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気象研究所研究開発課題評価報告

火山活動評価手法の開発研究

中間評価

評価年月日:平成16年8月2日

実施期間

平成13年4月 ~ 平成18年3月

研究担当者氏名

地震火山研究部 濱田 信夫

研究成果の概要

(1)成果

・当初想定していた成果

火山の地形,構造,マグマ溜まりの形状等を含む有限要素モデルによって,地殻変動の数値シミュレーションを行えるようにした.様々な調査の過程で,計算手法に関する知識を蓄積した.火山の地形,構造,マグマ溜まりの形状等が観測される地殻変動にどのように影響するかを明らかにし,従来の簡単な解析手法を用いることで生じる違いを量的に明らかにした.また,実地形を取り込んで,実際の火山の地殻変動を従来よりも精密に計算できるようにした.このような手法を活用することによって,火山監視のために観測網を展開する際,どのような観測点配置がより効率的であるかを判断できる.

伊豆大島について実地形を組み込んだ数値モデルを用いて,GPS繰り返し観測によってえられたデータをもとにマグマ蓄積をモデル化したところ,深部の球状のマグマ溜まりと浅部の開口割れ目の存在が推定された.また,火山活動の静穏期でも深部のマグマ溜まりばかりではなく浅部の開口割れ目にマグマの蓄積が行われていることが分かった.これらは,伊豆大島の噴火をより正確に予測するための非常に重要な知見である.

三宅島について近似地形と5層の水平層構造を組み込んだ有限要素モデルで地殻変動の数値シミュレーションを行ったところ,三宅島では地下構造の影響が顕著であり,海岸部のGPS観測点付近で変動量が2倍以上に増幅されうること,従来の簡単な解析手法で推定されるマグマ溜まりの深さは,実際よりも約30%も浅いことが分かった.従来議論されていた火山性地震の震源分布とマグマ溜まりの位置関係や,火山ガスの放出量を左右するマグマ溜まりの圧力などは,このような結果を考慮する必要がある.

地殻変動の数値モデルをもとに,マグマ溜まりの圧力増加によって生じる地磁気変化(ピエゾ磁気効果)の計算を行った.単純な火山地形が存在する場合について調査し,山体地形が地磁気変化に及ぼす影響を明らかにした.この成果は,地殻変動と地磁気変化を用いた総合的評価の基礎となる.

霧島山の傾斜観測で,平成15年12月~平成16年3月に御鉢火口付近で発生した火山性微動に対応して,火口方向が下がる傾斜変動を捉えた.この傾斜変動は新噴気孔からの物質の放出に伴った浅部の減圧によって生じたことを推定した.これらのデータは火山監視・情報センターに自動転送しており,火山監視に役立てられている.また適宜火山噴火予知連絡会への報告を行っている.

年周変化を簡便に取り除く手法を伊豆大島のGPS繰り返し観測のデータに適用して,火山活動等に伴う地殻変動のみを抽出できるようになった.同様の手法は,火山監視・情報センターが実施しているGPS観測のデータ処理に活用できる.

GPSデータ,傾斜データ,地磁気データから地下の圧力源や熱消磁域を推定するために火山用地殻活動解析支援ソフトウェアを開発,改良した.従来から用いられている解析手法や比較的容易に利用できる解析手法を盛り込んだ.開発,改良したソフトウェアは速やかに各火山監視・情報センターに配布している.

・今後予想される成果

火山の力学的数値モデルの構築により様々な想定される地殻変動や地磁気変化がデータベースの形で利用できるようになる.

(2)波及効果

地殻変動,地磁気変化を火山の力学的数値モデルを用いて解析することにより,観測したデータから地下の圧力源(マグマ)の位置をより正確に特定できるようになるなど,火山監視業務の改善に活用できる.

火山性地震の発生は,火山周辺の応力分布に強く支配されていると考えられる.数値シミュレーションによって地下の応力変化が詳細に推定されれば,火山周辺における地震発生の評価も可能になると期待される.

