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気象研究所研究開発課題評価報告

エーロゾル−雪氷相互作用に関する研究

中間評価

評価年月日:平成24年3月13日

研究代表者

青木輝夫(物理気象研究部 第三研究室長)

研究期間

平成21年度~25年度

中間評価の総合所見

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研究の動機・背景

光を吸収する性質の吸収性エーロゾル(主にすすとダスト)は雪氷面に沈着し、アルベドを低下させることにより温暖化を加速する効果を持っている。その効果を定量的に明らかにするため、雪氷・放射観測、放射過程のモデル化、全球エーロゾル輸送モデル(担当:研究課題「大気環境の予測・同化技術の開発」)、衛星観測の手法を用い、気候へ与える効果を明らかにすると共に、衛星観測により積雪物理量と雪氷面アルベドの変化を監視する。

現在の気候モデルでは近年の北極圏おける雪氷の急激な融解を再現できておらず、その克服が重大な課題となっている。急激な融解の原因の一つとして、黒色炭素等の吸収性エーロゾルによる積雪汚染が注目されているが、現在の気候モデルでは雪氷面アルベドは気候値や現在気候下における経験的なパラメタリゼーションによって決定されているため、一般的に急激な北極圏の温暖化には対応できない可能性が指摘されている。また、積雪アルベドを支配する重要な物理量である積雪粒径と不純物濃度とアルベドの衛星による同時広域監視が、温暖化に伴う雪氷圏変動の把握にとって重要な知見を与えるものと期待される。一方、様々なエーロゾルが気候に与える影響を解明するために、エーロゾル輸送モデルを用いた研究は非常に有効な方法であるが、モデルの中で用いる各種エーロゾルの光学特性には不確定な要素が多く、気候に対する影響を正確に評価するためには代表的なエーロゾル粒子(硫酸、海塩、ダスト、黒色炭素、有機炭素)に対して、妥当な光学モデルを構築することが急務となっている。

研究の成果の到達目標

①雪氷面放射過程の解明と雪氷面アルベド物理モデルの高度化

札幌において放射、積雪、エーロゾルの観測を行い、それらを元に既存の積雪アルベド物理モデルの精度向上を図る。また、理論的な海氷のみのアルベドモデルと前述の積雪アルベドモデルを組み合わせて、海氷-積雪系のアルベドモデルを開発し、全球の雪氷面に適応できるアルベドモデルを構築する。さらに、積雪内部の放射加熱、熱輸送、温度分布、粒子の変態過程も計算できる積雪変態・アルベド物理モデルの機能を付加する。

②吸収性エーロゾル沈着による雪氷面アルベド低下と大気エーロゾル変動が気候に与える影響評価

①の観測データや他のユニットの観測データを用いて、新たに代表的なエーロゾル粒子(硫酸、海塩、ダスト、黒色炭素、有機炭素)に対して、全球エーロゾル輸送モデル用光学モデルを開発し、大気エーロゾル変動が気候に与える影響評価を行う。また、エーロゾル光学モデルを用いて紫外域放射モデルの高度化を行う。

③衛星観測による積雪物理量や雪氷面アルベドの抽出技術の改良と雪氷圏変動の監視

GLI雪氷グループで開発した積雪粒径、不純物濃度の衛星リモートセンシングアルゴリズムを高度化する。また、雪氷面アルベド抽出アルゴリズムを新規に開発し、上記積雪物理量と共にMODISセンサー等衛星データから遠隔抽出を行う。これらの結果から②の全球エーロゾル輸送モデルによる計算結果を検証すると共に、主に極域におけるこれら物理量の時空間変動を調べ、雪氷圏の急激な温暖化の原因解明に資する。

研究の現状

(1)進捗状況

①雪氷面放射過程の解明と雪氷面アルベド物理モデルの高度化

積雪アルベド物理モデル開発、積雪変態・アルベドプロセスモデル開発を実施し、精度検証結果も良好であった。これらのモデルは詳細なプロセスモデル版と気候モデル用の高速版を開発した。札幌における放射・気象。積雪・エーロゾルの各観測も順調に継続中である。

