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気象研究所研究開発課題評価報告

温暖化による日本付近の詳細な気候変化予測に関する研究

終了時評価

評価年月日:平成23年2月6日
  • 副課題1:温暖化予測地球システムモデルの開発
  • 副課題2:精緻な地域気候モデルの開発

研究代表者

野田彰(気候研究部長(平成17年度~18年度))、鬼頭昭雄(気候研究部長(平成19年度~21年度))

研究期間

平成17年度~21年度

終了時評価の総合所見

pdfファイル:98KB

研究の動機・背景

わが国における地球温暖化対策を推進するため、特に、水資源、河川管理、治山・治水、防災、農業、水産業や、保健・衛生などの分野など気候の変化に敏感で脆弱な分野を考慮した温暖化予測情報を提供できるよう、地域的温暖化予測を総合的に行う数値モデルを開発し、日本付近の地域気候変化予測を行う。

研究の成果の到達目標

融合型経常研究により開発している炭素循環モデル、エーロゾル化学輸送モデル、オゾン化学輸送モデルなどの各種物質輸送モデルを大気海洋結合モデルに取り込んだ「温暖化予測地球システムモデル」(以下「地球システムモデル」)を開発する。また、わが国特有の局地的な現象を表現できる分解能を持った精緻な地域気候モデル(雲解像地域気候モデル)を開発して予測の不確実性を低減し、各種施策の検討に必要となる空間的にきめ細かな予測を行う。

研究結果

(1)成果の概要

地球システムモデルを開発した。また、精緻な4kmメッシュ非静力学地域気候モデル(NHRCM)を開発した。地球システムモデルを用いた温暖化予測実験を行い、その実験結果を境界値とし、4kmメッシュNHRCMにより空間的にきめ細かな予測を行った。

(副課題1)温暖化予測地球システムモデルの開発

新しい大気海洋結合モデルMRI-CGCM3を開発し、それに炭素循環モデル、エーロゾル化学輸送モデル、大気化学気候モデル(オゾン化学輸送モデル)を組込んだ地球システムモデルを開発した。これにより、地球の気候システムを構成する気候要素(大気、海洋、陸面、雪氷、生態)間の物質交換と輸送を取り扱うことができるようになり、温室効果気体やエーロゾルの排出シナリオから直接温暖化予測を行うことが可能となった。このモデルを用いて、温室効果気体やエーロゾルの排出量を与えた温暖化予測実験を行い、モデルの精度評価と予測結果の解析を行った。以下、モデル開発の詳細を記す。

モデル統合

  • 次期IPCC-AR5への寄与をも考慮し、世界トップレベルの性能を目指すべく、大気モデルの水平解像度をTL159(約110km)、海洋モデルを1°×0.5°の3極(tripolar)座標とした。最新の精緻化されたエーロゾル化学輸送モデル、大気化学気候モデルは計算コストが大きいが、開発したカップラーScupによって異なる解像度で結合可能とし、地球システムモデルとして効率的に動作するように開発した。これを用いた基準実験では気候および各種物質循環についてほぼ満足すべき現在気候の表現性能が確認された。
  • 気候モデルにおいて、取り扱う物質の厳密な保存性が重要である。そこでまず水収支を常時監視する仕組みを組み込み、大気、海洋、陸面(河川、氷床含む)で厳密な保存性の確認と移動量の把握ができるようになった。この仕組みは将来、他の物質についても拡張可能となっている。

