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気象研究所研究開発課題評価報告

気象観測技術等を活用した火山監視・解析手法の高度化に関する研究

中間評価

評価年月日:平成24年2月9日
  • 副課題1:噴火現象の定量的監視技術の開発
  • 副課題2:火山観測データ処理技術の高度化に関する研究

研究代表者

山本哲也(地震火山研究部 第三研究室長)

研究期間

平成21年度~25年度

中間評価の総合所見

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研究の動機・背景

火山活動を把握するための観測種目には多種多様なものがあり、現在、気象庁においては、震動観測、地殻変動観測、電磁気観測、表面現象観測、熱観測や火山ガス観測が行われている。しかし、様々な課題も多く、迅速・正確な火山監視のためには、これらのデータの高精度化や解析手法の改善は重要である。

気象庁は、平成20年3月から、火山灰移流拡散モデルを用いた降灰予報を発表する業務を開始し、これまで桜島等の噴火に際して発表している。しかし、現在の予報は降灰の範囲に限られており、量的な予報が今後の課題となっている。そのためには、初期値となる噴火現象の定量的監視技術の開発が必要である。

また、地殻変動の観測データ等に含まれる気象ノイズの除去をはじめとする監視・解析手法の高度化も課題となっている。

(副課題1)噴火現象の定量的監視技術の開発

火山噴火の検知は、火山観測の最も重要で根幹的なものであるにもかかわらず、それを即時的に行うことは必ずしも容易ではない。特に、悪天時や、観測場所が晴天であっても火山に雲がかかっている場合は、監視カメラでは表面現象が観測できないことも多い。一方、気象レーダーによって噴煙が偶然検知できた事例は内外で多くあり、威力を発揮することが期待できるが、火山観測を目的としたレーダー観測や系統的・継続的な研究は極めて少ない。気象レーダー等のリモートセンシング技術による噴煙観測手法について研究し、噴火の検知力の評価や噴煙の動力学的研究を行うことは意義深く、その上で得られた成果は、降灰予測における噴煙モデルの改善にも資する。

火山噴火の検知手法のうち、空振計を用いた観測は、これまでも多くの成果をあげてきている。しかし、観測されている空振と表面現象との間の定量的な関係についての研究は少なく、これを明らかにすることは、降灰予測の高度化にも資することができる。また、空振観測において気象ノイズは大きな障害となるため、空振観測データに現れる気象の影響の評価やノイズ除去手法が課題となっている。


(副課題2)火山監視手法及びデータ処理手法の改良に関する研究

火山の地殻変動観測手法のうち、近年注目されているのが、干渉SARによる地殻変動観測である。干渉SARによる観測は、面的な地殻変動に関する情報を得られるという大きな利点があるものの、水蒸気の影響によると考えられるノイズが多く含まれ、得られた結果(地殻変動の有無や変動量)の妥当性についての評価が難しく、この種のノイズの除去は大きな課題となっている。

また、火山性震動多発時の処理手法等、噴火以外の火山異常を判断するための処理手法にも改善が望まれている。

研究の成果の到達目標

(副課題1)噴火現象の定量的監視技術の開発

(副課題1)監視・解析技術の高度化

気象レーダー等のリモートセンシング技術を用いた噴煙観測手法や空振観測等から、噴火発生やその規模を迅速に検知する手法を開発するとともに、降灰予測及び火山灰拡散予測手法に用いる噴煙、移流拡散モデルの改善を行う。

(副課題2)火山観測データ処理技術の高度化に関する研究

火山性震動の客観的・定量的な処理手法等の開発によって、火山異常をより迅速・正確に把握するための監視・データ解析技術を開発する。また、干渉SARによる地殻変動観測について、気象の影響の除去手法を開発する。

研究の現状

(1)進捗状況

(副課題1)噴火現象の定量的監視技術の開発

降灰予測及び火山灰拡散予測手法に用いる噴煙の移流拡散モデルの改善を進めるとともに、既存の気象レーダーで捉えられた火山噴煙の解析を行い、それを初期値として与えることで量的降灰予測の検証を行った。気象ノイズの低減が期待される空振アレイ観測の準備段階として、異なる機種の空振計の比較観測を実施した。また、空振データを収集し観測事例の解析を行った。

(副課題2)火山観測データ処理技術の高度化に関する研究

干渉SAR解析の結果に含まれる水蒸気ノイズを補正する手法のプロトタイプを開発し、霧島山(新燃岳)の事例で検証を行った。火山性地震のタイプを客観的に分類する手法を開発し、三宅島直下の地震活動に適用した。

(2)これまで得られた成果の概要

降灰予測、火山灰拡散予測のために噴煙の移流拡散モデルの改善を進め、新燃岳噴火などの事例を用いた降灰予測の検証やアイスランドの火山噴火の事例を用いた航空路火山灰情報(VAA)の拡散予測の拡張を行った。気象レーダーのデータを用いた火山の噴煙の検知についての研究を進め、実際の観測事例によって検知能力を明らかにした。また気象レーダーによって捉えられた噴煙の分布を初期値として与えることで移流拡散モデルによる降灰予測が改善されることを明らかにした。

