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気象研究所研究開発課題評価報告

気候モデルの高度化と気候・環境の長期変動に関する研究

事前評価

評価年月日:平成25年11月14日
  • 副課題1 地球システムモデルの高度化による気候・環境変動予測の高精度化
  • 副課題2 地域気候モデルによる気候変動予測に関する研究

事前評価の総合所見

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1.研究の目的

地球温暖化による全球および地域レベルの気候・環境変化に関する情報の作成と適応策の策定に貢献する。

2.研究の背景・意義

(社会的背景・必要性)

将来のさらなる温暖化がほぼ不可避となりつつある状況において、我が国においても記録的な大雨の増加、台風の強大化、異常高温(猛暑日、熱帯夜の増加など)などの気候変動による深刻な影響が懸念され、適応策の策定が急務となっている。平成24年4月に閣議決定された環境基本計画において、地球温暖化に対する我が国の「適応計画」を平成26年度末までに策定し、その後も最新の知見を元に5年ごとの見直しが進められることとなっている。適応策策定の観点からは、気候変動予測の不確実性の低減が大きな課題である。一方、限られた資源の下で適切に適応策をとるために、不確実性の幅を表す確率的情報を付すなどした一層高度な予測情報も求められている。また、地域レベルでの適応策の策定といった観点からは国内における地域的にきめ細かい温暖化予測情報が要望されるようになっている。

(学術的背景・意義)

最新の全球気候モデルは気候再現性が向上し、炭素循環やエーロゾル、オゾン等の物質循環と気候の相互作用も表現できる地球システムモデルへと拡張されている。また、20世紀以降の観測された地上気温の大陸規模のパターンや全球平均の数十年にわたるトレンドをかなりの信頼度で再現できるようになっている。しかし、気候変動の影響評価にとって重要な地域的な降水分布や降水強度など、小規模の現象が重要性を持つ要素については未だ十分な精度とはいえない。また、エーロゾルと雲の相互作用など非常に複雑な過程は相当に簡略化されており、気候変動予測における不確実性の大きな要因となっている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の次期(第6次)評価報告書(AR6)に向けて、精度および信頼性をさらに高め不確実性の低減を目指した、新たな気候変動予測の計画(第6期結合モデル相互比較プロジェクト:CMIP6)が2013年8月のWCRP/WGCMによるアスペン会議において方向付けられた。CMIP6においては、季節から十年規模へのシームレスな予測が一つの焦点となると予想される。地球システムモデルをより高度化し、シームレス化を目指して短期・季節予測での予測精度も評価・向上させることで高精度な気候・環境変化予測を可能にすることは、CMIP6に貢献するとともに季節予測の精度改善にも貢献する。また、高度化した地球システムモデルを使用した様々な実験をプロセス研究等と融合させることにより、気候変動メカニズムのより正確かつ詳細な理解につながる。 地域レベルでの温暖化予測研究においても、不確実性をできるだけ減らすとともに、不確実性の幅を示すことが求められているが、地域特性を表現できる高分解能なモデルによるアンサンブル実験、それに基づく不確実性の評価はこれまでほとんど行われていない。日本の各地に存在するだし風、おろし風等は産業や人体への健康に大きな影響を及ぶすため、これまで、高解像度のモデルでそのような現象の再現実験が行われ、その成因などが多くの研究がこれまでなされてきたが、このような地域固有の現象が温暖化時にどのように変化するかについて研究が行われたことはない。これらの課題に取り組むことは、研究および気象業務、社会への貢献として意義がある。

(気象業務での意義)

本研究を実施することで、世界トップレベルの高精度な気候変動予測によりCMIP6やIPCC‐AR6に貢献することが可能となり、国際的な役割を果たすとともに我が国のプレゼンスを示すことができる。

本研究の成果は、地球温暖化による影響評価、地球温暖化の緩和策および適応策の検討の推進、地球温暖化に関する科学的知見の普及・啓発などに寄与することを目的に、数年毎に気象庁で公表している、「地球温暖化予測情報」を作成するための基礎的資料として活用される。

3.研究の目標

シームレス化を目指して気候再現性とともに短期・季節の予測精度に優れた高精度の地球システムモデルを開発し、数年から数十年、さらに長期の気候・環境変動を対象とする予測を行う。プロセスレベルの解析や古気候実験、各種感度実験を実施し、気候変動およびそれに関連する気候と物質循環の相互作用に関わるプロセスやメカニズムを解明する。

地域気候モデルを高精度化・高分解能化し、地球温暖化に伴う21世紀の気候変化予測を詳細に行う。より信頼度の高い予測データを得るための手法を開発するとともに、データの活用に必要な信頼性情報を開発し提供する。また、異常気象をもたらすような地域的な気候現象の予測可能性を調べる。

得られた成果により「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」報告や気象庁温暖化業務に寄与する。

4.研究計画・方法

(副課題1)

① 放射、積雲対流、雲物理、雪氷物理、陸面・植生などの大気大循環モデルの各物理過程を改良・高度化する。これに最新の成果を取り入れた構成モデル(大気化学・エーロゾルモデル、海洋大循環モデル)を統合して地球システムモデルを構築し、長期積分および観測データを同化した初期値を用いた短期〜季節のハインドキャストによる検証をもとに最適化する。