マグマ貫入など様々なケースについて,地殻変動などの観測データの予測される変化量を事前に評価することができるようになり,ポイントを押さえて効果的な火山監視が可能な観測網を構築できる.

開発された火山の力学的数値モデル,解析技術,解析用アプリケーションは,火山研究の分野で広く活用されることが期待できる.

研究開発の進め方

残された課題とそれに対する今後の進め方は次の通りである.

1)火山活動評価手法の開発

火山の数値モデルの構築が可能になったとはいえ,個々の実際の火山への応用は,まだ始められたばかりである.伊豆大島や三宅島で実地形に基づく地殻変動の計算を行ったが,現実的な計算時間内で結果をえるためには数値モデルの微調整がかなり必要であった.その他の火山への応用を効率的に行うためには,さらなる計算技術の改良が必要となる.

火山の数値モデルを他の火山にも応用するために,実地形と地下構造を組み込んだ有限要素法によるモデルを作成し,種々の計算を進める.効率的に計算を進めるために,モデルの作成過程に改善を加える.解析の対象となる観測データがそろっている火山(霧島山,樽前山)を対象に計算を行う.

火山の数値モデルは,火山監視・情報センターの業務で実際に用いられて,はじめて有効活用されたといえる.現状では,火山の数値モデルを用いた解析を行うためには短くはない計算時間を必要とし,数値モデルの微調整も必要であるので,現業的な解析にそのまま適用することは困難である.

そこで,あらかじめ実施した数値モデルによる計算結果が簡単に利用できる方法を整備する.第一段階として計算結果をあらかじめデータベース化するなどの方法を採る必要がある.具体的な方法を検討し,地殻変動の計算結果が容易に利用できるようにする.当面は,計算結果が地殻変動,地磁気変化マップとして参照できるようにコンパイルする.

火山の数値モデルの計算で,特に地磁気変化については,地殻変動に比べ計算に要する時間がかなり長いため,これまでのところ限られたケースについて地磁気変化を試験的に計算したにとどまっている.

地磁気変化を高速に計算できる手法を検討する.また,圧力源が深い場合,ピエゾ磁気による地磁気変化はあまり大きくないとみられるので,浅い場合などに取り扱うケースを絞り込む.地下浅部へのマグマ貫入イベントのように,圧力源が浅く,地殻変動と地磁気変化がともに観測されると期待される場合について重点的に地磁気変化の計算を進める.

時間推移を含む火山活動モデルを構築することは現状では難しいかもしれないが,各ステージのスナップショットについて地殻変動の数値シミュレーションを行うことは可能である.様々なケースについて数値シミュレーションを行い,予想される地殻変動のデータベースを作成する.

2)観測および解析処理技術の開発

われわれの観測やデータの解析ではGPS繰り返し観測が重要な位置をしめているが,この観測には火山観測で利用しやすい1周波型のGPS受信機を用いている.一般に用いられている2周波型受信機に比べて観測点の高度に関連した年周変化が大きいとみられ,現状では精度が低い.現在は経験的な手法で年周変化を除去しているが,より精密な解析にも耐えられるように気象要素などを用いた補正手法の確立が望まれる.周辺のGPS連続観測点網と接続した解析も重要であり,国土地理院の関係者とも情報交換を行い連携を計る予定である.

引き続き火山活動にともなう地殻変動などの変化を捉えるために,各火山における連続観測,繰り返し観測を実施するが,GPS観測のデータについては,周辺のGPS連続観測点網と接続した解析を取りいれるなど,より有効な解析手法の検討を行う.

また,火山監視・情報センターにおける使用を視野に入れて火山用地殻活動解析支援ソフトウェアを制作,改良し提供してきたが,現段階においては,既存の解析手法を使いやすい形にしたに過ぎず,今後地殻変動,地磁気変化などの種々の観測データを総合的に取り扱う機能を盛り込む必要がある.

解析処理技術の開発の一環として,数値モデルによる解析結果のデータベース化と,それを利用した解析手法について検討する.

中間評価の総合所見

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