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気象研究所研究開発課題評価報告

沿岸海況予測技術の高度化に関する研究

事前評価

評価年月日:平成25年10月21日
  • 副課題1 日本近海の海況変動の予測精度向上に関する研究
  • 副課題2 アジョイント法に関する同化手法の開発とその応用に関する研究

事前評価の総合所見

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1.研究の目的

日本沿岸海況変動の要因解明とその予測可能性に関する研究、およびそれらを踏まえた日本沿岸海況監視予測システムの開発と性能評価に関する研究を行い、沿岸防災・海況情報の適切な利用と精度向上に貢献する。

2.研究の背景・意義

(社会的背景・必要性)

沿岸域には、地球人口の半数以上が集中し、その諸活動の活発化、海岸線・海域の利活用の急拡大に伴い、沿岸陸域の人々にとっても生物・生態系にとっても好ましくない沿岸域環境状況が世界的に現れている。また、気象条件・海洋条件の変動に伴い、災害も頻発している。

平成25年4月に政府は、今後5年間の海洋政策の指針となる「海洋基本計画」を閣議決定した。この計画の施策の方向性の一つとして、海洋立国日本の目指すべき姿(その一つとして)として、「海に守られた国」から「海を守る国」へ、をキーワードにして、海洋において、海洋由来の災害に対する備えを徹底し、災害に強い国となることを目指すことが述べられている。また、国土交通省交通政策審議会気象分科会「気候変動や異常気象に対応するための気候情報とその利活用のあり方について」において、海洋の安全の確保として高潮対策等に取り組む事が提言された。

(学術的背景・意義)

上記のような状況で、沿岸域の実況監視・予測を行う事は、非常に重要であり、日本海洋学会でも沿岸海洋研究会を1962年に発足して、研究活動に力を注いできた。沿岸域では、これまで、海の状況を把握するための現場観測網も不足し、また人工衛星のデータも沿岸付近では誤差が大きく、信頼性が落ちる。そのため、現在でも沿岸海況や沿岸防災に関する現象(たとえば、サブメソスケールの擾乱や外洋と沿岸との相互作用)が未解明であることが指摘されている。近年、日本海洋学会将来構想委員会での将来構想報告書「海洋学の10年展望」で沿岸での海洋学研究が重要課題に取り上げられており、観測とモデルの融合・予測が重要である事が述べられている。

(気象業務での意義)

気象業務法では沿岸での高潮等の予報・警報を行う事が謳われており、それらの情報の高度化・高精度化が必要である。現業で使用する日本沿岸海況監視予測システムの開発・改良を行う事、及びそのシステムによる沿岸防災・海況予報の精度向上は、本庁地球環境・海洋部からの強い要望事項である。特に、台風に対する高潮だけでなく、外洋の海況変動が沿岸に及ぼす異常潮位等の解明・予測が求められている。

3.研究の目標

① 沿岸海況変動を再現する現業用高解像度日本近海海洋モデル(MRI.COM-JPN)の開発を行う。

② ダウンスケーリングするための4DVARを用いた初期値作成技術の開発を行う。

③ 開発されたモデルとデータ同化手法の検証を行い、各種沿岸海況変動の要因解明を行う。

④ 日本沿岸海況監視予測システムを構築し、平成30年度に気象庁での現業利用できるシステムとして完成させる。

4.研究計画・方法

浅海域の再現性向上や多段階のネスティングが可能となる手法や、潮汐混合過程、物質輸送過程を再現するスキームを導入することにより、沿岸海況変動を再現する現業用高解像度日本近海海洋モデル(MRI.COM-JPN)を開発する。

全球から沿岸まで整合性のとれた新しいインクリメンタル・ダウンスケーリング4DVARを開発する。また、従来の海洋観測データに加えて海底津波計やグライダー等の新しい観測データの同化手法を開発する。それらの手法を用いて予測実験用の初期値を作成する。またこの手法による海洋再解析を行う。

上記モデル・同化実験結果により、新しい解析・再解析・予測データを作成し、海況変動の要因を解明する。特に異常潮位・急潮・副振動等の顕著現象の事例解析を行う。

上記モデルと同化手法を組み合わせて、日本沿岸海況監視予測システムを構築し予測実験を行い、海況変動再現性とシステムの性能評価を行う。

5.研究体制

  • 研究代表者:蒲地政文( 海洋・地球化学研究部 )
  • 担当研究者数: 11人
    • 副課題1 サブ代表:山中吾郎(海洋・地球化学研究部) 担当研究者数:5人
    • 副課題2 サブ代表:倉賀野連(海洋・地球化学研究部) 担当研究者数:6人
  • 研究協力者数:  6人
  • 研究期間:平成26年度~平成30年度

6.特筆事項

(効率性)

現業に対応した日本沿岸海況監視予測システムの開発を進めるため、本庁現業担当部署である地球環境・海洋部(海洋気象課日本海海洋気象センター及び海洋気象情報室)の発担当者を併任研究者とした共同開発体制を構築して効率化を図る。

(有効性)

日本沿岸海況変動の事例解析を通じて、変動要因とその予測可能性を解明し、沿岸海況の解説業務に貢献する。

本課題で開発された海洋モデル・同化技術は、平成30年度に気象庁で現業化される日本沿岸海況監視予報システムを構成する。

当システムは、海況変動監視・予測業務に貢献し、社会への情報発信が格段に向上される。

(波及効果)
  • 気象庁における海洋監視・解析体制の強化を行う際に協力を行える。特に、本庁で今後行われる海洋観測結果を解析する際に、本課題の再解析結果が多大な寄与をする。
  • 気象庁における外洋での1か月先の海況予報の精度向上と、予報延長に貢献できる。
  • 異常気象に対する海象の理解と監視・予測システム構築、そのシステムによる沿岸の面的情報作成に資する。
  • 「海洋の健康診断表」の改善・高度化を行える。
  • 本研究成果の再解析・予測データを海洋環境場として用いることにより、水産資源変動予測に資する。
  • 国際的な研究計画JCOMM/GODAE_OceanView, JCOMM/ET-OOFS, JCOMM/TT-MEER, CLIVAR/GSOPと連携した研究課題であるため、それらの計画での活動を通じて国際的なプレゼンスを向上する。
(特記事項)

なし



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