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気象研究所研究開発課題評価報告

放射収支の監視システムの高度化と気候変動要因解明に関する研究

事前評価

評価年月日:平成25年12月24日
  • 副課題1 気候変動(放射収支)・大気環境監視のための観測システムの構築
  • 副課題2 観測データから放射収支へ影響を与えている要素の評価と変動特性の解明

研究期間

平成26年度~平成30年度

研究代表者

気候研究部 第三研究室長

事前評価の総合所見

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1.研究の目的

気候変動を決定づける大気放射収支の変動とその主要因となる雲・エーロゾルの監視技術の高度化と気候変動への影響解明を目的とする。

2.研究の背景・意義

地球温暖化が顕在化するなか、気候変動の監視と実態把握、気候変動予測の不確実さの軽減が望まれている。「地球観測の推進戦略」(平成16年12月27日、総合科学技術会議)において、推進すべき項目として地球温暖化分野の中のアジア・オセアニア域の包括的な観測で雲・エーロゾルに係わる観測を実施することが述べられている。また、「平成26年度における我が国における地球観測の実施方針」(平成25年7月29日、文部科学省)においても、気候変動メカニズム解明のために放射過程、雲物理・降水過程の解明の必要性が述べられており、衛星等の観測に加えて精密な地上観測の実施が必須である。また、その中で地球観測連携拠点(温暖化分野)の検討を踏まえ、放射収支メカニズム等の解明を進めるために、放射観測の標準化、検定基準の確立の必要性が述べられている。

気候モデルにおける温暖化予測を不確実にしている最大の要因の一つは、放射収支が正確に再現できていないことによる。このため、放射収支に影響を与えるエーロゾルが日射を直接反射・吸収する効果(直接効果)及び雲・氷晶核として働き雲の特性を変え間接的に放射収支に影響を与える効果(間接効果)の実態を監視し、正確に評価できるようにすることが切望されている。

気象庁は現業官署と言うこともあり、地球環境監視業務を長期間継続して実施可能である。気象庁では、地表面放射収支の変化を監視する精密日射放射観測を2010年3月より開始したが、気候変動をひき起こす変化は10年間で1~2W/m2程度と非常に小さく、全日射量の監視だけでは大気要素(エーロゾルや雲)により変動する地表面日射量の変化を捉えることは難しい。大気要素毎の影響は異なる波長分布として現れるため、分光観測と大気要素の同時観測を実施していく必要がある。そのための基盤となる測器の開発、校正技術の確立、解析手法の開発を行う必要がある。また、現状では、放射収支を精度よく再現できている化学輸送モデル、気候モデルはなく、これらの改良のためにも放射及びそれに影響を与える大気要素の精密な観測は検証や同化で使うためのデータとして意義がある。

3.研究の目標

日射・放射のエネルギーとスペクトルデータの観測技術の開発、及び、雲・エーロゾルの推定技術の開発を行い、大気放射場の変動とその要因を監視することを可能にする。そして、大気放射場変動の要因を明らかにする。

(副課題1)放射収支・大気環境監視のための観測システムの構築

大気放射収支とその変動要因を監視するために
 ①日射・放射観測の高度化と連続観測システムの構築
 ②雲・エーロゾルの推定技術の高度化
を実施する。

(副課題2)放射収支へ影響を与えている要素の評価と変動特性の解明

サブ課題1で開発された観測システムで得られたデータを元に、大気放射場の季節~年々変動とその要因を解明する。

4.研究計画・方法

(副課題1)放射収支・大気環境監視のための観測システムの構築

より詳細な大気放射収支を観測するための分光日射計を開発し、気候学的に特徴のある地点で連続観測を行う。そして、既存測器を合わせた観測システムにより、雲・エーロゾルを推定するための技術開発を行う。

①日射・放射観測の高度化

  • 直達・散乱光の近赤外域を含んだ分光日射計の開発、校正法の開発。
  • スカイラジオメーターや光学特性測定装置等の既存測器の改良。
  • 開発・改良した観測機器を用いて、気候学的に特徴ある地点で連続観測を行う。(本庁環境管理官付けで実施している気候変動監視のための精密日射放射観測との連携を視野に入れる。)
  • マイクロ波放射計、ミリ波レーダー、ライダーによる観測を他研究部の協力を得て行う。

②雲、エーロゾル等の推定技術の高度化

  • 開発した分光日射計や改良した既存機器によって得られるデータを用いてエーロゾル・雲の特性(光学特性、量、組成等)を推定する技術の高度化を行う。
  • 高度化には、3次元放射伝達コードの利用、非球形粒子の散乱特性の導入、カメラ画像の利用手法の開発を行う。複数の測器の観測データの複合利用を図る。
  • 上記推定技術の高度化のために、基盤となる放射過程に関連した技術開発(より現実的な粒子に対する一次散乱量の計算手法の開発、より現実的な大気場に対応した放射伝達計算コードの開発)を行う。
(副課題2)放射収支へ影響を与えている要素の評価と変動特性の解明
  • 副課題1で得られる観測データと推定結果を元に、雲・エーロゾルの観測点毎の違いや季節~年々変動の実態を明らかにする。
  • 放射強制力(大気放射場への影響)の変動に対する雲・エーロゾルの役割を明らかにする。
  • スカイラジオメーターとライダーの複合解析によって、エーロゾルの鉛直分布の時空間変動を調べ、放射場への影響とそれを介した気象場への影響についても調べていく。

5.特筆事項

(波及効果)
  • 環境気象管理官で行っている精密日射放射観測データの解析手法の提供
  • 環境気象管理官で行っているエーロゾル観測の装置の校正法、データ解析法の提供
  • 高層気象台で行っている日射観測へ校正法の提供
  • 気象業務で行われている気候変動や大気環境の監視システムを高度化、補完する。
  • 気候変動の監視、黄砂現象や越境大気汚染の大気環境の監視に貢献できる。
  • 観測データは、エーロゾル輸送モデル検証、衛星検証として利用可能である。
  • 気候モデル、エーロゾル輸送モデルの放射計算で使うエーロゾル光学パラメーターが改善され、エーロゾルの直接効果の見積もり精度が向上し、気候モデル、温暖化予測モデルの改善につながる。
  • スカイラジオメーターからエーロゾルの組成を推定する手法を提供し、エーロゾルの輸送モデルの検証に役立てる。
(特記事項)
  • 既存の国内外の観測網(SKYNETなど)の標準化、高精度化に貢献できる。
  • スカイラジオメーターとライダーの複合解析法をSKYNET/AD-Netに提供し、プロダクトの高度化につなげる。
  • 太陽光発電の基準を作るための分光観測の校正技術の開発、大気成分の影響評価にデータが使われる。
  • 放射の精密測定データは、植生分野、健康影響、都市工学分野などで要望が強く、本課題で開発する技術は、これらの分野でも利用可能である。
  • スカイラジオメータとライダーの複合解析法を応用して、EarthCAREの新規衛星プロダクトに貢献する。また、地上観測のスカイラジオメーターとライダーの複合解析結果は、EarthCAREプロダクトの検証に用いる。


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