大気モデル関連

  • 地球システムモデルの基本となるコンポーネントである大気モデル(GSMUV)について、新スキームの導入および様々な改良を行った。
  • 新積雲対流スキームの導入
    emsp;新しいマスフラックス型積雲対流スキームの開発を行い、大気モデルに組込んだ。このスキームでは、最大および最小のエントレインメント率を持つ二つの積雲プリュームを精緻に計算し、その中間のエントレインメント率を持つ積雲アンサンブルの効果も補間的に計算して表現している。積雲上昇流(アップドラフト)では組織的エントレインメント・組織的デトレインメント・乱流エントレインメント・乱流デトレインメントを考慮している。積雲の背の高さ別にCAPEの大きさを求めマスフラックスを決定するクロージャー仮定を用いている。また、積雲下降流(ダウンドラフト)の表現、積雲による水平運動量輸送の気圧傾度力なども精緻に取り扱っている。鉛直輸送に保存性のあるセミラグランジュ法を使用するなど各所に独自性を備えている。
    emsp;エーロゾルモデル・オゾンモデルとの結合への対応として、積雲による輸送計算に必要なエントレインメント・デトレインメント等の情報をScup経由で渡すようになっている。また、新しい雲スキームへの対応として、積雲スキームの中で雲水と雲氷を独立した予報変数にするオプションを用意した。
  • 2モーメントバルク雲スキームの導入
    emsp;エーロゾル-雲相互作用を表現し、エーロゾルの直接効果・間接効果を精緻に表現するため、雲粒数・雲粒の有効半径に依存する雲スキーム・雲放射スキームを新たに導入した。同種であっても異なる半径のエーロゾルが核となる雲粒の数を正確に評価するためのビン法を開発し、ダストと海塩が核となる雲粒に対して導入した。雲粒の有効半径に関してはTakemura (2005) 層積雲用から拡張したLiu (2006)を組み込んだ。エーロゾルの数密度の湿度依存性に関してChin (2001)による方法(エーロゾルが溶解しない仮定)とK?hler理論にもとづく方法(エーロゾルが完全に溶解すると仮定)と2種類組み込んで比較した。以上のスキーム開発により、エーロゾル自身による放射強制力およびエーロゾルを核とする暖かい雲による放射強制力・エーロゾルに依存する雲水-降水変換率を定量的に評価できるようになった。
    emsp;この雲スキームを用いて雲および放射分布と雲の温暖化へのインパクトを解析した。大気上端の放射収支は全球平均・帯状平均で見た場合、よく再現されている。乱流風速の小さい自由大気中ではエーロゾルの活性化が弱いため、従来のモデルに比べて雲量が少なくなる傾向があることがわかった。
  • 新陸面モデルの開発・導入
    emsp;陸面モデルは、これまでsimple biosphere (SiB, Sellers et al. 1986; Sato et al. 1989)に土壌3層化などの改良をしたSiB0109を用いてきたが、積雪と土壌について任意の層数をとることを可能とし、さらに格子内の複数植生(モザイク植生)を取り扱い可能とする新しいモデルHAL(Hosaka, in preparation)を開発し導入した。
  • 海面過程の改良
    emsp;大気モデル海面過程にスラブ海洋モデルを組み込み、気候感度の評価等が容易に計算可能とした。海氷過程に簡易的な海氷厚分布(格子内での海氷厚の不均一性)を考慮することにより、大気海洋結合モデルにおいて海氷分布の再現性、長期積分におけるドリフトをある程度制御できるようになった。また、海面スキン(表皮)層を簡易な方法で導入し、日変化等の短い時間スケールの海面表皮温度の変化と積雲対流等との相互作用が表現可能となった。
  • 大気化学気候モデルとの結合に適合するように大気モデルの鉛直レベルの検討を行い、新しい鉛直構造を選定した。鉛直層の数を48、モデルトップを0.01hPaとして、上部成層圏まで十分に表現可能とした。
  • 大気モデルの解像度によらない河川モデル、ならびに湖スキームを導入することにより水循環表現の高度化をおこなった。
  • 大気境界層過程の改良
    emsp;境界層スキームは、Mellor and Yamada (1974,1982) (MY)で提唱された乱流モデルであり、2次クロージャーモデルである。これにNakanishi (2001), Nakanishi and Niino (2004, 2006) (MYNN)を参考に、クロージャー定数と混合長の評価を変更した。MYNNは、Large Eddy Simulation (LES)の結果を用いてクロージャー定数の見直しを行い、MYでは無視していた浮力の効果を表す項と風速シアーの効果を表す項を導入した。