空振アレイ観測に向けて異なる機種の空振計の比較観測を実施し、気象庁が使用している空振計について振幅及び位相特性等の基本的な情報を把握した。

干渉SAR解析の結果に含まれる水蒸気ノイズを、数値予報GPV(格子点値)から算出した大気遅延量によって補正する手法のプロトタイプを開発し、新燃岳噴火前後の解析結果などに適用した結果、水蒸気に起因すると考えられる大気遅延誤差が小さくなることを確認した。

火山性地震のスペクトル的性質からその波形タイプを客観的に分類する手法を開発し、三宅島直下の地震活動が、3つのタイプに分類できること、ごく小規模な噴火の直前にタイプが変化していくことを明らかにした。


(副課題1)噴火現象の定量的監視技術の開発

  • 気象レーダー(長野、種子島、福岡、鹿児島空港)による浅間山、桜島及び新燃岳の噴煙エコーデータを収集・分析した。2009年桜島の爆発543例の検知率を調査した結果、噴煙高度2400m以上の爆発噴煙5例はすべて検知され、噴煙高度が低くなるにつれ検知率は低下すること、低下の割合はレーダーの走査パターンから推測されるものにあっており、走査頻度を増せば小規模な爆発も検知可能なことが分かった。レーダーによって観測される爆発噴煙の平均的な構造を求め、噴煙上昇に伴う火山灰粒子の大気中での振る舞いを推測した。2011年新燃岳の連続的な噴火に対して、レーダーのエコー頂から噴煙高度の細かな時間変化が観測できることを示した。2009年浅間山や2011年新燃岳噴火で観測された噴煙エコー頂高度を降灰予測の初期値へ適用した。
  • メソスケール版移流拡散モデルによる2009年浅間山、桜島及び2011年新燃岳の降灰予報事例について、降灰量の量的予測の検証を行った。噴煙エコー頂高度を初期値に利用することにより降灰の分布主軸や予想降灰量の精度が向上すること、さらに火口周辺でも観測値と同じオーダーの降灰量を予測するには降灰量の換算方法を高分解能化することが有効であることが分かった。
  • 全球版移流拡散モデルによるVAAの拡散予測の拡張に着手した。アイスランドの火山噴火に伴う火山灰拡散予測の試行を行い、火山灰雲の分布予測でも濃度しきい値の設定が意味を持つことを示した。
  • 非静力学数値予報モデルによる2009年Sarychev Peak火山及び2008年、2011年新燃岳の噴煙-降灰シミュレーションを実行した。降灰分布に対する降水の影響と大気環境場の再現性、レーダーデータの活用が重要であることを確認した。
  • 陸域観測技術衛星ALOSに搭載されたパンクロマチック(可視光域)立体視センサーPRISMのデータによって北方領土の火山を含む、全国の活火山における噴気活動の規模を評価し、既存の観測では火山の熱的状態について情報が得られていない火山についても噴気活動の有無とその規模を評価することができた。PRISMによって計測できた噴気活動の規模と過去約40年間の噴煙による放熱率観測結果とを比較し、PRISMによって火山の熱的活動を評価できることが分かった。
  • 桜島において、各種の空振計の同時比較観測を実施し、現在気象庁がルーチンで使用している空振計の振幅及び位相特性等の基本的な情報を把握した。
  • 過去の様々な火山における噴火に伴う震動や空振データを整理し、様々な噴火タイプについて、空振と地震動規模の関係を整理し、震動及び空振から噴火強度を推定する手法を開発した。
  • 新燃岳噴火に伴う空気振動データから、2010年の水蒸気爆発に伴う空気振動が、噴煙が大気に突入することによって励起されることで定量的に説明可能であることを明らかにした。そこでは、前述の空振計比較観測結果を利用した。
  • 2011年の新燃岳噴火に伴う震動・空振波形を解析し、1月26~27日の準プリニー式噴火の震動・空振規模が、2010年の小規模噴火より1桁大きく、2000年8月の三宅島噴火とほぼ同等かやや小さい規模であったことを明らかにした。