②  開発した地球システムモデルを用いて、産業革命以降の気候変化の再現実験および排出シナリオに基づく長期予測実験を行う。また、観測データを同化した初期値をもとに、20世紀後半のハインドキャスト実験、および21世紀前半の十年〜数十年先の予測実験を行う。

③ 以下の手法により、気候変動および気候と物質循環の相互作用に関するプロセスやメカニズムの解明を行う。

(ア)プロセスレベル解析に基づくボトムアップアプローチ

・雪氷圏における温度変化や光吸収性エーロゾル沈着効果が雪氷の融解やアルベドに与える効果について解析

・雲衛星シミュレータの出力と雲衛星観測データの比較などをもとに雲微物理過程と大規模場の相互作用について解析

(イ)②のモデル実験の統計解析に基づくトップダウンアプローチ

(ウ)古気候実験や各種感度実験による気候変動メカニズムの研究

④ 全球非静力学フレームに基づき、温暖化予測の不確実性低減を目指した次世代気候モデルの開発を行う。

(副課題2)

① 地域気候モデルのこれまでの計算結果から、現在気候の再現性の問題点についてその原因を探って改善する。更に、より詳細なデータを影響評価の研究者に提供するため、モデルの高分解能化を行う。物理過程の性能はモデルの分解能に依存することから、高分解能モデルによる現在気候の再現性の評価を行い問題が確認された物理過程について改善を図る。また、都市モデルを組み込むことによって、現在気候の再現性を向上させる。

② 地域気候モデルを、複数の全球結合モデルによるSSTを使って計算された気象研究所全球大気モデルの結果にネストし、21 世紀末を対象とする温暖化による将来変化を予測する(外部資金活用)。なお、IPCC AR6 への貢献を目指し、今後の国際的動向に対応した必要な実験を行う。

③ 地域気候モデルのデータは誤差を含むことから、温暖化予測の結果をより精度の高い予測情報とするためのバイアス補正手法の開発を行う。また、温暖化対策を検討する際に不可欠な予測データの信頼性の評価技術を開発し、実用的な信頼性情報の提供を行う。更に、データの温暖化予測業務への適用可能性を調べる。

④ 日本には、おろし、だし、フェーンなど様々な地域的な現象が存在し、交通障害や人体、家畜などの健康に重大な害をもたらす危険性がある。高分解能化した地域気候モデルを使って将来予測実験を実施し、それらの現象の強度や頻度が将来どのように変化するのか、予測可能性を調べる。

5.研究体制

  • 研究代表者:中村誠臣( 研究調整官 )
  • 担当研究者数:  28人
    • 副課題1 行本誠史(気候研究部) 担当研究者数:20人
    • 副課題2 佐々木秀孝(環境・応用気象研究部) 担当研究者数:8人
  • 研究期間:平成26年度~平成30年度

6.特筆事項

(効率性)
  • 気象研究所の地球システムモデルのコンポーネントである化学輸送モデルやエアロゾルモデル、海洋モデルについては、それらに関する最新の成果を取り入れて研究が進められるよう、それぞれ、重点研究「地球環境監視・診断・予測技術高度化に関する研究」、一般研究「海洋モデルの高度化に関する研究」の関係メンバーを担当研究者に加える。また、近年進展の著しい極域を中心とする雪氷物理過程については、一般研究「雪氷物理過程の観測とモデル化による雪氷圏変動メカニズムの解明」のメンバーを担当研究者に加えて研究を進める。外部資金等による研究連携により、予測結果のモデル間相互比較や統合カップラーの開発などを行い、国内研究機関とモデルに関する技術と情報の共有を図りながら研究を進める。
  • 地域気候モデルによる温暖化予測研究においては、本研究での成果の主要な出口である本庁気候情報課の関係者をメンバーとして加えて技術および情報の交換を密に行い、スケジュールと研究内容、手法等について摺合せを行いながら進める。また、地域レベルの温暖化による将来変化の解析・評価については、地方共同研究の枠組みを通じて地方気象官署の協力も得ながら進める。
(有効性)

本研究で得られた予測結果や解析結果は、CMIP6やIPCCのAR6、気象庁温暖化関連業務(温暖化予測情報等)にインプットすることにより、また、影響評価グループへのデータ提供を通じて、地球温暖化による全球および地域レベルでの気候・環境変化に関する情報の創成・普及、それを受けた国および地域レベルでの適応策の検討に貢献する。

(波及効果)
  • 地球システムモデルでの開発の成果は、「季節予報の高度化と異常気象の要因に関する研究」でのモデル開発と共有するとともに、短期・中期予報での性能も確認し、現業全球大気モデルの精度向上への貢献としても活用する。
  • 地域気候モデルでの開発成果は、「メソスケール気象予測の改善と防災気象情報の高度化に関する研究」でのモデル開発と共有する。
  • 開発された地域気候モデルは他のプロジェクトや開発途上国における温暖化予測においても利用される。
  • 予測データは影響評価の研究者に提供し影響評価に利用される。
(特記事項)

なし



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