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気象研究所研究開発課題評価報告

地球温暖化によるわが国の気候変化予測に関する研究

中間評価

評価年月日:平成16年1月8日

実施期間

平成12年4月 ~ 平成16年3月

各年度毎の予算

  • 平成6年度  22,047千円
  • 平成7年度  30,755千円
  • 平成8年度  30,755千円
  • 平成9年度  30,755千円
  • 平成10年度  28,489千円

研究主任氏名及び所属

気候研究部 青木 孝

研究開発進捗状況

地域気候モデルの高度化

(1)研究開発の状況

領域大気・海洋結合モデルに用いる高分解能の領域大気モデル(以下、高分解能領域大気モデル)及び太平洋海洋モデルを 開発、改良してそれぞれのモデルを構築した。

太平洋海洋モデルについては、全球気候モデルの出力結果を境界条件に使い、現在気候を再現する数値実験及び温暖化時の 気候を予測する数値実験を行った。

また、高分解能領域大気モデルについては、東アジア域を対象とした分解能60kmのモデルと日本域を対象とした分解能20kmの モデルを開発し、全球気候モデル中に二段ネスティング(入れ子)にし、太平洋海洋モデルによって得られた高分解能海面水温を下端境界条件として、現在気候を再現する数値実験及び温暖化時の気候を予測する数値実験を行っている。
領域大気・海洋結合モデルの開発(2つのモデルを結合するための開発)は現在行っているところである。


(2)進捗状況の分析

太平洋海洋モデルは当初の計画どおりに構築できた。また、高分解能領域大気モデルの開発は当初計画よりやや遅れたものの構築できた。 領域大気・海洋結合モデルの開発が当初計画より遅れているのは、高分解能領域大気モデルの開発が遅れたことによる。


(3)研究開発の進め方

太平洋海洋モデルによる高分解能海面水温を下端境界条件にした高分解能領域大気モデルによる現在気候再現実験、温暖化時の気候を 予測する数値実験について、引き続き実施する。領域大気・海洋結合モデルの開発の遅れは、全球気候モデルにおける大気と海洋の結合に 関するノウハウの応用及び高速のスーパーコンピュータの導入(平成16年3月、理論演算性能で現行機種の約10倍)により、取り戻すことが できる見込みである。

領域大気・海洋結合モデルの改良を行い、地球温暖化時の日本列島周辺域における地域気候変化を予測するための数値実験については、 平成16年3月にはテスト実験を開始し、引き続いて温暖化実験を行う予定である。


全球気候モデルによる地球温暖化予測の高度化

(1)研究開発の状況

全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM2)の物理過程の高度化を行い、フラックス調整をする気候モデルとして構築した。この気候モデルを 使って二酸化炭素を年率1%漸増、及びIPCCの特別報告書(Special Report on Emissions Scenarios、通常SRESと略)による排出シナリオ (A2, B2)によるアンサンブル予測実験を行った。

高度化した全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM3)を開発し、プロトタイプを作った。


(2)進捗状況の分析

全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM2)については、当初の開発予定どおり達成した。高度化した全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM3)の開発の進み方も当初計画どおりである。


(3)研究開発の進め方

高度化した全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM3)をフラックス調整なしの気候モデルとして構築し、高度化した全球大気・海洋結合モデル (MRI-CGCM3)による温暖化時の気候を予測する数値実験を行う。


全球気候モデルによる地球温暖化予測の高度化

「地域気候モデルの高度化」関連

(1)研究開発の状況

検証用のデータセットとして、アメダスの気温と降水量データ(1976-2000)および衛星による積雪面積データ(1993-2002)、衛星等による 旬平均の緯度経度1゚間隔の海面水温データ(1985-1999 [衛星データのみ]及び1951-1998)を整備した。

高分解能領域大気モデルについて、現在の気候状態での数値実験により算出された日本の気温、降水量、アジア域の積雪の出力結果を、収集した データと比較・解析し、高分解能領域大気モデルの改善に反映させた。

太平洋海洋モデルについては、現在の気候状態での数値実験(1990年を初期値とした)により算出された海面水温の出力結果を、収集したデータと 比較・解析し、海洋表層における混合を決めるパラメータ及び大気-海洋間の熱の交換を決めるパラメータ等の改善を行った。日本南岸の黒潮流路及び 房総半島沖の黒潮の離岸位置が現在の状況を良く再現していることを確かめた。

なお、水蒸気等の陸面における水収支の解析については、着手したところである。


(2)進捗状況の分析

収集したデータによる高分解能領域大気モデル及び太平洋海洋モデルの検証を実施し、その結果を両モデルの改善に役立てることができた。 水蒸気等の陸面における水収支の解析の着手の遅れは、高分解能領域大気モデルの開発の遅れたことによる。


(3)研究開発の進め方

領域大気・海洋結合モデルの開発に並行して、高分解能領域大気モデルにおける水蒸気等の陸面における水収支の解析を行い、領域大気・ 海洋結合モデルによる本実験開始まで、陸面過程モデルの改良に反映させる。

平成16年度には、地球温暖化時の日本列島周辺域についての地域気候変化を予測する数値実験の結果から気温・降雪量・降水量などの 空間分布や、それらの現在の気候における値との偏差の頻度分布などを解析し、日本における温暖化時の気候変化、特に冬の日本海側の降雪量、 冬の関東地方の乾燥気候、梅雨末期の豪雨、東日本のやませ、西日本の旱魃等の気候変化や異常気象の発生傾向の変化を明らかにする。


