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気象研究所研究開発課題評価報告(中間評価)

地震発生過程の詳細なモデリングによる東海地震発生過程の推定精度向上に関する研究

中間評価

評価年月日:平成14年10月16日

実施期間

平成年4月 ~ 平成11年3月

各年度毎の予算

  • 平成6年度  28,681千円
  • 平成7年度  28,065千円
  • 平成8年度  37,074千円
  • 平成9年度  39,171千円
  • 平成10年度  38,958千円

研究主任氏名及び所属

地震火山研究部 濱田 信夫

研究成果の概要

(1)三次元数値モデルによる地震発生のシミュレーション

想定していた成果

東海地域を対象とする三次元のプレート形状モデルを与え約150年周期で繰り返し地震が起こるシミュレーションを行うことにより、 地殻変動が短・中・長期的にそれぞれどのように振る舞うかについて明らかにした。また、GPS(約3年間)、水準測量(約20年間)、微小地震観測 (約20年間)結果との比較を行うことにより、シミュレーションの結果と観測結果との間におおよそ一致が見られることを確認した。

副次的な成果

国土地理院のGPS観測によれば、2001年はじめごろから東海地域でスローイベントが起きている。シミュレーションモデルで、このスロー イベントが東海地震に与える影響を試みに調べたところ、スリップ量がそれほど大きくない時には東海地震を誘発する恐れはないが発生時期をずらす 作用をする可能性があること、スリップ量が短期間にM7の規模を越えるようになると東海地震を誘発する可能性があること、などがわかった。 しかしながら現在も継続中のスローイベントには不明の点が多く、シミュレーションを行う上で発生源に関する仮定など検討すべき課題がある。 なお、今後媒質の不均質性の影響を取り入れた計算に移行する予定であるが計算量の増大が見込まれている。

(進行中の内外の研究との関連)

JAMSTECが中心になって行っている地球シミュレーター計画では、日本列島全域にわたるモデル開発を進めている。本研究では、東海地域にターゲットを絞り、 精確なプレート形状を用い、地震活動や地殻変動との比較対照を行うことにより、詳細なモデル開発を進めている。


(2)地殻変動データ解析手法の高度化

想定していた成果

より短い時間間隔で高精度の変動を検出できる地殻岩石歪計と広範囲に展開されているGPS日データとの統合的な解析を行うことで、変動を確実に検出する 手法に結びつけられると考えられるが、この意味で、GPS3時間解析データについて観測精度向上の可能性が示されたことは、広範囲における短期変動検出手法 開発のために有用な成果であると考えられる。

一方で、GPS観測によって得られる上下変動速度が、長期間の検潮データや水準測量データから得られる傾向と概ね一致することが示されたことは、GPSによる 上下変動の観測精度を確認する意味ばかりでなく、地殻変動を統一的に扱える可能性を示す意味からも重要である。

検潮データから1946年南海地震の前駆的変動が見いだされたことは、同じ南海トラフ沿いの海溝型巨大地震である東海地震の前駆的地殻変動の出現可能性を 想定する上で重要な成果である。

副次的な成果

2000年夏の伊豆諸島北部の地震火山活動に伴う地殻変動が東海地域においても観測された。インバージョンソフトの整備によりGPS変位データを用いて 変動源を推定し、計算された歪が地殻岩石歪計で観測された歪とほぼ一致することが確認された。GPSと歪計とにより観測された地殻変動が、数ヶ月以内の 期間に進行する変動については整合的であることを示したものである。

他方、2001年春からの東海地域のスローイベントはGPS観測のような長時間スケールでは明瞭な現象であるが、地殻岩石歪計には環境要素補正後も現在の ところ見つかっておらず、両者の表わす地殻変動に本質的な相違があることを示す結果となった。この原因の解明は、今後の統合的解析を考えて行く上で 重要な課題である。

(進行中の内外の研究との関連)

東海地域の地殻変動の現状に関する研究は多く実施されているが、この研究のように、歪計、GPS、検潮、水準測量など多種観測データを融合して、 前兆検出能力を高めるための解析手法高度化を図る研究を行っている例は他に見られない。


(3)地震活動評価手法の開発・改良

想定していた成果

東海地域で地震波速度の三次元構造を解析した結果、フィリピン海プレートの詳細な形状が明らかになると共に、固着域の周辺にはプレート間 カップリングの弱い領域があることが明らかになった。これらの解析結果は地震発生のシミュレーションに関して精密な境界条件を与える上で役立ち、 ひいては本特別研究の目的である地震予知精度向上に大いに貢献するものである。

自己浮上式海底地震計の臨時観測を行うことで、遠州灘における詳細な地震活動を明らかにした。気象庁が定常業務で決定した震源は震源の深さが 沈み込むフィリピン海プレートの上面よりかなり下方に求まっていたが、本研究によりそれらの深さが10~20km程度浅く決まることが判明し、 フィリピン海プレートに関連した地震活動であることがわかった。

地震の応力降下量を求める際、地震波速度構造や減衰構造の影響を補正することにより精度の良い推定が可能になった。地殻変動データから求められる 地表面の歪変化と併せ、スラブ内の応力変化を詳細に推定できるようになった。

1944年東南海地震の破壊域を検潮記録の解析により明らかにした。その結果、破壊域の東端は渥美半島の南側まで到達していることが明らかになった。 これは従来、地震波形解析より求められていたものより北東側まで破壊が進行していたことを意味しており、東海地震の西端を決定する上で重要な情報を与える。

副次的な成果

西南日本とフィリピン海プレートの相互作用に関する新しいモデルにより、西南日本のテクトニックな解釈や中央構造線の形成に関する解釈を深めることが出来た。

地震活動評価手法の改良に関しては、元となる気象庁の震源データの改良作業中であるため予定通り進行していない。今後どのような形でまとめるかを検討しているところである。

研究評価

中間評価の総合所見(pdfファイル)


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