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気象研究所研究開発課題評価報告

マグマ活動の定量的把握技術の開発とそれに基づく火山活動度判定の高度化に関する研究

中間評価

評価年月日:平成21年12月9日

研究期間

平成18年度 ~ 平成22年度

研究代表者:

吉川 澄夫(地震火山研究部長)

1.研究の原状について

(1)研究の進捗状況

本研究は、1)「地殻変動に基づく火山活動度判定手法の開発」、2)「マグマ上昇シナリオに基づく活動評価手法の開発」、2つの副課題から構成される。各課題の進捗状況は以下の通りである。

1)副課題1「地殻変動に基づく火山活動度判定手法の開発」

有限要素法による地殻変動解析手法について、並列計算機と有限要素法並列化ソフトの導入による効率化を行い、モデルの分解能向上の準備を整えた。

伊豆大島を対象火山として、新たに自動光波測距観測点を2か所及び傾斜計を3か所に設置するとともに、繰り返しGPS観測点のうち15か所の連続観測化により計19点での連続観測体制をとり、火口及びカルデラ周辺の高密度データの取得の体制を整えた。また、精密重力の繰り返し観測を実施し、解析に必要なデータの取得を進めている。一部観測点に障害や欠測はあるが、おおむね順調にデータの蓄積が進んでいる。

陸域観測技術衛星「だいち」の干渉SAR(合成開口レーダー)解析による地殻変動検出について、全国の活火山を研究対象としてデータを入手し、解析を実施している。

活動が活発化した浅間山も観測対象火山に加え、GPS連続観測及び光波測距の繰り返し観測を実施している。

伊豆大島を対象火山として、地震の震源分布の変化や発震機構の変化をとらえるため、カルデラ周辺に広帯域地震計等を用いた臨時観測を実施している。

伊豆大島のマグマ供給系モデルの精密化を進めるため、上記の結果を用いて、地殻変動データから地下の圧力源モデルの解析を実施している。また、現実の地下構造を取り込んだ有限要素モデルを構築した。

以上の成果を踏まえ、光波測距データや干渉SAR解析データも加えて圧力源のモデリングができるように、平成17年度までに開発した火山用地殻活動解析支援ソフトウェアMaGCAP-Vの改良を進めている。


2)副課題2「マグマ上昇シナリオに基づく活動評価手法の開発」

マグマ上昇の数値シミュレーションの実施に向けて、マグマの粘性や地殻の弾性率等の組み込むべきパラメータの整理を行い、試験的に簡易なマグマ上昇シミュレーション計算を行った。

高精度な地殻変動の解析及び解析結果の検証に必要な地下構造データを取得するため、霧島山で重力探査を行っている。

マグマ上昇シナリオの作成に向け、過去に様々な火山で観測された火山性地殻変動について、その規模や時間スケールと火山活動との関係、や群発地震との関連性について整理している。


(2)研究成果について

研究対象火山として、噴火準備過程にあると考えられる伊豆大島を選び、観測で得られたデータを解析することにより、伊豆大島で膨張と収縮の地殻変動が繰り返されていることが明らかになるとともに、その圧力源の位置及びその時間変化についてある程度明らかにすることができた。

活動が活発化した浅間山も研究対象火山に加えて解析した結果、活動期・静穏期の地殻変動の圧力源の時間変化を明らかにした。

干渉SAR解析によって、いくつかの火山において火山活動に伴う地殻変動を検出した。

これまでいろいろな火山で観測された地殻変動は、地震活動との関係に相関があることが分かった。


1) 副課題1「地殻変動に基づく火山活動度判定手法の開発」

有限要素法による地殻変動解析手法について、各種の圧力源による地殻変動計算手法を確立した。その中で、楕円体圧力源に関しては、従来用いられてきた計算式に誤りがあることを発見し、経験式に基づく新たな地殻変動計算式を提案した。また、並列計算機と有限要素法並列化ソフトの導入による効率化により、計算速度は約10倍、解析可能なモデルサイズも約30倍になり、伊豆大島島内各観測点における地殻変動を十分な精度で求めることができる精密な有限要素モデルを用いた計算が可能となった。

伊豆大島における地殻変動の連続観測によって、伊豆大島は膨張と収縮を繰り返していることを明らかにした。その圧力源はカルデラ北部地下にあることを明らかにし、さらに、膨張源が減圧源よりも浅い位置にあること等、その変動源の時空間的変化を推定した。

伊豆大島の精密重力観測によって、カルデラ北部地下に起因すると思われる重力の経年変化を検出した。

全国を対象として陸域観測技術衛星「だいち」のSARデータを用いた干渉画像解析を行い、十勝岳、吾妻山、雲仙岳において火山性地殻変動を検出することに成功し、その他にも海外を含め約10の火山で地殻変動を検出した。

2006~2007年御嶽山の微噴火を伴う地殻変動を検知し、海抜下約2500m付近にある深部圧力源の他、山頂直下ごく浅部(海抜付近)の圧力源が膨張したことを明らかにした。

浅間山を研究対象として、GPS連続観測及び光波測距観測を行い、融合型経常研究「火山観測データの気象補正等による高精度化に関する研究(平成18~20年度)」により開発した1周波GPSの電離層及び対流圏補正手法を適用し、火山活動の消長に伴う西山麓深部の膨張・収縮に加え、山頂火口直下ごく浅部でも膨張と収縮が繰り返されていることを明らかにした。


