気象研究所研究開発課題評価報告
大気海洋結合データ同化システムの開発に関する研究
事前評価
研究期間
平成26年度~平成30年度
研究代表者
中村誠臣(研究調整官)
事前評価の総合所見
1.研究の目的
大気と海洋の物理的バランスのとれた初期値作成を可能とする大気海洋結合データ同化システムを開発し、将来の季節予報やエルニーニョ予報、再解析、台風予報等の精度向上に貢献する。
2.研究の背景・意義
(社会的背景・必要性)
平成24年2月交通政策審議会気象分科会「気候変動や異常気象に対応するための気候情報とその利活用のあり方について」において、大気海洋結合モデルの改良を含む「季節予報などの予測精度向上の技術開発の推進」が提言されている。
(学術的背景・意義)
天気予報のための数値予報モデルでは通常考慮されていない大気海洋相互作用は、より長い時間スケールで様々な気象現象を再現する上で重要であり無視できない。大気海洋結合モデルを利用し、さらに大気海洋結合同化により初期値を作成することで得られる、気象・気候現象の再現性や予測可能性の向上に関する知見は、学術的にも意義がある。
(気象業務での意義)
現季節予報システム(大気海洋結合モデル)では、全球大気モデルと海洋モデルの単独同化システムによる初期値を利用しているため、初期場の大気と海洋は物理的にバランスしたものとなっておらず、積分初期にショックが発生したりその後の時間発展に悪い影響を及ぼして予報精度にも影響する。これを改善するためには大気海洋結合同化が必要である。世界のいくつかのセンターでは結合同化システムの開発に取り組み、すでに現業化しているところもある。結合同化システムの開発に着手しその有効性に関して詳細な知見を得ておくことは、世界から遅れることなく現業予報システムを発展させていく上で重要である。大気海洋結合同化システムの開発は、平成25年度「地球環境・海洋部と気象研究所との研究懇談会」においても気象研究所への要望事項として上げられている。台風や熱帯季節内変動などの予報においても大気海洋相互作用の効果は大きいことから、より短期間の予報でも大気海洋結合モデルを使い、結合同化により初期値を作ることでこれらの現象の予報精度の向上にも寄与できる可能性がある。
3.研究の目標
大気海洋結合データ同化システムを開発し、以下を図る。
- 熱帯擾乱の再現性と予測性向上
- 熱帯季節内変動の再現性・予測性向上
- 大気海洋結合系現象(ENSOなど)の時間発展の予測性向上
- 熱帯降水量気候値の再現性向上
4.研究計画・方法
当研究課題では現実的な大気海洋相互作用が反映された、物理的にバランスした初期ショックの小さい大気海洋初期値を作成する技術の開発を行う。具体的には、以下のような内容について研究を実施する。
- ① 大気海洋結合データ同化システムを開発する。
- ② 結合系の力学を考慮したアンサンブルメンバー作成手法を開発する。
- ③ 開発したシステムを使って過去の再現実験を行う。
- ④ 実験結果を解析し、結合同化によらない初期値からの予報結果と比較・検証する。
- ⑤ 結合同化における、特に海面付近の衛星データに注目したインパクト実験を行いその効果を調べる。
- ⑥ 海面水温を与えた大気モデルによる現1か月予報の結果と比較することにより、大気海洋結合モデルと結合同化とによる1か月予報期間でのインパクトを調べる。
研究の実施にあたっては、密接に関連する他研究課題C2「季節予報の高度化と異常気象の要因の解明に関する研究」やc7「海洋モデルの高度化に関する研究」、A3「台風の進路予報・強度解析の精度向上に資する研究」と連携を図りながら進める。
5.特筆事項
(特記事項)
結合同化技術開発における課題を明らかにしその解決策を模索する過程を通じてノウハウが蓄積される。また、具体的な成果物として結合同化のプロトタイプ的なシステムが出来上がる。これらは、現業結合同化システムの本格的な構築という次のステップへの基盤となる。