海洋モデル関連

  • 全球海洋モデルにおいて地理座標をモデル座標とした場合の北極点での特異性を回避するために、まず、モデルの極を(75N, 40W)と(75S, 140E)に移動した球座標系による全球海洋モデルを開発した。しかしながら、極移動した球座標系による全球海洋モデルには、①極付近の格子点集中による計算効率の低下、②モデル赤道と地理赤道の不一致、という問題がある。そのため、ジューコフスキー(Joukowski)変換によって生成される座標系を用いた全球海洋モデルを開発した。このジューコフスキー変換によって生成される座標系は、①全領域で比較的一様な解像度を実現できる、②モデル赤道と地理的赤道とのずれが小さい、③地理座標に変換せず物理量の分布を概観できる、などの点で極移動した球座標系に比べて優れている。最後に、3極(Tripolar)座標を使用した全球海洋モデルを開発した。この座標系のモデルにより、北極点での特異性を回避し、かつジューコフスキー変換によって生成される座標系の1.2倍程度の計算コストで北極海の数倍の高解像度化が可能であることを確認した。また、3極座標ではベーリング海峡以南は地理座標と一致するため、ジューコフスキー変換によって生成される座標系と比較して取り扱いが容易である。以上のことから、地球システムモデルでは、海洋モデルに3極座標を用いることとした。
  • 水平解像度に関しては、水平分解能1×1度、低緯度で緯度0.3度としてテストランを行ない、海氷も含めて順調な結果が得られた。次に、1×0.3度の格子で海洋単体ランを行った結果、黒潮の日本海への流入を抑制でき、低解像度(1度以上)版で生ずる日本海の昇温バイアスは改善された。一方、黒潮が房総沖で離岸せず低解像度におけるよりも高速で北上するため、三陸沖の昇温バイアスはむしろ増大することがわかった。このことから、地球システムモデルで用いる海洋モデルの解像度は1×0.5度が適当であると判断し、これを採用することとした。
  • 海洋モデル(MRI.COM)に任意の個数の受動的トレーサを置き、各瞬間の3次元的な流速場に乗って移流拡散させることが可能となった。任意の初期状態の設定も可能である。移流過程・拡散過程の標準形式及びオプションは能動的トレーサ(水温・塩分)とまったく同じである。生成・消滅項は各トレーサごとに別々に与えなければならないが、種々の化学物質などの移流拡散過程を一括して扱えるようになった。
  • 海洋モデルにおける物質拡散・粘性スキームを改良し、渦拡散パラメタリゼーショ ンにおける非等方性を表現することを可能にした。
  • その他、従来は陸面モデルで湖とされていた黒海を海洋モデルで扱うようにした。また領域別海面フラックス等の診断ツールを整備した。
  • 気候の変動性と予測可能性に関する研究(CLIVAR)のモデルパネルである海洋モデル開発ワーキンググループ(WGOMD)で、温暖化実験で用いられる海洋モデルには実行することが国際的に推奨されているCORE(Coordinated Ocean Reference Experiments; Griffies et al., 2009)に準拠した実験を行った。適切な外力を与えるとき、北大西洋子午面循環や南極周極流などの主要な海洋循環を現実的な範囲で再現可能であることを確認した。また、予備的に行われた結合実験の結果と比較したところ、結合モデルの海洋では亜熱帯循環・亜寒帯循環境界が低緯度側へシフトする傾向が見られた。海洋にとっての外力である海面西風応力の位置が現実よりも南偏していることがこの原因と考えられる。

エーロゾルモデル

  • 改良版エーロゾルモデルMASINGAR-mk2を大気モデルGSMUVとカップラーScupによって結合することができるよう開発した。また、オゾンモデル(MRI-CCM)との間もScupによりオンラインで結合することができるよう開発し、エーロゾル微量気体の相互作用を含む数値実験も実行可能となった。

大気化学モデル

  • 気象研究所成層圏オゾン化学気候モデル(MRI-CCM)に、カップラー(Scup)を組み込み、最新の大気モデル(GSMUV)とMRI-CCMがScupを用いて相互作用を伴い結合できるようにする開発をおこなった。計算機資源節約のためMRI-CCM と大気モデルGSMUV間の結合を空間解像度が異なる場合でも対応できるようにした。また、MRI-CCMの高速化も行った。
  • さらに、大気化学気候モデルにおいて詳細な対流圏化学反応過程の導入をおこなうことで、オゾンのみならずメタンの詳細な化学過程を取り入れ、対流圏の予測を可能とした。
  • 新たに組み込んだ対流圏大気化学過程の再現性を評価するために、現在気候の再現実験を行いさまざまな観測値との比較を行った。その結果、モデルで再現された対流圏オゾン濃度は高緯度域において若干のバイアスがあるほかは全球的に観測と良い一致を示し、その季節変動も現実的なものであることがわかった。また、21世紀後半まで行った長期シミュレーションにおいては、オゾンホールが1980年代のレベルに回復する時期が約2060年ごろであるという結果となっており、他の世界的な研究機関において示された予測時期と整合的な結果となった。

