火山活動の監視・予測に関する研究


次の噴火や降灰に備える火山国の科学

噴火の予兆をとらえる

日本は111もの活火山を抱える火山国です。火山のおかげで温泉が全国各地で湧き出すといった恩恵がある一方で、噴火による火山灰や噴煙・噴石は飛行機の運航や生活の安全を脅かし、大きな噴火は災害を招きます。そこで、火山研究部では宇宙や地上から火山を見張って噴火の兆候を探るための「火山活動の監視・予測に関する研究」を行っています。気象庁が発表している噴火警報や噴火警戒レベル、降灰予報や航空路火山灰情報などの改善を支える研究です。

マグマに溶け込んでいる火山ガスが発泡すると、炭酸飲料の缶を振って開けた途端に噴き出すのと同じ原理で、火山体内部の割れ目などからマグマが上昇して噴火を引き起こします。これがマグマ噴火です。また、上昇してきた火山ガス等に熱せられた地下水が水蒸気になると1000倍以上に膨らみ、山体の一部を噴き飛ばして噴火することがあります。これが水蒸気噴火です。水蒸気噴火はマグマ噴火よりも前兆をとらえにくく噴火予測が難しいため、2014年に御嶽山で起きた水蒸気噴火は、噴火の規模は決して大きくなかったにもかかわらず、死者・行方不明者が63人に上る戦後最悪の火山災害となりました。そこで、御嶽山の噴火後、気象庁が札幌・仙台・東京・福岡に設置した火山監視・警報センターに気象研究所の火山研究部の研究者が常駐し、つくばの本所にいる研究者と協力して各地域で火山の状態を把握する体制を整え、研究のいっそうの進展に努めています。また、気象庁の火山監視の実務で使えるよう、連続観測データの品質管理や評価手法の課題克服を目指して研究を進めています。

火山による災害の防止と軽減を目指して

火山研究部には3つのチーム(副課題)があり、それぞれ、地下のマグマの蓄積や上昇を捉える研究、火山ガスから火山活動の変化を捉える研究、噴火時の噴石・火山灰の検知・予測に関する研究を展開しています。

地殻変動観測等に基づく火山活動評価(副課題1)は、地球物理学的な手法で火山活動評価の改善を目指す研究です。気象庁の火山監視・警報センターの各拠点で行う地域の火山活動の研究に加え、つくばの本所では伊豆大島を研究フィールドに定め、継続的に研究しています。伊豆大島では、近年、36~38年間隔で主な噴火が発生しています。1986~87年の噴火以降、島全体で膨張が続いており、次の噴火に向けて地下にマグマが蓄積しつつあると考えられます。噴火の直前には、蓄積したマグマが地表に向けて上昇し、地表の熱や重力にも変化が現れます。これらの観測データと地下の物理現象の関係を明らかにして、噴火のプロセスを解明することを目指しています。また、特定の火山を対象とする研究以外にも、地殻変動観測の精度を向上させる研究や、地震計データから地下の状態変化を検出する技術の研究を行っています。これらは、全国の火山活動評価の改善に貢献するものです。

化学的手法等による火山活動監視(副課題2)は、地球化学的な手法で火山活動評価の改善を目指す研究です。火山ガスや火山灰、噴気が溶け込んだ温泉水などを採取して分析する古典的な手法は、様々な化学成分について高精度な結果が得られる代わりに人手がかかります。そこで最近は、ガスを自動分析できる化学センサー搭載機器を火山に設置して、観測データを無線伝送して遠隔で受け取る手法を併用しています。ただ、過酷な環境でセンサーが劣化しやすいため、連続観測のための改良が課題です。測定対象の一例として、マグマから分離した高温ガスの主成分である二酸化硫黄(SO2)があります。このガスは、上昇する過程で冷えたり水と反応したりすると硫化水素(H2S)に変わるため、火山ガスの中の両者の比から、火山体内部の状態を推測することができます。なお、100℃以下になると二酸化硫黄に対して硫化水素が多くなり、温泉街のいわゆる「硫黄臭」の元になります。

吾妻山での火山ガスの採取(副課題2)の様子
吾妻山での火山ガスの採取(副課題2)

火山噴出物の監視技術とデータ同化に基づく輸送予測(副課題3)は、噴火後の火山灰や噴煙を研究しています。雨粒などを観測する気象レーダーで噴出物の総量や噴煙の高さを観測して、大気の移流拡散モデルに投入する初期値を正確に求め、噴煙が風雨によって運ばれる方向や、火山灰がどの地域にどのくらい積もるかを予測する技術を磨いています。火山灰が飛行機のエンジンを止め、あわや大事故という事例が過去に海外で報告されており、火山灰情報の改善は航路の安全確保のために欠かせません。桜島には高性能な二重偏波レーダーを設置して、より精緻な観測データから噴煙に含まれる火山灰の量を推定する研究を進めています。また、歴史的に別々に開発されてきた、広範囲の航空路火山灰情報用の全球モデルと国内の降灰予報用の領域モデルを結合した統一モデルを開発しています。