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気象研究所研究開発課題評価報告

東海地震の予測精度向上及び東南海・南海地震の発生準備過程の研究

事後評価

評価年月日:平成21年12月9日

研究期間

平成16年度 ~ 平成20年度

研究代表者:

吉川 澄夫(地震火山研究部長)

研究の動機・背景

1854年の安政東海地震以来約150年が経過した東海地域では、M8クラスの巨大地震の発生が懸念されており、1978年の大規模地震対策特別措置法の成立以来、地震予測のための対策がとられている。想定される東海地震の発生に関しては、2000年前後から固着域とその周辺の微小地震活動の低下、2001年初頭からのスロースリップ(プレート境界でのゆっくり滑り)の発生など、前駆現象の可能性がある地殻活動が報告されており、依然として切迫した状況が続いている。

一方、東海地震の想定震源域に隣接する南海トラフ沿いでは今世紀前半にも東南海・南海地震の発生が予測されることから、両地震に関する観測体制の整備が法律で求められており、気象庁でも観測強化を進めている。さらに、科学技術・学術審議会による「地震予知のための新たな観測研究計画(第2次)の推進について(建議)」(平成15年7月)においても、東海地域と並び東南海・南海地域の地殻活動モニタリングのための観測研究の推進と、新しい観測技術の開発が謳われている。

研究の成果の到達目標

本研究全体では、これまでの特別研究の成果を土台にして、さらに地震予知・監視業務に役立てるため地殻変動解析技術の高度化を図ると共に、数値シミュレーション領域を周辺地域へ拡大することにより東海地震の予測精度を向上させ、東南海・南海地震との連動の可能性を評価することができるよう地震発生モデルを改良する。

1)副課題1「地震活動によるプレートの詳細構造の解明」

地震発生シミュレーションモデル開発のため地殻・プレートの詳細構造を明らかにする。

2)副課題2「地殻活動モニタリング手法の開発」

地殻活動をより広範かつ詳細に観測するための新たな観測・解析手法を導入する。

3)副課題3「新地殻変動観測手法の開発」

水平地殻変動に関して、スロースリップなどの現象を的確に観測する装置を開発する。またGPS観測データを活用する新たな地殻変動解析手法を開発する。

4)副課題4「三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーション」

数値シミュレーションの対象地域を東海地域から南海トラフとその周辺域に拡大することにより、東海地震の予測精度を向上させるためのシナリオの改良を図ると共に巨大地震相互の連動性を評価できるようにシミュレーション手法を改良する。

研究結果

(1)成果の概要

フィリピン海プレートが沈み込む南海トラフの領域についての地震発生シミュレーションモデルを作成し、東南海・南海地震の発生シミュレーションを実施した。これらの地震は、プレート境界の形状やプレート間の摩擦パラメータが異なれば、地震の発生順序や破壊開始点が異なることを明らかにした。更に、東海地域において観測されている長期的スロースリップの領域やすべり量と整合的なシミュレーションモデルの開発に成功した。

新たな地殻活動モニタリング手法として、精密制御震源装置や潮位データ解析の手法を取り入れた。

精密制御震源装置からの信号の解析から、プレート境界からの反射波を含む地震波について、ミリ秒単位という高い精度で走時の時間変化を捉える事が可能になった。

東海地域の潮位の長期間の変動データの解析より、過去30年程度の間、長期的スロースリップが約10年間隔で発生しているという事を明らかにした。

長期的スロースリップ※のような長期間に渡る地殻変動も、また東海地震の前兆すべりや短期的スロースリップ※のような短期間の地殻変動のいずれも、リアルタイムに捉えることが可能な、レーザー式変位計による地殻変動観測手法を開発した。

※長期的スロースリップは、1ヶ月以上と長期間に渡ってプレート間のすべりが継続する現象であり、短期的スロースリップは約10日以内と短期間のすべり現象である。

1) 副課題1「地震活動によるプレートの詳細構造の解明」

東南海・南海地域において沈み込むフィリピン海プレートの地震活動域について、自己浮上式海底地震観測を実施・解析した結果、プレートの海溝軸付近の深さ10~20kmに東海地域と同様にマントル内で地震が発生していることを明らかにした。

