TOP > 研究への取り組み > 評価を受けた研究課題 > 大気海洋結合データ同化システムの開発に関する研究(中間評価)

気象研究所研究開発課題評価報告

大気海洋結合データ同化システムの開発に関する研究

中間評価

評価年月日:平成29年2月6日

研究代表者

竹内義明(研究調整官)

研究期間

平成26年度~平成30年度

中間評価の総合所見

pdfファイル:136KB

研究の動機・背景

現季節予報システム(大気海洋結合モデル)では、全球大気モデルと海洋モデルの単独同化システムによる初期値を利用しているため、初期場の大気と海洋は物理的にバランスしたものとなっておらず、積分初期にショックが発生したりその後の時間発展に悪い影響を及ぼして予報精度にも影響する。これを改善するためには大気海洋結合同化が必要である。世界のいくつかのセンターでは結合同化システムの開発に取り組み、すでに現業化しているところもある。結合同化システムの開発に着手しその有効性に関して詳細な知見を得ておくことは、世界から遅れることなく現業予報システムを発展させていく上で重要である。大気海洋結合同化システムの開発は、平成25年度「地球環境・海洋部と気象研究所との研究懇談会」においても気象研究所への要望事項として上げられている。台風や熱帯季節内変動などの予報においても大気海洋相互作用の効果は大きいことから、より短期間の予報でも大気海洋結合モデルを使い、結合同化により初期値を作ることでこれらの現象の予報精度の向上にも寄与できる可能性がある。大気海洋結合モデルを利用し、さらに大気海洋結合同化により初期値を作成することで得られる、気象・気候現象の再現性や予測可能性の向上に関する知見は、学術的にも意義がある。

研究の成果の到達目標

大気海洋結合データ同化システムを開発し、

・ 熱帯擾乱の再現性と予測性向上

・ 熱帯季節内変動の再現性・予測性向上

・ 大気海洋結合系現象(ENSOなど)の時間発展の予測性向上

・ 熱帯降水量気候値の再現性向上

を図る。

1.研究の現状

(1)進捗状況

まず、全球海洋データ同化システム(MOVE-G2)および大気海洋結合モデル(JMA/MRI- CGCM2)を組み合わせた準結合データ同化システムを作成し、性能確認や予備的な同化実験を行った。次に、全球海洋データ同化システム、全球大気データ同化システム(MRI-NAPEX)、大気海洋結合モデルを組み合わせて大気海洋結合データ同化システム(以下、結合同化システムとよぶ)を構築し、過去(2012年1月末以降)の任意の時期から計算できるよう改良した。構築した結合同化システムについて、基本的な評価、短期予報実験、および2013年11月から2015年12月までの再解析実験とその結果の解析を行った。

