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気象研究所研究開発課題評価報告

東海地震の予測精度向上及び東南海・南海地震の発生準備過程の研究

中間評価

評価年月日:平成19年10月26日

実施期間

平成16年度 ~ 平成20年度

研究代表者

森 滋男(地震火山研究部長)

研究の進捗状況について

(1)研究の進捗状況

本研究は、1)地震活動によるプレート詳細構造の解明、2)精密制御震源および精密潮位観測による地殻活動モニタリング手法の開発、3)新地殻変動観測手法の開発、および4) 三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーションと、4つの副課題から構成される。各課題の進捗状況は以下の通りであり、計画の目標に沿って、研究は順調に進捗していると考えている。

1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明

本副課題においては、熊野灘東方沖、潮岬南方沖、及び四国南方沖において自己浮上式海底地震計観測を行った。これらの観測により得られたデータを解析し、これらの領域における地震活動の把握がなされた。特に平成16年9 月に発生した紀伊半島南東沖の地震(MJ7.4)は、フィリピン海プレート内部で発生したものであり、当研究の対象地域の地殻活動の上でも大きな影響をもつものと考え、複数回にわたり余震観測を実施し、その余震活動の分布やその時間変化などについて詳細に調査した。

また、二重走時差トモグラフィー(Double Difference (DD) トモグラフィー)法を用いて速度分布からプレートの構造調査も行い、新たなプレート構造モデルを提示した。

2)地殻活動モニタリング手法の開発

本副課題においては、静岡県森町に新たに精密制御震源装置(弾性波アクロス(Accurately Controlled Routinely Operated Signal System (ACROSS))送信装置)を設置し、連続送信を行っている。Hi-net観測点における連続振動波形を解析し、森町からのアクロス信号の伝達関数(注:ここで伝達関数とは、アクロス信号を入力、観測された波形を出力とした、弾性波動の伝播を表す関数である)を得た。およそ震央距離100kmまでの信号の到達を確認した。

東海地域の検潮所におけるGPS観測と海水温観測を実施した。検潮所付近の海水温の上昇に応じた熱膨張を考慮することで、単独地点の潮位の補正に一定の効果があることを確認した。

3)新地殻変動観測手法の開発

本副課題においては、長基線レーザー干渉計の光学部・収録部・真空槽を開発した。開発した機器を静岡県浜松市の船明(ふなぎら)トンネルに設置し、レーザー式変位計(一部)を構築して基本動作試験を行った。

また、国土地理院が解析し、気象庁が監視業務に利用しているGPS6時間値の精度を検討の上、面的監視手法を開発した。

4)三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーション

本副課題においては、地震発生シミュレーション計算法を改良し、より自由度の高い現実的なシミュレーションを可能とした。そのモデルを用いて、摩擦パラメーター・プレート形状が、どのように地震発生順序等に影響を与えるか調査した。また、東海地域のスロースリップ現象のモデル化を行った。東海地域の検潮所におけるGPS観測と海水温観測を実施した。検潮所付近の海水温の上昇に応じた熱膨張を考慮することで、単独地点の潮位の補正に一定の効果があることを確認した。


(2)特記事項(研究手法の変更点など)

副課題「1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明」において、平成16年9月の紀伊半島南東沖の地震の発生を受けて、当初計画にはなかった同地震の余震観測を集中的に行った。

副課題「3)新地殻変動観測手法の開発」において、松代観測坑道において小型レーザー式変位計を用いた長期の比較観測を当初計画した。しかし、技術・経費的な検討を進め、研究資源を静岡県浜松市に設置するレーザー変位計に集中させることとし、これによってより高品位観測可能とすることに努めることとした。また、当初計画になかった絶対長測定機能を含めることとした。

