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気象研究所研究開発課題評価報告

地殻変動観測による火山活動監視評価と噴火シナリオの高度化に関する研究

中間評価

評価年月日:平成25年9月25日

研究代表者

山本哲也(地震火山研究部)

研究期間

平成23年度~平成27年度

  • 副課題名1 活動的火山の地殻変動モデリングに関する研究
  • 副課題名2 噴火シナリオに関する研究

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研究の動機・背景

(研究開発の背景)

気象庁では、火山監視・情報センターにおいて火山観測を実施し、個々の火山活動を評価するとともに、防災情報を発表している。平成19年12月からは、噴火予報及び警報の発表を開始するとともに、火山への防災対応をより円滑に進めるために、噴火シナリオに基づいた「噴火警戒レベル」を導入し、現在26※の火山について同レベルを発表しており、今後対象火山を増やしていく予定である。また、マグマの上昇や蓄積過程を圧力源モデルとして検出できる地殻変動観測は、火山監視に有効な手法のひとつであることから、火山監視・情報センターにおける火山監視業務においても、GPSによる地殻変動監視を取り入れている。さらに、火山噴火予知連絡会が災害軽減のために監視を強化すべき火山として選定した47火山についても、ボアホール型地震計・傾斜計等を中心とした観測点の整備・強化を行い、さらなる地殻変動監視機能の強化を進めている。

一方、気象研究所では、これまで「火山活動評価手法の開発研究」(平成13~17年度)、「マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究」(平成18~22年度)の2つの特別研究を実施し、地殻変動観測に基づく火山活動評価手法の研究開発を進めてきた。この中で、GPS観測、全磁力観測のデータによる火山地域の地殻変動を説明できる圧力源の推定、火山用地殻活動解析支援ソフトウェア(MaGCAP-V)の開発、伊豆大島におけるマグマ蓄積過程における地殻変動の把握、合成開口レーダー(SAR)の干渉画像解析による地殻変動解析などの成果をあげ、火山監視・情報センター等で活用されている。(※平成25年9月現在30火山)

(研究の必要性、緊急性)

これまでの研究で、伊豆大島や浅間山では火山活動に伴う地殻変動の原因をとらえつつあるが、噴火準備過程の全容解明には至っていない。また、この他の連続監視対象火山においては、観測体制の充実に伴って高品質のデータが得られ、気象庁によって噴火警戒レベルが順次導入される予定であるが、近年の噴火等の異常現象の経験がない火山が多数存在する。このため、これらの火山においても地殻変動の量的評価等によって火山活動を定量的に評価する手法の開発が必要である。

(当所での実施理由)

気象庁が国の行政機関として火山活動に関わる信頼できる情報を一元的に広く提供する責務を果たすため、その施設等機関である気象研究所において火山監視・評価にかかわる研究を強く推進する必要がある。

また、気象研究所は有限要素法による火山地殻変動研究を行っている我が国で唯一の研究機関であり、それにより現実に近い地形や構造を与えた場合の地殻変動計算手法を開発して既存手法の問題点を明らかにする等、国際的にも例のない稠密な観測網による火山地殻変動研究を行っている我が国において重要な知見を数多く見出しており、火山監視・評価業務の高度化を可能とする十分な技術的基盤を有している。

研究の成果の到達目標

(全体の到達目標)

全国の主な火山を対象に、地殻変動のモデル化によりマグマ等の蓄積状態を把握する。そして、地殻変動による火山監視手法及び定量的な評価手法を開発し、地殻変動データの時間的推移も含めたシナリオを作成する等、既存の噴火シナリオの高度化を行う。

(副課題ごとの到達目標)