(副課題2)火山観測データ処理技術の高度化に関する研究

  • 干渉SARの水蒸気ノイズ補正処理方法を検討し、補正処理に必要な高解像度非静力学モデルによる数値予報GPVの作成環境を構築した。
  • 前述の高解像度数値予報GPVから大気遅延量を算出しSAR干渉解析に含まれる水蒸気ノイズを補正処理するためのプロトタイプを開発した。
  • 上記手法について、2011年1月の新燃岳噴火前後の解析結果などに適用した結果、水蒸気起因と考えられる大気遅延誤差が小さくなることを確認した。
  • 火山性地震のスペクトル的性質からその波形タイプを客観的に分類する手法を開発した。三宅島直下の地震活動に客観的分類手法を適用すると、3つのタイプに分類でき、ごく小規模な噴火の直前に「高周波地震」から「やや低周波地震」へと波形が変化していくことを明らかにした。
  • 桜島のC型微動に伴う超低周波音を解析し、C型微動は火口直下ごく浅部で発生し、超低周波音は昭和火口から射出されること、超低周波音の励起率は爆発地震あるいはBL型地震発生後、時間とともに減少することを明らかにし、大気にオープンな共鳴体が収縮・閉塞していく過程を見ている可能性を示した。
(3)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)
  • レーダーによる火山噴煙解析については、当初、桜島の噴煙を対象として種子島の気象レーダーのデータを用いる計画だったが、研究期間中に2011年新燃岳噴火が発生したため新燃岳も解析対象とすることとし、福岡気象レーダーおよび鹿児島空港気象レーダーのデータも収集して分析を行っている。
  • 気象庁地震火山部からの要請に基づき、移流拡散モデルによる降灰予測に加え、VAAのための火山灰拡散予測を拡張する技術開発も研究内容に追加し新規に開始した。
  • 2011年1月に始まった新燃岳噴火に対応するため、予定していた桜島での空振アレイ及びSO2カメラの試験観測を延期した。今後、空振アレイ観測の準備として、特に規模の大きい空振を伴う噴火を対象として絶対気圧計を用いた比較観測を改めて行い、空振計による音圧と気圧変化の違いを明らかにする予定である。
  • 干渉SARの水蒸気ノイズ補正処理方法については、当初標高差から経験的にノイズを除去する手法で着手する予定だったが、数値予報GPVを利用する環境が速やかに構築できたため、初年度から数値予報GPVを用いた補正手法の開発に取り組んだ。
(4)成果の他の研究への波及状況

SAR干渉解析における数値予報GPVを用いた水蒸気ノイズ補正処理手法については、重点研究「地殻変動観測による火山活動監視評価と噴火シナリオの高度化に関する研究」(平成23~27年度)において活用を開始する予定。

2.今後の研究の進め方
  • 気象レーダーによる噴煙の動力学的研究において、既存レーダーを活用した噴煙検知能力の把握については当初の目的を概ね達成しており、今後、噴煙観測用の可搬型レーダーを展開して、降灰及び火山灰拡散予測の初期値に利用可能な観測システムの構築を進めたい。
  • 降灰及び火山灰拡散予測の高度化については想定どおりの成果を得られつつあるが、レーダーデータや非静力学モデルによる噴煙の動力学的研究の成果を利活用し、より大きな噴火や連続的な噴火など種々の噴火様式に対する検証を進めたい。
  • 空振、SO2観測についてはこれまで準備を進めて来ており、今後本格的な研究観測に取り組む予定である。
  • SAR干渉解析に含まれる水蒸気ノイズ補正処理については、新燃岳の事例から水蒸気に起因する一定の大気遅延誤差軽減を確認できたが、今後、他の活火山の解析事例への適用などにより、その効果を点検する。

3.自己点検

(1)到達目標に対する達成度

一部当初計画からの変更はあったものの、順調に進捗している。

(2)研究手法の妥当性

2011年1月の新燃岳噴火は、近年国内ではほとんど類を見ない噴火であったが、これに関する気象レーダー、SAR、空振、可視及び熱赤外画像、火山灰などのデータを収集し、それらのデータを用いた解析、これまでに開発してきた手法の検証などを進めた。当初の計画にないものでも研究に有用なデータは積極的に収集しており、研究手法は妥当である。

(3)成果の施策への活用・学術的意義
  • 気象レーダーの噴煙検知能力を系統的に初めて明らかにでき、これは気象レーダーによる噴煙観測の基礎となる。
  • 火山灰の拡散予測に関して、各種開発を行いその一部は、平成22年7月から試験提供が開始された定時拡散・降灰予測図等、航空路火山灰情報業務に活用されている。
  • 研究成果の一部は火山噴火予知連絡会において報告し、活動評価に随時使用された。
(4)総合評価

2011年新燃岳噴火時の気象レーダーのデータを解析して噴煙高度の細かな時間変化が観測できることを示し、またそれを初期値に用いることで噴煙の移流拡散予測の精度が向上することを明らかにするなど、特筆すべき成果が得られている。干渉SARにおける大気遅延量補正に数値予報GPVを用いる手法の有効性が示され、今後さらなる手法改善が期待できる。

このように順調に成果がもたらされており、目標としている成果の達成が十分に期待できる。また、研究開発を行っている観測手法、解析手法は気象庁における火山監視などに今後の活用が大いに見込まれるものである。本研究を継続して遂行していく意義は大きい。



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