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気象研究所研究開発課題評価報告

火山性流体採取法における技術的検討

事前評価

評価年月日:平成29年2月17日(書面開催)

研究期間

平成29年度

事前評価の総合所見

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調査研究の目的

(1)概要

水蒸気噴火は、本邦の火山において発生頻度が極めて高い噴火様式であり(奥野、1995)、その発生予測は防災上重要な課題である。水蒸気噴火の発生予測には、その発生場である熱水系の構造を明らかにし、噴火のメカニズムをモデル化することが重要である。しかしながら、マグマの移動を必ずしも必要としない水蒸気爆発は、地震活動や地殻変動の規模が小さく、このことは物理的な観測による発生予測を困難にする一因となってきた。他方、最近の応募者らの研究によって、マグマや熱水系から放出される物質を直接捉えて分析対象とする地球化学的な観測手法は、熱水系の構造解明や水蒸気噴火の発生予測にとって有効であることが示されている(例えば、Yaguchi et al., 20161); Ohba et al.,20162)).

これらの背景を踏まえ、応募者は平成30年度科学研究費助成事業に、地球化学的観測手法を用いた浅部熱水系の構造解明および水蒸気噴火のメカニズム解明に関する研究を応募する予定である。当該研究で取り組む地球化学的な分析手法においては、火山ガスを最も重要な分析対象として位置付ける構想である。それ故、当該構想研究の実現には、信頼性の高い火山ガスの分析結果を得ることが極めて重要である。火山ガスの分析値の信頼性の向上を図るには、火山ガスを①どの噴気孔から採取するか、②どの様に採取するか、③どの様に分析するか、を明確にすることが重要な課題である。これらのうち、後二者の課題については既に国際的に受け入れられた手法が確立されているが、①火山ガスをどの噴気孔から採るかについては統一的な手法が確立されていない。

そこで、平成29 年度気象研究所若手研究においては、火山ガスをどの噴気孔から採るかに焦点を絞り、その技術的な検討を実施する。本若手研究は、将来の外部資金の実現可能性の事前調査としての役割を担うとともに、火山ガス分析の方法論を追及するものであり、噴気孔の選定根拠を明確にすることで、研究者間の分析値の共有・有効利用を促進する狙いがある。

(2)研究の学術的背景

火山ガスは、その特性上、試料採取から分析に至るまでの作業工程が極めて複雑である。それ故、国内外の事例においても、例え同じ火山・同じ噴気地帯で採取した火山ガスであっても、その分析結果には大きなばらつきがあることが知られている(Giggenbach and Matsuo,19913);Giggenbach et al., 20014))。 このことは分析結果を解析する上での不確かさの要因の一つとなっているとともに、研究者間での分析値の共有・有効利用を阻害する要因の一つとなっている。

応募者は、 平成30年度科学研究費助成事業に応募予定の研究課題、および応募者が現在取り組んでいるB7 研究課題で実施予定の火山ガスの精密分析では、火山ガスの採取に国際的に実績のあるOzawa(1968) 5)およびGiggenbach and Goguel (1989) 6)の方法を併用する。しかしながら、これらの火山ガスの採取方法は、火山ガスの化学組成や安定同位体比を効率良く分析するために考案された分析化学的に優れた手法であるものの、本研究で検討する「火山ガスをどの噴気孔から採取するか」については個々の研究者の判断に依存しているのが実情である。具体的には、例えば、本源的な火山ガスは同一と推定される比較的狭い領域における一つ噴気孔群の中でも、それらの中には、温度の高い/低い噴気孔、噴出する勢いの強い/弱い噴気孔、開口部が割れ目上に発達/小さい噴気孔など、様々な噴気孔が存在する。今日、火山ガスを採取・分析する地球化学者は、不純物としての空気の混入を最小限にとどめることを大前提として、ある者は噴気孔群の中でできるだけ高温の噴気孔を選択し、ある者はできるだけ安全・かつ長期的に火山ガスが採取できる噴気孔を選択する。信頼性の高い分析結果を得るためには、火山ガスを採取する噴気孔の違いが分析値にどの様な影響をもたらすのかについて明確にする必要があるが、これまでに十分に検討された事例は見当たらない。

本若手研究では、火山ガスの採取について、従来の研究で報告されてきた分析化学上の留意点を念頭に置きつつ、同一の噴気孔群における噴気孔の選択の違いが、採取した火山ガスの分析値にどの様な差となって現れるのかを調査する。

(3)当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

本研究では、火山ガスの分析値の信頼性の評価方法について、同一噴気孔群内における噴気孔の選定方法と分析値の関係について着目した点に特色がある。噴気孔の選択と火山ガスの分析値との関係について理解することは、研究者間での分析値を比較する上で重要な情報であり、学術的意義がある。

(3)最終的に資する気象業務(複数あってもよい)

本研究は、重点研究B7「火山ガス観測による火山活動監視・予測に関する研究」の一環として取り組む火山ガスの精密分析の技術向上に貢献する。従って本研究の成果は、気象庁火山業務を強化し、噴火警報等の防災情報の早期で的確な提供の実現に資する。

【参考文献】

1)Yaguchi M. et al. (2016) Goldschmidt Conf. Abstr. 2016,3508.

2)Ohba T. et al (2016) Goldschmidt Conf. Abstr. 2016, 2343.

3)Giggenbach WF. and Matsuo S.(1911)Appl. Geochm., 6, 125-141.

4)Giggenbach WF. et al.(2001) J. Volcanol. Geotherm. Res.,108,157-172.

