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気象研究所研究開発課題評価報告

桜島噴火に伴う火山レキによる被害軽減のための研究

終了時評価

評価年月日:平成29年2月23日(書面開催)

研究代表者

白土正明1)(鹿児島地方気象台 地震津波火山防災情報調整官)
藤原健治2)3)(鹿児島地方気象台 地震津波火山防災情報調整官)

研究担当者

白土正明1)、藤原健治2)3)、小窪則夫3)、高松政美2)3)、川村安1)、重信有三3)、籠原宏之1)3)、池亀孝光1)3)、河野太亮、竹下孝弘、小枝智幸、高橋冬樹2)3)、渡辺茂3)、上之薗正利2)、内田東、長山泰淳3)、古田仁康、末次秀規3)、滿永大輔3)(鹿児島地方気象台)、高橋冬樹1)、高橋幸祐2)、福島秀樹3)(地磁気観測所*)、新堀敏基、福井敬一、徳本哲男3)、高木朗充、佐藤英一、石井憲介(気象研究所)、林勇太1)、菅井明2)、藤原善明3)(気象庁火山課**)、駒崎由紀夫、星野俊介2)3)(高層気象台**)

*鹿児島地方気象台併任、**気象研究所併任
1)26年度、2)27年度、3)28年度

研究期間

平成26年度~平成28年度

終了時評価の総合所見

pdfファイル:187KB

研究の動機・背景

桜島は定常的に噴火を繰り返しており、年間を通して火山灰は周辺の市町村にまで降り注ぎ、しばしば列車や航空機、高速道路等での交通障害を引き起こしている。近年、桜島昭和火口の噴火活動が活発化しており、2013年夏以降は、風に流されて降下する火山レキ(小さな噴石)により、火口から8km離れた場所で車のガラスが割れるなどの被害もたびたび発生している。

噴火が発生してから火山レキが降下するまでの時間は、噴火の規模やそのときの気象条件にもよるが、概ね数分~10数分程度である。これに対して平成26年度末より運用開始を予定している新たな降灰予報(量的降灰予報)の情報体系のひとつである「噴火直後の速報(降灰速報)」は、観測した噴煙高度を使用することや、噴火から発表まで概ね5~10分程度の時間を要すること等から間に合わない場合も想定される。

また、桜島上空の風は局地性が強く、数値予報モデルのMSMやLFMによる風の予報値(GPV)のみを用いた定時的な降灰情報では火山レキの降下範囲の予想が大きく外れる可能性がある。

桜島では、展望台や居住地域が近いところでは火口から3~4km付近にある。また、昭和火口からの噴火の規模が徐々に大きくなっていることに伴い、火山レキで観光客や住民が怪我をしたり車のガラスが割れて事故を起こす可能性が高まっている。このため、上記の降灰情報や降灰速報における火山レキの降下範囲の予測精度改善を目指した研究を緊急に進める必要がある。