②吸収性エーロゾル沈着による雪氷面アルベド低下と大気エーロゾル変動が気候に与える影響評価

黒色炭素とダストの各エーロゾル光学モデルは湿度依存性を考慮し高度化した。気候影響評価と紫外域放射モデルの高度化は作業がやや遅れている。2010年4月から気象研究所において全球エーロゾルモデル検証等のために大気中のカーボンエーロゾルの連続測定を開始した。

③衛星観測による積雪物理量や雪氷面アルベドの抽出技術の改良と雪氷圏変動の監視

積雪物理量及びアルベドの衛星リモートセンシングアルゴリズムは、従来の1層積雪モデルから2層モデルに改良し、精度向上を確認した。また、雪面の凹凸が反射率に与える定量的効果に関する放射伝達モデルによる数値実験、南極点における衛星データから積雪粒径及び凹凸情報の遠隔抽出等の技術開発を行った。現在、雪氷圏変動の監視のためのアルゴリズム及びデータ処理システムを開発中である。

(2)これまで得られた成果の概要
  • 積雪粒径と不純物濃度などの積雪状態から可視・近赤外域のアルベド及び積雪内部の短波放射加熱分布を物理的に計算する積雪アルベド物理モデル(Physically Based Snow Albedo Model: PBSAM)を開発し(Aoki et al., 2011)、気象研究所の地球システムモデル(Earth System Model: ESM)に移植した。
  • 雪面の熱収支データから積雪粒子の変態過程、熱輸送、温度分布等積雪内部構造を物理的に計算するための積雪変態・アルベドプロセスモデル(Snow Metamorphism and Albedo Process model:SMAP)を開発し(Niwano et al., submitted)、気象研究所のESMに移植した。
  • 札幌において放射・気象・積雪・エーロゾルの連続観測を行い、上記PBSAM及びSMAPの精度検証を行った結果、PBSAMについては従来よりも高精度(Aoki et al., 2011)、SMAPモデルは既存のモデルと同程度またはそれ以上の精度であることが確認された(Niwano et al., submitted)。また、これらのデータを米国NASAのグループに提供し、気候モデル中の陸面モデルの改良に利用された(Yasunari et al., 2010)。
  • 全球エーロゾル輸送モデルの放射過程改良のため、黒色炭素とダストの湿度依存性を考慮したエーロゾル光学モデルの改良を行った(青木輝夫, 2010)。
  • 2010年4月から気象研究所において大気中のカーボンエーロゾルの連続測定を実施し、有機炭素と元素状炭素各濃度の日々の変動や季節変化を解析した。
  • 衛星リモートセンシングでは非球形積雪粒子のモデル化、従来の積雪1層モデルアルゴリズムから2層モデルアルゴリズムへの改良を行った。実際の衛星データから積雪粒径、黒色炭素濃度を抽出し、地上検証を行った結果、従来よりも精度の向上が確認された。その結果をPBSAMに入力してアルベドを抽出するアルゴリズムを開発した。また、Asymptotic theoryによる積雪粒径抽出アルゴリズムを開発し、過去の地上同期検証データによって精度検証を行った(Lyapustin et al., 2009; Kokhanovsky et al., 2011; Wiebe et al., to be submitted)。
  • 雪面の凹凸(サスツルギ)が反射率に与える影響を調べるため、モンテカルロ放射伝達モデルによる数値実験を行い、その結果を実測値と比較することによりサスツルギの定量的効果を確認した。この結果をもとに開発した衛星観リモートセンシングアルゴリズムを南極点のサスツルギ雪面に適応し、積雪粒径、サスツルギの方向、振幅を抽出した(Kuchiki et al., 2011)。

