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気象研究所研究開発課題評価報告

火山活動評価手法の高度化に基づく火山活動度のレベル化に関する研究(仮題)

事前評価

評価年月日:平成17年3月4日

実施期間

平成18年度 ~ 平成22年度

研究担当者氏名

地震火山研究部 濱田 信夫

研究の目的

火山噴火災害を軽減するためには、マグマの活動による火山活動の仕組みを理解し、刻々変化する活動の状況を観測により把握し、防災に役に立つ情報を適宜発表していく必要がある。

そのため気象庁は、観測結果に基づく火山防災を目的とした情報として、緊急火山情報、臨時火山情報、火山観測情報を発表しており、それらは一般住民に火山の活動状況を知らせると共に、関係機関における防災対応のトリガーの役割を果たしてきた。さらに、気象庁では、火山情報の内容が一般住民により理解しやすい形で受け入れられ関係機関の防災対応をさらに円滑にすすめることを目的に、火山活動の活発さを6段階に区分けした火山活動度レベルを定め、平成15年11月から5火山を対象とした公表を開始した。また、平成20年度を目途に、常時観測火山及び火山機動観測で連続監視を行っている火山(25火山)において火山活動度レベルを導入することを予定している。

火山噴火の仕組みが未だ十分に解明されていない現状では、火山活動度レベルは、過去の噴火活動における観測データ(表面現象、震動データ)をもとにした経験的な基準に依存している。しかしレベル3(小~中規模噴火)からレベル4(中~大規模噴火)へ、レベル4からレベル5(極めて大規模な噴火)へなど高いレベルの切り替えは、どの火山についても経験が乏しいにもかかわらず迅速な判断が求められる。経験則を補い、火山活動度レベルの信頼度を向上させるためには、噴火シナリオなどに基づくシミュレーションを実施して火山活動を予測しておくとともに、火山活動の解析、評価手法を高度化して活動度レベル判断にその知見を取り入れる必要がある。

本特別研究においては、静穏期から大規模噴火にいたるマグマの上昇に伴う地殻変動変化をシミュレーションにより詳細に評価するとともに、その地殻活動を検知する観測手法を開発し火山情報の高度化に貢献することを目的とする。

研究の目標

火山内部でのマグマの動きを地表から捕らえるためには、地殻変動観測は、最も有力な手段である。地殻変動観測データを精密に解析し、その結果を火山の活動度レベルの評価に取り入れることは、レベル判定の信頼度向上と迅速化に有効である。そのためには、様々な火山活動を想定したシナリオからどのような地殻変動が生じるかをあらかじめ評価し、予測される地殻変動を観測で正確に捉え高精度に解析する技術が必要である。さらに、それに基づく地殻変動の検知限界を把握することも重要である。それらのために以下のような研究を行う。

①地殻変動に基づく火山活動度レベルの信頼性向上に関する研究

平成15年11月に火山活動度レベルの公表を開始した5火山(伊豆大島、浅間山、桜島、阿蘇山、雲仙岳)では、現在、地震活動や表面現象の経験的な基準を用いることで火山活動度レベルの判定が行われている。これらの火山について、新たに地殻変動観測による火山物理学的な判定を取り入れ、火山活動度レベルの信頼性を向上させるための研究を行う。これらの火山は、火山活動に関する観測の事例が比較的多く、類似した活動様式で繰り返し噴火した例も知られており、また地下構造やマグマ供給系についてもある程度の知見がある。すでに現特別研究で開発が進められた有限要素法による火山活動評価のための手法を改良し、これらの火山に適用しマグマ供給系に関する知見を精密化する。得られたマグマ供給系に関する知見と、これまでの観測事例や火山学的知見をもとに、レベル判定の基準となっている地震活動や表面現象と地殻変動との関係を把握することで、火山活動度レベルの地殻変動観測に基づく評価手法を確立し、判定基準の試案を作成する。

②マグマ上昇シナリオに基づく活動評価手法の開発

上記5火山以外のレベル化対象火山では、平成20年度を目途に順次火山活動度のレベル化が進められる予定である。それらには過去の噴火活動における知見が少ない火山も多いため、地震活動や表面現象についても経験則によるレベル設定は難しく、類似した火山における知見等をもとにしたレベル設定となると考えられている。また、火山の地下構造やマグマ供給系に関する知見も限られている。

これら活動度のやや低い火山の活動度評価は、活動度の高い火山とは異なるアプローチが必要と考えられる。このため、防災上の見地から、発生頻度は低いが規模の大きな噴火に対処できるような評価方法を持つことが重要である。このようなケースについて地殻変動の評価を行うためには、前提として、対象火山におけるマグマ上昇シナリオの作成や、評価に不可欠な地下構造データなどを取得するための手法を開発する必要がある。

そのために、火山の噴火様式やタイプに応じ代表的な火山を選び、それらについて地質学的な知見に基づき火山物理学的にも妥当なシナリオを作成するための研究を行う。また、地殻変動の精密な解析・評価に不可欠な火山の地下構造データの取得にむけた研究を行う。それらを踏まえたうえで対象火山について想定したマグマ上昇シナリオにそって有限要素法による地殻変動のケーススタディを行い、多様な、規模の大きい噴火に対して的確な火山活動度レベルの判断が行えるよう事例の蓄積を図る。

③高精度・多項目の地殻変動観測手法の開発

地殻変動によるレベル判定には、火山の内部でどのような現象が進行しているかを知ることが重要である。また、小規模な現象も把握するには、既存の観測網に加え、高精度な地殻変動観測、特に火口周辺における観測が重要であることがこれまでの研究で明らかになってきた。このため、大気補正に必要なデータ取り込みなど山岳におけるGPS観測の改善、多項目(GPS、光波測距傾斜、重力、SAR、地震を用いた地殻応力場推定)の観測研究を行う。得られた観測データを基にマグマ供給系を明らかにする。

