気象研究所研究開発課題評価報告
高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究
終了時評価
研究代表者
林 広樹(東京管区気象台 防災調査課 調査官)
研究担当者
大塚道子(予報研究部 第二研究室 主任研究官)
瀬古 弘(予報研究部 第二研究室 室長)
東京管区気象台:
林 広樹、牛島孝友※1、植村恵子、林 真由※1、山内 崇、久野勇二※1、山田裕里佳※1、野島和哉※2、近藤 亨※2、梶 史織※2、由宇弘樹※2
水戸地方気象台:
守田宏市※1、西井久人※1、仲居史志※1、儘田裕司※1、犬飼俊※1、安藤直貴※1、田中敏郎※2、山本修義※2、板谷浩樹※2、津島俊介※2、井村暢志※2
宇都宮地方気象台:
森 洋、喜内 恒※1、大水俊宏※1、小倉 惇※1、安井拓也※1、浅尾宏紀※2、高橋朋哉※2、草野修平※2
熊谷地方気象台:
植田卓水、水守博和※1、佐野辰正、山下 卓、井口 卓※1、山口 広、羽根川雅美※1、和田郁夫※2、永井博幸※2、君島正樹※2、牛島孝友※2
横浜地方気象台:
佐藤一至、佐藤直人、上田哲也※1、横瀬明香※1、近藤智子
※1(1年目のみ)、※2(2年目のみ)
研究期間
平成27年度~平成28年度
終了時評価の総合所見
研究の動機・背景
急速に発生発達し大雨をもたらす降水系に関して、現用の数値予報モデルではその予測に限界がある。予想シナリオから大きく外れた突発的な大雨については、レーダー観測資料等を用いた実況監視手法を調査検討し現業で活用をしているところであるが、その手法は十分とは言えず、少なからず防災気象情報の適時発表の見逃しも否めない。
当管区では管区推奨調査研究として、これまでに「ドップラーレーダーデータを用いたメソ対流系に関する調査研究」、JMANHMを活用した「地域に特有な気象現象の構造解明に関する調査研究」等を行い、現在「大雨等の顕著な気象現象の実況監視と予測に活用できる概念モデルの再構築」、「GPS気象観測データを用いた大雨予測精度向上に関する調査研究」を行っているが、実況監視手法の作成、改善や新たな知見についてはさらなる調査の必要がある。また、新しい観測資料の活用や現象の解析手法等については、専門家(気象研究所)の指導・助言を受けながら進める事が有効と考える。
研究の成果の到達目標
急速に発生発達する降水系の事例に関し、診断的予測グループが提供している豪雨事例解析マニュアルを用いて解析を行い、高頻度衛星雲観測資料を用いてその降水系の発生タイミング、発達の状況、及び衰弱タイミングや移動の状況等について解析、検討を行う。実況監視の観点から、現象の発生発達等についてレーダー観測資料等との比較を行い、高頻度衛星雲観測資料を用いることにより、より早く現象を捉えることができないか調査を行う。これらを纏めることにより、新たな知見の共有と、実況監視手法の作成、改善を行うことを目的とする。また、来年度から観測開始となるひまわり8号による、より高頻度・高解像度のデータの利用に向けての基礎知識習熟も目標とする。
1.研究結果
(1)成果の概要
急速に発達する対流雲について、発生期においては可視反射率の増加や赤外輝度温度の低下により、ファーストエコー観測より早いタイミングで、対流雲発達の兆候を捉えられる可能性があることが分かった。一方、ファーストエコー観測後については、レーダー観測による降水強度の増大とともに、可視反射率の増加や赤外輝度温度低下の傾向はあるものの、明瞭な傾向やレーダー観測による降水強度との関係は言及できなかった。
一定領域における対流雲の可視反射率及び赤外輝度温度の標準偏差を用いた、対流雲の発達傾向については、ファーストエコー発生前に標準偏差の増大傾向が見られる事が分かった。また、赤外輝度温度の標準偏差は、対流雲発達の最盛期にかけ緩やかに増大する傾向が分かった。
対流雲の発達・非発達については、可視反射率、赤外輝度温度の動向や標準偏差の傾向から、その差異は見出せないことが分かった。
これらのことから、大雨に至るかどうかの言及はできないが、実況監視として、高頻度・高解像度化となったひまわり8号の資料を活用することにより、ファーストエコー観測前に、着目すべき雲を特定できる可能性があることが分かった。
また、各参加官署では高頻度・高解像度化したひまわり8号のデータ利用に伴い、ひまわり8号の観測やデータ等、基礎知識について勉強会等により、基礎知識の習得が進んだ。
(2)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)
- 可視反射率及び赤外輝度温度について、一定領域の標準偏差を用いた調査を加えた。
- 同じ環境場の中で非発達(大雨に至らない)の対流雲について、発達する対流雲との比較のため、調査に加えた。
(3)成果の他の研究への波及状況
他の研究で研究成果を用いられているものは無いが、診断的予測グループの第70回会合(2016年2月4日)で1年目の研究成果を報告した。また第81回会合(2017年2月2日)では2年間の研究成果を報告した。
(4)事前評価等の結果の研究への反映状況
目的の明確化については、研究を進めながら、その時点での結果を踏まえ、研究手法の改善等を検討しながら研究を進めた。