5)Ozawa T.(1968)Geochem. Int., 5, 939-947.

6)Giggenbach, W.F. and Goguel, R.L. (1989) DSIR Chem. Rept. 2401.

2.研究の概要

2.1 全体の概要
  • 広島地方気象台では、広島県の顕著な大雨事例を決定論的な予報を用いて解析を行い、大雨発生に寄与する要因について整理する。また、アンサンブル予報や感度実験などで得られる大雨発生に寄与する情報についても検討を行う。
  • 気象研究所では、データ同化実験やダウンスケール実験、感度実験を行い、それらの結果を地方官署に送付し、解析の支援を行う。

調査研究の方法

(1) 研究の概要

将来の研究計画の構想では、具体的には(A)火山ガス、および(B)熱水の採取・分析、(3)ボーリングコアや火山噴出物等の地質試料の構成鉱物種の同定を実施し、箱根山等の熱水系の構造解明および水蒸気噴火のメカニズム解明を目指す。

(2) 本若手研究課題として実施する調査(feasibility study)
※ 使用する経費については、所内の実行計画様式を添付すること。

将来の研究計画の中で取り組む地球化学的な分析手法の中では、特に水蒸気噴火のメカニズム解明に関して (A)火山ガスの採取・分析が最も重要かつ高頻度に実施する手法と位置付けている。これは、物質の三態、すなわち、気体(火山ガス)、液体(熱水)、固体(地質試料)の中では、気体が最も地下での移動速度が速く、水蒸気噴火に伴う地下深部での変化を最も早く地上へ伝達すると考えられるからである。従って本若手研究では、将来の研究計画を効率良く遂行するための予備的調査として、 (A)火山ガスの採取・分析の品質向上を実現ために火山ガスをどの噴気孔から採るか、に焦点を絞って研究に取り組む。

(ア)火山ガスの多地点採取

箱根火山等の熱水系が発達する火山の噴気地帯において、本源的な火山ガスが同一と考えられる狭い範囲の噴気孔群の中から、噴気温度や噴気活動の規模の異なる噴気孔を3地点選定し、Ozawa(1968) 5)およびGiggenbach and Goguel (1989) 6)の方法を用いて火山ガスを採取する。本作業は1ヶ月に1度程度の頻度で繰り返し実施する。また、比較試験として長崎県雲仙岳でも火山ガス採取を研究期間中に2回実施する。雲仙岳はこれまでに、マグマ噴火や水蒸気噴火を繰り返してきた火山であり、現在も活発な噴気活動を継続しているため、様々な条件の噴気孔からの火山ガス採取を目的とする本若手研究の調査対象として適地である。なお、箱根山火山ガスの採取はB7 研究課題および次世代火山研究・人材育成総合プロジェクトでの観測と同時に実施するため、本若手研究では雲仙岳の調査のみ観測旅費を計上し、使用する機材については消耗品として購入する。

(イ)火山ガスの分析

上記の手順で採取した火山ガスは, 実験室に送致後速やかに化学 組成(H2O, CO2, H2S, SO2, He, H2, O2, N2, Ar, CH4)、および安定同位体比(D/H, 18O/16O)の分析に供する。化学組成の分析にはガスクロマトグラフ法、重量分析法、微量拡散試験法を併用し、安定同位体比の分析にはキャビティリングダウン分光分析法を使用する。なお、化学組成の分析には気象研究所の既存設備(2016 年度整備予定)を使用し、安定同位体比の分析には東海大学の施設を利用し、東海大学までの旅費は本若手研究の国内旅費で賄う。

(ウ)結果の公表および情報収集

得られた結果は、日本地球化学会、日本温泉科学会等の大会で公表するとともに、火山ガス採取技術に関する情報収集のために、火山性流体討論会等の研究集会に参加する。このための旅費は本若手研究の国内旅費で賄う。

研究実績

(1)現在担当している研究課題
  • 気象研究所/重点研究課題B7
    「火山ガス観測による火山活動監視・予測に関する研究」
  • 東京大学地震研究所/地震・火山噴火の解明と予測に関する公募研究
    「火山ガス観測による箱根山等の熱水系構造解明と群発地震発生予測」。
  • 次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト
    「先端的な火山観測技術の開発/サブテーマ3:地球化学的観測技術の開発」
(2)平成29年度外部資金課題として応募している研究課題

該当無し

(3)論文一覧 (筆頭著者の物のみ抜粋, この他3 編が査読付雑誌に掲載済)

Yaguchi M., Muramatsu Y., Chiba H., Okumura F and Ohba T.(2016) The origin and hydrochemistry of deep well waters from the northern foot of Mt. Fuji, central Japan. Geochem. J., 50, 227-239.

Yaguchi M., Muramatsu Y., Chiba H., Okumura F., Ohba T. and Yamamuro M.(2014) Hydrochemistry and Isotopic Characteristics of Non-Volcanic Hot Springs around the Miocene Kofu Granitic Complex Surrounding the Kofu Basin in the South Fossa Magna Region, Central Honshu, Japan. Geochem. J., 48, 345-356.

Yaguchi M., Muramatsu Y., Nagashima H., Okumura F. and Yamamuro M. (2014) Geochemical and Isotopic Characteristics of the Mineral spring and Natural Spring Waters in the Setogawa Group in the Western Yamanashi Prefecture, Japan. J. Hot Spting Sci., 64, 42-52.

谷口無我, 穴澤活郎 (2013) 干渉抑制剤共存下でのAAS によるCa2+ 定量に及ぼす酸添加の影響. 分析化学, 62, 701-705.



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