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気象研究所研究開発課題評価報告

津波の予測手法の高度化に関する研究

事前評価

評価年月日:平成25年9月25日
  • 副課題1 多点観測データ等を用いた津波即時予測手法の高度化に関する研究
  • 副課題2 遠地津波の後続波と減衰特性のモデル化の研究

事前評価の総合所見

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1.研究の目的

津波の面的把握と即時予測の精度向上、および遠地津波の注警報の解除時期の予測に貢献する。

2.研究の背景・意義

(社会的背景・必要性)
  • 2011年東北地方太平洋沖地震が津波による大災害をもたらしたことなどを踏まえ、地震調査研究推進本部は国の地震調査研究の方針を定めた新総合基本施策の見直しを行い、2012年9月6日に「新たな地震調査研究の推進」の改定を行った。その中で、今後重点的に推進すべき調査研究の一つとして「海域の津波観測網やGNSS観測網等の観測データを活用した津波の即時予測技術の高度化」が提言された。また、科学技術・学術審議会測地学分科会において現在取りまとめ中の「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画の推進について」において、「大学及び気象庁は,即時的地震,地殻変動,津波波形情報などにより,地震動や津波などを高速かつ高精度に予測する手法を開発する。」と提言されている。
  • 研究は、これらの提言に沿う内容の研究計画である。
  • 総合科学技術会議が策定する平成26年度科学技術重要施策アクションプランとして本研究を提案中である。
(学術的背景・意義)
  • 海底水圧計が波源域に近い場合、観測データには地震動起源の大振幅の変動成分がノイズとして含まれるが、その性質は十分には明らかにされていない。そのため、地震動由来の変動成分の性質を明らかにし、津波成分のみを抽出するための効率的な手法を開発することは重要である。また、沖合津波観測網の整備に伴い、稠密な観測データが活用可能となるが、それら大量のデータを津波予測に有効に活用するためのデータ同化手法の研究は緒についたばかりで、今後の技術開発が必要である。
  • 遠地津波については、最近、海水密度変化の影響を考慮する手法など、新たな計算手法が提案されてきており、それらの成果を津波の後続波や減衰モデルに取り入れられる可能性がある。
(気象業務での意義)
  • 2011年東北地方太平洋沖地震における津波警報の課題について、気象庁は有識者の意見を基に、「東北地方太平洋沖地震を踏まえた津波警報の改善の方向性について」(気象庁平成23年9月12日)を取りまとめ、その中で沖合津波観測の強化とデータ利用等関連技術の開発を提示した。また、津波警報の継続時間についての見通しを立てることは、防災対応の必要期間の情報を提供するために重要である。これらを踏まえ、本庁地震津波監視課からの要望に沿い、沖合津波観測データを活用した津波即時予測の精度向上、および遠地津波の注警報の解除時期の予測のための研究を行う。

3.研究の目標

(副課題1)多点観測データ等を用いた津波即時予測手法の高度化に関する研究

①稠密な観測データを高度に活用し、津波成分を抽出する手法や現況を面的に把握する手法を開発する。

②波源推定に基づく予測手法の高度化および波源推定に基づかない新たな予測手法の開発を行う。

(副課題2)遠地津波の後続波と減衰特性のモデル化の研究

遠地津波の後続波および減衰特性のモデル化を行い、遠地津波の継続時間の予測を行うことにより津波警報解除の時期の予測手法を開発する。

4.研究計画・方法

(副課題1)多点観測データ等を用いた津波即時予測手法の高度化に関する研究

①津波現況の面的即時把握手法の開発

沖合における多点の水圧観測データから、津波伝播の状況をリアルタイムで高い空間分解能を持って面的に把握する技術を開発する。そのために以下のことを行う。

  • これまでの研究で開発を進めてきた高精度水圧計搭載の自己浮上式海底水圧計による実海域観測で得られるデータや、既存・新設観測網の沖合観測データの解析等に基づき、津波以外の現象に伴う水圧変化の特性を明らかにするとともに、リアルタイムに津波成分のみを抽出するための技術開発を行う。
  • 多点の津波観測データを用い、観測点配置やデータの量および質などを考慮してデータ同化の手法等を用いて即時的に津波の伝播状況を面的に把握する手法を開発する。