副課題1.活動的火山の地殻変動モデリングに関する研究

伊豆大島については、次のような観測・研究により、マグマ蓄積・移動の検出と地殻変動源モデルの高精度化を図り、マグマ供給系の詳細を解明する。

  • 既に強化したGPS、光波測距観測等の稠密地殻変動観測網による圧力源の推定を行い、長期的な地殻変動をもたらす圧力源の位置
  • 膨張量のより詳細な推定を行う。
  • 高分解能の歪及び傾斜観測データを用いて、膨張期
  • 収縮期の圧力源の位置、特に深さの時間変化を検出する。
  • GPSによる地殻の上下変動観測データと精密重力観測データを合わせ、マグマ上昇に伴う地下の質量変化を検出する。

伊豆大島以外の火山についても、既存の観測網データの活用や干渉SARによる地殻変動解析によって地殻変動源の位置や膨張量の推定を行う。

副課題2.噴火シナリオに関する研究

内外の活動的火山における地球物理学的な観測研究等の整理結果をもとに、異常未経験火山も含め、噴火シナリオの定量化を図る。そのうえで、現在の観測網の検知力の検証や監視評価手法等の開発を行う。

そのうち、特に、地殻変動に関しては、火山活動が活発化していくなかで想定される地殻変動を計算してシナリオの定量化を行うとともに、地殻変動データから圧力源の時空間変化をリアルタイムで監視・評価する手法を開発する。

1.研究の現状

(1)進捗状況

伊豆大島、霧島山などを対象火山として地殻変動データから地下の圧力源をモデル化することでマグマ等の蓄積状態の推定を行った。伊豆大島については、体積ひずみ計の1980年代からのデータを再解析し、1年程度の短期的な収縮・膨張の振幅が1986年噴火時には大きかったことを明らかにし、この地殻変動が火山監視における新たな着目点もしくは定量的な活動評価手法となりうることを示した。噴火にむけて発生するこのような現象について記述を加えることで既存の噴火シナリオの高度化を行う(H25年度見込)。

(副課題名1)活動的火山の地殻変動モデリングに関する研究

伊豆大島の観測・研究として、本計画の重点的な観測項目と位置づけられるボアホール式多成分ひずみ計による観測を伊豆大島南西部おいて開始した。現在順調にデータ蓄積をしており、今後、高感度・高分解能の地殻変動観測からマグマ供給系の詳細の解明、ひいては火山監視への活用が期待できる。

また、GPS、光波測距による稠密地殻変動観測を引き続き実施し、火山体の長期的膨張や短期的な収縮・膨張イベントについて、球状圧力源を仮定してその位置、膨張量の詳細な推定を行った。その結果、長期的な変動では南北方向よりも東西方向の膨張が卓越する傾向があることが明らかになった。球状圧力源のみでは、観測されている地殻変動が説明しきれないことから、ダイクを組み合わせて地殻変動源モデルの検討を行った。また、山頂部で観測された隆起量が球状圧力源から期待されるものよりも小さいため、有限要素法を用いて縦長の回転楕円体型の圧力源についての検討を行った。観測された地殻変動をより詳細に説明できる圧力源モデルを構築することと、それによって推定されるマグマ供給系の解明を進めることは引き続き取り組むべき課題となっている。

高分解能なひずみ、傾斜変化を用いた地殻変動解析については、既存の体積ひずみ計について周期3年以下の変動の抽出を行い、GPSなどで観測されている短期的な収縮・膨張イベントが捉えられていることを示し、体積ひずみ計のデータがこの周期帯の現象監視に活用できることを明らかにした。ひずみや傾斜を用いた各短期的イベントについての圧力源の位置や深さの推定を今後進める(H25年度見込)。

マグマ上昇に伴う地下の質量変化の検出を目指して、繰り返し重力観測を各年1回ずつ実施しており、観測データの蓄積を進めた。

伊豆大島以外の火山では、GPS観測データを用いて、霧島山について地殻変動源の解析を行い、浅間山では静穏期の地殻変動を明らかにした。また、衛星SARのデータを用いて、霧島山や伊豆大島をはじめ全国の活火山、アフリカのニヤムラギラ火山、アイスランドのエイヤフィヤトル火山についてSAR干渉解析を行い、地殻変動源の位置や膨張量の推定を行った。