(2)これまで得られた成果の概要
(平成26年度)
① 結合同化システムの開発
  • 海洋データ同化システム、大気海洋結合モデルの各コンポーネントを繋ぎ、準結合同化システムを作成し、3年間の解析ランによる性能確認を行った。
  • 結合同化システムの精度評価の基準の一つとするため、大気同化システム(MRI-NAPEX)について、大気予報モデルを大気海洋結合モデル(季節予報モデル)と同一にした低解像度システムを構築、同化サイクルを実行し精度評価を行った。
  • 大気データ同化システム、海洋データ同化システム、大気海洋結合モデルの各コンポーネントを繋ぐためのインターフェースを作成して3つコンポーネントを数値予報実験システム(NAPEX)に組み込み、1つのシステムとして動作させる仕組みを構築した。
(平成27年度)
① 結合同化システムの開発
  • 気象研究所の新計算機に移植した気象庁現業季節予報大気海洋結合モデルを結合同化システム及び準結合同化システム用に整備した。
  • 大気部分の同化のひな形となる気象庁現業システム(MRI-NAPEX)を気象研究所の新計算機上に移植して構築し、これをもとに水平低解像度システムを構築した(A3課題と共通)。次に、大気海洋結合モデルと大気同化システムの結合のために、結合モデルの入出力処理の修正、結合同化サイクル制御シェルの移植等を行った。また、システムの初期調整を完了した。
② 準結合同化システムの予備的な同化実験
  • 準結合同化システムについて気象研究所の新計算機上での実行環境、及び、大気出力モニタの整備を行った。さらに、2010年以降について、準結合同化システムを用いた予備的な同化実験を行った。この結果を解析し、システムの性能を確認した。
③ 結合同化システムに適したアンサンブルメンバ作成手法の検討
  • アンサンブルメンバとして、変分法で最適化のための繰り返し計算の途中で得られる情報を利用することを検討した。
(平成28年度)
① 結合同化システムの開発
  • 結合同化システムの計算開始のタイミングの変更、観測や境界データの対応、結合モデル初期値作成のためのスクリプトの作成、計算結果変換ルーチンの整備などにより、直近の期間に加え、過去の任意の時期から計算開始が容易に可能となるように改良した(ただし、気象研での大気同化用観測データをオンライン取得しているのは2012年1月末以降)。
② 結合同化システムの数値予報システムとしての基本的な評価
  • 結合同化システムについて、解析インクリメント構造の解析等、数値予報システムとしての基本的な評価を行った。結合同化解析場を初期値とする大気単体の数値予報モデル(Tl319L100)による短期予報では、大気単体の解析予報システム(現業システムに相当)による予報に比べ概ね精度は悪化するが(これは解像度や同化と予報でのモデルの違いによるイニシャルショックから妥当)、大気最下層においては精度向上する要素が見られた。
  • 短期解析予報システムとしての性能を評価するため、上記に加え、結合同化からの結合予測と、同一水平解像度での大気単体システムの予測精度の比較のための作業を行っている。
③ 結合同化システムによる再解析の実施とその評価
  • 2013年11月から2015年12月までの再解析を行い、海洋については現業全球海洋同化システムによる再解析データ、大気についてはJRA-55と比較したところ、概ね同程度の精度が有り、JRA-55に見られる熱帯海洋上の過大な降水や潜熱の過大バイアスの解消など改善も見られることがわかった。
(3)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)

なし

(4)成果の他の研究への波及状況

なし

(5)事前評価の結果の研究への反映状況
  • 他のモデル研究課題との連携や本庁各部との協力のもと、着実に研究を進めて欲しい。
    ・海洋同化システムは課題A4、大気同化システムは課題A3、大気海洋結合モデルは課題C2とそれぞれ連携している。
    ・平成27年度に気象研から気候情報課に異動した安田エルニーニョ情報管理官を気候研究部第二研究室に併任し、本課題で用いる新季節予報モデルを気象研スパコンに移植していただいた。
    ・全球数値予報実験システム(NAPEX)の気象研スパコンへの移植の際に数値予報課の助言を得た。
  • 本計画では、1か月予報のインパクト調査を予定しているが、むしろ、3~6か月予報、あるいはエルニーニョ予報でのインパクトが期待できる可能性がある。
    ・まずは初期値改善の効果が大きいと考えられる1か月予報のインパクト試験に取り組むこととしている(平成29年度以降)。
  • 具体的な手法や、成果がどの程度得られるか等の見通しは、同化技術が確立していない現段階では判断できないが、研究を進める中で明確にしていくことが大切である。
    ・結合同化システムを構築する過程で行った検討により、大気と海洋で同化窓の異なる弱結合同化システムに固まった。平成28年度までの成果を元に本研究期間での成果の見通しを付ける予定である。
  • また、弱結合による同化の1か月程度の季節予報への効果(初期ショックの緩和)を目標とすることは適切であり、これについても、できるだけより早期にその成果の見通しを示せることが大切である。
    ・初期的な再解析により、JRA-55に見られる熱帯海洋上の過大な降水等の改善が確認された。引き続き詳細な解析を行うとともに、アンサンブルメンバを作成するスキームを開発し、1か月予報のインパクト試験に取り組む。
  • なお、将来的な業務貢献としては、季節予報だけでなく台風予報への応用等にも留意し研究を進めて欲しい。
    ・台風予報への応用等のため、大気高解像度予報実験を計画している。平成28年度までに実施した初期的な短期予報実験により、大気最下層での精度向上が確認された。今後、台風予報へのインパクトの解析も行う。