研究の成果の到達目標

桜島噴火に伴う火山レキの降下範囲を噴火前に推定し、防災情報として活用するための試案を作成する。

1.研究結果

(1)成果の概要
  • 2015年8月15日に桜島で生じたダイク貫入の際の有村観測坑道伸縮計データの解析を行い、ダイク貫入の際の伸縮計データの変化量及び極性の変化がダイクの貫入方向の時間変化で説明できることを示した。
  • 有村観測坑道の地殻変動データの地球潮汐の解析を行い、傾斜計でとらえた分潮応答の時間変化が桜島の物性変化等を示す可能性を見出した。
  • 2015年3月25~26日に、桜島島内の黒神瀬戸観測点において、高層気象台の可搬型ドップラーライダーによる風の観測を行った。期間中に観測された大気下層の水平風は最大10 m/s程度であったのに対し、メソ解析および局地解析のGPVは数m/s弱く解析されることがあった。また鉛直流は、GPVではともに0.1 m/sオーダーであったのに対し、ライダーでは1桁大きい値が観測された。
  • 同ライダーによる水平風の観測データと局地解析および局地モデルのGPVとの比較から、領域移流拡散モデルの初期値を与える噴煙供給源モデルに必要な風速の最大誤差補正式を求めた。さらに突風率も考慮して、噴煙供給源モデルを従来の風の影響を受けない噴煙柱モデルから、風の影響を考慮した噴煙モデルへ改良した。
  • 同ライダーで観測された鉛直流のデータには、降下火山灰の落下速度が重畳している可能性があるため、散乱光のドップラースペクトル強度分布から浮遊火山灰の粒径分布の推定および領域移流拡散モデルの予測結果との比較を進めた。この解析により、高度別の火山灰の粒径分布が推定できる可能性を示した。
  • 桜島の島外で降レキ被害が発生した2013年9月4日噴火事例について、風の影響を考慮した噴煙モデルを適用した結果、降レキ予測(最大長径及び分布主軸)はやや改善し、降灰予測(降灰量及び降灰域)には大きく影響しないことを確認した。
  • 昭和火口測量観測の継続中、桜島の火山活動が活発化し、従来の観測点からの測定が一時的に困難となったため火口から離れた新たな観測点での並行観測の検討を行なった。観測点選定にあたり、観測機器の設置の際に許される誤差について検討し、従来行っていた厳密な機器設置方法を見直し、機器設置を短時間で行う事が可能であることを明らかにした。なお、平成28年8月以降、爆発なく、従来の火口測量観測点での観測を継続した。
  • 過去の大規模噴火の際のレキの集積物(ボラ山)の最大レキ粒径調査を実施し、文明噴火の際の最大粒径レキの降下分布を求めた。
(2)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)
  • 桜島島内にレキ採取トレイとともに降レキ観測用カメラを設置したものの、研究期間中の2015年10月以降、桜島火山活動が低下したこともあり、観測地点にレキの降る噴火が発生せず、降下レキの画像データは取得できなかった。
  • 2014~2015年口永良部島噴火及び2015年8月15日の桜島活動の一時的な活発化、えびの高原活発化等の対応の影響で過去の噴火堆積物の調査開始が遅れたことから、これまで調査が行われていない、文明噴火の堆積物にしぼって調査を実施した。文明噴火のうち、北東方向に流れた降下レキの最大粒径の分布を求め、領域移流拡散モデルによるシミュレーション結果との相関を取ることにより、文明噴火時の気象場の推定を試みた。
(3)成果の他の研究への波及状況

本課題で取り組んだ風の影響を考慮した噴煙供給源モデルの改良は、重点研究「大規模噴火時の火山現象の即時把握及び予測技術の高度化に関する研究」における移流拡散モデルの精度向上に寄与しており今後、量的降灰予報のさらなる高度化に資する。

(4)事前評価等の結果の研究への反映状況

計画当初、期待された火山業務を担う人材育成の観点から、若手職員が鹿児島大学との勉強会や、小林哲夫鹿児島大学名誉教授とのフィールドワークに参加して議論することを通じて、リモートセンシングの観点、火山防災の観点、火山地質の観点に関心を持つことができるようになった。

(5)今後の課題
  • 桜島が頻繁に爆発を繰り返すような状況になった場合、降レキ予測のさらなる改善に必要な噴煙・移流拡散モデルの検証のために、地上データの収集を行う必要がある。
  • 過去の大規模噴火の堆積物について調査を進める必要がある。まずは文明噴火のうち、北側に流れたもの、ついで安永噴火や大正噴火についても調査を進めたい。調査に当たっては火山地質学専門家との意見交換を十分に行い、堆積物の年代等について確認しながら進める必要がある。

