TOP > 研究への取り組み > 評価を受けた研究課題 > 温暖化による日本付近の詳細な気候変化予測に関する研究(事前評価)

気象研究所研究開発課題評価報告

温暖化による日本付近の詳細な気候変化予測に関する研究

事前評価

評価年月日:平成16年8月2日

実施期間

平成17年4月 ~ 平成21年3月

研究主任氏名及び所属

気候研究部 青木 孝

研究の目的

(研究目標)

本研究全体では、これまでの特別研究で開発の成果を基に、地域的温暖化予測を総合的に行う地域的温暖化予測システムの高度化を図る。

具体的には、温暖化時の詳細な地域的気候情報を予測するモデルの開発とその情報の提供を行うため、日本の詳細な温暖化予測の可能な4 km 分解能の雲解像地域気候モデルの開発及び領域大気海洋モデルの改良を行い、それによる温暖化実験を行う。地球温暖化情報提供のため、 より予測精度が高い地球温暖化予測モデルとして、地球温暖化地球システム予測モデルを開発し、その予測精度の向上とCO2などの温室効果気体の 予測情報の提供を行う。温暖化予測地球システムモデルは、現特別研究で開発している気候モデルを核とし、物質循環を取り扱うモデルとの結合により、 二酸化炭素などの温室効果気体の排出シナリオから濃度の予測と気候変化に関する総合的な温暖化予測を行えるものである。また、温暖化予測の 不確実性の最も大きな要因である雲に関わる不確実性の低減を図るため、新たな積雲パラメタリゼーションを開発し、予測システムの精度向上を図る。


(研究開発の背景)

平成9年の「京都議定書」の採択を受けて、地球温暖化及びその影響の予測に関する調査を行うことを国の責務として定めた「地球温暖化対策の 推進に関する法律」が平成10年に成立した。さらに平成13年に発足した総合科学技術会議は、科学技術基本計画(平成13年3月閣議決定)を踏まえ、 科学技術における重点分野の推進戦略を定めた。その中で、「環境分野における重点課題については、各省により取り組まれている個別研究を整合的に 集成・再構築し、政府全体としての政策目標とその達成に至る道筋を設定したシナリオ主導型の『イニシャティブ』で推進すべきである」としている。 これを受けて、「地球温暖化研究イニシャティブ」が平成14年度より開始された。

平成16年には「地球温暖化対策推進大綱」の評価・見直しが計画されており、新しい大綱に沿った施策を実施するため、国土交通省は 「国土交通省環境行動計画(仮称)」策定の検討を進めている。この行動計画では地球温暖化対策などの環境政策において行政のグリーン化を進め、 将来の世代に引き継ぐことができる先見性を持った企画・立案・実施に取り組むことが予定されている。気象庁はこの環境行動計画に合わせ、 国や地方公共団体の政策決定者と連携を強化し、温暖化に対する施策を支える基盤的な予測情報を提供するとともに、広く使いやすい発表を行う ための方策を検討している。

国際的にも地球温暖化問題は人類全体の問題として国際社会が協力して取り組むべき課題としての共通認識が得られている。気候に対して人為的な 影響を及ぼさないように大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させるための国際的な取り組みを目的として、気候変動枠組条約締約国会議が毎年開かれ、 京都議定書において導入された京都メカニズムを実行に移すため議論が継続されている。一方、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、長年の観測 データから得られる知見や地球温暖化の原因の特定と予測などについて、世界の第一線の研究者が自然科学にもとづく評価を行い、さらに社会・経済に 及ぼす影響や対応策等の評価も含めた検討を加えて、政策決定者に判断材料及び根拠を提供する評価報告書をまとめている。平成19年には第四次評価報告書が とりまとめられる予定である。地球温暖化問題の解決のため、わが国としてもその問題点の解決のために国際的な連携を強め、政策的にも科学的にも貢献が求められている。


(研究の必要性、緊急性)

気象庁は地球温暖化によるわが国の気候の変化がもたらす各分野に及ぼす影響の評価と適応戦略の策定に役立てるため、特に、水資源、河川管理、 治山・治水、防災、農業、水産業や、保健・衛生などの分野など気候の変化に敏感で脆弱な分野を考慮した温暖化予測情報の提供を計画している。

さらに、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出削減が計画どおりに実施されているかの監視に関連して、数十年先までの二酸化炭素などの大気中濃度の 予測も必要である。また、これらの情報は、平成25年以降における「京都議定書」第二約束期間における温室効果ガス排出削減の目標達成に向けた国際交渉などに おいて、合意を築くために必要な科学的知見および技術的基盤を関係省庁に国の機関として気象庁から地球規模の温暖化情報を提供することが不可欠である。


