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気象研究所研究開発課題評価報告

台風の進路予報・強度解析の精度向上に資する研究

事前評価

評価年月日:平成25年10月21日
  • 副課題1 全球及び領域解析・予報システムを用いた台風進路予報の精度向上に関する研究
  • 副課題2 台風の強度推定と急発達・構造変化過程の解明及び予測可能性に関する研究

事前評価の総合所見

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1.研究の目的

台風進路予報の改善と台風強度の実況推定及びその予報可能性に焦点を当てた研究を行い、気象庁が実施する台風解析・予報業務の改善に資する。

2.研究の背景・意義

(社会的背景・必要性)

自然災害による被害の中でも台風災害は大きな割合を占めており、その軽減のため、台風に関する防災気象情報の精度向上が求められている。気象研究所は、気象庁業務である台風の進路予報や強度解析の精度向上に資するための研究を行うことにより、社会の要請に応える必要がある。

(学術的背景・意義)

台風進路に関する理論的研究は成熟しつつあるものの、気象庁現業における台風進路予報には改善の余地が残されている。特に熱帯海洋上の現場観測データは非常に少ないことから、大気解析・予報システムにおける気象衛星観測データの利用促進、データ同化手法の高度化と大気物理過程の精緻化は、台風の解析・予報精度を改善する上で重要な研究項目である。

一方で、台風強度に関する研究においては、気象衛星データによる強度推定には誤差が含まれていることが古くから知られている。その改善には台風発達過程を考慮する必要があるものの、特に台風の急発達過程は未解明であり、このことが台風強度推定に加え、強度予報の活路が見出せない原因となっている。台風の構造変化と台風強度変化の関わりや急発達過程における物理過程の果たす役割の解明は、強度推定及び強度予測の精度向上において鍵となる。

(気象業務での意義)

台風進路予報誤差の低減は、気象防災を担う気象庁及び気象研究所が総力を挙げて推進すべき課題である。次世代の全球非静力学モデルに向けた開発が始まっている。領域非静力学モデルを用いて、データ同化システムを構築したり、台風進路予報及び台風の急発達や構造変化の予測可能性に関する知見を蓄積したりすることは、次世代の台風予報の改善のための基盤技術となる。

3.研究の目標

(副課題1)全球解析・予報システムと領域解析・予報システムを用いて、台風進路予報の精度向上に資する研究を行う。

1-a) 雲降水域での衛星データ、特に、次期ひまわりのデータを全球大気データ同化システムへ導入する。初期場の改善により台風進路予報の改善を図る。次世代につながる新しいデータ同化手法の開発に着手する。

1-b) 気候モデルで効果のあった積雲対流スキームを全球モデルに導入する。その他の物理過程についても、気候モデルで効果のあったスキームを導入する。それらにより、台風進路予報の改善を図る。

1-c) 台風進路予報のため、領域非静力データ同化システムを開発する。雲降水域の衛星リモセンデータを領域非静力データ同化システムへ導入する手法を開発する。初期場の改善より台風進路予報の改善を図る。

1-d) 台風進路予報誤差が大きかった事例等について、TIGGEデータや特別観測プロジェクト等のデータを用い、誤差要因とその改善方策に関する知見を得る。

(副課題2)台風の強度・構造変化の予報の改善に必要な、台風強度推定の精度向上、急発達・構造変化過程の解明、及び台風強度等の予測可能性に関する研究を行う。

2-a) 衛星観測データによる既存の台風強度推定法の検証に現業ドップラーレーダーデータを活用すると共に、検証結果を元に推定手法を改良し、その精度向上を図る。

2-b) 台風の急発達・構造変化過程について、観測データ解析及び数値シミュレーションを用いてプロセスを解明するとともに、モデルパラメータ設定や物理過程の影響を調べることにより、強度予報の精度向上に資する知見を得る。

2-c) 日本に大きな影響を与えた台風事例について、観測データ解析・数値シミュレーションにより強雨・強風構造のメカニズム解明を行う。

4.研究計画・方法

(副課題1)

1-a) ア) 雲降水域での赤外ハイパーサウンダ輝度温度データを同化する鉛直1次元変分法(1DVAR)を改良する。また、台風周辺域の赤外ハイパーサウンダデータの効率的利用のため、同化手法を高度化する。これらを、全球大気データ同化システムに導入し、台風進路予報の精度向上を図る。

イ) 次期ひまわり等の赤外放射計データを同化するため、放射計算モデルや1DVARなどの開発に着手する。

ウ) 将来的な現業全球大気データ同化システムに貢献するため、4DVARとアンサンブルのハイブリッド法研究に着手する。

エ) 物理過程改善や新規観測データ導入のインパクト評価に利用するため、アジョイントコードが不要な全球モデル用アンサンブルカルマンスムーザーを開発する。

オ) 全球大気データ同化システムの診断のため、アジョイントコードを用いた観測データのインパクト評価等を実施する。並行して、観測システムシミュレーション実験(OSSE)手法を開発する。