本研究に関連する気象研究所の実績について

特別研究「火山活動評価手法の開発研究」(平成13年度―平成17年度)を実施し、地殻変動などの火山観測データを総合的に用いて火山活動を評価する手法の研究を行ってきた。特に、基礎となる手法として、有限要素法を用いた地殻変動の精密な評価手法の開発を重点的に進め、マグマ供給系について、形状なども含むより詳しい評価ができるようになった。

本研究に関連する具体的な成果には以下のようなものがある。

開発した手法を活用して、三宅島を例に、地殻変動の解析には火山の地下構造や地形の影響が大きく精密な解析にはこれらの情報が不可欠なこと、解析精度の改善のために火口近傍における多種目の観測データを用いることが効果的であることを示した。

解析手法を伊豆大島の地殻変動に適用し、静穏な時期にもマグマの蓄積が進んでいる地下のマグマ供給系の様子を明らかにした。

霧島山をテストフィールドとして各種の観測を実施した。特に、観測条件の厳しい火口付近での高精度地殻変動連続観測を試み、実施可能であることを示した。また、通常の地殻変動観測では捉えられないような微小な火山活動がこのような観測で捉えられることを明らかにした。

火山用地殻活動解析支援ソフトの改良を進めた。これは、開発された手法なども活用して地殻変動、地磁気変化などの観測データを効率的に解析するためのものである。火山監視業務での使用を視野に入れており、随時火山監視・情報センターへの配布を行った。

火山における地殻変動観測は、様々な大学、関係機関で取り組まれているが、観測データの解析や地殻変動の評価に有限要素法の活用を進めているのは、国内で気象研究所のみである。また、気象庁の火山活動度レベル判定に地殻変動を導入するための研究は、過去に実施されたことがない。

なお、「第6次噴火予知計画の推進について」(測地審議会による建議 平成10年8月)では、「気象庁は火山の総合的な観測及びデータ即時処理による火山活動の評価・推移予測に関する研究を行う。」ことが謳われており、これに対応すべく特別研究を実施し、火山活動の評価手法の開発を行った。また、現在計画期間中である第7次火山噴火予知計画(科学技術・学術審議会による建議 平成15年7月)においては、気象庁が実施すべき火山研究として「火山活動に伴う地殻変動や地磁気変化から火山の物理的状態を総合的に把握し評価するため、有限要素法に基づく数値シミュレーションを応用する手法を開発する」ことが謳われている。

研究の概要

①地殻変動に基づく火山活動度レベルの信頼性向上に関する研究

対象火山で想定される種々の圧力源に対する有限要素モデルの作成と地殻変動量の計算に基づくマグマ供給系の精密化

火山活動度レベルの判定に資する有限要素法による地殻変動の評価(地殻変動データに基づく火山活動度レベルの評価手法の開発)

有限要素法による地殻変動解析手法の改良および効率化(有限要素モデル作成の半自動化、モデル分割による計算手法、並列計算機への対応など)による有限要素モデルの分解能向上

②マグマ上昇シナリオに基づく活動評価手法の開発

火山物理学的に妥当なマグマ上昇シナリオの作成に必要となる、マグマ上昇の時間発展を推測するための技術を開発する(マグマ粘性の変化、火道の状態、及び周辺応力状態を考慮した、粘性流体としてのマグマの挙動を把握する技術)

地震、重力観測を行い、高精度な地殻変動解析・評価に必要な地下構造データを取得する(既存の広域3次元速度構造を活用した火山周辺の速度構造の精密化、重力探査による密度構造の推定、火山体の弾性定数の推定)

火山活動度レベル化対象火山について、マグマ上昇シナリオの作成を行い、それに基づき有限要素法を用いて地殻変動量を評価する。それらのケーススタディにより、対象火山の火山活動度レベルの判断に用いる事例の蓄積を行う。

③高精度・多項目の地殻変動観測手法の開発

GPS観測装置および光波測距による火口周辺の高密度データの取得、火口近傍での傾斜観測データの取得、重力観測、地殻変動の面的分布を把握するためのSAR(合成開口レーダー)など多項目地殻変動観測データの取得と解析

地中における地殻変動を推定する一手法として、地震の震源分布の変化や、発震機構の変化による火山の地殻応力場の推定、および得られた応力場の地殻変動解析への活用

火口周辺において時間的・空間的に高密度な地殻変動観測に必要な技術の開発(大気補正のための気象データ取得機能を含む山岳仕様GPS観測装置の開発、火口近傍傾斜観測のための機器設置法の検討、環境要素ノイズ除去の検討など)

研究年次計画

中間評価時の到達目標

①地殻変動に基づく火山活動度レベルの信頼性向上に関する研究

有限要素法モデルの作成と地殻変動量の評価(2~3火山)

地殻変動データに基づく火山活動度レベル判定基準の試案作成(2~3火山)

②マグマ上昇シナリオに基づく活動評価手法の開発

初歩的なモデルによるマグマ挙動の把握手法の開発

重力探査とそれに基づく密度構造の推定

地震波速度構造の推定

③高精度・多項目の地殻変動観測手法の開発

観測対象火山のSARデータの収集と地表変位の解析

観測対象火山の地殻変動の把握

地震による応力場推定法の開発

山岳仕様GPS観測装置の改良

特筆事項(波及効果など)

特別研究の成果を取り入れることにより、各火山活動監視センターの地殻変動観測監視機能の強化が図られる。また、観測対象火山における地下構造の推定に取り組むが、これによって得られる地下構造は、気象庁火山監視業務における火山性地震の震源決定精度の向上に寄与する。

事前評価の総合所見

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