① 雪氷面放射過程の解明と雪氷面アルベド物理モデルの高度化

  • 札幌において放射・気象・積雪・エーロゾルの連続観測を行い、各種モデル開発・検証用の高精度データセットを整備した。
  • 積雪粒径、不純物濃度、積雪深、密度等の任意の積雪構造、任意の日射条件で可視・近赤外域のアルベド及び積雪中の短波放射加熱分布を物理的に計算できるPBSAMを開発した。このモデルを過去3冬期間の札幌における放射・気象・積雪観測データによって検証した結果、従来よりも高精度であることが確認された。さらに、気候モデルで用いることができる高速版PBSAMを開発し、札幌における放射・気象・積雪観測データによって検証し、精度を維持するために必要な波長バンド数、積雪層数を決定した。このモデルを気象研究所のESMに移植した。
  • 雪面熱収支、雪中熱伝導、水分移動、融解・再凍結、圧密等の積雪物理過程を考慮し、PBSAMを組み込んで積雪変態過程、アルベド、層構造、温度分布を計算することができるSMAPモデルを開発し、気象研究所のESMに移植した。さらに、このモデルの積雪粒径計算過程においては、雪温勾配が日変化する場合に進行する積雪変態過程を改良した。上記の札幌及び十勝における観測データを用いてモデル検証を行った結果、アルベドと雪面温度は全般に良い精度で計算できることが分かった。
  • SMAPモデルと札幌における3冬期(2007-2010)の気象・積雪不純物観測データを用いて、積雪不純物が雪面熱収支に与える影響評価の感度実験を行った結果、不純物の存在が特に融雪期の雪面熱収支に大きな影響を与えることが分かった。さらに、氷床上積雪の物理状態予測機能の追加、積雪下層の土壌サブモデルの導入等を行った。

② 吸収性エーロゾル沈着による雪氷面アルベド低下と大気エーロゾル変動が気候に与える影響評価

  • 大気及び積雪中の吸収性エーロゾルの湿度依存性を考慮したエーロゾル光学モデルの改良を行った。特に、黒色炭素とダストは最新の文献を元に、複素屈折率、粒径分布、混合形態、湿度依存性を見直し、コア・シェル型の内部混合を仮定し、波長別及び広波長帯域の一次散乱特性のデータセットを構築した。
  • 2010年4月から気象研究所において大気中のカーボンエーロゾルの連続測定を実施し、有機炭素と元素状炭素の各濃度の日々の変動や季節変化を観測した。約1年余りの観測結果について統計的な解析を行った結果、各カーボン濃度は10-2月の冬期に上昇し、また風系別では東よりの風に比べて西寄りの風の場合に高濃度であった。

③ 衛星観測による積雪物理量や雪氷面アルベドの抽出技術の改良と雪氷圏変動の監視

  • 衛星リモートセンシングでは、積雪不純物濃度を黒色炭素とダストに分離して抽出するアルゴリズムを作成し、北海道における波長別アルベド観測値に適用してその精度を検証した。次に非球形積雪粒子による積雪2層モデルアルゴリズムを開発し、Terra衛星MODISデータから積雪粒径、黒色炭素濃度、広波長帯域アルベドを抽出し、地上検証データと比較した結果、従来よりも精度の向上が確認された。また、衛星と地上放射計それぞれから抽出した黒色炭素濃度と積雪粒径を相互に比較した結果、衛星抽出結果は衛星の幾何条件に大きく依存し、衛星のアルゴリズムで使用されている双方向反射率モデルに問題があること等が示唆された。
  • 全天分光日射計による積雪物理量抽出アルゴリズムを積雪1層・球形粒子モデルから積雪2層・非球形粒子モデルに高度化し、北海道における観測データを用いて精度を検証した。その結果、積雪2層モデルでは1層モデルと同程度の精度で積雪物理量を抽出できることがわかった。また、非球形粒子モデルに改良することにより、粒径が小さいときの粒径抽出精度が向上した。
  • 雪面の凹凸(サスツルギ)が衛星観測にとって重要な双方向反射率に与える影響を調べるため、モンテカルロ放射伝達モデルによる数値実験を行い、人工的に凹凸を付けた雪面上での実測値と比較し、サスツルギの定量的効果を確認した。この結果をもとに開発した衛星観リモートセンシングアルゴリズムを南極点のサスツルギ雪面に適応し、積雪粒径、サスツルギの方向、振幅を抽出した。
(3)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)

①雪氷面放射過程の解明と雪氷面アルベド物理モデルの高度化

積雪アルベド物理モデル開発では、当初、不純物過程と物理的な粒径計算過程の改良を主目的に行い、高精度のPBSAMが完成したが、さらに積雪内部の短波放射加熱、熱輸送、温度分布、含水率、積雪の形態に関する情報などの様々な予測が可能となることが分かったため、積雪の内部構造を予測する包括的なSMAPモデルへ拡張して開発を進めた。