②津波即時予測手法の開発・高度化

沖合における大量の津波観測データを津波の即時予測に最大限に活用するため、これまでに開発した手法の高度化や新しい手法の開発を行う。具体的には以下のことを行う。

  • これまでの研究で、沖合で観測された津波波形の逆解析に基づき、津波波源を推定した上で津波の即時予測を行う手法の開発を行い、津波即時予測システムのプロトタイプを制作した。本研究では、これまでに開発したプロトタイプシステムについて、大量の津波観測データに対しても安定して効率よく動作するようにシステムを改良するとともに、GNSSによる地殻変動解析結果等の即時地震像情報を活用するなどにより、より精度の高い津波予測を行えるように予測手法を高度化する。
  • 上記の手法とは異なり、①で開発される手法を用いて得られる津波現況の面的データをもとに、津波の波高分布の時間発展をデータ同化の手法により逐次予測することにより、津波波源を推定しないで津波予測を行う新しい手法を開発し、破壊継続時間の長い地震の場合や複数の地震が同時発生した場合にも精度の高い津波予測が行えるようにすることを目指す。
  • 津波即時予測手法の実効性を検証するためには、大津波の観測事例と比較することが望ましいが、現実には観測事例は少なく、検証データを得ることは困難である。そこで、仮想震源による津波シミュレーションを行い、得られた津波波形を仮想の観測データとして検証に用いることとする。巨大地震は時間をかけて広い震源域で破壊が起きるので、震源が断層面内のどの位置にあるか、時間とともに断層すべりがどのように拡がるかなど、震源過程に多様性がある。本研究では、過去に発生した巨大地震の様々な震源過程を考慮して、いくつかの津波発生モデルを作成し、そのモデルに基づく津波シミュレーションの結果を上記の予測手法の検証に活用する。
(副課題2)遠地津波の後続波と減衰特性のモデル化の研究

津波警報の解除を適切に行うには、津波の第一波の到着、後続波の到着、さらに津波が減衰するまでの一部始終を予測することが重要な課題である。これまでの研究では、過去に観測された遠地津波の減衰特性から津波の減衰過程を予測するための理論的あるいは経験的な手法を構築してきた。本研究では、反射波や散乱波などの遠地津波の後続波を精度よく再現できる計算手法を用い、様々な津波発生シナリオについて数値実験を行うことによって、後続波が第一波よりも大きいあるいは同程度の振幅となる条件を経験的に見出すことを目指す。また、これまでに構築した津波減衰過程の予測手法と組み合わせて、遠地津波の後続波の特性に基づき、津波警報の解除の時期の予測手法を提案する。

5.研究体制

  • 研究代表者:前田憲二 (地震火山研究部 第一研究室長)
  • 研究期間:平成26年度~平成30年度

6.特筆事項

(効率性)
  • 副課題1の①および②と副課題2の合計3つの主要なテーマごとに、中心的に研究を推進する担当研究官を配置するとともに、すべての研究官がいずれのテーマにも参加し、幅広い視野から研究開発ができるようにする。
  • 副課題1の①および②は密接に関連した課題であるので、一連の課題として研究開発を進める。
  • 津波監視に直接関連する副課題1の①や、開発した手法の本庁のシステムへの適合化のための改良などについては、併任職員が協力して研究を進める。
(有効性)
  • 気象庁の現在の津波予報では、M8を超えるような巨大な地震による津波については、定性的な表現で津波警報の第1報を行うこととなっており、定量的な津波予報は津波警報の更新によって行うこととしている。本研究により、定量的な予測に基づくより迅速で適切な津波警報の更新が行えるようになる。
  • また、津波警報の解除の時期について、早い段階で予測できるようになり、防災対応の必要期間などにつての情報を提供できるようになる。
(波及効果)
  • 津波の即時予測精度が向上し、津波警報の更新がより適切に行える。
  • 津波の実況把握が面的に行えるようになる。
  • 津波警報の解除の時期を予測できるようになる。
(特記事項)

2011年東北地方太平洋沖地震による大震災を受け、その課題解決のための施策の一つとして政府は沖合地震津波観測網の整備やその観測データを最大限に活用した防災情報の提供を推進することが重要としている。本研究はその要請に応えるための研究である。



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