(副課題名2)噴火シナリオに関する研究

活動的火山における地球物理学的な観測研究等の整理を、伊豆大島を対象として行い、特に体積ひずみ計のデータを1980年代まで遡って再解析した。その結果、1年程度の短期的な収縮・膨張イベントが1986年噴火の時期にも発生していたこと、その振幅が1990年代には小さかったがその後次第に大きくなったこと、近年観測されている振幅よりも1986年噴火時の振幅はさらに大きかったことを明らかにした。これは、このような地殻変動が火山監視の新たな着目点もしくは定量的な活動評価手法となりうることを示している。また、振幅に着目することで噴火シナリオにおける地殻変動の定量化に活用できる。

ひずみ観測の検知力の検証を進めるために、伊豆大島の1986年噴火時の体積ひずみのデータとマグマの噴出量の関係を評価する(H25年度見込)。

地殻変動データから圧力源の時空間変化をリアルタイムで監視・評価する手法の開発として、従来から開発を進めてきた火山用地殻活動解析支援ソフトウェア(MaGCAP-V)の機能強化を行い、リアルタイム監視に有効と考えられるひずみの解析機能を付加した。また、これを活用して噴火シナリオの定量化を進めるために、火山活動が活発化していく中で想定される地殻変動の計算として、ひずみの時空間変化の推定を行う(H25年度見込)。

異常未経験火山に対して既存の噴火シナリオをいかに活用するかについては、新たに課題が明らかになった。2011年霧島山新燃岳噴火の際には、1年ほど前から地殻変動観測によってマグマが蓄積していることは捉えられていたものの、直前に噴火が迫っていることを示すような観測データが地殻変動観測も含めて得られなかった。これは、有珠山や伊豆東部火山群のように噴火に先行した地殻変動が明瞭に生じる火山とは異なった噴火シナリオを想定する必要のあることを示している。このような差異は火道が開放的か閉鎖的かに依存すると推測される。類型的な火山ごとに地殻変動の推移を想定する必要のあることが強く認識された。

(2)これまで得られた成果の概要

伊豆大島で行っているGPSや光波測距、体積ひずみ計データを中心とした観測結果から、全島的な地殻変動を詳細に捉え、長期的な膨張及び短期的な収縮・膨張イベントについて変動源の推定を行った。また、霧島山や樽前山においてもGPSや傾斜計などの地殻変動データから、各々変動源について詳細な考察を行った。浅間山山頂部におけるGPS繰り返し観測により、非活動期における変動として、2011年以降の火口を収縮源とする山体変動を明らかにした。

干渉SARによる地殻変動解析では、霧島山新燃岳をはじめ、アフリカのニヤムラギラ火山やアイスランドのエイヤフィヤトル火山で火山活動に伴う地殻変動を明らかにし変動源の推定を行った。

伊豆大島の体積ひずみ計の1980年代からのデータを再解析することで、1年程度の短期的な収縮・膨張の振幅が1986年噴火時には大きかったことを明らかにし、噴火シナリオの定量化に活用しうることを示した。

火山用地殻活動解析支援ソフトウェアについて、ひずみ計データの解析機能を付加し、圧力源の時空間変化の監視に向けた手法の整備を行った。

(副課題名1)活動的火山の地殻変動モデリングに関する研究

伊豆大島では、詳細な地殻変動解析により、全島的な長期的膨張と1~2年程度の周期の短期的な収縮・膨張が重畳していることが分かり、短期的な収縮・膨張に伴うひずみ分布はカルデラ北部を中心としたほぼ等方的なパターンを示していること、その体積変化量は106m3オーダーであるが、積算すると収縮・膨張の繰り返しでほぼ相殺されていることなど、地殻変動源の詳細が明らかになってきた。また、既存の体積ひずみ計のデータを再解析し収縮・膨張の傾向を検討したところ、2~3年の周期帯までGPS観測による変動と良く整合していることが分かった。これは、体積ひずみ計のデータがこの周期帯の現象監視に活用できることを示すと同時に、新たに開始した多成分ひずみ計のデータを用いてこれから進めるマグマ活動評価研究でも重要な意味を持っている。また、副課題2の伊豆大島の噴火シナリオ作成のためにも新たな知見となった。