2.自己点検

(1)到達目標に対する達成度
  • 爆発的噴火が無い状況になったため、風の影響を考慮した噴煙モデルを初期値とする計算結果を検証するデータは殆ど得ることができなかった。
  • 口永良部島、霧島山等の活動により調査期間が限られたが、文明噴火堆積物について一定のデータを得ることができた。
  • 米国、ロシア、日本共同の研究集会、鹿児島大学の勉強会や火山地質専門家とのフィールドワークを通じて気象台職員に火山活動に関する他分野の知見が蓄積された。
(2)研究手法及び到達目標の設定の妥当性

研究実施期間における個別の爆発に対する降レキ分布の把握手法の設定は妥当であったと考えるが、想定していた規模の爆発が発生せず、南岳、昭和火口からの降レキ分布データを入手することが出来なかった。一方、大正噴火級の噴火の際の噴出物の構成は通常観測している爆発に含まれる火山灰の粒径とは著しく異なっていることが知られており、大規模噴火の際の降レキに関するデータ収集を目標にしたことは妥当であった。

(3)成果の施策への活用・学術的意義

降レキの形状、堆積物から推定した噴煙中の火山灰の粒径分布を推定するためのデータを得ることにより移流拡散モデルによる降灰予測の精度の検証に使うことができると考える。また、モデルの改良によって最速の降レキ時刻及び範囲をより的確に表現できるようになることにより、噴煙が上昇中の場合でも精度のよい降灰予報(速報)を迅速に発表することが可能となり、より火口に近い居住地域に早めの防災対応を促すことが可能となる。

(4)総合評価

桜島の活動状況が想定とおりでなかったことから当初想定していた個別の爆発に対する降レキ分布のデータを得ることが出来なかったが、過去の大規模噴火の堆積物の粒径に関する有効な調査方法を確立した。口永良部島及び桜島の活動活発化により、調査期間を十分にとることができなかったが、文明噴火のうち、北東方向へ流れた堆積物について最大レキの分布に関するデータを得た。

3.参考資料

3.1 研究成果リスト
(1)査読付き原著論文:

なし

(2)(1)以外の著作物(翻訳、著書、解説):3件

1. 新堀敏基, 2015: 数値シミュレーションによる降灰予測. エアロゾル研究, 30, 168-176.

2. 新堀敏基, 2015: 火山噴火と大気環境-第3講 火山噴出物の大気動態・環境影響-①火山灰. 大気環境学会誌, 50, A67-A77.

3. 新堀敏基, 2016: 火山灰輸送:モデルと予測. 火山, 61, 399-427.

(3)口頭発表

・国際的な会議・学会等:1件

1. Uchida, H.: Strainmeter Array Observation of the Dike Intrusion at Sakurajima Volcano on 15 August 2015. 9th Biennial Workshop on Japan-Kamchatka-Alaska Subduction Process, 2016年5月, アラスカ, フェアバンクス.


・国内の会議・学会等:18件

1. 新堀敏基: 火山噴火による降灰予測. 平成26年度科学技術週間特別講演, 2014年4月, 茨城県つくば市.

2. 古田仁康,竹下孝弘,篭原宏之,川村安,河野太亮,小枝智幸,内田東,高橋冬樹: 桜島の噴火に伴う小さな噴石(火山礫)の調査.鹿児島県気象研究会, 2014年12月, 鹿児島県鹿児島市.

3. 内田東, 小枝智幸, 古田仁康, 川村安: 桜島昭和火口噴火にともなう伸縮計の変動量と噴火規模の関係.鹿児島県気象研究会, 2014年12月, 鹿児島県鹿児島市.

4. 河野太亮: 大正3年桜島噴火時の火山礫分布について.鹿児島県気象研究会, 2014年12月, 鹿児島県鹿児島市.

5. 福井敬一: 気象レーダー等を用いた桜島における火山噴煙観測研究計画-噴火現象の即時把握及び降灰予報の高度化に向けて-. 桜島火山研究課題第一回研究集会, 2015年1月, 鹿児島県鹿児島市.