東海地域から南海トラフ周辺等で発生した地震の走時データに、二重走時差(Double Difference, DD)トモグラフィー法を適用して、プレート境界を含む地下の地震波の伝播速度の分布を求め、フィリピン海プレート内部にVp/Vs比が大きな領域があることを明らかにした。この領域は海洋性プレート上部を構成している海洋性地殻と考えられ、これによりフィリピン海プレート形状を推定した。

2) 副課題2「地殻活動モニタリング手法の開発」

(精密制御震源装置からの信号解析)

精密制御震源装置(弾性波アクロス:Seismic ACROSS、ACROSSはAccurately Controlled Routinely Operated Signal Systemの略)を静岡県森町に設置し、従来より低い周波数の信号の連続送信を行うことにより、装置から100kmに及ぶ広い範囲の地震観測点において、送信信号の確認に成功した。観測された信号には、陸側のプレートとフィリピン海プレートとの境界からの反射波や地殻深部からの反射波が含まれていることを確認した。

地震観測点で得られた波群の信号の相関解析を行った結果、0.1~数msという非常に微小な地震波走時の時間変化の検出に成功した。

(潮位観測)

静岡県浜松市舞阪における潮位記録を解析した結果、GPS解析等で既に明らかになっている、2001年初頭から発生した東海地域の長期的スロースリップに伴う地盤の隆起を示す潮位変化が記録されていたことが分かった。さらに過去の記録を解析したところ、これと同様の変化が1980~82年と1988~90年にも見られることが判明し、以前から長期的スロースリップが繰り返し発生していた可能性があることを明らかにした。

3) 副課題3「新地殻変動観測手法の開発」

(レーザー式変位計)

静岡県浜松市天竜船明観測点において、地殻変動観測用としては日本最長である基線長400mのレーザー式変位計を構築し、地殻変動観測に成功した。

この変位計を用いて、2008年8月から9月にかけて愛知県直下で発生した短期的スロースリップによる地殻変動をリアルタイムに検知できることを確認するとともに、その観測記録がGPS等他の地殻変動観測機器の観測記録と整合的であることを確認した。

ノイズレベルの解析に基づき、多成分歪計・GPS・レーザー式変位計の異常現象検知レベルについて評価した結果、1年程度までの範囲の継続時間をもつ変動において、既存の観測機器よりもレーザー式変位計の方が、より小さな変動をとらえる能力を持つとみられることがわかった。これはレーザー式変位計を用いることで、長期的スロースリップの発生をこれまでよりもいっそう早期に検出できる可能性を示している。

(GPS等の解析)

GPSの6時間値を用いた地殻変動解析手法を検討し誤差の評価などにより精度と速報性の両立に有効であることを示した。また時間空間的な地殻変動の異常変化を認識する上で有効な面的監視手法を開発した。

4) 副課題4「三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーション」

(シミュレーション手法の改良)

地震発生時の地震破壊域の設定を事前に固定する方法から計算される応力状態によって破壊を停止させる方法へシミュレーション手法を発展させ、破壊開始点や破壊域の評価などを可能とするモデルを開発した。

(東海地震のシナリオの改良)

東海地震の想定震源域近傍でマグニチュード6クラスの仮想的な地震が発生した場合に、その地震による応力変化が東海地震へ及ぼす影響についてのシミュレーションを行い、仮想地震の発生が東海地震の発生時期に与える影響の幅は数日から数年程度であり、地震発生直前の応力集中域と仮想地震の発生する場所との相対的な位置関係により早める場合も遅らせる場合もあることを明らかにした。

東海地域の長期的スロースリップのモデルを改良することにより、観測されているスロースリップの領域やすべり量と整合的なシミュレーションモデルを他の研究に先駆けて開発するとともに、そのモデルに基づき、長期的スロースリップを繰り返しながら東海地震に至る可能性があること明らかにした。