一方、噴火や貫入現象を伴わず繰り返している収縮及び膨張変動を、マグマだまりからの脱ガスによるものと仮定した場合、地殻変動から推定された体積変化が、すべて二酸化炭素によるものと仮定すると1010mol、106トンオーダーと見積もられた。これらの試算は今後の短期的収縮・膨張の物理化学過程の考察の基点となる。

さらに、山頂部で観測された隆起量が球状圧力源から期待されるものよりも小さいことは、地形・地下構造を考慮した軸対象の有限要素モデルに基づく地殻変動解析により、縦長の回転楕円体形状の変動源を仮定すると説明できることが分かった。今後伊豆大島火山のマグマ供給系を詳細に推定する上で重要である。

山頂の三原山における局所的な沈降・収縮は全島的な変動によらず継続していることが分かった。これらの収縮及び膨張変動について、カルデラ内の光波測距観測網(機械点2点、反射点16点)だけを茂木モデルに適用して推定したところ、カルデラ北部の海水準下2km程度と従来よりも浅い位置に圧力源が推定できることがわかった。これは、多種目の地殻変動観測を組み合わせた火山体の圧力源推定に向けた成果である。

伊豆大島以外の火山について行った解析として、霧島山では、新燃岳において過去に実施されたGPS繰り返しデータの解析により、山頂部の地殻変動が深部マグマだまりの蓄積に先行していたことを明らかにした。また、将来の地形・不均質構造を取り入れた地殻変動源推定のために、重力データから地下の密度基盤深度分布を推定した。密度基盤の深度が四万十累層群の露出する南に向かって浅くなることを明らかにし、2005年から2007年中頃にかけての新燃岳直下の変動源は浅部表層内に、2009年12月からのマグマ蓄積による変動源は基盤内に位置することを明らかにした。

浅間山山頂部におけるGPS繰り返し観測では、2011年以降火口を収縮源とする山体変動があることを明らかにした。これは非活動期における地殻変動として噴火シナリオの一部ともなりうる。

樽前山では、有限要素法を用い圧力源が山頂直下の極めて浅いところにある場合の山体の地殻変動について検討した。通常は、圧力源が収縮した場合、予想される地殻変動は沈降と山頂下がりの傾斜変化であるが、このケースでは山腹から山麓かけてそれとは逆に隆起や山頂上がりの傾斜変化がみられる領域があることを明らかにした。これは、2009年10月に樽前山の北山腹で火山性微動と同時に観測された山頂上がりの傾斜変動が、圧力源の減圧によって定性的に解釈できることを示している。

干渉SARによる地殻変動解析では、霧島山、伊豆大島のほか、ニヤムラギラ火山(コンゴ民主共和国)やエイヤフィヤトル火山(アイスランド)などにおいて、火山活動に伴う地殻変動を検出し、球状圧力源やダイクを仮定した変動源の位置や膨張量の推定を行った。また、SAR強度画像解析や干渉ペアの相関画像解析により、噴火活動に伴う溶岩の蓄積による時間変化や溶岩流の痕跡など地表面の変化を検出した。これらにより、火山の監視や活動評価においてSAR衛星による地殻変動観測が極めて有効であること示した。

(副課題名2)噴火シナリオに関する研究

伊豆大島の体積ひずみ計のデータを1980年代まで遡って再解析した結果、1年程度の短期的な収縮・膨張イベントが1986年噴火の時期にも発生していたこと、その振幅が1990年代には小さかったがその後次第に大きくなったこと、近年観測されている振幅よりも1986年噴火時の振幅はさらに大きかったことを明らかにした。これは、短期的な収縮・膨張イベントが定量的な活動評価手法となりうること、噴火シナリオの定量化に活用しうることを示している。