(3)研究の進捗状況に関する自己評価

各副課題の進捗状況及びそれら副課題間の連携は計画通り進捗し、想定された成果が得られつつある。

研究成果について

(1)研究成果の概要

1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明

・海底地震計観測により、平成16年9月に発生した紀伊半島南東沖地震の高精度の余震分布を得た。気象庁一元化震源に比較して、余震の震源決定精度、特に深さの決定精度が格段に改良されている(深さ30kmから50kmであったものが、概ね深さ30km以浅となった)。余震分布はいくつかのクラスターに分かれており、単純な1枚の断層面ではなく、本震の震源断層はかなり複雑であったことが推定された。

・潮岬南方沖での海底地震計観測の結果、気象庁一元化震源カタログでは明瞭でなかった南海トラフ軸の南側の比較的顕著な微小地震活動域の存在を見出した。この地震活動は海溝軸からその南方約20kmまでの範囲の深さ10km~20kmに分布し、プレートを折り曲げる応力が地震活動を引き起こしているものと推定されている。

2)地殻活動モニタリング手法の開発

・岐阜県東濃地域に設置してある精密制御震源装置とHi-net観測点間の波形(伝達関数)の時間変化について検討した。その結果、幾つかの観測点において、P波やS 波の後続相において波形の変化が見られることがわかった。また、これらの変化が観測点表層付近の季節変動(何らかの原因によって1年毎に出現する変化)である可能性が高いことがわかってきた。

・森町のアクロス送信装置を用いて、これまでのアクロスでは最も低周波である3.5~7.5Hzの連続運転を開始した。

・Hi-netのデータを用いて、森町からのアクロス送信信号を約80日間スタッキング(先頭時刻を揃えて、一定期間のデータを足し合わせる。これによって、生成場所・時刻が揃っていない雑ノイズを小さくできる。)すると震央距離約100kmまで信号が識別できることを確認した。

・2000年末から2005年半ば頃までの長期的スロースリップによる上下変動の影響を受けていることが把握できた舞阪の検潮データについて、その過去記録を解析し、長期的スロースリップによると見られる複数回の潮位変化を検出した。

・客観解析された日本近海の表層水温と東海地域の検潮所における月平均潮位との関係を調査した。検潮所付近の各層水温による熱膨張を考慮することで、単独地点の潮位の補正には一定の効果はあるが、複数点を用いた場合は津村(1963)の方法による補正の方が効果的であることを確認した。

・全国の月平均潮位を用い、潮位から地殻上下変動を推定する際の津村(1963)による海域区分を確認した。いくつかの観測点は他の海域区分が適当であり、全観測点間の相関係数を用いることで、より効果的な補正が行えることを示した。

3)新地殻変動観測手法の開発

・レーザー式変位計(一部)を静岡県浜松市の船明トンネル中に構築し、基本的な動作を確認した。

・レーザー式変位計の波長スイープによる絶対長測定試験を行い、その測定が実現可能であることを確認した。

・GPS6時間値の精度を同3時間値および1日値と比較し、精度と速報性(早期の異常の把握)のバランスの観点から、業務監視には6時間値が適していることを確認した。

・また、極端に外れた値が多いなどのGPS短時間値の欠点を補い、かつ固定点として採用したGPS測定点における変動の影響を受けにくくした「面的監視手法」を開発した。

4)三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーション

・地震発生シミュレーションのメッシュサイズを細分化(東海・東南海・南海の連動モデルは10kmから5kmへ、東海モデルは5kmから3kmへ)できるようプログラム開発を行った。実際の計算は、計算資源の制限があるため、研究効率の良い10km、5kmのメッシュサイズで主に行った。また、シミュレーション手法を改良し、より前提拘束条件の少ないシミュレーションを可能とするプログラムを開発した。

・東海地震の想定震源域近傍で仮想的な地震が発生した場合、東海地震の発生時期に与える影響の幅は数日から数年程度であり、仮想地震の発生する場所により早める場合も遅らせる場合もあることがわかった。

・プレート境界の性質を表現するパラメーターを変化させ、また、仮定するプレート形状を平面の場合と三次元の場合についてシミュレーションを行った。その結果に基づき、アスペリティの大きさや強さなどが地震発生順序に対してどのように影響を及ぼすかについて評価し、地震発生系列の再現に向けて検討材料を揃えた。