1-b) ア) C1課題で開発された積雲対流スキームを、現業全球モデルに組み込み、台風進路予報の精度向上を図る。

イ) C1課題で開発された他の物理過程のうち、効果があると考えられるものを全球モデルに組み込み、台風進路予報の精度向上を図る。

1-c) ア) 北西太平洋域等で領域非静力モデルとアンサンブルを用いた変分同化スキームから成る領域解析・予報システムを開発する。

イ) 衛星搭載の赤外・マイクロ波センサー、雲降水レーダー反射強度の同化のため、領域非静力モデル出力からの前方計算法を開発する。

ウ) それらを用いて衛星リモセンデータによる台風周辺の情報を領域非静力データ同化システムに導入し、台風進路予報の精度向上を図る。

1-d) ア) 台風進路予報誤差が大きかった事例等について、全球予報・解析システム、領域予報・解析システム及びTIGGEデータを用いて台風の構造を比較するとともに、特別観測プロジェクト(T-PARC, YOTC)などによる観測データを用いて比較検証することにより、進路誤差の要因と改善方策に関する知見を得る。

(副課題2)

2-a) ア) 衛星データを用いた既存の台風強度推定法について、発達ステージや海域等によって分類して検証を行う。陸地に接近した台風については、現業ドップラーレーダーデータ等の観測データを用いて検証を行う。

イ) 検証結果及び2-bの成果を用いて推定手法を改良する。

2-b) ア) 大きな台風強度推定誤差をもたらすことが多い急発達・構造変化した事例を中心に、衛星データ(ラピッドスキャン等)や現業ドップラーレーダーなどの観測データ、それらを非静力学モデルに同化した大気解析場や非静力学モデル等による数値シミュレーションを併せた解析を行い、その変化プロセスを解明する。

イ) 非静力学大気海洋結合モデルを用いて、初期値・解像度・物理過程等を変えた感度実験を行い、台風の急発達・構造変化過程に影響する要因を抽出して、台風強度等の予測可能性に関する知見を得る。

2-c) ア) 我が国に大きな影響を与えた台風事例について、2-a,2-bで得られた知見を活用し、観測データ・客観解析データ・数値予報プロダクトを用いて構造の特徴を解析するとともに、数値シミュレーションを行い、強雨・強風の構造と発現メカニズムを解明する。原因が特定できた場合は、気象研究所ホームページ等を通じて速やかに公開する。

5.研究体制

  • 研究代表者:山田 眞吾( 台風研究部 部長 )
  • 担当研究者数: 16名
    • 副課題1 サブ代表:青梨和正(台風研究部)担当研究者数:9名
    • 副課題2 サブ代表:北畠尚子(台風研究部)担当研究者数:6名
  • 研究協力者数:  0名
  • 研究期間:平成26年度~平成30年度

6.特筆事項

(効率性)
  • 本研究課題で利用する衛星データの入手・利用については、A2-3課題の衛星観測データ担当者と情報共有する。地球観測衛星データの入手や利用については、宇宙航空研究開発機構(JAXA)等との共同研究の成果を活用する。
  • 1-a)で利用する全球大気データ同化実験システムは、現業システムと整合性があり、研究成果を現業システムへ移植することが容易である。
  • 1-b)では、C1課題(地球システムモデルの開発)で検証された物理過程を利用する。予報検証実験には1-a)の全球大気データ同化実験システムを用いる。
  • 1-c)の領域非静力学データ同化システムの開発は、A1-2課題と連携して行う。2-b)で用いる非静力学データ同化は、A1-2課題の成果を活用する。
  • 2-c)で解析する台風に伴う災害のうち、局地的な豪雨や竜巻等突風などの現象については、A2-1課題と分担・協力して行う
(有効性)

現業的に得られる衛星・レーダー・地上観測データ等を利用し、現業システムと整合性のあるデータ同化システムで実験・評価を行うことは、研究成果の現業的利用が容易であること、気象研究所にしかできないことであるという点で、有効かつ効率的である。

(波及効果)
  • 雲・降水域を含む広域での赤外、マイクロ波データ等の同化の研究結果は、現業数値予報の全球的な精度の向上に資する。
  • 領域非静力学モデルをベースとしたデータ同化システムの開発成果は、気象庁の次世代全球非静力学モデルにおけるデータ同化手法の開発に活用できる。
  • 衛星・レーダー・地上観測データ等の利用を拡充し、客観的な台風強度解析手法を高度化することは、アジア・太平洋諸国の防災・減災を任務とする「アジア太平洋気象防災センター」の活動に貢献する。
  • 非静力学大気波浪結合モデルを用いて、台風の急発達や構造変化に関する数値シミュレーションを行い、各種観測データと比較検証することは、現業数値予報システムによる海況予測の精度向上に資する。
  • 我が国に大きな災害をもたらした台風事例について、強雨・強風の構造の実態と科学的解釈を示すことは、国や地方自治体における防災対策の立案に対して、有効な情報となる。
(特記事項)

本研究課題で得られた成果は、ESCAP/WMO台風委員会の北西太平洋台風アンサンブル予報プロジェクト(NWP-TCEFP)やWMOの顕著現象に関する地域予報実証プロジェクト(SWFDP)等を通じて、国際貢献に役立つ。



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