2.今後の研究の進め方

① Perturbed Observation (観測擾乱)法を用いて結合同化システムによりアンサンブルメンバを作成するスキームを開発する。

② 短期解析予報システムとしての性能を評価するため、結合同化からの短期結合予測実験を継続する。

③ 1か月予報での結合同化システムの有用性を評価するため、結合同化からの1か月予測実験を行う。

④ 非結合の同化解析結果と比較し、結合データ同化システムで作成した再解析データの精度について検証する。

3.自己点検

(1)到達目標に対する進捗度

気象研究所システム更新にともなうアーキテクチャの変更や本庁結合モデル現業化の遅れなどの影響により結合同化システムの移植及び構築作業が遅れたものの、平成28年度前半までにシステムの構築を終え、これを用いて、解析インクリメント構造の解析等を実施した。引き続き短期解析予報システムとしての性能評価の準備を進めるとともに、2013年11月から2015年12月までの再解析を行いその結果を解析した。これらのことから到達目標に向け着実に進捗している。

(2)研究手法の妥当性

関係各研究部のメンバの経験、知見、および研究開発能力を融合し、かつ他のモデル研究課題と連携するとともに、本庁各部との協力を得ながら効率的にシステム開発が進められており、研究手法は妥当である。

(3)成果の施策への活用・学術的意義

本課題は一般研究であることから今期中期計画においてフィジビリティを示すことを目指している。課題のなかで結合同化技術開発における課題を明らかにしその解決策を模索する過程を通じてノウハウが蓄積される。また、具体的な成果物として結合同化のプロトタイプ的なシステムが出来上がる。これらは、現業結合同化システムの本格的な構築という次のステップへの基盤となる。次期中期計画では本研究を発展させ、結合同化システムの開発を継続するとともに、結合再解析の作成、結合モデル・結合同化システムによる週間・1か月予報、同システムによる数値天気予報への利用等の研究に取り組みたい。

(4)総合評価

外部要因による予期せぬ困難などがあり、結合同化システムの構築に時間がかかったものの、構築したシステムを元に一定期間の再解析を実施して評価を開始し、成果が得られつつあることから、本研究を引き続き実施する意義は大変大きい。

4.参考資料

4.1 研究成果リスト
(1)査読論文 :6件

1. Shi, L., Y. Fujii. T. Toyoda, et al., 2015: An assessment of upper ocean salinity content from the Ocean Reanalyses Inter-Comparison Project (ORA-IP). Climate Dynamics. (in press)

2. Palmer, M. D., Y. Fujii, T. Toyoda, et al., 2015: Ocean heat content variability and change in an ensemble of ocean reanalyses. Climate Dynamics. (in press)

3. Storto, A, Y. Fujii, T. Toyoda, M. Kamachi, T. Kuragano, et al. , 2015: Steric sea level variability (1993–2010) in an ensemble of ocean reanalyses and objective analyses. Climate Dynamics. (in press)

4. Toyoda, T., Y. Fujii, T. Kuragano, N. Kosugi, D. Sasano, M. Kamachi, et al., 2015: Interannual decadal variability of wintertime mixed layer depths in the North Pacific detected by an ensemble of ocean syntheses. Climate Dynamics. (in press)

5. Toyoda, T., Y. Fujii, T. Kuragano, M. Kamachi, et al., 2015: Intercomparison and validation of the mixed layer depth fields of global ocean syntheses. Climate Dynamics. (in press)

6. Balmaseda, M. A., T. Toyoda, Y. Fujii, T. Kuragano, M. Kamachi, et al., 2015: The Ocean Reanalyses Intercomparison Project (ORAIP). Journal of Operational Oceanography, 8(S1), 80-97.

(2)査読論文以外の著作物(翻訳、著書、解説):1件

1. 豊田隆寛, 藤井陽介, 倉賀野連, 小杉如央, 笹野大輔, 蒲地政文, 石川洋一, 増田周平, 佐藤佳奈子, 淡路敏之, 2016: 北太平洋冬季混合層深の経年から十年規模変動. 月刊海洋, 48, 177-185.