2) 副課題2「マグマ上昇シナリオに基づく活動評価手法の開発」

マグマ内の揮発性物質の気泡成長に起因する浮力による理論的なマグマ上昇計算から、マグマ上昇速度は、揮発性物質の濃度、粘性などのマグマの物理的性質、ダイクの厚みなどの上昇形態によって、きわめて多様に変化することがわかった。

霧島山新燃岳のGPS繰り返し観測により捉えられた地殻変動についてモデリングを行い、火口地形の影響を評価した結果、変動源は帯水層下部、2008年8月噴火時に発生した群発地震の震源域の上部に位置することがわかった。

マグマ上昇シナリオの作成に向け、国内で近年観測された様々な火山性地殻変動について、その変動量や深さ等について系統的に整理したところ、変動量や変動レートには6桁の幅があり、変動レートの大きい事象のほとんどが、マグマ貫入によると考えられる現象であって、同時に発生する地震活動規模とよい相関があることがわかった。


(3)当初計画からの変更点(研究手法の変更点等)

浅間山の火山活動が活発化したため、融合型経常研究「火山観測データの気象補正等による高精度化に関する研究(平成18~20年度)」で実施していたGPS連続観測、光波繰り返し観測を平成21年度以降も継続し、本研究において、地殻変動モデルの研究に活かしている。

干渉SAR解析については、研究対象火山のみならず、全国の火山を対象とするともに、海外の火山についても解析を適宜実施している。

マグマ内の揮発性物質の気泡成長に起因する浮力によるマグマ上昇計算によって、マグマ上昇速度は様々なパラメータによってきわめて多様に変化することがわかったため、それをそのままマグマ上昇シナリオに用いるのではなく、過去の様々な地殻変動のモデリング結果の整理を行って、現実に近いマグマ上昇及びそれに伴う地殻変動シナリオを構築することとした。


4)成果の他の研究への波及状況

干渉SAR解析を「平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震」に際して、震源付近で生じた地殻変動の解明に向けた解析にも適用した。その結果、地震の発生前後での地殻変動の分布を明らかにすることができた。なお、その結果は、気象庁から報道発表されている。(平成21年6月26日)

2.今後の研究の進め方

伊豆大島の地殻変動のモデリングについては、静穏期に観測されている膨張と収縮について、その圧力源を求めるまで実施できた。しかし、現段階では、静穏期に観測されている膨張と収縮から具体的なマグマ上昇あるいは蓄積のモデリングはできていない。観測強化が完了したのは3年度目であり、その後は顕著な変動がみられていないことから、今回強化した高密度な観測網による地殻変動を継続し、そのデータの解析とさらに有限要素法モデルを用いた解析によって、伊豆大島のマグマ蓄積過程を明らかにしていきたい。精密重力観測に関しては、カルデラ北部地下に変動があることは見えつつあるが、その実態はよくわかっておらず、今後も観測を継続したい。

干渉SAR解析では、多くの火山で地殻変動を検出するのに成功しているが、研究対象である伊豆大島をはじめ、いくつかの活動的な火山では検出できていない。気象補正等によって高分解能化を図る必要がある。融合型経常研究において、数値予報モデルデータを用いた補正手法の開発に着手している。

霧島山の地殻変動に関しては、重力探査により得られる地下構造を取り込んだ有限要素モデルによってより詳細な圧力源のふるまいを明らかにしていきたい。

近年観測された様々な火山性地殻変動について、その変動量や深さ等について系統的に整理した成果と、理論的なマグマ上昇モデルを結び付けて、これまでの経験則による噴火警戒レベル判断を補う地殻変動シナリオを作成していきたい。そのうえで、現在の観測網で検知できるマグマ貫入量等について検証し、気象庁の監視基準策定に資する資料を提供していきたい。

3.自己点検


(1)研究の進捗状況

おおむね順調に進捗している。


(2)研究手法の妥当性

活発な活動があった火山を対象に加えるなどの手法の変更を行い、研究に有用なデータを確実に取得しており、妥当である。


(3)成果の施策への活用・学術的意義

本研究でこれまでに得られた伊豆大島等の地殻変動連続観測結果、解析結果は、適宜、火山噴火予知連絡会や気象庁へ報告しており、気象庁において火山活動の評価、噴火警報や噴火予報の発表業務に活用されている。特に、一部の結果については、気象庁が毎月発表し、防災機関で利用されている火山活動解説資料にも掲載されている。また、連続観測しているデータの一部は気象庁火山監視・情報センターでの常時監視に利用されている。

本研究で得られた近年観測された様々な火山性地殻変動についての整理結果は、平成21年度補正予算による気象庁火山観測点整備において、それぞれの観測点の地殻変動の検知力調査にも利用されている。また、その調査で行われた地殻変動解析には、MaGCAP-Vが活用されている。

伊豆大島の静穏期のマグマ蓄積過程については、マグマの蓄積の実態把握が十分になされておらず、このためよくわかっていないことも多い。伊豆大島の稠密な観測網によりその実態が把握できるようになれば火山学的意義は大きい。また、浅間山における浅部圧力源の膨張収縮は、浅間山のマグマ供給系を考える上で重要な発見である。御嶽山における地殻変動の研究成果は、従来予知が難しいとされてきた水蒸気爆発の予測のための重要な知見となると思われる。

(4)総合評価

浅間山等における噴火に至るまでの火山活動と地殻変動との関係を見いだすなど特筆すべき成果が得られ、順調に成果が出始めており、目標としている成果の達成への期待も高い。

学術的にもあまり分かっていないマグマの蓄積過程について、本研究はそれを解明する端緒となる可能性があり、本研究を実施する意義は大きい。

以上から、本研究を引き続き着実に遂行していく必要がある。

中間評価の評価委員会総合評価

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