「全球気候モデルによる地球温暖化予測の高度化」関連

(1)研究開発の状況

全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM2)による気候感度実験を、ア)雲とエーロゾルの放射過程、イ)海洋混合層(大気・海洋結合過程)、 ウ)大気・地表面結合過程、について行った。気候感度実験の結果の解析から、ア)~ウ)が温暖化予測に及ぼす影響を調べ、気候モデルの 改善を行った。

また、現在の条件(温室効果ガスの量などの平均値)を仮定した数値実験を行い、気温等の平均場や変動の大きさが、現在の気候での値を 再現することを確かめた。

全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM2)による温暖化時の気候を予測する数値実験の結果を蓄積・整備し、気候変化と温暖化メカニズムの 解明のためのデータの解析を行った。


(2)進捗状況の分析

全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM2)による気候感度実験及びその結果の解析は当初の計画通り研究が進捗している。さらに温暖化時の 気候変化と温暖化メカニズムの解析も順調に進められている。


(3)研究開発の進め方

全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM2)及び高度化した全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM3)による温暖化時の気候を予測する数値実験の 結果を解析して、エルニーニョ現象などのように自然変動に見られる特徴的なパターンなどを調べることにより(6-1 イ参照)、地球の温暖化の 検出と温暖化メカニズムの解明をめざす。また、国際的な結合モデル相互比較実験(CMIP)にも積極的に参加し、比較実験による計算結果を利用 してモデルの性能の向上と温暖化メカニズムの解明を行う。


得られた成果と波及効果

(成果(アウトプット))

(1)地域気候モデルの高度化

高分解能領域大気モデル及び太平洋海洋モデルの開発、改良を行い、両モデルを構築した。太平洋海洋モデルによる温暖化時の数値実験を行い、 計算結果をデータセットとして整備した。


(2)全球気候モデルによる地球温暖化予測の高度化

全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM2)の物理過程の高度化を行った。この気候モデルを使って、国際的な結合モデル相互比較計画(CMIP)から 要請された二酸化炭素の年率1%漸増実験を行い、その結果をCMIPに提供した。高度化した全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM3)については、 開発を進めプロトタイプを作成した。

排出シナリオについてのIPCC特別報告書(SRES)のA2とB2の排出シナリオに基づく21世紀の温暖化時の気候を予測するアンサンブル数値実験を行い、 その結果を気象庁から「温暖化予測情報」として公表した。


(3)気候モデルの検証と温暖化メカニズムの解明に関する研究

ア)地域気候モデルの高度化

高分解能領域大気モデルについて、現在の気候状態での数値実験の出力結果を、収集したデータと比較・解析し、高分解能領域大気モデルの ネスティングのパラメータの最適化に反映させた。

日本域を対象にした領域大気モデルの下端境界条件である海面水温の空間分解能の効果を調べた。海面水温の空間分解能において、黒潮を良く 表現できる場合とそうでない場合とで、降水分布等に大きな違いが生ずることがあり、高分解能海面水温の気候計算における重要性を確認した。

海面水温の観測値によって太平洋海洋モデルの数値実験の結果を検証し、海洋表層における混合を決めるパラメータ及び大気-海洋間の熱の交換を 決めるパラメータ等を改善した。また、日本南岸の黒潮流路及び房総半島沖の黒潮の離岸位置が現在の状況を良く再現していることを確かめた。


イ)全球気候モデルによる地球温暖化予測の高度化

全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM2)による気候感度実験の結果における大気上端の放射収支を検証し、雲量を決めるパラメータや雲・エーロゾルの 放射過程を改善した。

全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM2)による気候感度実験の結果の解析から、エルニーニョ現象について、エネルギー収支とエルニーニョ現象の 大きさを決める要因として、西太平洋における貯熱量が重要であることが判り、エルニーニョ現象のメカニズム解明に貢献した。

二酸化炭素が増加しても温暖化が小さいと必ずしも降水量の増加には結びつかないことが起こるのは、大気中の熱バランスを満たすために地表からの 蒸発が抑制されるためであることを明らかにした。このことは十分に温暖化が進んだ時の予測結果を20世紀の温暖化検出に適用する際に注意が必要で あることを示している。

全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM2)による数値実験の結果の解析から、地球温暖化に伴う海面水温や地上気圧の変化の空間パターンは、 現在気候におけるエルニーニョ現象などの自然変動に特徴的な海面水温や海面気圧の空間パターンと類似性があることが明らかになった。このことは、 地球温暖化に伴う気候が示すパターンの予測のためには、気候モデルがエルニーニョ現象などの自然変動を再現できる能力を備えていることが必要 であることを示唆している。


(波及効果)

本研究の成果として得られる気象研究所の全球大気・海洋結合モデルの温暖化予測結果を基にした地域気候モデルのデータは、「地球温暖化研究 イニシャティブ」の「温暖化影響・リスク評価研究プログラム」に活用されることにより、日本の温暖化対策、将来の国土管理など国家的施策に 結びついていく。また、気象庁が刊行する「地球温暖化予測情報」に利用されることで、多くの研究機関による影響評価や行政機関による対策策定の 基礎資料として活用されることとなる。現在、高分解能領域大気モデルによる日本における詳細な温暖化予測結果について、「地球温暖化研究イニシャティブ」の 「温暖化影響・リスク評価研究プログラム」からの提供要請があり、今年度中に提供する予定である。

また、地域気候モデル、全球気候モデルにより地球温暖化による地域気候変化や温暖化予測の結果はIPCCへ提供されると同時に、得られた高度な知見は、 IPCC第四次評価報告書への反映などを通して、国際的にも大きく貢献することができる。

さらに、本研究で開発される高分解能でフラックス調整なしの全球大気・海洋結合モデル(MRI-CGCM3) は、気象庁エルニーニョ現象の予測などの業務や、 研究開発の基盤的な気候モデルとして利用できる。



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