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気象研究所研究開発課題評価報告

東海地震の予測精度向上および東南海・南海地震の発生準備過程の研究

中間評価

評価年月日:平成16年3月8日

実施期間

平成16年4月 ~ 平成20年3月

研究主任氏名及び所属

地震火山研究部 濱田 信夫

研究の目的

地域気候モデルの高度化

(研究目標)

本研究全体では、これまでの特別研究の成果を土台にして、さらに地震予知・監視業務に役立てるため高度化を図ると共に、 数値シミュレーションの周辺地域への拡大を行うとともに、地殻変動解析技術の適用範囲を広げ、解析手法の改善を図ることとする。

具体的には、東海地域に適用した3次元摩擦構成則に基づく物理モデルによる数値シミュレーションを南海トラフ沿いに拡張し 巨大地震相互の発生の影響評価を試みる。またスロースリップのように現在のシミュレーションでは表現出来ない現象について表現可能な 力学モデルの導入を検討していく。また東海地域以外では地殻・プレートの形状に関する情報が少ないことから、地震観測、電磁気学的手法 による地殻・プレート構造調査ならびに低周波地震の発生機構等の解明を進める。

さらに自然地震観測、地殻変動観測など受動的な広域地殻活動のモニターだけでなく、最近開発が進んでいる人工制御震源からの信号を 用いて地殻の物性や応力状態変化をモニターする手法を導入するにあたり、既存地震観測網を用いた信号処理技術の開発を行う。水平地殻変動に 関しては、スロースリップなどの現象を的確に観測するため、GPS、体積歪計など地殻変動測器との中間の時空間分解能を持つ長距離レーザー 伸縮計、海域での連続地殻変動観測が可能な観測技術の技術開発を進める。また上下変動については、潮位、GPSなどを中心に推定精度向上の ための技術の高度化を図る。

(研究開発の背景:東海地震予知、東南海・南海地震対策の現状)

1854年の安政東海地震以来約150年が経過した東海地域では、M8クラスの巨大地震の発生が懸念されており、1978年の大規模地震対策特別措置法の 成立以来、地震予知の対策がとられている。気象研究所では、想定東海地震の予測精度向上のため、今期特別研究「東海地震発生の推定精度向上に 関する研究」(平成11年度-15年度)において、自己浮上式海底地震計(OBS)観測を実施してプレート構造を詳細に求めると共に、東海地震発生の 計算機シミュレーションにより前兆現象の性質を調べた。また、GPS、潮位データに基づく地殻変動解析手法の開発を進め高度化すると共に、1946年 南海地震前後における沿岸付近の地盤の上下変動の存在を明らかにした。さらに、地震活動の評価手法については標準的な手法について一応の完成をみた。

一方、東海地震の想定震源域に隣接する南海トラフ沿いで、今世紀半ばにも東南海・南海地震の発生が予測されることから、先般、国による 東南海・南海地震に関する観測および測量のための施設等整備の推進を定めた法律(東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法) が公布(平成14年7月26日)され、気象庁でも観測の強化について検討を進めている。

また、東海地震発生と東南海・南海地震との関連性が、中央防災会議「東南海、南海地震等に関する専門調査会」の中間報告書にも指摘されており、 今後の重要な研究課題となっている。

さらに、現在検討中である科学技術・学術審議会測地学分科会による次期建議「地震予知のための新たな観測研究計画の推進について」 (平成15年7月建議予定)においても、東海地域と並び東南海・南海地域の地殻活動モニタリングのための観測研究の推進と、新しい観測技術の 開発が盛り込まれる見込みである。

(研究の必要性、緊急性)

想定東海地震の発生に関しては、2000年前後から固着域とその周辺の微小地震活動の低下、2001年初頭からスロースリップ(プレート境界での ゆっくり滑り)の発生など、巨大地震の前駆現象としての可能性がある地殻活動が報告されており、依然として切迫した状況が続いている。 このため東海地震発生の推定精度向上に関する研究は、監視業務に資するため、今後も引き続き進めていくことが不可欠である。