(3)学会等発表
ア.口頭発表

・国際的な会議・学会等:6件

1. Fujii, Y., T. Ishibashi, T. Iriguchi, T. Yasuda, N. Saito, Y. Takaya, and Y. Takeuchi, Development of a Coupled Atmosphere-Ocean Data Assimilation System in JMA/MRI, Internal Workshop on Coupled Data Assimilation, 2016年10月, フランス, トゥールーズ

2. Fujii, Y, M. Kamachi, Y. Takaya, T. Yasuda, T. Ishibashi, T. Nakaegawa, and Y. Takeuchi, Coupled Model Simulation Constrained by Ocean Data Assimilation (DA) and the Plan of Developing a Coupled Data Assimilation System in JMA/MRI, 2016年7月, 韓国気象局気象科学研究所セミナー, 韓国, 済州島

3. Balmaseda, M., T. Toyoda, M. valdivieso, A. Storto, G. Smith, M. palmer, F. Helnandez, L. Shi, K. haines, T. Lee, Y. Fujii, K. Wilmer-Becker, M. Chevallier, A. Karsperk, and N. Cantabiano, CLIVAR GSOP/GODAE Ocean View Ocean Reanalysis Inter-comparison ORA-IP, 6th Annual Meeting of GODAE OceanView Science Team, 2015年11月, オーストラリア, シドニー

4. Balmaseda, M., T. Toyoda, Y. Fujii et al., CLIVAR GSOP/GODAE Ocean View Ocean Reanalysis Inter-comparison ORA-IP, Workshop on energy flow through the climate system, 2015年9月, イギリス, エクセター

5. Valdivieso, M., Y. Fujii, T. Toyoda, et al. , Surface fluxes and transports from Global Ocean Reanalyses, Workshop on energy flow through the climate system, 2015年9月, イギリス, エクセター

6. Fujii, Y., M. Kamachi, Y. Takaya, T. Yasuda, T. Ishibashi, T. Nakaegawa, and Y. Takeuchi, Coupled model simulation constrained by ocean data assimilation and the plan of developing a couled data assimilation system in JMA/MRI, CAS-TWAS-WMO Forum Coupled Data Assimilation Symposium, 2015年7月, 中国, 北京


・国内の会議・学会等:3件

1. 石橋俊之, 藤井陽介, 安田珠幾, 齊藤直彬, 竹内義明, 大気海洋結合同化システムの開発, 日本気象学会2016年度春季大会, 2016年5月, 東京都

2. 石橋俊之, 観測誤差共分散構造の診断とその利用, 日本気象学会2016年度春季大会, 2016年5月, 東京都

3. 石橋俊之, 観測誤差共分散構造の診断とその利用(2), 日本気象学会2016年度秋季大会, 2016年10月, 名古屋

イ.ポスター発表

・国際的な会議・学会等:2件

1. 藤井陽介, 石橋俊之, 安田珠幾, 齊藤直彬, 竹内義明, Development of a Coupled Atmosphere-Ocean Model in JMA/MRI, JpGU meeting 2016, 2016年5月, 千葉県千葉市

2. Toyoda, T., Y. Fujii, T. Kuragano, N. Kosugi, D. Sasano, M. Kamachi, et al., Interannual-decadal variability of wintertime mixed layer depths in the North Pacific detected by an ensemble of ocean syntheses, Ocean Sciences Meeting 2016, 2016年2月, アメリカ, ニューオーリンズ


・国内の会議・学会等:2件

1. 藤井陽介, 石橋俊之, 安田珠幾, 齋藤直彬, 竹内義明, 気象研究所における大気・海洋結合同化システムの開発, 日本海洋学会2016年度春季大会, 2016年3月, 東京都文京区

2. 豊田隆寛, 藤井陽介, 倉賀野連, 蒲地政文, 増田周平, 石川洋一, 淡路敏之, 北太平洋冬季混合層深の経年から十年規模変動についての全球海洋再解析アンサンブルを用いた解析, 日本海洋学会秋季大会, 2015年9月, 愛媛県松山市



All Rights Reserved, Copyright © 2003, Meteorological Research Institute, Japan