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気象研究所研究開発課題評価報告

異常気象・気候変動の実態とその要因解明に関する研究

中間評価

評価年月日:平成24年3月13日
  • 副課題1:異常気象の実態とその要因解明
  • 副課題2:気候変動の実態とその機構解明

研究代表者

釜堀弘隆(気候研究部 第五研究室長)

研究期間

平成21年度~25年度

中間評価の総合所見

pdfファイル:76KB

研究の動機・背景

(副課題1)異常気象の実態とその要因解明

平成20年8月末豪雨や四国地方の渇水など、近年日本では異常気象の多発に対する社会的関心が高まり、気象研究所として情報を提供していくことが求められている。そのため、極値統計手法や長期再解析データ等を利用した定量的な現象把握と、大気循環場とりわけ熱帯域の解析を通じた異常気象の要因解明の研究を進める必要がある。また、気象学的・社会的に重要な異常気象が起きたとき、すみやかにその解明を進めることが求められる。

(副課題2)気候変動の実態とその機構解明

気候の長期的な変動は、異常気象の変動にも関連する重要なテーマである。そこで、まだ利用されていないデータの収集や品質のチェックを進め、都市化の影響などの評価を行いつつ、気候変動の実態と機構の解明を進めていく必要がある。また、成層圏の変動や太陽活動など外部強制力が気候変動に及ぼす影響については未解明の点が多く、その研究の推進が求められる。

研究の成果の到達目標

(副課題1)異常気象の実態とその要因解明

① 過去の異常気象の実態や特徴をデータ解析によって明らかにし、その要因解明を行う。

② 再解析データ等により、日本の気候変動と熱帯域など大気循環場の変動との関連を明らかにする。

③ 異常気象が発現した際には、すみやかにデータを収集・解析し、その実態と要因の解明を行う。

(副課題2)気候変動の実態とその機構解明

① 国内外の気候データの収集・整備により、日本とその周辺の気候の長期変動の実態を解明する。

② 中層大気の変動が気候に及ぼす影響を明らかにする。


各副課題で得られた成果に基づき、異常気象・気候変動に関する解説資料を作成する。

研究の現状

(1)進捗状況

ほぼ計画通り進んでいる。

  • 猛暑となった2010年夏の解析を実施している。大気モデルによる海面水温感度実験をおこない、中緯度の帯状平均高度の強い正偏差をもたらした要因について解析中。
  • 極値統計手法の適用方法と評価精度との関連を調べた。
  • 日本の極端降水の発生頻度の緯度・地域依存性を調べた。
  • 日本における過去100年間の降水変動を調べた。
  • 成層圏突然昇温と気候変化との関連をモデル実験および再解析データから調べた。
  • 気候変動研究の基盤データとしての再解析プロダクトを作成するための全球データ同化システムを整備し、従来型観測データを用いた再解析総合実験を実施中。
  • 中層大気変動の気候への影響を調べるためのオゾンデータの収集・解析を実施中。
(2)これまで得られた成果の概要
  • 日本の極端降水の発生頻度が、その時間スケールによって緯度および地形依存性があることを見出した。
  • 衛星観測データから台風周辺の降水量分布の気候値場を明らかにした。
  • 2010年は観測開始以来の猛暑となるなど社会的に関心の高い異常気象が発生したため、モデル実験および再解析データからその要因解明を行い、異常気象と海面水温や大規模対流との関連を明らかにした。
  • 日本の気温の長期変動に対する都市化の影響を地点観測データから定量化した。また、過去100年にわたる降水量観測から,梅雨の季節進行が遅れる傾向になることを見出した。
  • モデル実験により、成層圏突然昇温に伴う北極振動の予測可能性を示した。

(副課題1)異常気象の実態とその要因解明

極値統計手法による異常気象(大雨等)の再現期間や再現期待値を定量的に評価するに当たり,手法の適用方法と評価精度との関連をモンテカルロ・シミュレーションで検討した。具体的な検討事項は,(1)極値分布関数のパラメーターの決定方法,(2)年極値解析と閾値解析の比較,(3)適合度規準の妥当性などである。その結果,再現期間や再現期待値の評価精度はデータに含まれる確率変動に影響されること,従って適合度だけでなく統計的な安定性の確保が重要であることが示された。後者に関し,分布関数の形状パラメーターとしてその領域平均値を与える方法があることを示した。