陸域炭素循環モデル

  • 陸域炭素循環モデルの感度実験として、大気二酸化炭素増加による光合成促進効果(施肥効果)を除去した場合、21世紀の大気二酸化炭素増加と温暖化は従来の3割増しとなり、陸域生態系の表現の不確かさが温暖化予測に大きな影響を与えることが明らかになった。
  • 気候炭素循環モデルを用いて、氷期終了以降の環境激変(北大西洋への氷床融水流入)に対する気候炭素循環系の応答の解析を行った。その結果、北大西洋熱塩循環の弱まりによる北半球の寒冷化で陸域生態系が衰退し、これが古気候記録に見られる大気二酸化炭素微少増加(10ppm未満)の原因であることが明らかになった。
  • 気候炭素循環モデルを用いて、将来の化石燃料炭素排出実験に基づいて北大西洋への淡水流入実験を実施した。その結果、北大西洋熱塩循環停止による寒冷化は、高濃度の大気二酸化炭素による温室効果で実験開始200年後にはほぼ解消された。炭素循環については、陸域生態系の衰退よりも、海洋の深層への輸送の弱まりによる炭素吸収の減少が顕著となり、大気二酸化炭素は淡水流入無しの標準実験に比べて増加した。これら一連の淡水流入実験により、通常は相関の良い気温と大気二酸化炭素濃度が時として逆相関(寒冷化と二酸化炭素増加)を示すしくみが明らかになった。
  • 陸域生態系炭素循環過程モデルの高度化を行った。気候変動に対する陸域生態系の応答をより正確に表現することを目的として、特に純一次生産(植物による正味の大気からの二酸化炭素吸収)に関する部分について、観測経験式により簡略に表現していた従来の方法を一新し、生物化学の見地から葉の光合成における酵素、光、気孔のはたらきを考慮した精緻なモデルを開発した。このモデルを大循環モデル(CGCM2)に組み込み、純一次生産や葉面積指数を全球規模でほぼ再現することを確認した。これにより、気温が大きく上昇した気候において、植物の光合成より呼吸の増大が卓越し炭素吸収が抑制される効果が表現できるようになった。
  • 陸域生態系の炭素循環について植物の生理(酵素や気孔の働きによる光合成等)や動的植生を表現する世界水準へ高度化したモデル(陸域生態系炭素循環モデル)を地球システムモデル(MRI-ESM, MRI-CGCM3)へ組み込んだ。
  • 陸域生態系炭素循環モデルに対して地球システムモデルの予め計算された気候場を与えた非結合実験を行い、モデルの植生分布や炭素循環の各要素(純一次生産、植生・土壌の炭素量等)がほぼ再現されることを確認した。
  • 陸域(高度化版)及び海洋の炭素循環モデルを従来の大気海洋結合大循環モデル(MRI-CGCM2)へ組み込んだ気候炭素循環モデルを用いて、古気候の事例(暁-始新世高温期)に関連した大気メタン急激増加時の実験を行い、気候炭素循環系の応答を解析した。その結果、メタンの激しい温室効果による高温化(全球で6℃上昇)が再現され、その高温障害により低緯度を中心として陸域生態系が急激に衰退する(全球で3割減)等、従来の21世紀温暖化予測を凌駕する環境激変であることが明らかになった。

海洋炭素循環

  • 生物化学過程をモジュール化して海洋モデル(MRI.COM)に組み込み、海洋炭素循環モデルを構築した。海面フラックス駆動の海洋単体モデルで物理場をスピンアップした後、一様な化学トレーサ場を初期値として100年間の炭素循環シミュレーションを行い、おおむね妥当な結果を得た。

氷床モデル

  • グリーンランド氷床モデルを作成した。氷床は気候モデルが扱う現象と時間スケールが大きく異なるため、地球システムモデルへの組込みはオンラインの結合でなく、境界値ファイルを介して行うこととした。

カップラー

  • 地球システムモデルの複数のコンポーネントモデルを結合する目的で汎用カップラーScup(Simple coupler)の開発を行い完成した。Scupは、地球システムモデルの複数のコンポーネントモデルを結合する目的で開発された汎用カップラーである。「大気モデル(GSMUV)」と「海洋モデル(MRI.COM)」、「大気化学気候モデル(MRI-CCM)」、「エーロゾルモデル(MASINGAR)」を柔軟かつ効率的に結合することができる。欧州では汎用カップラーOASIS3, OASIS4が開発されているが、高機能であるが故に極めて複雑な構造となっている。ScupはOASIS3, OASIS4を参考としつつも、気象研究所のモデル群とスーパーコンピューター・システムに良く適合し、簡潔で使い易い機能を目指した。所内ウェッブを開設し、最新情報の共有化を容易にした。
  • カップラーScupにコンポーネントの機能を追加し、モデル内の複数のコンポーネント(例えば大気と河川)がそれぞれ別の時間ループ・タイムステップを持つ場合に対応可能にした。

