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気象研究所研究開発課題評価報告

全球大気データ同化の高度化に関する研究

事前評価

評価年月日:平成23年2月7日
  • 副課題1:データ同化手法の高度化に関する研究
  • 副課題2:衛星データ同化技術の高度化に関する研究

研究期間

平成23年度~27年度

事前評価の総合所見

pdfファイル:103KB

1.研究の動機・背景

ゾンデ観測をはじめとする直接観測データや衛星観測データなどの様々な観測データの情報を数値予報モデルに取り込み、高精度の初期値を作成する過程を「データ同化」という。これは、高精度の解析場(環境場)を作成するとともに、数値予報モデルの予報精度を大きく左右する重要なプロセスである。世界の主要な数値予報センターでは、データ同化技術を高度化し、多種多様の新しいリモートセンシングデータや衛星観測データを数多く同化して、数値予報の精度を飛躍的に向上させている。

近年、衛星観測データは、その種類・量とも急激に増加している。そのため海外の数値予報センターでは研究機関や衛星データ作成機関と密接に連携して開発体制を大幅に拡充している。一方、気象庁においては、全球大気データ同化はこれまで専ら予報部数値予報課で開発が行われ、気象研究所は関与してこなかった。現状では欧米の数値予報センターに比べて、利用している衛星データの種類・量の面で大きく差をつけられていると同時に、様々な新しい観測データを同化するために必要なデータ同化手法自体の高度化も遅れている。

そこで、気象研究所においても数値予報課と連携しながら、数値予報課の全球大気データ同化システムを導入し、台風研究部と気象衛星・観測システム研究部が協力して全球大気データ同化の高度化に関する研究を実施する。研究実施に際しては、数値予報課の開発計画と調整しながら、効率的に進める。これにより、現業数値解析予報において、熱帯気象をはじめとする全球的な環境場の解析精度の向上と、台風予報を含む全球的な予報成績の向上に大きく寄与することができる。平成22年度は、その準備としてフィージビリティスタディを行い、感度ベクトルによるデータ同化、非晴天域(雲・降水域)の衛星輝度温度データの同化、多チャンネルサウンダの主成分分析を用いた同化等について、秋季気象学会(京都)にて発表をおこなった。なお、領域データ同化とは、理論的には共通する部分があり可能な範囲で協力しながら進めるが、実装の面では共通する部分は少ないため、全球大気データ同化を独立した研究計画とする必要がある。

2.研究の概要

2.1 全体の概要

現業のデータ同化手法で用いられている様々な単純化の仮定を再検討して最適化を図り、また、観測データのもつ情報を最大限利用するための研究を行う。数値予報課のデータ同化実験システムを導入して、様々な観測データのインパクト試験を実施し、その同化方法を検討する。衛星データ同化では、多チャンネルのサウンダの観測情報を損なわずに効率的に同化する方法を開発する。また、現在同化していない雲域・降水域及び陸域の放射輝度温度データの同化手法を開発することにより、特に水蒸気の環境場の解析精度を向上させる。さらに、新規衛星に搭載予定の雲レーダー、降水レーダーなどのアクティブセンサーによるデータの同化技術を開発する。

2.2 副課題ごとの概要

(副課題1)データ同化手法の高度化に関する研究

1.(データ同化手法の高度化

  • データ同化に必要な誤差共分散行列を最適化するため、同化理論から要請される関係を厳密に適用するデータ同化実験を行う。
  • 4次元変分法での、データ同化ウインドウ(時間幅)拡張と、モデルの予報誤差を考慮した方法の試験を行う。
  • アンサンブルカルマンフィルタや粒子フィルタなどの手法を開発する。

2.(観測情報の利用拡充のための研究

  • 現在、観測データを間引いてゼロとみなしている観測誤差相関を適切に考慮する。
  • 感度解析により、解析精度を向上させる仮想的な観測データ網の構築を試みる。
  • 水物質に関する情報をもつ非晴天域輝度温度データなどの直接同化に必要な同化システムの拡張を行う。

3.(特別観測データのインパクト試験による性能評価

  • 特別観測データを利用して、そのインパクト試験や感度解析を行う。
  • 台風の初期場を精度良く解析する手法・データ利用法の研究と、高分解能全球モデルによる予報実験を行う。

(副課題2)衛星データ同化技術の高度化に関する研究

1.(高度な衛星データ同化手法の開発

  • ハイパースペクトル赤外サウンダの放射輝度温度を効率的に同化するための同化手法を開発する。
  • 赤外サウンダと同時に観測されるマイクロ波サウンダを複合利用する研究を行う。
  • チャンネル間の誤差共分散行列の適切な推定方法を研究する。

2.(雲域・降水域及び陸域での放射輝度温度同化技術の開発

  • ハイパースペクトル赤外サウンダの雲域での輝度温度を同化する。
  • 静止衛星の雲域赤外輝度温度を同化する。
  • マイクロ波センサの雲域・降水域及び陸域での輝度温度を同化する。

3.(アクティブセンサーによるデータの同化技術の開発

  • 新規衛星搭載予定の雲レーダー・降水レーダーのデータの同化技術を開発する。
  • 衛星打ち上げ前のシミュレーションデータを使用した同化実験を検討する。

3.研究の成果の到達目標

3.1 全体の到達目標

本研究は、現業数値予報の全球大気データ同化システムの改善を目的とする研究課題であり、できるだけ多くの研究成果を現業数値予報システムに業務化して解析・予報精度の向上に寄与することを目標とする。予報精度向上のみならず全球の環境場の精度向上、特に熱帯域の環境場・台風域の解析精度向上に寄与し、気候解析への応用も期待される。

3.2 副課題ごとの到達目標

(副課題1)データ同化手法の高度化に関する研究

  • 観測誤差共分散行列・予報誤差共分散行列を最適化することにより、観測データの分布状況や精度に対応したデータ同化を行う。
  • 4次元変分法で、より多くのデータを同時に同化するためのデータ同化ウインドウの拡張と、モデルの誤差を考慮した方法(弱い拘束条件)により、精度を向上させる。
  • 観測誤差相関を適切に考慮して、既存の観測データの持つ多くの情報を有効に利用する。また、解析精度を向上させるための観測データの利用方法を改善する。
  • 雲域・降水域及び陸域の輝度温度データの直接同化に必要な同化システムの拡張を行う。
  • 特別観測データや台風ボーガスデータを利用して、そのインパクト試験や感度解析を行い、熱帯擾乱を精度良く解析して予報精度を向上させる。

(副課題2)衛星データ同化技術の高度化に関する研究

  • 数千チャンネルあるハイパースペクトル赤外サウンダの放射輝度温度の情報を損なわずに効率的に同化するため、主成分分析を用いた同化手法を開発する。
  • 現在の現業システムで同化している衛星の放射輝度温度データは、海上の晴天域に存在するデータのみであるため、モデルに与える情報として不十分であり偏りもある。雲域・降水域及び陸域に存在する輝度温度データを同化して、バランスの良い環境場を解析して予報初期値の精度を向上させる。
  • 衛星搭載のアクティブセンサー(雲レーダー・降水レーダー)によるデータの同化技術の開発により、海洋上の積雲対流域や強雨域などを正確に把握する。
  • 衛星打ち上げ前の模擬データを使用した観測データ同化シミュレーション実験(OSSE:Observing System Simulation Experiment)により、衛星打ち上げ後の速やかな利用を可能とすることを目指す。具体的には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げ予定のEarthCARE衛星やGPM衛星等を対象とする。

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