(南海トラフ沿いの巨大地震のシミュレーション)

主に巨大地震の発生順序と破壊開始点に関する調査のためのシミュレーションを行い、以下の成果を得た。

プレート境界の性質を表現するパラメータを変化させ、また、仮定するプレート形状を平面の場合と三次元の場合についてシミュレーションを行うことにより、固着域の大きさや強さなどが地震発生順序に対してどのように影響を及ぼすかについて評価し、その結果、固着域が小さい方が、また、固着域における地震時の摩擦低下の程度が小さい方が早く地震が発生するという特徴を明らかにした。

複数のプレート境界の形状を仮定してシミュレーションを行った結果、二重走時差(Double Difference, DD)トモグラフィーの解析結果などから新たに作成した、より現実に近いと考えられる3次元プレート境界形状を用いると、過去の南海トラフ沿いの巨大地震の破壊開始点に整合的となることが分かった。これは、3次元のすべり応答関数を用いた結果としては、南海トラフ沿いの巨大地震の破壊開始点をシミュレーションにより初めて再現したものである。

東南海・南海地震の連動シミュレーションモデルにおいて、パラメータの値と空間分布を調整することにより、GPSによる地殻変動の観測データと整合するシミュレーションモデルを作成した。


(2)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)

(副課題1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明

平成16年9月の紀伊半島沖、東海道沖の地震の発生を受けて、当初計画にはなかった同地震の余震観測を集中的に行った。

計画段階では地震活動分布からプレート構造を把握すると想定していたが、 DDトモグラフィー法による速度構造推定法を導入し、速度構造からもプレート構造の把握を図った。

(副課題3)新地殻変動観測手法の開発

レーザー式変位計開発において、当初計画では長野市松代の精密地震観測室坑道において既存の伸縮計との比較観測も並行して行うこととしていたが、計画を変更し研究資源を天竜船明におけるレーザー式変位計の開発に集中することとした。


(3)成果の他の研究への波及状況

(副課題1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明

自己浮上式海底地震計観測によって得られた地震観測データは、融合型経常研究「地震・地殻変動観測データの高度利用に関する研究(平成16~21年度)」の(副課題1)「不均質な場を考慮にいれた震源パラメータ及び地震活動パラメータの推定手法に関する研究」において、地震波速度構造推定に活用された。

また、DDトモグラフィーにより推定されたプレート境界の形状は、短期的スロースリップなどの発生源を正確に推定する際、活用している。

(副課題2) 地殻活動モニタリング手法の開発

平成21年夏頃から見られる富士山・箱根山域におけるわずかな異常地殻変動について、本研究の成果である地殻変動解析手法によりGPSの6時間値を用いて検出した。


(4)今後の課題

本研究課題における調査を通じて長期的スロースリップを繰り返した後に東海地震に至る可能性があることが明らかになった。スロースリップ現象は東海地震の想定震源域における歪の蓄積や変動、さらには東南海・南海地震の発生とも密接に結びついていると考えられるようになってきている。地震発生シミュレーションはスロースリップと東海地震との関連性を明らかにするための有力なツールに成りうるが、そのためにはスロースリップの発生場所や周期などの再現性を向上させる必要がある。それを実現するためには、精密な広域応力場の評価を取り入れたシミュレーションモデルに発展させるとともに、パラメータ設定をさらに精査する必要がある。

一方、実際のスローリップ等に伴い地殻変動が観測されるが、その発生場所等の推定精度を向上させるためには、さらなる推定手法の改良が必要である。精密制御震源装置の信号においては、観測点によっては時間分解能が監視目的には十分ではなく、観測波群の経路等の解析も今後の課題である。

自己点検

(1)到達目標に対する達成度

(副課題1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明

沈み込むプレート内の地震活動の特徴を明らかにするとともに、速度構造推定に基づき沈み込む海洋性地殻の深さ分布を明らかにした。その結果は地震発生シミュレーションモデルの中に取り込まれて、紀伊半島における応力の集中のモデル化などに寄与し、所期の目標を達成した。