6. 内田東, 小枝智幸, 古田仁康, 川村安: 桜島昭和火口噴火にともなう伸縮計の変動量と噴火規模の関係.福岡管区気象研究会, 2015年2月, 福岡県福岡市.

7. 菅井明, 黒木英州, 林洋介, 新堀敏基: 新しい降灰予報について. 日本火山学会秋季大会, 2015年9月, 富山県富山市.

8. 高橋冬樹, 内田東: 桜島火口測量におけるセオドライト設置の許容誤差. 鹿児島県気象研究会, 2015年12月, 鹿児島県鹿児島市.

9. 内田東: 2015年8月15日桜島地殻変動時の有村観測坑道伸縮計データの解析. マグマ系3課題合同研究集会, 2016年1月, 鹿児島県鹿児島市.

10. 福井敬一: 気象レーダー等を用いた桜島噴煙観測-レーダー観測準備状況,測風ライダーによる上空の火山灰粒径分布の推定-. マグマ系3課題合同研究集会, 2016年1月, 鹿児島県鹿児島市.

11. 古田仁康:気象庁の新しい降灰予報について. 鹿児島大学「噴煙・火山ガス研究会」,2016年2月,鹿児島県鹿児島市.

12. 新堀敏基: 大規模噴火の降灰予測. 防災ワークショップ「大規模火山噴火時の地域防災」, 2016年3月, 鹿児島県鹿児島市.

13. 星野俊介, 新堀敏基, 福井敬一, 石井憲介, 佐藤英一, 白土正明, 藤原健治, 駒崎由紀夫: 測風ライダーを用いた火山灰の粒径分布推定の試み. 日本気象学会春季大会, 2016年5月, 東京都渋谷区.

14. 星野俊介, 新堀敏基, 福井敬一, 石井憲介, 佐藤英一, 白土正明, 藤原健治, 駒崎由紀夫: 測風ライダーを用いた火山灰の粒径分布推定の試み:桜島での観測例. 日本地球惑星科学連合大会, 2016年5月, 千葉県千葉市.

15. 長山泰淳: 桜島2015年8月のマグマ貫入イベントにおける地殻変動の応答遅延時間分布及び緩和時間分布. 災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画 桜島課題研究集会, 2017年1月, 鹿児島県鹿児島市.

16. 長山泰淳: 桜島における傾斜・歪への長周期潮汐の影響量及び短周期潮汐の時空間変化とその解釈. 福岡管区気象研究会, 2017年2月, 福岡県福岡市.

17. 小枝智幸, 重信有三, 竹下孝弘, 渡辺茂, 末次秀規, 林幹太: 桜島の噴石飛散を想定した現地調査について. 福岡管区気象研究会, 2017年2月, 福岡県福岡市.

18. 藤原健治, 鹿児島地方気象台火山班: 桜島文明噴火の降下火山レキ径分布調査(序報). 「降水と噴火」研究会, 2017年3月, 鹿児島県鹿児島市.

(4)ポスター発表

・国際的な会議・学会等:

なし


・国内の会議・学会等:3件

1. 新堀敏基, 白土正明, 長谷川嘉彦, 橋本明弘, 高木朗充, 山本哲也, 山本哲: 領域移流拡散モデルによる1914(大正3)年桜島噴火を想定した火山灰拡散および降灰予測. 日本地球惑星科学連合大会, 2014年5月, 神奈川県横浜市.

2. 小枝智幸,高橋冬樹,横山博文,野田信幸: 1mメッシュDEMデータから求めた桜島昭和火口の3次元形状~数値で見る昭和火口の形状変化と火山活動との比較~.日本火山学会秋季大会,2014年11月, 福岡県福岡市.

3. 新堀敏基, 林洋介, 菅井明, 黒木英州, 白土正明, 藤原健治, 石井憲介, 佐藤英一, 福井敬一: 降礫予測における風の影響を考慮した供給源モデルの検討. 日本地球惑星科学連合大会, 2016年5月, 千葉県千葉市.

3.2 報道・記事

なし



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