また東南海・南海地震の予想発生時期が近づきつつあることから、東海地震とこれら巨大地震発生の相互の影響を評価し、中長期予測など 防災対策に資する研究の推進が求められている。

(当所での実施理由)

当所で現在実施している東海地震に関する特別研究では、東海地域の応力の状態を表す3次元有限要素モデルの構築を進めるとともに、 GPS・歪計観測データを融合し総合的な歪場の解釈を可能とする解析手法の開発を進めている。また陸上及び海底地震観測のデータを統合して 東海地域の地殻・プレートの精密な形状を求め地震活動の客観的評価手法の改善に取り組んでいる。当所は気象庁業務に関する研究を行う機関として、 東海地震の監視業務の重要性と逼迫性に鑑み、引き続き東海地震予知の確度向上と、東海地震と密接な関わりが予想される東南海・南海地震の 研究に積極的に取り組む必要がある。

研究の概要

研究概要

東海、東南海、南海地震の過去の活動は、ある場合には個別に、ある場合には連動するなど地震の発生は密接に関連している。そのため、 東南海、南海地震の震源域での地震発生やその準備過程が東海地震に及ぼす影響を見積り、想定東海地震の予測精度向上を図る。さらに、 次の東南海・南海地震の発生が今世紀前半にも想定され、発生時期が近接してくることから、これらの地震相互の影響評価も緊急性を 増してきている。そのため東海地震の想定震源域から周辺域にもシミュレーションの範囲を広げ、地殻活動に関するモニタリング技術の改善を図る。

1)三次元数値モデルによる巨大地震発生シミュレーション

今期特別研究では、東海地震の想定震源域において、3次元摩擦構成則に基づく数値シミュレーションを行うことにより数多くの知見が得られた。 その成果を踏まえ、東海地震のモデルを精密化し東海監視業務に資するとともに、対象範囲を広げ、南海トラフ沿いの巨大地震にこの試みを拡張していく。 特に巨大地震相互の発生の影響を評価することにより、駿河-南海トラフ沿いの巨大地震の短中長期予測に関し知見を深める。

2)地震活動・電磁気学的手法によるプレートの詳細構造の解明

駿河-南海トラフ周辺海域で、自己浮上式海底地震計による地震観測を実施することにより、当該地域の震源決定精度の向上を図り、地震活動・ 応力状態を把握するとともに、得られたプレートの沈み込み構造を数値シミュレーションに取り入れる。また、南海トラフにほぼ平行な陸域の地殻下部では 低周波地震が発生しており,トラフ沿いの巨大地震との関連性が指摘されていることから、低周波地震の震源域において地震・電磁気学的手法による 構造調査を行うと共に低周波地震の発生機構を調べる。

3)地殻活動モニタリング手法の開発

人工制御震源からの信号を観測することによって波線経路の物性・応力変化・地下水流動などの変化をモニターすることが可能な手法を、既存の 地震観測網に適用し、東海地域から西南日本にかけての広域地殻活動モニタリング手法として利用するための開発を行う。その成果を踏まえ、東海地域で フィージビリティスタディを行う。

潮位観測による地盤上下変動の推定精度向上のため、検潮所に設置されるGPSデータ、海水温など海況に関する観測データ等を活用し、地盤上下 変動推定手法の高度化を図る。さらに、その手法による東海地域における潮位記録の再解析を行う。

4)新地殻変動観測手法の開発

東海地域で最近観測されているスロースリップのような現象を正確に把握するには、GPSと地殻岩石歪計の一層の観測精度の向上と共に、 両者の中間の時空間分解能を持つ地殻変動測器の開発が求められる。陸域ヒンジライン付近や海溝付近など、地震に関連して大きな変動が予想される 場所での地殻変動連続観測を行うため、陸域では長距離レーザー式変位計、海域では地殻変動連続観測手法の開発を進める。

事前評価の総合所見

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