伊豆大島について1986年山頂噴火の溶岩噴出量及び1987年ドレインバックに伴う溶岩後退量と体積ひずみ変化量との比を調べたところ、ともに溶岩質量1×107ton当たり約-1×10-6strainの変化をしていることが分かった。これは、ひずみ変化量が噴出量(後退量)を反映していることを示唆している。伊豆大島では、少なくとも過去100年以上にわたり山頂火口からの噴火を繰り返していることから、今後も山頂噴火が十分想定される活動であり、得られた成果は将来の噴火時の火山活動監視とマグマ噴出量把握のための視点を与えるものである。

火山用地殻活動解析支援ソフトウェア(MaGCAP-V)の機能強化として、ひずみデータに関する解析及び表示機能の組み込みを行い、体積ひずみ計と多成分ひずみ計のデータ解析を可能にした。これにより、気象庁の地震予知分野で導入されている一般的な主ひずみ等のデータ処理に加え、ひずみデータを用いた火山の地殻変動モデルの解析にも活用可能となった。また、既存のSAR干渉解析結果の解析機能と動的モデル推定機能の改良も行った。これらにより、地殻データによる圧力源の時空間変化の監視に向けた手法の整備が進んだ。

(3)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)
  • SARのデータを利用する計画であった衛星「だいち」が機能を停止し、運用が2011年5月で終了した。以後、新しいデータが得られなくなったことから、予定を変更して過去のアーカイブデータを利用した研究を行った。
  • 火山の地下の圧力源モデルの推定においては全国の活動的火山を対象としているが、研究期間中に顕著な活動をした火山が特になかったことから、伊豆大島や霧島山新燃岳等の圧力源モデルについての研究を行った。

2.今後の研究の進め方

伊豆大島の地殻変動解析については、地殻変動をもたらした変動源の深さが従来よりも浅く推定されたが、この差異が有意であるかどうかについては、用いた観測点の違いによる影響、水平成分のみを用いた影響について評価していく必要がある。

伊豆大島について、今後、噴火準備期及び噴火期について、観測事実や1986年噴火事例をもとに、マグマの蓄積・移動についての仮説を構築し、これに基づいて、地殻変動データの定量的な推移の把握に着手する。また、GPS解析データから推定される圧力源とその体積変化量から傾斜変動の時系列を推定し、実際に観測された傾斜データとの比較を行う予定である。

本研究では、2011年5月で運用が終了した「だいち」から提供されるデータを前提として解析を進める計画であったが、当面新しいデータが得られない状況となっている。次期SAR搭載衛星の打ち上げが予定されている2013年まで期間のSARデータの取得について、改めて検討する必要がある。

火山の地殻変動観測は、火山活動評価の手段として有効なことから、より高度な利用が模索されている。今後はマグマ供給系の詳細を解明するために、地殻変動源の推定、マグマ蓄積量の把握などを進める。また、伊豆大島では、新たに設置したひずみ計や光波測距、GPSなどの観測種目を活用した火山活動のリアルタイムモニタリング手法の高度化を目指す。

想定される火山活動の推移に基づいて、MaGCAP-Vを使ったひずみ変化の挙動解析を実施し、予想されるひずみの時空間変化を把握する予定である。

異常未経験火山に対して既存の噴火シナリオをいかに活用するかについては、火山の状況に対応した地殻変動をはじめとする火山活動の多様性を踏まえて、新たな戦略を構築する必要がある。特に、開放的火道か閉塞的火道かなど類型的な火山の状態に着目して、類型ごとに地殻変動の推移の想定を進める必要がある。

3.自己点検

(1)到達目標に対する進捗度
  • 観測研究を基にした成果は着実に得られ、研究は概ね予定通り進捗した。
  • 「だいち」の運用停止によって新たなSARデータが得られなくなるという予期せぬ事態はあったものの、各研究項目は概ね計画に沿って進捗している。
  • 火山の地下の圧力源モデルの推定においては全国の活動的火山を対象としているが、研究期間中に顕著な活動をした火山が特になかったことから、伊豆大島の圧力源モデルについての研究を集中的に行った。
(2)研究手法の妥当性

