大気の物理過程の解明とモデル化に関する研究


気象の仕組みを掘り下げて予測精度を上げる

気象予測の精度向上を目指し大気を詳しく調べる

気象は時々刻々と変化しています。その変化を正確に予測するには、複雑に関係しながら大気の状態に影響を与えるさまざまな現象の一つ一つの性質を、正しく理解することが不可欠です。気象予報研究部では、それらを詳しく調べ、その知識を気象予測の精度向上に活かす研究に取り組んでいます。

緻密な観測や実験によって乱流や氷や雲の謎を探る

「大気の物理過程の解明とモデル化に関する研究」は、大気のふるまいに特に大きな影響を与える4つの現象(接地境界層乱流、雪氷圏変動、積雲対流、雲と降水)の性質を解き明かし、それらの効果を数値予報モデルに組み込むことを目標として、5つのチーム(副課題)で取り組んでいます。4つの現象はいずれも気象の予測精度を向上する上で鍵になると考えられる現象ですが、従来の気象観測だけでは捉えることが難しいため、その仕組みには不明な点が多く残されています。この研究では、大掛かりな設備を使った実験や国内外のフィールドでの観測の結果と、コンピューターを使った数値予報モデルを駆使して、これらの現象の真の姿に迫っています。それらの成果は、日々の天気予報や温暖化予測、そして集中豪雨や台風のより正確な予報に役立てます。

雲生成チャンバー、大型風洞装置、気象研究所の露場、グリーンランドでの雪氷観測の写真
左上から右回りに雲生成チャンバー、 大型風洞装置、 気象研究所の露場、 グリーンランドでの雪氷観測。 低温実験棟や国内屈指の大きさの風洞装置は、所外の研究者にも活用されている。

高解像度非静力学モデルによる激しい気象現象の再現性向上(副課題1)では、集中豪雨、大雪、雷雨、突風などの激しい気象現象に関する数値予報モデルの改良に向けて、研究を進めています。激しい気象現象の多くは、急激で局地的な大気の変動が深くかかわっています。これらを数値予報モデルで再現するには、数値予報モデルの解像度を高くして、大気の時間的空間的な変動の推移を詳しく表現する必要があります。そのため、手に入る限り多くの観測データによる大気の情報と照らし合わせながら、高解像度の数値予報モデルによるシミュレーション結果を検証しています。そして他の4つのチームの研究成果も取り入れつつ、激しい気象現象につながる大気中の複雑な過程をより正確に数式化することで、数値予報モデルの性能向上に取り組んでいます。

接地境界層における乱流輸送スキームの精緻化(副課題2)では、地表から高さ約100mまでの接地境界層で起きている現象について研究しています。地表にある建物や樹木の影響を受けて複雑に乱れた風(乱流)は、上空にまで伝わります。こうした乱流に規則性を見つけて数式でよく表現できれば、数値予報モデルを改良することができます。そこで、コンピューターによる乱流の数値シミュレーションに加えて、大型の風洞装置を使った実験や構内の草地(露場)に設置した機器で観測を行っています。

雪氷圏の監視・変動要因解明とその基盤技術の開発(副課題3)では、地球全体の気候変化を視野に入れて、雪氷の研究をしています。太陽光を反射して白く輝く雪氷は、雪質の変化や消失によって太陽光の反射から吸収へと急に転じる、危うい存在です。北極域の温暖化が全球平均の2倍のスピードで進行していることは、雪氷の大気への影響の大きさを物語ります。このチームは、その影響を数式化するために、国内外の研究機関と協力して、グリーンランドや北海道、新潟などで雪質の違いや雪に含まれる不純物と太陽光反射の関係などを調べています。

積雲対流スキームのグレーゾーン対応と雲・放射スキームの精緻化(副課題4)では、スーパーコンピュータを使う数値予報モデルの中で、雲をより良く表現する研究に取り組んでいます。積雲や積乱雲は集中豪雨や台風の重要な要素です。しかし今の数値予報モデルでは、その空間解像度より小さい雲の現象を、直接表現することができません。また、層状の雲は太陽光を反射したり地面からの赤外線を吸収したりします。そのため、雲のより良い表現は、季節予報や地球温暖化予測にも重要です。数値予報モデルで雲の表現をより精緻化することは、これらさまざまな予測精度の向上につながります。

エーロゾル・雲・降水微物理の素過程解明と微物理モデルの開発(副課題5)では、上空で雲粒子ができる様子を、雲生成チェンバーという実験装置で再現し、その仕組みを研究しています。大気中には、海塩、黄砂のような鉱物、さまざまな化学物質など、エーロゾルと呼ばれる微小な粒がたくさん漂っています。雲粒子ができるには、水蒸気のほかに、雲粒子の核となるエーロゾルが必要です。しかし現象が複雑なため、現在の数値予報モデルにはエーロゾルの影響が考慮されていません。このチームは、雲の生成過程やエーロゾルの役割を解明して数値予報モデルに組み込むことを目指しています。また、エーロゾルが雲の生成を介して気候変動に与える影響も調べています。