(副課題2)地殻活動モニタリング手法の開発

精密制御震源装置を静岡県森町に設置し、広範囲の地殻の状態モニターを可能とするとともに、潮位観測データの処理を高度化し、潮位観測データから過去の長期的スロースリップの存在を明らかにでき、所期の目標を達成した。

(副課題3)新地殻変動観測手法の開発

レーザー式変位計を開発し、これにより東海地域で発生した短期的スロースリップによる地殻変動の観測に成功し、ノイズレベル評価から長期的スロースリップもレーザー式変位計により検知可能であることを示すとともに、新たなGPSデータ監視手法を開発し、所期の目標を達成した。

(副課題4)三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーション

地震発生シュミレーションモデルの範囲を東海地域から四国沖まで拡大させ、地震発生にプレート形状が重要な役割を果たしていることを明らかにするとともに、長期的スロースリップを繰り返した後に東海地震に結びつく可能性を指摘し、所期の目標を達成した。


(2)研究手法及び到達目標の設定の妥当性

計画はおおむね妥当であったと考える。ただし、研究を進める中で、以下の項目のような、研究手法等の変更が必要となると共に、内容の困難さが認識されるものが見受けられた。

(副課題1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明

当初想定した海底地震観測から得られる地震活動分布からだけでは、広域のプレート形状を求めることは、研究資源の面から限界があったものの、DDトモグラフィー法を用いた速度構造推定から、プレートの詳細な形状を明らかにした。

(副課題2)地殻活動モニタリング手法の開発

精密制御震源装置からの信号を実際に観測して得られる地震波には様々な相が含まれており、プレートからの反射相を特定することは、当初想定した定常観測点の地震波形の解析からだけでは困難であったが、東海地域における臨時観測の結果も活用し、プレートからの反射波の同定を行った。

(副課題3)新地殻変動観測手法の開発

レーザー式変位計に関して当初に計画した長野市松代の精密地震観測室の伸縮計との比較観測は、限られた研究資源の制約から困難であった。

(副課題4)三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーション

地震発生シュミレーションモデルの作成において、計算資源の能力を考慮し、連動評価のモデルとスロースリップの評価モデルを分けてメッシュサイズやパラメータの設定法を変えて実施したことは、効率的なモデル開発に有効であった。一方で、連動性にかかわる要因は多様で複雑に相互作用しており、その全容は解明することができなかったが、いくつかの要因の分析は進んだことから目標の設定はほぼ妥当であったと考える。


(3)成果の施策の活用・学術的意義

(副課題1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明

自己浮上式海底地震計データの解析から得られた震源の位置や走時の読みとり等の結果は、気象庁の地震年報を通じて公開されており、広く研究等に利用可能になっている。

また、以下のような地震学的にみて貴重な知見が得られた。

・平成16年9月に紀伊半島沖、東海道沖に発生した地震の余震についての詳細な分布を得ることができた。これらの余震は気象庁一元化震源では深さ30~50kmとなっていたが、それよりも浅い30km以浅であると見られること、余震がクラスターに分かれ、浅い地震群は主として付加体内に分布し、深い地震群は前震・本震の破壊域とみられる海溝軸直下の上部マントル内に分布していることなど、陸域の観測からでは把握不可能な詳細な余震分布の特徴を明らかにした。

・紀伊半島南方沖の南海トラフ軸の周辺海域において海底地震観測を実施し、南海トラフ軸に沿って比較的顕著な微小地震活動が存在することを見出した。震源は沈み込むフィリピン海プレートのマントル内の深さ10km~25kmに分布し、活動の活発な領域と静穏な領域のセグメント構造の形成が認められた。この海溝の外側における海洋性プレート内の地震活動は、これまで認識されていなかった活動であり、新たな発見である。

・駿河トラフ・南海トラフを形成するプレートの境界の形状は、複雑であるとみられ、確からしい3次元の形状を示すことは難しい。今回、速度構造解析から明らかにしたプレート形状は、複雑な形状をしているフィリピン海プレートの新たなモデルを提示するものであり、多くの研究者が参照することとなっている。

