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気象研究所研究開発課題評価報告

季節予報の高度化と異常気象の要因解明に関する研究

事前評価

評価年月日:平成25年11月14日
  • 副課題1 季節予測システムの改良と性能評価に関する研究
  • 副課題2 異常気象の要因解明と予測可能性の研究

事前評価の総合所見

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1.研究の目的

季節予報システムの改良と異常気象の要因解明を行い、現業季節予報の精度向上と適切な利用に貢献する。

2.研究の背景・意義

(社会的背景・必要性)

平成24年2月の交通政策審議会気象分科会「気候変動や異常気象に対応するための気候情報とその利活用のあり方について」において、「季節予報などの予測精度向上の技術開発の推進」や「気候データベースとその利用環境の拡充」が提言された。

(学術的背景・意義)

大気海洋結合モデルは季節予報のためだけでなく、気候システムの変動メカニズムの解明にも欠かせないものであり、大気海洋結合モデルのバイアスの軽減やその初期値作成手法の高度化は重要な研究課題である。季節予報の時間スケールの予測可能性の研究は季節予報システムの改良に貢献する課題であるが、最近では海面水温や陸面状態だけでなく成層圏にも季節予報のシグナルがあることが指摘されている。

異常気象の要因解明については、特に地球温暖化に伴う異常気象の発生頻度の変化を定量化することが最近注目されている。一方、高精度な長期再解析プロダクトの整備に対して、国内外の大学・研究機関からの要望は引き続き高い。

(気象業務での意義)

現業季節予報システムの開発・改良による季節予報の精度向上は、本庁地球環境・海洋部からの強い要望事項である。特に、海洋変動に対する大気応答、エルニーニョ予報、インド洋の海洋変動、テレコネクションパターン、海氷・陸面などの境界条件の予測精度の向上が求められている。

また、社会・経済に大きな影響を及ぼす異常気象の要因解明と適時な情報発表に対する社会の期待が高いことから、気象庁が発信する異常気象に関する情報を高度化していく必要がある。現業季節予報や気候システム監視のための基盤データである長期再解析プロダクトなどを拡充する必要性も高い。

3.研究の目標

①全球大気海洋結合モデルおよび大気海洋初期値の改良と性能評価を通じて、将来(平成31年度以降)の現業季節予報システムを開発する。

②異常気象の実態とその予測可能性をデータ解析やモデル実験などによって明らかにし,異常気象の要因解明を行うとともに異常気象予測を改善する。

③異常気象の要因解明や予測精度評価に必要な、再解析プロダクトなどの基盤データを整備する。

4.研究計画・方法

季節予測システムの改良と異常気象の要因解明を連携させることによって、効果的に研究を進める。なお、大気海洋結合データ同化の開発については、一般研究C6「大気海洋結合データ同化システムの開発に関する研究」で実施する。

副課題1

①高分解能(60km100層)大気モデルや新たな海洋データ同化手法(全球4次元変分法・海氷同化)を採用した現業季節予測システムを構築し、さらに大気物理過程や陸面初期値作成法の改良および海洋モデルの高分解能化の性能試験を実施する。これにより、冬季日本海側の降雪、夏季東アジアの降雨帯や熱帯低気圧などの再現性ならびに、多様なエルニーニョ-南方振動(ENSO)の特徴や北極海氷分布・陸面土壌水分の年々変動の再現性を向上させることによって、季節予測シグナルの精度向上を図る。

②現業季節予測実験データを解析することにより、モデル気候値の精度を確認するとともに、エルニーニョ-南方振動(ENSO)に伴う熱帯の降水量・海面水温変動の特徴や北極域海氷分布・地表面過程・熱帯低気圧の発生頻度についての年々変動の再現性および季節予測性能の評価を行い、現業季節予報システムの適切な利用と必要な改良点を明らかにする。