伊豆大島などにおける多項目の観測データを整理し、有限要素法を用いた詳細な圧力源推定により検証を行った。さらには、ボアホール型多成分ひずみ計を新たに設置し、より多くのデータを使った地殻変動モデリングが可能になった。また、衛星「だいち」の機能が停止ししたものの、当初計画にない地域の火山活動に伴う地殻変動や地表変化の検出に成功しており、研究手法は妥当であった。

その一方で、このような多くの新たな知見を活用して、地殻変動観測からマグマの活動評価をおこない噴火シナリオを作成するには、様々な火山を総括的に研究し、類型的な火山活動の検討手法等、新たな切り口が必要であることを認識した。

(3)成果の施策への活用・学術的意義
  • 伊豆大島、浅間山、霧島山などについての観測・解析の結果は、速やかに気象庁火山課や火山噴火予知連絡会に報告しており、火山監視、火山活動評価に利用されている。
  • 科学技術・学術審議会測地学分科会の建議「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について」において、本研究は火山噴火準備過程、特にマグマの上昇・蓄積過程の解明に資する研究と位置付けられている。
  • 浅間山で継続していた繰り返し光波観測及びその大気補正手法について、気象庁火山監視・情報センターに引き継ぎ、本年度から連続観測化して監視業務に生かされている。また、気象研究所で開発した補正手法のノウハウも監視システムに取り込まれた。
(4)総合評価

伊豆大島に設置されたボアホール式多成分ひずみ計の観測が開始され、データ蓄積を経て成果が期待できる。また、既存のGPSや光波測距を中心とした地殻変動データによって圧力源推定、マグマ供給系解明に関する研究が進捗した。今後、伊豆大島の火山噴火シナリオの改善も期待できる。

4.参考資料

4.1 研究成果リスト
(1)査読論文:5件

1. 安藤忍, 2011: ALOSデータを用いたInSAR解析により捉えられた2010年Eyjafjallajokull火山噴火に伴う地殻変動, 測地学会誌, 57, 49-59.

2. 安藤忍, 2013: ALOS「だいち」により観測された霧島山新燃岳山頂火口の変化について, 験震時報, 印刷中.

3. 小久保一哉, 2013: 火山の短周期成分を含む地殻変動モデルに対する傾斜計の応答, 験震時報, 印刷中.

4. 高木朗充, 福井敬一, 鬼澤真也, 山本哲也, 加藤幸司, 近澤心, 藤原健治, 坂井孝行, 2013: 2011年霧島山新燃岳噴火前の山頂部地殻変動, 験震時報, 印刷中.

5. 吉田友香, 舟越実, 西田誠, 近江克也, 高木朗充, 安藤忍, 2012: GPS観測で捉えられた吾妻山の地殻変動, 験震時報, 76, 1-8.

(2)査読論文以外の著作物(翻訳、著書、解説):20件

1. 安藤忍, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 1.5SAR干渉解析による全国の火山の地殻変動監視と検出された火山性地殻変動, 気象研究所技術報告, 69, 65-88.

2. 安藤忍, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 1.6SARデータによる霧島山新燃岳噴火時の火口地形等の変化, 気象研究所技術報告, 69, 89-97.

3. 鬼澤真也, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 1.3伊豆大島における地殻変動観測1.3.1 はじめに, 気象研究所技術報告, 69, 16-23.

4. 鬼澤真也, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 1.3伊豆大島における地殻変動観測1.3.2 GPS観測, 気象研究所技術報告, 69, 24-35.

5. 鬼澤真也, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 2.3霧島火山群における重力探査, 気象研究所技術報告, 69, 152-167.

6. 気象研究所 [安藤忍], 2011: だいち/PALSARのSAR干渉法による樽前山溶岩ドームの隆起, 火山噴火予知連絡会会報, 106, 3-8.

7. 気象研究所 [安藤忍], 2011: だいち/PALSARのSAR干渉法による霧島山周辺の地殻変動, 火山噴火予知連絡会会報, 106, 148-153.