②吸収性エーロゾル沈着による雪氷面アルベド低下と大気エーロゾル変動が気候に与える影響評価

当初、代表的なエーロゾル粒子(硫酸、海塩、ダスト、黒色炭素、有機炭素)に対して、全球エーロゾル輸送モデル用光学モデルを高度化する予定であったが、近年研究が進んでいるダストと黒色炭素の吸収性エーロゾルに絞って高度化を行った。硫酸、海塩、有機炭素については現時点では既存の光学モデルを利用可能である。今後、これらのモデル化に着手する。2010年4月から気象研究所において全球エーロゾルモデル検証等のために大気中のカーボンエーロゾルの連続測定を開始した。

③衛星観測による積雪物理量や雪氷面アルベドの抽出技術の改良と雪氷圏変動の監視

「主に極域における積雪物理量の時空間変動を調べ、雪氷圏の急激な温暖化の原因解明に資する」とした目標設定をより具体的に、近年融解の著しいグリーンランドを対象とすることとした。南極に関しては雪面の凹凸の効果をどの程度アルゴリズムに取り込むことができるか検討する。

(4)成果の他の研究への波及状況
  • PBSAM及びSMAPモデルを気象研究所のESMの陸面モデル(Hydrosphere Atmosphere and Land: HAL)への移植を行った。これにより大気中の黒色炭素及びダストが雪氷面に沈着することによりアルベドが低下し、融雪が早まる効果などの気候感度実験が可能となった。
  • 札幌における放射・気象・雪氷・エーロゾル観測データは、米国NASAのグループに提供し、気候モデル中の陸面モデルの改良に利用された。
  • 気象研究所におけるカーボンエーロゾルの連続測定データは、全球エーロゾル輸送モデルの検証や、エーロゾルの混合状態の研究に利用可能である。
  • 衛星リモートセンシング関連で改良したアルゴリズムは、他の競争的資金(地球一括、科研費、JAXA共同研究)による研究でも利用されている。また、地上検証観測データはドイツブレーメン大学及びNASAの研究者に提供し、積雪物理量のリモートセンシングアルゴリズム改良に利用された。
2.今後の研究の進め方

① 雪氷面放射過程の解明と雪氷面アルベド物理モデルの高度化

積雪アルベド物理モデル開発はSMAPモデルを中心として今後も実施する。特に、積雪下層の土壌モデルの導入、全球の様々な積雪での精度検証、積雪変態過程の1つである乾燥温度勾配過程の改良などを実施する。理論的な海氷のみのアルベドモデル開発を残りの研究期間で実施する。

② 吸収性エーロゾル沈着による雪氷面アルベド低下と大気エーロゾル変動が気候に与える影響評価

現在までに計算した吸収性大気エーロゾル及び積雪不純物による気候影響評価を実施する。硫酸、海塩、有機炭素の光学パラメータは既存のデータベースを用いる。また、それらの新しい光学パラメータの計算についても並行して実施する。気象研究所におけるカーボンエーロゾルの連続測定は今後も継続し、長期トレンド、季節変化を調べ、全球エーロゾル輸送モデルの検証を行う。

③ 衛星観測による積雪物理量や雪氷面アルベドの抽出技術の改良と雪氷圏変動の監視

衛星リモートセンシングでは、積雪2層アルゴリズムによる積雪粒径抽出結果において、1層目の厚さをどのように決定するか、積雪粒子としての回転楕円体モデル、凝集粒子モデルが抽出精度に与える効果を調べた上で、最終的に使用するアルゴリズムを決定する。雪氷圏変動の監視は現在急激な融解の進行しているグリーンランドを主な対象とし実施し、温暖化の原因解明を進める。南極にでは主に雪面の凹凸の効果をについて調べる。全球エーロゾル輸送モデルによる計算結果の検証作業は残りの研究期間で実施する。

3.自己点検

(1)到達目標に対する達成度

①雪氷面放射過程の解明と雪氷面アルベド物理モデルの高度化

札幌における観測は予定通り実施した。積雪アルベド物理モデル開発では、「(3)当初計画からの変更点」で述べたように積雪内部構造を計算できるSMAPモデルへの拡張を行い、当初の目標を達成した。気象研究所のESMへの移植は目標以上の成果である。理論的な海氷のみのアルベドモデル開発は現時点では未着手であるが、PBSAMでは海氷のアルベドを外部から与えることにより海氷上の積雪アルベドを計算できる機能を有しているため、すでに実用的には海氷-積雪系のアルベドモデルとして利用可能である。(達成度80%)

