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気象研究所研究開発課題評価報告

大規模噴火時の火山現象の即時把握及び予測技術の高度化に関する研究

事前評価

評価年月日:平成25年9月25日
  • 副課題1 リモートセンシング等に基づく噴火現象の即時把握に関する研究
  • 副課題2 数値モデルに基づく火山灰等の拡散予測の高度化に関する研究

事前評価の総合所見

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1.研究の目的

大規模噴火に対処可能な「噴石に関する情報」、「量的降灰予報」、「航空路火山灰情報」の高度化のため。

2.研究の背景・意義

(社会的背景・必要性)

環太平洋造山帯に位置し、110 の活火山を有する我が国では、古来幾度となく大規模な火山災害に見舞われており、その歴史を振り返れば、今後再び大規模な火山災害が発生することは避けられない。

大規模な火山噴火に伴う噴煙や風の影響を受けて降下する小さな噴石(火山礫)、火山灰(降灰)は広範囲におよぶ災害をもたらす。例えば2010年に発生したアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル火山の噴火では、大規模な噴煙が風によってヨーロッパ大陸にまで流され多くの空港が長期間にわたって閉鎖された。また、1707年に発生した富士山宝永噴火を想定して試行したシミュレーションした結果でも冬季には、東京を含む関東の広い範囲が降灰域になることが推定されており、航空機ばかりではなく自動車についても視界不良や運転時のスリップなどによる道路交通の麻痺が予想されるなど、交通や電力等インフラへの影響による社会的混乱が懸念され、すみやかに除灰などの対策が取れない場合の経済的被害は計り知れない。

平成25年3月に気象庁から出された「降灰予報の高度化に向けた提言」では、「降灰予測技術」の「当面実施すべきことに関する提言」として「気象レーダーを利用し、目視による噴煙高度の観測ができない場合でも降灰予報を発表する」ことが求められている。さらに平成25年5月に内閣府から出された「大規模火山災害対策への提言」では「大規模な降灰対策」について知見の不足や対処方法の未整理が指摘され、「国及び大学等の監視観測・調査研究機関は、的確な予警報の発表や適切な防災対応のために、大規模な降灰の発生、拡散を早い段階で予知・予測する手法や、降雨時においても降灰状況を把握することができるレーダー解析の手法等の調査研究・技術開発に努めるべきである」と提言されている。

2011年、東北地方太平洋沖地震(M9.0)が発生したことによって日本列島の地震・火山活動は活動期に入ったと言われており、衆議院災害対策特別委員会決議(平成23年12月8日)では、「平成二十三年東北地方太平洋沖地震を境に、今後、火山活動が活発化する可能性も否定できない」との認識が示されている。これは、過去の東北地方太平洋沖地震に相当するとされる貞観地震(869年)のほぼ同時期に歴史記録に残る富士山最大の噴火である貞観噴火(864年、青木ケ原溶岩流の流出)が発生したことや、富士山が最後に噴火した1707年の宝永噴火は宝永地震(M8.6)の49日後に発生したことから認識されており、東海・東南海・南海地震の発生が懸念されている現在、大規模火山噴火に対する備えはすみやかに取り組む必要のある課題である。

(学術的背景・意義)

大規模噴火の際には、降灰量の状況を正確かつ即時的に把握予測し、推定された降灰の影響範囲や程度に応じてすみやかに対応をとり、被害を最小限に抑えることが重要である。

火山灰や風に流される火山礫の降下範囲の予測には、火山灰の移流拡散モデルが用いられている。気象庁が降灰予報で運用している移流拡散モデルでは、予測のための初期値として噴煙高度が用いられている。現状の噴煙高度は、遠望カメラなどを用いた目視観測によって得られているが、火山の山頂部周辺に雲がかかっている場合(頻繁にある)や規模の大きな噴煙の場合は、目視観測では噴煙高度等が把握できず、正確な予測が困難になっている。また、噴煙の高度や量を観測する手段として気象レーダーの有効性が注目されており、2011年霧島山(新燃岳)噴火では噴煙の範囲や高度、およびそれらの時間変化を捉えることができた。しかし、現在のレーダー観測技術では、噴煙と雨雲の判別、噴煙中の火山灰・礫の総量や分布の即時的な把握などは困難である。

噴煙を観測する手段としてレーダー観測を活用して、大規模火山噴火時に正確な降灰量分布の予測や、正確な降下火山礫範囲の予測をするためには、これらの技術的課題の解決に向けて研究開発する必要がある。

さらに、現用の移流拡散モデルにおいては、初期値となる噴煙柱は噴煙高度と継続時間のみが可変なパラメータとして与えられており、強風で噴煙柱が流される場合や、大規模噴火時に想定される傘型噴煙が形成される場合に対応できていない。これらの研究開発にも合わせて取り組む必要がある。

(気象業務での意義)

現在、気象庁では降灰の範囲のみを予報する降灰予報を実施している。しかし、現在の降灰予報は、目視観測による噴煙高度に依存しているため、火山の山頂部周辺に雲がかかっている場合、大規模噴火など噴煙高度が高くなる場合には、噴煙高度の観測ができないため、正確な降灰予報が困難となる。目視観測を補う噴煙の観測手法の確立が急務である。

