するための時間が不足した。その意味で、1年という短い期間での到達目標としては設定した作業量は多すぎたと思われる。研究の方向性としては妥当であると考える。

(3)成果の施策への活用・学術的意義

これまで別々に解析されていたGNSS観測のデータが統一したパラメータで解析できるようになり、火山活動に対する空間的な検知力が向上した。山体の膨張を伴う地震活動の活発化は火山活動の活発化を示す指標として内外の火山で注目されている。本研究手法を応用して得られる地殻変動と、地震の観測データとの長期時系列比較は、火山活動を評価するための基礎データとして期待される。また、地震の他、熱や火山ガスなどの研究観測結果と合わせて、期間ごとに地殻変動源を推定できれば、各火山の地下のマグマ供給系の時間発展を議論することが可能となる。とくに、本研究成果は、気象研究所の重点研究課題B5「地殻変動観測による火山活動評価・予測の高度化に関する研究」やB7「火山ガス観測による火山活動監視・予測に関する研究」(研究対象として吾妻山を含む)及び、科学研究費「火山ガス成分と火山物理の融合的観測・分析による火山活動度の評価の研究」(連携研究者として応募中)との関連が深く、これらの研究課題の遂行に寄与する。

(4)総合評価

本研究課題の研究活動を通して、東北地方の火山の活動状況や測地学の最新の研究手法に関する知見を得た。これまでに得られた結果は吾妻山のごく一部の期間に限定されるが、本研究により構築したGNSS統合解析システムは、期間の延長と他火山への応用が可能であり、今後の研究の進展に大いに期待が持てる。吾妻山の変動源の精密推定(非火山性の変動成分の分離を含む)は今後の課題であるが、企画当初の思惑として、「次年度の科研費への応募を前提とした研究活動」を概ね実行できたと思われる。

3.参考資料

3.1 研究成果リスト
(1)査読論文:

なし

(2)査読論文以外の著作物(翻訳、著書、解説):

なし

(3)口頭発表:7件

・国際的な会議・学会等での口頭発表件数:1件

1. Okada, J., J. Araújo, A. Bonforte, F. Guglielmino, F. Sigmundsson, B. Ofeigsson, M. Lorenzo, T. Ferreira, G. Puglisi, 2016: Repeated volcanic unrests at Fogo (Agua de Pau) volcano, Azores, revealed by continuous and campaign GPS analysis, 第9回火山都市国際会議2016年11月(南米チリ).


・国内の会議・学会等での口頭発表件数:3件

1. 岡田純,2017(投稿済): 東北地方の活火山におけるGNSSデータの統合解析, 地球惑星連合大会2017年5月(幕張).

2. 柴田要佑, 松浦茂郎, 岡田純, 長谷川安秀, 2016: 火山活動評価手法の検討(1)-地震回数による調査, 火山学会2016年10月(富士吉田).

3. 吉開裕亮, 稲葉俊英, 岡田純, 2016: 吾妻山浄土平観測点で観測された2014-2015年火山活動活発化に伴う傾斜変動, 火山学会2016年10月(富士吉田).



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