②吸収性エーロゾル沈着による雪氷面アルベド低下と大気エーロゾル変動が気候に与える影響評価

ダストと黒色炭素の光学モデル開発は予定通り進捗した。硫酸、海塩、有機炭素については現時点では既存の光学モデルを利用可能である。気候に与える影響評価は残りの研究期間で実施予定である。紫外域放射モデルの高度化は、上記の光学モデルがそのまま利用できるようデータベース化されているので、現状でも精度向上が期待できる。(達成度40%)

③衛星観測による積雪物理量や雪氷面アルベドの抽出技術の改良と雪氷圏変動の監視

GLI雪氷グループで開発した積雪粒径、不純物濃度の衛星リモートセンシングアルゴリズムの高度化と雪氷面アルベド抽出アルゴリズム開発は目標通り進捗している。これら物理量の時空間変動解析はグリーンランドを対象とし、雪氷圏の急激な温暖化の原因解明を現在進めている。全球エーロゾル輸送モデルによる計算結果の検証作業はその後実施する予定である。(達成度60%)

(2)研究手法の妥当性

積雪アルベド物理モデル開発においてSMAPモデル開発への拡張を行うなどの研究手法の修正を行った。作業の遅れている目標についても大幅な修正は行う必要はなく、総合的に研究手法として妥当であると判断する。

(3)成果の施策への活用・学術的意義
  • SMAPモデルは雪質、雪温などの予測にも利用できるため、将来、積雪に関する防災情報の改善などの可能性がある。また、気候変動に対する積雪の応答についてのプロセス研究にも利用可能である。
  • PBSAMとSMAPモデルのESMへの移植により、大気中の吸収性エーロゾルが雪氷面アルベド変化を通して、気候に与える影響評価を行うことができるようになった。
  • 気象研究所における大気中カーボンエーロゾルの連続観測と札幌における積雪中黒色炭素濃度観測は、大気及び積雪を加熱する効果を有する黒色炭素の排出規制などの根拠となる基礎データを提供するものである。
  • 積雪物理量の衛星リモートセンシングは、現在極域で急激に進行している雪氷融解の実態把握と原因究明に重要な役割を及ぼすことが期待される。
(4)総合評価

「①雪氷面放射過程の解明と雪氷面アルベド物理モデルの高度化」では、札幌における放射・気象・雪氷・エーロゾル観測を着実に実施し、モデル検証用の信頼性の高いデータを取得した。高精度の積雪アルベド物理モデルの開発は目標通り達成し、それを拡張したSMAPモデルによって積雪の内部構造の計算できるようになった。更に、それらモデルのESMへの移植など目標以上の成果を挙げた。

「②吸収性エーロゾル沈着による雪氷面アルベド低下と大気エーロゾル変動が気候に与える影響評価」では、近年理解の進んだ吸収性エーロゾル(黒色炭素とダスト)について湿度依存性を考慮した光学モデルの高度化を行い、それらがPBSAMやSMAPモデルに利用されている。このことと①の成果により大気中の吸収性エーロゾルが雪氷面アルベド変化を通して、気候に与える影響評価ができるようになった。

「③衛星観測による積雪物理量や雪氷面アルベドの抽出技術の改良と雪氷圏変動の監視」では、非球形積雪粒子の導入、積雪2層モデルアルゴリズムの開発、PBSAMによる雪氷面アルベド抽出アルゴリズム開発、雪面の凹凸(サスツルギ)が双方向反射率に与える効果のモデル化を行い、雪氷面衛星観測技術の改良は目標通り進んでいる。今後、雪氷圏変動の監視を融解の著しいグリーンランドを中心に解析を開始し、雪氷圏の急激な温暖化の原因解明が期待される。

以上の結果は、内外の雑誌に投稿・掲載されており、着実に成果が挙がっている。今後も、本研究を引き続き着実に遂行していく必要がある。



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