(副課題2)精緻な地域気候モデルの開発

わが国特有の局地的な現象を表現できる精緻な4kmメッシュNHRCMを開発した。4kmメッシュNHRCMの下部・側面境界条件に用いる領域大気海洋結合モデルの高度化を行った。温暖化予測地球システムモデルを用いた温暖化予測実験の結果を境界値として、雲解像地域気候モデルにより、関東甲信越地方を対象に空間的にきめ細かな予測実験を行い、モデルの精度評価と予測結果の解析を行った。その詳細を以下にまとめる。

精緻な地域気候モデルの開発

  • 気象庁で開発・運用されている非静力学モデルをベースに、長期積分が可能な4kmメッシュの地域気候モデル(雲解像地域気候モデル)を開発した。領域は関東甲信越地方に設定した。
  • モデルには雲物理過程が組み込まれ、陸面過程には植物圏モデル(SiB)を用い、地表面付近の大気状況の表現の改善が見込まれるとともに積雪・土壌水分量などの予測も可能である。
  • 4kmメッシュ雲解像地域気候モデルの精度評価のために、客観解析を境界条件とした長期積分を2001年8月から2006年9月までを対象に行い、結果を解析した。月降水量、平均、最高、最低気温などは年間を通じてよい再現がされること、降水3時間降水強度の頻度も、よく再現されることが確認された。
  • 4kmメッシュ雲解像地域気候モデルの計算結果および国土交通省の観測データを比較しながら解析し、観測データから山岳における夏季の降水が標高とともに増加する傾向があること、雲解像地域気候モデルはこの特性をよく再現していることを明らかにした。
  • 4kmメッシュ雲解像地域気候モデルを地球システムモデルにネスティングし、現在気候再現計算、温暖化予測計算を行うシステムを整備した。
  • 4kmメッシュ雲解像地域気候モデルで、全球気候モデルにネスティングした現在気候再現実験を実施し、結果の解析を行った。その結果、冬季については、ほぼよい結果が得られたが、夏季については降水量が過大であった。また気温についても低温傾向が見られた。このようなバイアスは地球システムモデルのバイアスを引き継いでおり、この改善のためには地球システムモデルを含めたシステム全体の検討が必要であることが解った。
  • 4kmメッシュ雲解像地域気候モデルを全球気候モデルにネスティングし、約30年後を対象に、関東甲信越地方について温暖化予測を行い、温暖化による気候変化の検討を行った。

領域大気海洋結合モデルの高度化

  • 境界からのノイズが北海道・関東地方に影響を与える問題を解決するために、計算領域の拡大をおこなった。この結果、ノイズが日本の陸地にかかることは無くなり、計算精度が向上した。
  • 冬型が系統的に弱く計算される問題に対応するために、20kmメッシュ大気モデルの外側境界条件を与える60kmメッシュ大気モデルの計算領域を広域化した。
  • 大気モデルの領域の広域化とともに、スペクトル境界結合(SBC法)のチューニングを行い、全球気候モデルの結果が、より強く反映されるようにした。これにより大規模場については全球気候モデルの結果が以前より忠実に再現されるようになった。
  • 従来のモデルでは雲を多めに診断しているため、地上気温の日較差が観測よりも小さく、また海面水温にも影響している可能性が考えられる。そのため、雲量換算のチューニングを行った。また、地上気温のバイアスを補正するために、陸面過程モデルの改良を行った。
  • 日本海北部における海面水温の高温バイアス解消のため、熱フラックスバルク式で、海面水温が海上気温より高い場合に風速を増すことにより、海洋から大気への潜熱・顕熱フラックスを増加させた。これは、重力不安定による対流がおこったときに、風の収束が起きることを模したものである。これにより、3月の日本海北部における海面水温は最大3℃程度低下した。
  • 領域大気海洋結合モデルの並列化性能を改善し、計算速度を向上させた。
  • 領域大気海洋結合モデルの海洋部分については、日本周辺を0.1度(緯度・経度)に高解像度化した海洋モデルを開発し、海洋モデル単体でJRA-25を大気強制として再現実験を行ったところ、黒潮大蛇行の発生のタイミングなどは観測と必ずしも一致しないものの、黒潮流路などに改善が見られることを確認した。また日本海のSSTの年々変動も観測とよく一致している。
  • 日本周辺を0.1度(緯度・経度)に高解像度化した海洋モデルによる海面水温を用いて、20kmメッシュの地域気候モデル(RCM20)による1985年~2004年までの20年間の連続積分を行い、高解像度の海面水温が日本周辺の気候に与える影響を調べた。その結果、黒潮の大蛇行、非大蛇行期の海上と日本列島沿岸部での大気場の対流活動の違いが明確に現れ、黒潮上での対流活動は強化されることが確認された。また、対馬暖流が日本列島の日本海側の降水に影響を及ぼしていることも示唆された。
  • 地球システムモデルの結果と高解像度の海面水温を用いて、約30年後を対象に、RCM20により温暖化予測を行い、温暖化による気候変化の検討を行った。疑似温暖化手法を用いた場合、疑似温暖化時には強い雨の頻度が増加する傾向があることが示された。RCM20の結果を、4kmメッシュ雲解像地域気候モデルを用いてダウンスケーリングし、温暖化時の結果の検討を行った。4kmモデル結果では現在気候実験で降水量が過大に見積もられるなど、まだ改良の余地が残っているものの、気候場の細かい地形の影響などがより明瞭に現れた。
(2)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)

