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気象研究所研究開発課題評価報告

南関東地域における応力場と地震活動予測に関する研究

事後評価

実施期間

平成6年4月 ~ 平成11年3月

各年度毎の予算

  • 平成6年度  28,681千円
  • 平成7年度  28,065千円
  • 平成8年度  37,074千円
  • 平成9年度  39,171千円
  • 平成10年度  38,958千円

研究主任氏名及び所属

地震火山研究部 望月英志

研究成果の概要

本研究は、地震活動評価・予測手法の研究、データベースの構築および力学モデルの作成の3つの項目の研究から構成され、それぞれの項目毎に成果をまとめた。

(1)地震活動評価・予測手法の研究

地震活動度の客観的かつ定量的な評価の手法として活動度の偏差を地図上に表示する方法を導入し、その手法を関東地域に適用することにより、1987年千葉県東方沖地震の前の地震活動の変化を検出した。次に、関東地域の地震の巣の1つである茨城県南西部における1950年以降の地震活動について調べ、ほぼ10年周期の規則的活動の特徴を見いだした。この特徴は、プレート運動のゆらぎと関連すると見られることから、次の大地震発生時期の長期予測に有効となる可能性がある。地震発生を予測するための基礎となる前震活動の特徴に関する研究では、はじめに、活発な前震活動を伴うことが知られている伊豆地域の地震データを用い、地震活動の集中度に着目した前震の経験的識別法と確率的な本震の予測手法について調べた。次に、活発な前震活動を伴った一般の事例について調査し、火山性や群発性のものを除くほとんどの事例で、本震直前に前震活動の静穏化が生じていたことを明らかにした。また、多数の本震直前の前震活動を重ね合わせることで、その発生頻度が逆べき乗分布で近似できることを示した。

(2)データベースの構築

強震観測網で観測された地震波形を解析し、震源特性、伝搬経路の減衰特性、観測点近傍の増幅特性をインバージョンによって分離し、それらの特徴を調べた結果、関東平野の縁の観測点で増幅特性が大きいこと、深い地震ほど高周波の輻射が大きい傾向があることが見出された。この観測網から得られた地震波形データを用い、小さな地震の地震モーメントと断層パラメータを推定するためのツールの開発を行い、Mwが3.4までの地震モーメントの推定を可能にした。

南関東地域で過去に発生した主な被害地震として、1894年東京地震と1921年竜ヶ崎地震の2つの地震について現存する地震記録を調査し、地震メカニズムの再決定を行った。従来から得られているプレート構造・地震活動のデータを元にこれらの地震の震源、発震機構、テクトニクス的性質などを明らかした。

全国の地震波形収集のために導入された衛星通信地震観測テレメタリング・システムおよび収集された各種データをデータベース化するシステムを開発した。このシステムで得られた広帯域地震波形を使い、地震のメカニズム解を決定する手法を開発した。

歪計、GPSおよび検潮データのデータベース化を行い、これらのデータの解析により以下のような南関東地域の最近の地殻変動を明らかにした。

歪計については、気象庁体積歪計の原データをCD-ROMデータベース化した。このデータベースから地震発生時の観測記録の切り出しとその理論地震波形との比較を可能とするツールを開発した。このツールにより、地震波応答を利用した体積歪計の絶対感度の決定が容易になった。小田原に設置した二層式体積歪計の最近のデータを検討した結果、上下2式の歪計データを用いることによって降水の影響がかなり低減できること、および下部歪計が広域的な歪変化を反映している可能性が明らかになった。また検潮所においてGPS観測を実施し、精密解析を行うことにより1日間の観測値で数mm程度、月平均値で2~3 mmの精度で上下変動を把握できることを示した。検潮データによる上下変動は、GPS観測による結果と調和的であり、房総半島南端と伊豆大島の間の相対的変動が1990年頃から大きくなっていることを明らかにした。

(3)力学モデルの作成

地震発生に伴う周辺の応力変化の指標としてクーロンの破壊関数に着目し、その値が増加した地域で地震活動を誘発したと思われる過去の事例について調査を行った。収集した数多くの事例からクーロンの破壊関数の変化が次の地震の発生場所の予測に有効であり得ることを示した。また、南関東地域に発生する地殻内の地震の分布に着目し、新たなテクトニック・モデルの提案を行った。さらに、南関東地域の複雑なプレート構造を有限要素モデル化する手法を開発し、プロトタイプ・モデルを作成した。作成されたモデルを用いてプレートの沈み込みやプレート間地震によるクーロンの破壊関数、ならびに応力・歪の変化について調べた。

例題として関東地震を取り上げ、このようなプレート間大地震によって引き起こされる周辺の応力場の変化を推定した結果、最大余震がクーロン破壊関数の値の大きい場所で起きていたことや、クーロン破壊関数の値が、プレート構造の弾性的不均質性を与えた場合に一様均質な場合と異なることを示した。次に東海地域の三次元有限要素モデルを作成し、プレート運動による同地域の応力場の再現を試みた結果、スラブ沈み込みに相当する変位を加えただけでは観測される地震のメカニズムを再現できないが、スラブ沈み込みに直交する方向の短縮を加えることにより観測されるメカニズムに近い応力分布を再現できることが分った。

研究評価

研究成果や波及効果について

(1)本研究成果の運輸行政への貢献度はやや大きい。

(2)本研究成果の科学的水準は高い。

(3)本研究成果の波及効果はやや大きい。

(4)本研究成果の公表等は適切である。

 学会等の発表78題、報告・解説12題、論文24編

目標の達成度や研究計画について

(1)当初の目標を達成できた。

(2)当初予定しなかった通信衛星を用いた収録システムについて気象庁業務への導入について評価することができた。

(3)研究を進める上で当初予定しなかった事態の変化はなかった。

(4)研究目標の設定は適切であった。

(5)関連する内外の研究動向調査は十分であった。

(6)研究の手順や手法は適切であった。

総合評価

少額の予算と少人数の研究チーム、それも転勤によって変化し続けていたことを考えると立派な成果を上げた。


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