  • 日本の極端降水の発生頻度分布を,その時間スケール別に調べ,時間スケールによって緯度や地形への依存性に違いがあることを見出した。
  • 衛星データから台風周辺の降水量を積算し、年降水量および月降水量に対する台風降水量の寄与を見積もった。その結果、台風は8〜10月の降水量の最大約20%に寄与していることが分かった。
  • 伊勢湾台風の再解析・再予報を他研究課題との共同で実施した。その結果、当時の飛行機観測と最新の同化システム及び予報モデルを用いる事により、名古屋港における高潮観測をほぼ再現できることが分かった。
  • 2010年夏は気象庁の統計開始以来の猛暑となったため、モデル実験などによりその要因解明を行った。その結果、エルニーニョ終息後に中高緯度が顕著に昇温する傾向があり、これが猛暑の一因であることが分かった。
  • 2010年夏の異常天候の要因分析のため、観測された海面水温を下部境界条件とした大気モデル実験を行った。その結果、観測された太平洋の亜熱帯ジェットの北偏傾向や北西熱帯太平洋の強い亜熱帯高気圧および貿易風が再現された。海域別に海面水温偏差を与えた感度実験から、ラニーニャ現象が太平洋の亜熱帯ジェットの北偏傾向に、大西洋の高いSSTが北西熱帯太平洋の強い亜熱帯高気圧に寄与した可能性が示唆された。
  • 2010年の台風発生数が過去最少となった要因を調べ、台風発生数がこれまで最少であった1998年との比較を行い、熱帯の対流活動が西太平洋からインド洋に偏っていたためであるとの結論を得た。

(副課題2)気候変動の実態とその機構解明

日本における気温の観測データやその長期変動における都市化等の影響について,実データに基づく検討を進めた。具体的には,(1) アメダス地点の気温の長期変動を風速別・降水別に評価し,都市域では強風時や降水時の気温上昇率が弱風時や無降水時よりも小さいことから,気温の長期的な上昇傾向に都市の効果が関わっていることを確認した。(2) 気温の曜日依存性を評価し,中小都市でも人工排熱の影響があることを示した。(3) 格子点気温データ (CRU, GISS等) と気温の実測データの長期変動を比べ,CRUに若干の都市バイアスが含まれる可能性を見出した。

  • 日本における1901年以降の降水変動を地域・季節ごとに調べた。降水日数の減少傾向はほぼ全国的かつ年間を通じて認められるが,変化率は地域・季節によりまちまちであり,月単位あるいは1~2ヶ月スケールの変動も認められた。
  • オゾン同化データの解析を行い、北半球中緯度下部成層圏のオゾンの長期変化における力学的な寄与について、調査し、下部成層圏において輸送(力学的な影響)の効果がオゾンの減少トレンドの主な要因であり、上部成層圏のオゾントレンドはハロゲン類(化学的な影響)の長期変化が強く影響していることを示した。
  • 1901年~2009年の東・西日本の37観測地点の日降水量データを元に、梅雨の季節進行の長期変化を調べた。この解析期間は既存研究に比べて格段に長い。梅雨初期(6月1日~20日)の降水量は、信頼度90%以上で有意に減少トレンドにあり、20世紀前半は明瞭な数十年規模の変動が卓越している。一方、梅雨末期(7月11日~31日)は、日本海側地域では信頼度95%以上で有意に増加トレンドにある。梅雨中期(6月21日~7月10日)および梅雨期全体(6~7月)では有意なトレンドは見られない。過去109年に観測された梅雨明けの遅れのトレンドは、気候モデルが予測する温暖化に伴う気候変化に似ている。
  • 20世紀の地上気温と地上気圧の長期観測データに基づいて、夏季東アジアの長期変化を調べた。北日本の夏季気温は西日本や南西諸島に比べて昇温トレンドが小さいことが確認された。北太平洋の海面気圧は長期的に高緯度で上昇、中緯度で下降傾向にあることから、高緯度の冷たい海洋上から南へ吹き出す冷気(ヤマセ)が20世紀に強まった可能性が示唆された。
  • 2009年1月に発生した波数2の成層圏突然昇温(SSW)にともなう気候変化について調べたところ、再解析データの解析から統計的に得られた関係とほぼ同様に、SSWに伴い赤道域の上昇域が南半球側にシフトする傾向が見出された。しかし、SSW後に対流圏へと下降する負の北極振動は明瞭ではなかった。
  • 気象研究所気候モデルを用いて2004年1月に発生したSSW前を初期値としたアンサンブル季節予報実験を行ったところ、対流圏では実際と同様の冬期中にわたる有意な負の北極振動の形成が予報され、成層圏変動が冬期の予測可能性に与える影響が示唆された。
  • 中間規模波動が南半球環状モード形成の波強制の3分の1をも担っていることが分かった。
  • 2010年夏季のロシアブロッキングの持続性について気象研大気大循環モデルを用いてその再現性を調べたところ、モデル中のブロッキングは現実に比べて持続性がかなり悪く、何らかの未知の維持強制が必要であることが示唆された。
(3)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)

