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気象研究所研究開発課題評価報告

海洋モデルの高度化に関する研究

事前評価

評価年月日:平成25年12月24日

研究期間

平成26年度~平成30年度

研究代表者

山中 吾郎(海洋・地球化学研究部 第1研究室長)

事前評価の総合所見

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1.研究の目的

気象庁の基盤モデルの一つである海洋モデルの開発・改良、及び海洋モデルを用いた海洋変動機構の解明に関する研究を行い、海洋環境情報の高度化に貢献するとともに次世代海況予測システムの基盤技術を確立する。

2.研究の背景・意義

(社会的背景・必要性)

四方を海で囲まれた我が国において、海洋と我々の生活は深く関わっている。また、海洋は気候の形成に大きな役割を果たしており、地球環境や気候の変動を考える上でも海洋は極めて重要な存在である。

平成25年4月に閣議決定された「海洋基本計画」では、海洋のもつ役割の重要性に鑑み、海洋に関する施策の方向性として、科学的知見の充実や海洋に関する理解の増進が記述されている。

(学術的背景・意義)

近年の地球温暖化や気候変動に伴う海洋内部の熱や物質の時空間的な変動の実態については、基本的な観測データが不足していることに加え、現行の海洋モデルでは極域の再現性に課題があるため、そのメカニズムが十分解明されていない。また、気候変動に伴う外洋域の変動が、沿岸域にどのような影響を及ぼすかを評価するためには、沿岸域の様々なプロセスを適切に表現する必要がある。これらについて、先端的な海洋モデリング技術を用いて現象解明に取り組むことは、海洋学や気候学の発展に大きく寄与する。

(気象業務での意義)

気象庁では、観測データに基づく海洋の長期変動について、「海洋の健康診断表」として情報提供を行っている。このような海洋環境情報を高度化するためには、海洋モデルを用いて海洋の長期変動メカニズムを理解し、その活用法の考案を深めることが必要である。また、港湾共鳴など沿岸域の詳細なプロセスを表現できる先端的海洋モデリング技術に関する知見の蓄積は、次世代の海況予報システムのための基盤技術となる。

3.研究の目標

  • ① 海洋モデルの各種物理スキームやネスティング手法、海洋物質循環過程を高度化することにより、モデルの各プロセスの再現性能の向上を図る。
  • ② 海洋モデルを用いた過去再現実験を行い、再現性評価を通じて必要な改良点を明らかにする。
  • ③ 過去の海洋変動の実態や特徴をモデル実験などによって明らかにし、その要因解明を行う。

4.研究計画・方法

海洋モデルの物理スキームを改良し、極域を含むモデルの再現性を向上させるとともに、海洋物質循環過程を高度化することにより、海洋内部の炭素分布の再現性を向上させる。また、浅海域の再現性を向上し、多段階ネスティングや複数領域のネスティングを可能にすることにより、海盆スケールの気候変動から港湾スケールの沿岸防災までをシームレスに扱える先端的海洋モデルを開発する。

全球海洋モデルや日本近海モデルを用いた過去再現実験を行う。モデル実験結果を観測データと比較することによりモデルの再現性を評価し、必要な改良点を明らかにする。

全球海洋モデルの長期間の過去再現実験結果を解析することにより、気候変動に伴う海洋内部の熱や物質の時空間変動の実態解明を行う。また、日本近海モデルを用いて、潮汐混合過程や沿岸の物質輸送過程を含む日本近海の海洋環境変動の機構を解明する。

5.特筆事項

(波及効果)
  • 気象庁における海洋監視・解析体制の強化を行う際に協力を行える。とくに、気象庁で実施される海洋観測結果を解析する際に、本課題のモデル結果が有力な補助資料として活用されることが期待される。
  • 気象庁における全球規模の海況変動の予測精度向上に貢献できる。
  • 本課題で開発した海洋モデルは、気象庁の基盤モデルの一つとして、所内関連研究課題「A4.沿岸海況予測」、「C1.地球システムモデル」、「C2.季節予報」、「C3.海洋物質循環観測」、「c6.大気海洋結合データ同化」で幅広く用いられる。
  • モデル貸与や共同研究の枠組みを通じて、日本の海洋モデリングコミュニティの活性化に貢献できる。
(特記事項)
  • モデルコードの開発に加えて、モデルの実行準備、実行環境、解析・分析を一体的に取り扱うことの可能なソフトウェアを整備し、検証や分析体制を充実させることにより、モデルの開発効率を向上させる。これは、モデル技術開発部会開発管理調整グループの活動の一環として実施する。


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