先行研究である沖縄気象台等での研究成果については、診断的予測グループ第70回会合での報告や、イントラページにより確認しながら研究を進めた。
(5)今後の課題
- ファーストエコー観測前の衛星観測資料を利用して、現業での実況監視の手法を確立することが課題である。
- 標準偏差を用いた研究手法については、その領域の取り方に課題が残った。標準偏差を用いた研究手法の改善が課題である。
- 今研究では、各参加官署ともに複数事例を取り扱ったが、今後の事例を用い今回の研究成果の検証が必要と考える。
2.自己点検
(1)到達目標に対する達成度
衛星観測資料を用いることにより、ファーストエコー観測前に着目すべき対流雲を捉えられる可能性があることは分かったが、具体的な実況監視手法の確立には至らなかった。このことから、達成度は70%程度と考える。
衛星観測の基礎知識の習得については、目標を達成できたと考える。
(2)研究手法及び到達目標の設定の妥当性
研究手法については、気象研究所研究官の指導もいただき、妥当であったと考える。到達目標の設定については、概ね妥当であったが、実況監視手法については、現業での利用データも含め、目標設定を行うことが適切であったと考える。
(3)成果の施策への活用・学術的意義
予想シナリオから大きく外れた突発的な大雨については、主にレーダー観測資料をトリガーとして、防災気象情報の運用を行っている状況である。今研究の成果として、衛星観測資料を活用することにより、レーダー観測より早いタイミングで発達する対流雲に着目することができる可能性があることがわかった。このことは、今後の実況監視手法の改善や防災気象情報の適切な運用に寄与できると考える。
(4)総合評価
- 今研究の成果は、直ぐには予報現業作業に還元できないが、各官署での後続研究には十分参考になると考える。
- 今研究で気象研究所研究官からの指導等により研究手法について試行錯誤し新たな研究手法を試みたことは、今後の各研究に参考になると考える。
- 気象研究所研究官から丁寧な指導を受けられたこと等、今研究は担当者のスキルアップにも繋がったと考える
これらのことも含め、研究成果としては当初目標を完全に達成するには至らなかったが、適切に研究を実行できたと考える。
3.参考資料
3.1 研究成果リスト
(1)査読論文:
なし
(2)査読論文以外の著作物(翻訳、著書、解説):
・平成27年度東京管区調査研究会誌に以下原稿を掲載
官署 | 題名 |
---|---|
東京 | 高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究(1年目) |
水戸 | 高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生・発達する降水系に関する研究 |
宇都宮 | 高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究(2年計画第1年度) |
熊谷 | 高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究(2013年7月8日の事例) |
高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究(2013年8月11日の事例) | |
2014年6月25日の環境場及び高頻度衛星雲観測について | |
高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究(2015年8月1日の事例) | |
高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究 2015年7月31日から8月2日の海風前線の雲について |
|
横浜 | 高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究 |
・平成28年度東京管区調査研究会誌に以下原稿を掲載
官署 | 題名 |
---|---|
東京 | 高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究(2年目)2015年9月4日の事例 |
高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究(2年目)2016年7月14日の事例 | |
水戸 | 高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究 |
宇都宮 | 高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究(2年計画第2年度) |
熊谷 | 高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究(2年計画2年目) |
海風前線の強さの指標について | |
上層の雲域や明域による対流雲の発達について | |
横浜 | 高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究 |
・地方共同研究「高頻度衛星雲観測を活用した急速に発生発達する降水系に関する研究」成果報告書
平成29年3月 発行