当初計画のうち、副課題2の一部は科研費「日本の温暖化率の算定に関わる都市バイアスの評価と微気候的影響の解明」 (基盤B, H22~24年度, No. 22340141) に移して実施している。

(4)成果の他の研究への波及状況
  • 極値統計手法に関する成果は革新プログラム「超高解像度大気モデルによる将来の極端現象の変化予測に関する研究」における極端現象の統計解析に反映。
  • また、長期再解析と同様なデータ同化システムを開発する新規重点研究課題「全球大気データ同化の高度化に関する研究」との情報交換を進めている。
  • 副課題2の成果は上記科研費に反映。
  • 研究課題「大気環境に関する次世代実況監視及び排出量推定システムの開発」(環境研究総合推進費)と情報交換を行っている。
2.今後の研究の進め方

当初の目標が順調に達成されており,基本的には当初計画通りに研究計画を進める。2010年夏の猛暑は気象庁の観測始まって以来の記録的なものであり、その詳細な要因解明は極めて重要である。従って、今後もその要因解明を続ける。今後も、社会に大きな影響を与えるような異常気象が発現した際には、その実態と要因の解明を行う。台風活動は日本付近の循環場に大きな影響を与えうる現象のひとつであり、衛星データや再解析データを用いて気候場やその変動を調べる。気温・降水量・気圧などの長期地上観測データを利用し、夏季東アジアの気候変動の解析を継続する。気温の長期変動の解析に関しては、上記科研費で実施する。成層圏突然昇温と北極振動の関連など、成層圏と対流圏との相互作用をモデル実験および再解析データなどを用いて行う。

3.自己点検

(1)到達目標に対する達成度

おおむね順調に進捗している。

(2)研究手法の妥当性

過去の温暖化トレンドを定量的に見積もる際、観測所周辺の都市化の影響を考慮することは極めて重要であり、副課題2における研究成果は今後温暖化トレンドの地域分布などの定量化に大きく貢献すると期待され、妥当かつ適切な研究手法である。2010年夏は記録的な猛暑であったが、その要因を調べるなど、機動的な研究体制を維持することが出来ており、課題全体の研究手法・体制は妥当であると考える。

(3)成果の施策への活用・学術的意義
  • 2010年夏の猛暑の要因分析結果は気象庁の異常気象分析体制に還元することが出来た。
  • JRA-55Cプロダクト整備により気候変動研究に新たな基盤データを提供でき、気候変動研究の推進に大きく寄与できる。
(4)総合評価

これまでの成果として、日本の気温における温暖化と都市化のシグナルの分離を行い、また日本の社会活動に大きな影響を及ぼす梅雨期間の変動を明らかにするなど、本研究を実施する意義は大きい。また2010年の異常気象についても、機動的な対応が出来た。

以上から、本研究を引き続き着実に遂行していく必要がある。



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