また、平成24年度に気象庁で開かれた「降灰予報の高度化に向けた検討会」での検討結果をふまえて、近い将来には、降灰量を予報できるよう改善に取組む計画である。さらに航空路火山灰情報については、現在は火山灰が浮遊する範囲のみの情報であるが、合わせて火山灰の濃度に関する情報を提供しようという動きがある。これらに対応するためには、予測を行う移流拡散モデル、さらにはその初期値となる噴煙柱モデルの高度化が必要である。

3.研究の目標

噴火現象の即時的な把握技術の開発、大気中の火山灰等の高精度な予測技術の開発を行い、観測値と予測値に基づく火山噴出物データ同化・予測システムを構築し高精度な火山灰等の拡散予測を行う。

(副課題1)

気象レーダー、震動観測等を活用した噴火現象の即時的な把握技術の開発。

(副課題2)

噴煙柱及び移流拡散モデルを活用した火山灰等の高精度な予測技術の開発。

副課題1の観測値と副課題2の予測値に基づく火山噴出物データ同化・予測システムを構築し、即時的に把握した噴火現象から高精度な火山灰等の拡散予測を実行して、上記目的を達成することを目標とする。

4.研究計画・方法

火山噴火に伴う現象を即時的に把握し高精度に予測することは、適切な防災対応や情報発表のために極めて重要である。特に大規模噴火時は、噴石が多量に噴出し降灰が広域に及ぶため、その重要性が高い。しかし現在、(1)噴煙(高度や継続時間)の把握が遠望カメラなどを用いた目視観測に依存しており、曇天・雨天時や大規模噴火時に対応できない、(2)これに代わる手段として注目されている気象レーダーでは噴煙と雨雲の判別、噴煙中の火山灰総質量や噴石分布の即時的な把握技術が開発されていない、(3)噴石や降灰の予測の基礎となる噴煙柱及び移流拡散モデルが大規模噴火に対応していない、などの課題がある。

このため、大規模噴火に対しても昼夜全天候下で噴石到達範囲や降灰量分布を即時的に把握し高精度に予測するためには、次世代気象レーダー・衛星なども活用した即時的なモニタリング技術を開発するとともに、降灰量、最大粒径、火山灰濃度等の量的な情報を導入することが検討されている降灰予報や航空路火山灰情報の高度化のために、大規模噴火に伴う非静力学モデルに基づく噴煙柱の形成・発達に関する研究と、その成果を活用した火山灰・礫等の移流拡散モデルに基づく高精度な予測技術の開発が必要である。

(副課題1)

活動的な火山である桜島等を対象として、次世代気象レーダーによる噴煙のエコー強度やマルチパラメータ等を観測し、噴煙状態等を速やかに把握する手法を検討するとともに、観測データを解析することにより、火山灰検出技術の開発や噴出する火山灰・礫の量や挙動を定量的に推定するための研究を行う。また次期気象衛星で観測される火山灰雲のマルチチャンネルデータ等を、噴火検知や噴煙の高さや広がり等の噴火規模の即時的な推定に活用するための研究を行う。また、噴火発生直後の地震、空振、地殻変動及び監視カメラによる爆発映像等からも即時的に噴火規模等を把握する手法を検討するとともに、火山岩塊等、防災上重要な火山現象に対する予測技術の高度化を行う。

(副課題2)

副課題1の気象レーダー・衛星等のリモートセンシング観測データの解析結果に基づき、気象庁非静力学モデル等による噴煙-降灰過程の動力学的側面を明らかにし、噴煙柱モデルの改良に資する知見を得る。改良した噴煙柱モデルを初期値に用いて、気象庁移流拡散モデルによる火山灰・礫の落下範囲や落下量を即時的かつ高精度に予測するための技術研究を行う。そしてこれらモデルを組み合わせて、火山噴出物に対する観測データの解析から予測までを一貫して実行できるデータ同化・予測システムの構築を目指す。

5.研究体制

  • 研究代表者:地震火山研究部 第3研究室長
  • 研究期間:平成26年度~平成30年度

6.特筆事項

(効率性)
  • 観測データについては、気象庁や国土交通省などによる既存の気象レーダーや気象衛星のデータを活用するほか、可搬型のレーダーを活用して火山噴煙を対象とした観測によっても取得する。また、関係機関との連携によって観測データの共有を進める。
  • 研究実施にあたっては予報研究部、気象衛星
  • 観測システム研究部と連携して気象研究所の特徴を充分に活かす。また、火山課の降灰予報担当や航空路火山灰情報センターの職員を当研究課題の併任担当者とすることで効果的な研究推進を図る。
(有効性)

気象レーダーなどによる全天候、大規模噴火に対応した噴火現象、噴煙状態の把握技術を開発すること、移流拡散モデルおよび噴煙柱モデルの改良を行うことで、降灰予報や航空路火山灰情報が高度化される。風に流される小さな噴石の情報や量的降灰予報の提供開始にあたっては、これらの観測予測技術が重要な意味を持つ。

(波及効果)

火山活動の監視技術の高度化

(特記事項)

気象庁移流拡散モデルの高度化は、放射性物質の拡散沈着計算にも貢献する。



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