(副課題2)地殻活動モニタリング手法の開発

精密制御震源装置を用いたモニタリング手法は、これまでの地殻変動を中心としたモニタリング手法に、地震波を用いてプレート境界の変化をモニターするという新たな手段を加えるものとなっており、地震学の分野でも研究の進展が期待されているところである。

潮位記録から長期的スロースリップの存在を明らかにした内容は、長期的スロースリップが繰り返し発生してきたことを明確にした。

潮位記録から地殻上下変動を推定するための津村(1963)の検潮所の地域区分についてクラスター分析手法を用いて検証を行い、一部を除きほとんどの地点で区分が適切であることを確認した。各検潮所間の相関係数の高い地点を用いた海況補正の方が、津村の区分を用いるより補正効果が向上することを確認した。これらにより、潮位記録を用いてより精度のよい地殻変動解析が行えることを示した。このことは、過去長期間の活動履歴を解析するのに有力な手法であると、関係研究者から注目を集める結果となった。。

(副課題3)新地殻変動観測手法の開発

レーザー式変位計による観測記録は平成20年11月以来、気象庁の地震防災強化地域判定会(以下「判定会」という。)委員打合せ会において報告しており、気象庁による東海地域の地殻変動の評価に活用されている。また、この研究において開発したGPSの面的監視手法は、気象庁の東海地震の監視業務に導入され、より的確な監視が実現されている。

レーザー式変位計を開発し、その観測データに基づきこれまでよりも低速度の地殻変動をリアルタイムに検知可能であることを立証したことは、地殻変動観測について技術的に観測可能な対象の拡大を果たしたことになり、観測技術における着実なステップアップとなっている。また、レーザー式変位計による観測記録は地震予知連絡会に報告され、関連分野の研究者間でスロースリップ等の現象に関する議論に活用されている。

(副課題4)三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーション

平成19年12月の気象庁の判定会委員打合せ会において、東海地域の長期的スロースリップのシミュレーションモデルが報告され、東海地震との関連性などについて議論された。また、平成21年8月に発生した駿河湾の地震(M6.5)が東海地震の発生に与える影響について、気象庁が判定会委員打合せ会において評価を行う際に、シミュレーションの結果が用いられており、実際に気象庁の東海地震監視業務に活用されている。

この研究において明らかとなったプレート形状により、紀伊半島沖付近において応力が集中し、巨大地震の破壊開始点となるという成果は、東南海・南海地震の発生メカニズムに関する分野の研究者の注目を集めている。また、長期的スロースリップを繰り返して東海地震に至る可能性を指摘したことは、東海地震監視の上で、今後も長期的スロースリップの発生に注目し、その広がりやすべり量の精度良い観測がきわめて重要であることを示している。

東南海・南海地震のシミュレーションモデルにおいて、GPSによる地殻変動の観測データと整合するモデルで用いたパラメータの空間分布から、摩擦パラメータ(a-b)の負の領域が従来の研究で考えられていた10-30kmの深さの範囲より狭い可能性があることを明らかにした。


(4)総合評価

東海地震の予測精度向上と巨大地震相互の連動性を評価することを目的とする三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーションは、長期的スロースリップなど実際に観測されている地殻変動を再現すると共に東海地震発生に至る可能性を示した。

さらに地殻活動をより詳細に観測するための新たな観測・解析手法としてレーザー式変位計・精密制御震源装置を開発し東海地域に設置し観測を開始したことは、当該地域における地殻変動監視能力の向上に貢献することが期待される。精密制御震源装置からの信号の中でみられた複雑な波群の解明や、地震発生シミュレーションにおける複数の地震の発生の関係など、今後とも解決に尽力する必要のある課題はあったものの、全体として当初想定していた目標は、達成した。

それらに加えて、学術的に意義のある多くの成果が得られており、本研究は成功であったと考えている。

事後評価の評価委員会総合評価

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