8. 気象研究所 [安藤忍], 2011: だいち/PALSARのSAR干渉法による桜島周辺の長期的な地殻変動の検出, 火山噴火予知連絡会会報, 106, 178-182.

9. 気象研究所 [安藤忍], 2012: だいち/PALSARによる阿蘇山周辺の干渉解析結果, 火山噴火予知連絡会会報, 109, 115-121.

10. 気象研究所 [安藤忍], 2012: 「だいち」により観測された霧島山新燃岳山頂火口の地形変化および霧島山周辺の地殻変動について, 火山噴火予知連絡会会報, 109, 179-191.

11. 気象研究所 [鬼澤真也], 2012: 伊豆大島火山の地殻変動, 火山噴火予知連絡会会報, 109, 40-44.

12. 気象研究所 [鬼澤真也], 2012: 霧島山(新燃岳)の地殻変動, 火山噴火予知連絡会会報, 109, 168-172.

13. 気象研究所 [鬼澤真也], 2012: 伊豆大島火山の地殻変動, 火山噴火予知連絡会会報, 110, 85-88.

14. 気象研究所 [鬼澤真也], 2013: 伊豆大島の地殻変動, 火山噴火予知連絡会会報, 112, 印刷中.

15. 高木朗充, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 1.1伊豆大島の有限要素モデルと圧力源推定への効果, 気象研究所技術報告, 69, 1-7.

16. 高木朗充, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 1.2地表面変位による圧力源形状の識別の可能性について, 気象研究所技術報告, 69, 8-15.

17. 高木朗充, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 1.3伊豆大島における地殻変動連続観測 1.3.3光波測距, 気象研究所技術報告, 69, 36-41.

18. 高木朗充, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 2.2霧島山新燃岳の噴火に先行した地殻変動, 気象研究所技術報告, 69, 146-151.

19. 福井敬一, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 1.3伊豆大島における地殻変動観測1.3.4伊豆大島における傾斜観測, 気象研究所技術報告, 69, 42-52.

20. 福井敬一, 2013: マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究 2.4火山用地殻活動解析支援ソフトウェアMaGCAP-Vの機能強化, 気象研究所技術報告, 69, 168-179.

(3)学会等発表
ア.口頭発表

・国内の会議・学会等:3件

1. 安藤忍, 高木朗充, 平祐太郎, 藤原みどり, 2011: 気象庁のSARを用いた火山地殻変動監視及び研究, 東京大学地震研究所特定共同研究B「SARを用いた地震火山活動に伴う地殻変動の検出」平成23年度成果報告会.

2. 鬼澤真也, 高木朗充, 福井敬一, 山里平, 安藤忍, 新堀敏基, 加治屋秋実, 黒川和誠, 伊豆大島火山における地殻変動観測(2), 2011: 日本地球惑星科学連合2011年大会, SVC050-14.

3. 高木朗充・新堀敏基・福井敬一・安藤忍, 2012: 気象庁のSARを用いた火山監視活用, 京都大学防災研究所一般研究集会「SAR研究の新時代に向けて」.

イ.ポスター発表

・国際的な会議・学会等:3件

1. Fukui, K. S. Ando, K. Fujiwara, S. Kitagawa, K. Kokubo, S. Onizawa, T. Sakai, T. Shimbori, A. Takagi, T. Yamamoto, H. Yamasato and A. Yamazaki, 2013: MaGCAP-V: Windows-based software to analyze ground deformation and geomagnetic change in volcanic areas, International Association of Volcanology and Chemistry of the Earth's Interior 2013 Scientific Assembly, 4W_2C-P8.

2. Onizawa, S., A. Takagi, K. Kokubo and T. Yamamoto, 2013: Ground deformation of Izu-Oshima volcano in magma accumulation period, International Association of Volcanology and Chemistry of the Earth's Interior 2013 Scientific Assembly, 1W_2F-P16.

