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気象研究所研究開発課題評価報告

海溝沿い巨大地震の地震像の即時的把握に関する研究(仮称)

事前評価

評価年月日:平成21年9月18日

研究期間

平成22年4月 ~ 平成27年3月

研究代表者:

吉川 澄夫(地震火山研究部)

研究の目的

(研究目標)

海溝沿い巨大地震発生直後にその震源断層の広がりや断層のすべり分布を把握する手法開発を行うと共に、推定された震源断層の広がり・すべり分布に基づき地震動分布を推定する手法を開発することにより、巨大地震に係るいっそう適切な評価や被害把握等、災害の拡大防止等に直結する地震防災情報の提供を可能にし、国民の安全・安心に寄与する。

日本海溝・南海トラフなど海溝沿い巨大地震対策の強化、特に津波災害軽減につながる。また、災害時の救助活動の的確化が図られる。

(研究開発の背景)

8月11日に駿河湾でM6.5の地震が発生し、静岡県で震度6弱を観測するなど大きな被害が出た。この地震が東海地震の想定震源域に極めて近い場所で発生したことから、気象庁は東海地震との関連性を評価して東海地震観測情報を初めて発表する事態となった。気象庁及び地震防災対策強化地域判定会において、地殻岩石歪計の監視に基づき、地震発生に伴って生じた地殻変動以外に前兆すべりに相当する変動が発生していないかを主に評価したが、今回の地震が想定東海地震やその前兆すべりとは発生メカニズムが明確に異なっていたことから速やかに東海地震に直接結びつくものではないと判断できたと考えている。しかし、発生メカニズムが想定東海地震と同じような地震であった場合、評価は困難を極めたものとあらためて感じたところである。そのような場合でももし、震源域の拡大過程を速やかに把握できれば、歪計による監視とは別の判断材料を得ることができる。

そもそも想定東海地震と同様に甚大な被害をもたらす日本海溝、千島海溝、南海トラフなど海溝沿いで発生する巨大地震の地震像とは、震源域が広範囲に及び、それゆえ陸地に近いところで発生した場合には強い地震動や大規模津波が発生するというものである。強い揺れや津波の発生は、震源域の広がりや震源断層上のすべり分布に左右されるが、現在の技術では、これらを地震直後に把握することは困難である。これを即時的に把握する技術が開発できれば、強い揺れの精度の高い推定、津波予測の大幅な精度向上につながり、よって、被害把握・災害の拡大防止にいっそう直結する地震防災情報の提供への道が開ける。

これまでも、その技術開発の必要性については念頭にあったが、駿河湾の地震を経験し、特に力を入れて取り組むべき重要な課題であるとあらためて認識した。

研究の到達目標

巨大地震の震源域のおよその広がりを地震発生直後2~3分以内に把握できる手法を開発する。

現在の技術において、地震発生後10~20分程度で推定を行っている断層のすべりの大きさや方向について、さらに迅速(5~10分)に、かつ信頼度の高い推定結果を得られる手法を開発する。

震源域の把握の信頼度を確保するため、前述とは独立した手法として、震源域と概ね一致する余震の震源分布を地震(本震)発生後10~20分以内で把握するための震源位置決定手法を開発する。

震源断層上の大まかなすべり分布を震発生後10~20分で推定する手法を開発する。

地震観測データと震源断層上のすべり分布推定結果に基づいて、さまざまな周波数帯の地震動分布を地震発生後10~20分後に推定する手法を開発する。

研究の概要

巨大地震の震源断層の広がりとすべり分布の把握

1.1 断層の巨視的パラメータの把握

地震アレイ観測を実施して、断層破壊進行を迅速に推定する手法を開発する。

地震動の振幅分布や断層破壊進行の推定結果を用いて巨大地震の断層のおよその広がりを地震発生直後2~3分以内に把握する手法を開発する。

現在は10~20分程度で求められる地震のすべりの大きさや方向の解析(CMT解析)について、解析手順の見直しやより短周期の地震波の利用、計算結果の評価方法の最適化を通じて、処理時間の短縮(5~10分)と精度向上を図る。

1.2 余震分布からの震源断層の特徴把握

余震という地震多発の現象下であっても安定して震源位置決定ができるよう、振幅など多元的な情報に基づく地震識別手法を開発する。

それを踏まえ、地震多発時にも震源決定を行える手法を開発する。

精度の高い震源決定が困難な海域の地震については、別の手段により震源決定の精度向上を図る。

巨大地震の断層の形状やすべり分布の不均質性などの重要な情報を余震の震源分布から速やかに取り出せるよう、上記の手法を、地震発生後10~20分以内で自動処理により行えるようとりまとめる。

1.3 震源断層のすべり分布の把握

地震波形を用いて、断層の大まかなすべり分布を震発生後10~20分で求める手法を開発する。

その際、地震防災情報として必要な精度を確保しつつ処理時間の短縮を図ることとして、地震動に大きく影響するパラメータの抽出を行うことによって実現を図る。

巨大地震発生直後の地震動の把握

2.1 過去地震の地震動調査

地震の規模の違いや地形・地下構造の違いがどのように、各地の地震動に影響を与えているか把握し、地震動推定の基礎資料を得る。

過去の巨大地震について地震動記録を調査し、すべり分布と地震動の関係を定量的に把握する。

2.2 地震観測データ及びすべり分布を考慮した地震動推定

巨大地震発生直後の10~20分後を目途に、観測点において得られる地震データとサブ課題1の研究で得られる断層上のすべり分布の効果を取り入れて、従来よりも精度の高い地震動(震度を含む)分布の推定手法を開発する。

なお、長大構造物等への影響も考慮し、震度のみならず、さまざまな周波数帯での地震動を得られるように配慮する。

事前評価の総合所見

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