③高分解能モデルの試験や新たな海洋・海氷・陸面初期値の開発(①)は、平成26年度から課題期間を通して継続的に実施する。これに加えて、前半の平成26~28年度は、平成26年度導入の現業季節予報システムの実験データ解析により、システムの性能評価(②)を行う。後半の平成28~30年度は、モデル開発・初期値作成法の開発成果を季節予報システムとして構築し、平成31年度の現業化を目指して調整する。

副課題2

①異常気象の発生・変動メカニズムを観測データ、再解析プロダクトやモデル実験により調べ、またその予測可能性を明らかにすることにより、季節予測システムの高度化に資する。また、本庁における異常気象に関する情報発表の支援資料作成に資する。これらは科学的知見の積み重ねであり、研究期間を通して随時行う。

②気候変動に伴う異常気象の発生頻度の変化を定量化するため、長期間の観測データから異常気象の発生頻度の変化を評価する。また、C1において実施された気候変動実験から海面水温などの変化を見積もり、温暖化環境下における異常気象の発生頻度と仮想的な非温暖化環境下での異常気象発生頻度の差を評価するアンサンブル実験を行う。第2年度までに実験システムの構築を行い、第3年度から実験を実施する。

③異常気象の要因解明や予測精度評価に必要な基盤データを整備するため、第3年度までに次世代再解析システムの構築および入力データの整備を行う。第4年度以降に再解析実験を行う。

④社会的に影響の大きな異常気象が発現した場合には、関連するデータを収集・解析し、その実態と要因の解明を速やかに行う。

5.研究体制

  • 研究代表者:露木 義(気候研究部 部長)
  • 担当研究者数:  28人
    • 副課題1 尾瀬智昭(気候研究部) 担当研究者数:12人
    • 副課題2 釜堀弘隆(気候研究部) 担当研究者数:13人
  • 研究協力者数:5人
  • 研究期間:平成26年度~平成30年度

6.特筆事項

(効率性)

①現業に対応した季節予報システムの開発を進めるため、本庁現業担当部署である地球環境・海洋部の季節予報システム開発担当者を併任研究者とした共同開発体制を構築する。

②地球システムモデル開発者など問題を共通とする研究者を開発体制に加えることにより開発成果や実験結果の共有化を進めて、効率的な研究体制を構築する。

(有効性)

①H31年度から現業化予定の気象庁の次々期季節予報システムの開発により、以下の成果が期待される。

  • 高分解能(60km100層)大気モデルを利用した季節予報システムにより、冬季日本海側の降雪、夏季東アジアの降雨帯や熱帯低気圧などの再現性が高くなり、これらに関する予報精度が向上する。
  • 新たな海洋データ同化手法(4次元変分法・海氷データ同化)によって作成された季節予報初期値により、ENSOの多様性や北極海氷分布の予測可能性が向上する。
  • 大気物理過程や陸面初期値作成法の改良および海洋モデルの高分解能化により、季節予報システムの基盤的な性能が向上する。

②H26年度から現業化予定の次期季節予報システムの精度や利用可能性に関する知見を提供することによって、気候リスク管理のための季節予報の適切な利用の拡大に貢献できる。

③異常気象の要因に関する理解が進むことにより、気象庁が発信する異常気象に関する情報の高度化に資するとともに、より的確な防災計画を作る上での基礎資料を提供できる。

④異常気象の予測可能性研究を通じて、週間~1か月~季節の数値予報出力を利用した異常気象の予報手法や数値予報システムの改善について提言できる。

⑤気候監視に利用できる基盤データの整備が進み、現業季節予報や気候変動監視の高度化および気候研究のより一層の推進に貢献できる。

(波及効果)

① 大気海洋結合モデルによる1か月予報の可能性についても知見が得られる。

② 長期的な地球環境変化が異常気象に与える影響の理解が進み、重点研究C1「気候モデルの高度化と気候・環境の長期変動に関する研究」にも貢献できる。

(特記事項)

なし



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