3. Yamamoto, T., S. Onizawa and A. Takagi, 2013: Pressure source inferred from long-term volcanic deformation observed by GPS in Izu-Oshima, International Association of Volcanology and Chemistry of the Earth's Interior 2013 Scientific Assembly, 4W_2C-P9.

・国内の会議・学会等:14件

1. 安藤忍, 桜井利幸, 藤原善明, 福井敬一, 2011: 「だいち」が捉えた2011霧島新燃岳の噴火過程, 日本地球惑星科学連合2011年大会, SVC070-P29.

2. 安藤忍, 福井敬一, 斎藤誠, 2011: SAR干渉解析による全国の活火山(4), 日本地球惑星科学連合2011年大会, STT057-P07.

3. 安藤忍, 北川貞之, 高木朗充, 福井敬一, 2011: JERS-1/SARおよびALOS/PALSARを用いたアフリカNyamuragira火山の1996年12月および2010年1月の噴火活動について, 日本測地学会第116回講演会, P19.

4. 鬼澤真也, 高木朗充, 福井敬一, 2011: 重力データから推定される霧島火山地域の地下密度構造, 2011年度日本火山学会秋季大会, P08.

5. 鬼澤真也, 高木朗充, 小久保一哉, 山本哲也, 新堀敏基, 2012: 伊豆大島火山における地殻変動観測(3), 日本地球惑星科学連合2012年大会, SVC50-P09.

6. 小久保一哉, 福井敬一, 安藤忍, 高木朗充, 鬼澤真也, 新堀敏基, 山本哲也, 大須賀弘, 2012: 火山用地殻活動解析支援ソフトウェアの開発(5), 日本地球惑星科学連合2012年大会, SVC50-P17.

7. 小久保一哉, 鬼澤真也, 高木朗充, 山本哲也, 2012: 伊豆大島火山のひずみ変化, 2012年度日本火山学会秋季大会, P02.

8. 高木朗充, 福井敬一, 鬼澤真也, 山本哲也, 加藤幸司, 近澤心, 藤原健治, 坂井孝行, 2011: 2011年霧島山新燃岳噴火前の山頂部地殻変動,日本火山学会2011年度秋季大会, P07.

9. 福井敬一, 安藤忍, 坂井孝行, 高木朗充, 鬼澤真也, 新堀敏基, 山里平, 大須賀弘, 2011: 火山用地殻活動解析支援ソフトウェアの開発(4)-重力データ解析機能, 回転楕円体モデルの組み込み, 日本地球惑星科学連合2011年大会, SVC050-P05.

10. 山本哲也, 宮村淳一, 山本輝明, 2011: きわめて浅い圧力源による山体変形 -樽前山の例-,日本火山学会2011年度秋季大会, P30.

11. 山本哲也, 高木朗充, 鬼澤真也, 2012: 霧島山新燃岳2011 年噴火にみる噴火シナリオの課題と地殻変動観測の活用, 日本地球惑星科学連合2012年大会.

12. 山本哲也, 鬼澤真也, 高木朗充, 2012: 伊豆大島の地殻変動上下成分にみられる特徴についての予察,日本火山学会2012年度秋季大会, P03.

13. 山本哲也, 鬼澤真也, 高木朗充, 2013: 伊豆大島の地殻変動上下成分から示唆される圧力源の形状, 日本地球惑星科学連合2013年大会, SVC48-P29.

14. 吉田由香, 舟越実, 西田誠, 近江克也, 高木朗充, 安藤忍, 2012: GPS観測で捉えられた吾妻山の地殻変動, 日本火山学会2012年度秋季大会, P04.

(4)投稿予定論文

1. 安藤忍, 高木朗充, 北川貞之, 福井敬一, 2013: JERS-1/SAR及びALOS/PALSARにより明らかにされたアフリカNyamuragira火山の噴火活動 −1996年12月及び2010年1月− (仮).

2. 鬼澤真也, 高木朗充, 小久保一哉, 山本哲也, 安藤忍, 新堀敏基, 小林昭夫, 木村一洋, 2013: 地殻変動から見る伊豆大島火山のマグマ蓄積過程(仮).



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