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気象研究所研究開発課題評価報告

地震発生過程の詳細なモデリングによる東海地震発生の推定精度向上に関する研究

事後評価

評価年月日:平成16年8月2日

各年度毎の予算

  平成11年度  38,584千円
  平成12年度  44,484千円
  平成13年度  33,460千円
  平成14年度  34,212千円
  平成15年度  36,190千円

実施期間

平成11年4月 ~ 平成16年3月

研究主任氏名及び所属

地震火山研究部 濱田 信夫

研究成果の概要

地震・地殻変動データの解析により、想定震源域の境界の推定、自己浮上海底地震計による観測結果を用いた東海沖海域の震源決定精度向上、 プレート境界固着域下方の低強度領域の推定、潮位データにおける1946年南海地震の前駆的上下変動の検出などの成果を得た。このほか、 地殻変動監視のため、逆解析プログラム、降水補正法、GPS3時間値の精度向上など変動解析ツールの整備を行った。地震・地殻変動データに 基づいて東海地震の想定震源域を対象とした三次元力学モデルを構築し、地震発生サイクルの数値シミュレーションにより、プレート境界固着域の 縮小の様子や予想される地殻変動の特徴を調べると共に、スロースリップなど周囲の変動が東海地震に与える影響を評価した。

その結果、以下の3点が主な成果として挙げられる。

①三次元数値シミュレーションモデルによる東海地震のシミュレーションの実施により、プレスリップ(前兆的すべり現象)を含めた監視のための地震発生シナリオの作成を行うことができた。

②降水や潮汐の影響を補正する地殻変動解析手法を開発し、地殻変動に伴う精度の高い監視データを取得できるようになり、地殻変動異常監視における異常データの客観的判断基準を設定することができた。

③南海トラフ沿いで起きた1944年(昭和19年)東南海地震と1946年(昭和21年)南海地震の波源域を詳細に解析することにより、東南海地震の際の 海底変動は渥美半島付近まで達したが、それよりも東の部分は未破壊であることが推定された。

(1)成果

・当所想定していた成果

A.三次元数値モデルによる地震発生のシミュレーション

①三次元数値シミュレーションモデルの構築とそれを用いた東海地震のシミュレーションの実施し、プレスリップ(前兆的すべり現象)を含めた監視のための地震発生シナリオを作成

B.地殻変動データ解析手法の高度化

②潮位記録を用いた地殻上下変動の解明

③地殻変動観測・監視のための解析手法・プログラムの開発

④GPSデータからの歪計算値を用いたスロースリップ現象の解明

⑤体積歪計データの降水補正技術の開発

また、上記②~⑤の成果から、地殻変動異常監視における異常データの客観的判断基準を設定することが可能となった。

C.地震活動評価手法の開発・改良

⑥海底地震計観測の成果を取り込んだフィリピン海プレートの形状の明確化

⑦地震波3次元速度構造の調査による震源固着域の深部境界の解明

⑧津波波源域の詳細な調査による東海地震震源域の西端の推定


・想定外の成果

A.三次元数値モデルによる地震発生のシミュレーション

①スロースリップの再現実験

研究期間内に東海地域で見出されたスロースリップについて再現実験を行った結果、新しい知見が得られた。特にスロースリップの 繰り返しの可能性や本震直前のプレスリップとの違いを評価できる可能性が示された。

B.地殻変動データ解析手法の高度化

②2000年以降の伊豆諸島北部と東海地域における地震・地殻変動の解析

2000年伊豆諸島北部の地震・火山活動に伴う地殻変動について解析した結果、伊豆諸島北部に置いた変動源では説明できない変位が 中部地方にあること,その変位が東海地域直下のプレート境界のスロースリップ開始時期を早めることにより説明できる可能性のあることを示した。

③東海スロースリップに対する歪解析

東海スロースリップの発生によって浜名湖とその周辺での伸長と渥美半島と御前崎周辺における収縮が明らかになった。 このような地殻変動はプレート境界におけるすべりによって生じていると推定され、御前崎付近における応力を増加させている可能性を示した。

C.地震活動評価手法の開発・改良

④低周波地震に関する知見

東海地域から西日本のフィリピン海プレートの沈み込み帯で起きている非火山性の低周波地震・微動について調査から、発生場所がマントル・ ウェッジより海溝側に限られることを明らかにすると共に、低周波地震・微動の原因として考えられている水の存在が岩石の脱水反応に起因する 可能性が示され、帯状の震源分布に関して新たな見方を提供した。


(2)波及効果

①南海トラフ沿いで起きた1944年(昭和19年)東南海地震と1946年(昭和21年)南海地震の波源域を詳細に解析することにより、東南海地震の際の 海底変動は渥美半島付近まで達したが、それよりも東の部分は未破壊であることが推定された。この成果は、中央防災会議による東海地震の 「想定震源域の見直し」(平成13年6月)に当たって、西側の境界を想定する上で非常に重要な役割を果たした。

②三次元数値シミュレーションモデルによる東海地震のシミュレーションの実施により、プレスリップ(前兆的すべり現象)を含めた監視のための 地震発生シナリオの作成を行うことができた。それに伴い先般、報道発表されているように「警戒宣言」前からの防災面の準備行動に貢献する 「東海地震注意情報」など東海地震に関する新しい情報発表の実施、及び中央防災会議の「東海地震対策大綱」の作成に貢献した。

事後評価の総合所見

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