気象庁に求められているこれらの課題に応えるためは、以下についての研究開発が必要である。

● 4 kmの水平分解能で、個々の気象要素等(※1)が温暖化によってどのように変化するかを知るための、わが国の複雑な地形を表現可能できる 雲解像気候モデルの開発。海洋部分についても、日本付近での海流や海面水温の詳細な情報を得るために、既存の海洋モデルの10kmメッシュへの高分解能化。

● 地球温暖化予測の信頼性の向上と、雲解像気候モデルの側面境界条件と初期値への利用、二酸化炭素やオゾン等の将来予測を可能とすること、 などのために全球気候モデル(全球大気海洋結合モデル)を核として、それに二酸化炭素などの温室効果ガスやエーロゾル等の大気・海洋・陸面間における 物質循環などを考慮した温暖化予測地球システムモデルの開発。

● 地球温暖化予測における最大の課題のひとつである予測の不確実性を低減するために、不確実性の大きな原因である積雲対流パラメタリゼーションの改良。


 ※1 日平均気温、日々の最高気温の値、真夏日や熱帯夜の日数、日降水量や月降水量、時間単位の降水量、雨か雪かの判別、最大風速の増減や暴風日数、風速の地域ごとの頻度分布など。


(当所での実施理由)

気象研究所は、大気・海洋混合層モデルによる日本で初めての地球温暖化実験に引き続き、表1に示すように、全球気候モデルと地域気候モデルの開発を行い、 全球予測と地域的予測を結合させた地域的温暖化予測システムを構築して、地球温暖化及びわが国の温暖化予測を行ってきた。これらは、IPCCの評価報告書に 貢献するとともに、気象庁から地球温暖化予測情報として公表されている。

また、地球温暖化研究イニシャティブの温暖化影響・リスク評価研究プログラムや、国土交通省水資源部の気候変動による水資源に与える影響評価研究会からの 要請により提供したわが国の詳細な温暖化予測は、気象庁が国の行政機関として一元的に提供する「気候統一シナリオ」として採用されている。

このように、気象研究所は国内でいち早く気候モデルによる地球温暖化の研究に取り組み、その後もその成果を国内のみならず国際的に発表している。 気象研究所の研究成果は、地球温暖化対策へ利用されていると同時に、地球温暖化についての科学的知見を広めることに貢献してきた。

気象研究所がこれらの成果を出すために地球温暖化研究用に利用している地域気候モデルおよび全球気候モデルは、気象庁の天気予報や週間天気予報、 季節予報のために利用している現業モデルと同じくして開発を進めているものである。予測結果が観測データにより日々気象庁で検証されている現業モデルと 同じベースのものであり、そのように性能の保証されたモデルによって研究していることは、気象研究所における温暖化研究の信頼性の裏付けとなっている。

また、今までの特別研究で開発されている気候モデルに加え、高分解能な雲解像モデル、二酸化炭素やエーロゾルなどの物質循環を予測するモデルなどについて、 基礎となる研究開発が気象研究所の経常研究などで進められている。

このことは、気象研究所が、こうした実績と蓄積された研究成果を活かすことにより、気候モデルを高度化し、より信頼性の高い地球温暖化予測情報の作成を 可能とする十分な技術的基盤を有する事を示している。気象庁の、国の行政機関として地球温暖化に関わる信頼できる情報を一元的に広く提供する責務を果たすため、 気象研究所の地球温暖化予測情報にかかわる研究を強く推進する必要がある。


研究の概要

1)雲解像地域気候モデルの開発

局地的な現象や日本の複雑な地形効果を十分に再現できる分解能4kmの雲解像地域気候モデルを開発し、温暖化予測実験を実施する。この結果を用いて温暖化に伴う 日本の気候変動の詳細な予測を行う。このモデルの下部・側面境界条件には、領域大気海洋結合モデルの計算結果を用いる。

雲解像地域気候モデルの側面条件を改良するとともに、アジア・北西太平洋領域の気候変動を明らかにするために、領域大気海洋結合モデルの高度化を行い、 現在と温暖化時の予測計算を実施する。

2)温暖化予測地球システムモデルの開発

気象研究所では、陸域の生態系モデル、海洋の炭素循環モデル、エーロゾル化学輸送モデル、成層圏光化学輸送モデルなど、これまでの気候モデルでは 外部パラメータとして与えられた物質の時間発展を計算するモデルの開発が進められている。これらのモデルを全球気候モデルと結合することにより、 地球の気候システムを構成する気候要素(大気、海洋、陸面、雪氷、生態)間の物質交換と輸送を取り扱うことのできる温暖化予測地球システムモデルの 開発を行う。このモデルを用いて、温室効果気体の排出シナリオから、濃度予測と気候変化予測を行う。

3)新積雲対流パラメタリゼーションの開発

雲解像モデルを用いた広領域・長時間積分を実行して、その結果に基づき新たな積雲対流パラメタリゼーションを開発し、温暖化予測の不確実性の低減に資する。

事前評価の総合所見

(pdfファイル)


All Rights Reserved, Copyright © 2003, Meteorological Research Institute, Japan