なし

(3)成果の他の研究への波及状況

本研究で得られた成果は、文部科学省による21世紀気候変動予測革新プログラムの「超高解像度大気モデルによる将来の極端現象の変化予測に関する研究」に対して有益な知見を与え、同研究の推進に寄与した。また環境省の地球環境研究総合推進費による「温暖化影響評価のためのマルチモデルアンサンブルとダウンスケーリングの研究」の推進にも寄与している。なおRCM20は地球環境総合研究推進費S-4「温暖化影響総合予測プロジェクト」において広く利用された。また、それ以外にも日本域の各種影響評価研究に、(登場時)本邦唯一の20kmダウンスケーリングデータとして活用されている(当該課題においてRCM20を使用した論文を参考のために3.3に掲げた)。

(4)今後の課題

 地域気候モデルの結果は、境界値として用いる地球システムモデル(特に全球大気モデル)における対象領域の気候再現性に大きく影響されることがわかった。本研究で開発された地球システムモデルは、日本付近の特に夏季における気候再現性において、今後改良すべき点が見いだされた。モデルを高解像度化するとともに、積雲対流、雲・放射過程、大気境界層過程などの各種物理過程を高度化し改良して、梅雨や台風などアジア太平洋域に特徴的な現象を現実的に表現し、日本付近おける気候再現性を向上させることが今後の課題である。

2.自己点検

(1)到達目標に対する達成度

研究は目標通りに達成された。ただし、開発した地球システムモデルの性能はまだ十分に満足できるレベルではなく改良の余地がある。

(2)研究手法及び到達目標の設定の妥当性

日本付近の詳細な温暖化予測を行うための手法として、全球の地球システムモデルを境界値として精緻な領域気候モデルを用いることは、目標設定時点における科学的知見の範囲では妥当であったと考えられる。ただし、到達目標については、地球システムモデルの日本付近の気候再現性について、何らかの到達目標があってもよかったと考えられる。

(3)成果の施策への活用・学術的意義

本研究で得られた成果をもとに、さらにモデルを改良して予測を行うことにより、精度の高い予測情報を提供し次回発行される気象庁温暖化予測情報に活用することができる。またそのモデルを用いて、次期国際気候モデル比較実験計画(CMIP5)に世界最先端レベルのモデルとして実験データを提供し、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の次期報告書に最も重要な科学的根拠を提供する。また、本研究で開発された地球システムモデルは、気候と物質循環の相互作用の研究にとって重要なツールとなり、これらの研究に寄与することは学術的意義が大きい。気象研究所ホームページに掲載した「地球温暖化の基礎知識」は、気象庁ホームページからもリンクされ、諸方面で活用された。

(4)総合評価

本研究の主要目標としていた温暖化予測地球システムモデル、および、わが国の気候変動予測のための4kmメッシュの地域気候モデルが開発された。前者によりCMIP5等の諸実験や、気候のみでなく地球環境の予測を行える基盤が、また後者によりわが国の各種施策の検討に必要となる空間的にきめ細かな予測を行う基盤が整った。両モデルの現在気候再現性の更なる改良により、気候変動への適応策策定に資するための気候・環境変化予測の実施に進むべきである。



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