・プレート境界の形状を変化させたときの地震開始点に及ぼす影響を調べ、DDトモグラフィーの解析結果などから新たに作成した3次元プレート境界形状を用いると、過去の巨大地震の始まり方と整合的なシミュレーション結果を得ることができた。

・東海地域でのシミュレーションにおいて、プレート境界の性質を表現するパラメーターをトラフ軸と垂直な方向に変化させることにより、現実のスロースリップが起きている領域付近において地震発生前にスロースリップを発生させる条件を得た。

・東海地域で起きていたスロースリップ相当の応力解放が起きた場合、東海地震の発生時期にどのような影響を与えるか調べた。その結果、東海地震の発生時期は遅くなった。応力解放の場所を少し北にずらすと、発生時期が早くなる場合もあった。


(2)特筆事項(波及効果など)

1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明

・気象庁の地震年報に掲載するため、1999年~2003年に東海沖で実施したOBS観測の検測値を本庁地震火山部に提供した。

・現在気象研で行っているOBSデータの処理および解析ツールを本庁地震火山部でも使えるように整理し技術移転を行った。

3)新地殻変動観測手法の開発

・気象庁地震火山部EPOS(システム)において、GPS6時間データ面的監視処理の試験運用を行っている。


(3)研究成果に関する自己評価

各副課題とも当初期待した成果をあげつつある。なお、「副課題1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明」において、平成16年9月の紀伊半島南東沖地震の余震分布解析結果は、想定外の追加成果となった。

今後の研究について

各副課題において、気象庁の地震予知・監視業務に寄与できるよう研究上の問題点や課題の解決を図るとともに、これらの研究を巨大地震発生シミュレーションモデルの研究と連携させることで、このシミュレーションモデルの研究の推進に寄与できるよう以下のように研究を行う計画としている。

1)地震活動によるプレートの詳細構造の解明

領域を変えて自己浮上式海底地震計観測を行い、より広域の地震活動の精密把握に努める。また、三次元速度構造を導入して、これまで得られた観測値を用いて、構造推定を行い、これまで蓄えられてきた地震観測結果を再評価し、より高精度の震源に基づいたフィリピン海プレートの地震活動の特徴把握に努める。一方、平成16年9月に発生した紀伊半島南東沖の大地震(MJ7.4)の余震観測の成果等、海底地震観測で得られた震源分布を精査することで、余震活動や、海底地震観測で捕捉した地震活動とプレートの詳細構造との関係を把握するよう努める。

主として内陸部分で得られているDDトモグラフィー法によるプレートモデルと海域のプレート形状モデルを接続し、地震発生シミュレーションモデルのためのプレート形状を提示する。

2)地殻活動モニタリング手法の開発

静岡県森町に新たに設置した精密制御震源装置(弾性波アクロス送信装置)からの送信を継続し、波動伝播場の変化検知に努め、この技術の有効性の確認を目指す。また、同時に、一時的な地震計アレイ(複数台を狭い領域に配置すること。これらのデータを重ねて処理することによって波動の到来方向の推定を行う)による観測等を実施し、得られている各波群の性質を調査する。

東海地域の検潮所におけるGPS観測と海水温観測を継続し、潮位データを用いた地殻変動検出手法の改良を行う。

3)新地殻変動観測手法の開発

レーザー干渉計を長基線化し、光学部品・収録装置・処理ソフトウェアなどを改良し、安定した連続観測可能な装置の開発を行う。

また、歪計・GPSなどの地殻変動データに基づく、異常現象検知手法の改良に努める。

4)三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーション

地震発生シミュレーションモデルの各パラメーターに関する影響評価を継続し、観測されている地震発生系列の再現を図る。また、スロースリップ現象の発生条件を更に検討する。

なお、シミュレーションの結果は、開発中の地殻活動モニタリング手法や新地殻変動観測手法の検出対象の絞り込み等に適宜参照される。

中間評価の評価委員会総合評価

(pdfファイル)


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