地震と津波の監視・予測に関する研究


今の科学でできる限りの地震津波対策を

揺れや津波の「どこで?いつまで?」に答える

地震や津波による被害をできるだけ軽減するために、政府の地震調査研究推進本部などの方針や「2030年を見据えた気象業務のあり方」に沿って、地震津波研究部では「地震と津波の監視・予測に関する研究」に取り組んでいます。

日本列島は4つのプレートが重なり合う立地にあるため、大地は常に変形し、体に感じない小さなものを含めると毎日数百回も地震が発生しています。今の科学では大きな地震が何月何日にどこで発生するかの予知はできませんが、日々起こっている小さな地震の活動の状態が、過去に頻繁にあったのか、あるいは珍しいのか、を示すことはできます。このような地震活動の様子を分かりやすく表現し発信するために、関連するさまざまな現象を客観的に評価することが求められています。

また、地震・津波の被害を減らすために、「即時予測」技術の進展が求められています。即時予測とは、発生の数日前に地震を予知することではなく、発生の直後に揺れや津波を予測すること、例えば緊急地震速報や津波警報などです。

地震波が伝播するまでのわずかな時間的猶予を利用して、強い揺れが起きる数秒から数十秒前に、気象庁から緊急地震速報が発出されます。2018年にはこの速報に気象研究所が独自に開発したPLUM法(揺れから揺れを予測する技術を取り入れたもの)が導入されました。また、例えばビルの高層階は、地上のように小刻みには揺れず、ゆっさゆっさと長く揺れることがあります。これは従来の「震度」では表しきれない「長周期地震動」です。気象庁では長周期地震動の観測情報の提供を2013年から始めましたが、即時予測はこれからです。今後はPLUM法を進展させ、速報対象に長周期地震動も含めることが求められています。

津波警報が発表された場合は、避難した人々や海辺に向かう救助隊から、いつ解除されるのか早く知りたいという要望がある一方で、津波の全貌を予測する技術は未熟です。

2011年の東日本大震災で巨大津波を予測しきれなかった反省から、津波の最大の高さを予測する技術は進歩しました。太平洋沖には防災科学技術研究所等が海底津波計網を張り巡らせました。気象研究所は沖合の観測データから津波の発生位置や大きさを推定し、これに基づいて沿岸に到達する津波の高さを即座に算出する技術を開発しました。これは2019年から気象庁のシステムに導入されています。現在の課題は、高さが最大になって以降、特に津波が十分に小さくなるまでの時間の予測です。津波はエネルギーをだんだん失って小さくなるのが普通ですが、波の反射などで数十時間後に再び大きくなる場合もあるので、時間が経てば安全とは限りません。危険がある間は避難を続けられるよう、後続波の出現などを予測することが求められています。

地殻活動を客観的にとらえ、揺れと津波を先読みする

地震津波研究部では、地震2チーム、津波1チームの計3チーム(副課題)で、地殻活動の異常の程度の指標づくりと、地震発生後の揺れや津波の即時予測に取り組んでいます。

地殻活動監視に関する研究(副課題1)では、大地の変形や地震活動など、地殻活動の異常の程度を指標化することを目指しています。地震の規模や頻度などの変化から専門家が感じる違和感を、地殻活動現象の客観的な評価によって表現できれば、危機感を社会と共有できます。このチームは、日本全国の過去約20年分の地殻活動の定常状態とそこからのズレ具合を地域ごとに調べて、確率などの数字で表現して、情報発信の基盤となる指標づくりを進めています。

地震動即時予測に関する研究(副課題2)では、PLUM法をさらに発展させ、観測された揺れの広がりから、続く揺れの分布を即座に算出するなどして、速報が間に合わない地域を減らし、見逃しや空振りを回避することを目指しています。各地の地盤の性質など、地震波の伝わり方に影響を与える要素をうまく考慮すれば、緊急地震速報の精度はさらに上がります。また、予測のための計算スピードを速くすることも課題です。地震波への理解を深めて、精度良く迅速に揺れの強さや継続時間の即時予測ができるように研究を進めています。

地震動即時予測に関する研究(副課題2)のイメージの図
地震動即時予測に関する研究(副課題2)のイメージ。揺れの広がりを正確に把握して、続く揺れの分布を計算し、地盤の性質を考慮することで精度の良い迅速な予測を目指す。

津波予測に関する研究(副課題3)では、津波の長時間予測技術を開発しています。津波警報・注意報の解除の見通しが立てられるよう、第一波から後続波、減衰まで、津波の全過程の経過を精度よく予測することが目標です。過去に何度か発生した場所からの津波には経験に基づいた予測手法で対応できますが、前例のない場所や規模の津波について何十時間もの時間推移を計算することは現状では難しく、津波伝播モデルの改良が必要です。沿岸域で津波が弱まるさまざまな要因をモデルに組み込み、予測精度を上げることを目指しています。