データ同化技術と観測データの高度利用に関する研究


宇宙・地上・海上から観測・予測

観測ビッグデータと同化技術の協調で天気を予測する

豪雨や台風による災害が毎年のように発生している今、激しい大気現象を高精度で早期に予測することは、防災上とても重要です。「データ同化技術と観測データの高度利用に関する研究」に取り組む気象観測研究部では、最先端の観測技術を開発しています。また、予測精度に大きな影響を及ぼす「初期値」の高精度化を目指して、新しい観測データや高密度・高頻度の観測ビッグデータを数値予報モデルに組み込む技術(データ同化技術)も開発しています。

上空の気温や水蒸気について多くの観測情報を得るには、間接的な観測(リモートセンシング)が頼りです。宇宙からは国際協力の下で地球全域を見張る人工衛星のデータを取得し、地上や海上では目的地に小型化・高性能化した機器を設置して大気を観測しています。特に熱帯や日本の南海上で発生・発達する台風には、衛星観測が不可欠です。衛星の観測情報をうまく処理し、気温・水蒸気・風・雲の情報として活用することで、台風の進路予測を改善しています。

豪雨の発生場所や降水量を決める上で、水蒸気は特に重要な情報です。全球衛星測位システム(GNSS)の電波を利⽤し、観測の少ない海上でも上空の⽔蒸気量を測定できる船舶搭載型の装置を開発し、2018年から複数の船舶の協⼒を得て観測を⾏っています。令和2年7月豪雨の発生直前の風上の東シナ海で正確な水蒸気量を観測できたことは、今後の豪雨予測の高精度化につながる成果でした。レーザー光を上空に照射して水蒸気を観測する装置「水蒸気ライダー」を自動車で運べるように改良かつ小型化し、豪雨が頻発する場所の風上に設置して観測することも行っています。

「予測」は現実と離れてしまう誤差を必然的に伴います。このため「アンサンブル」と呼ばれる確率予測も行っています。アンサンブル予測は、例えばデッサンで正しい線を探って何本も線を描くように、何種類ものシナリオを描いて予測の確からしさを見極めます。令和2年7月豪雨の再現を試みた実験では、1000通りのシナリオの60%以上で、12時間前に大雨を予測できていました。従来とは桁違いの計算量が必要になるため、スーパーコンピュータ「富岳」も利用します。

気象予測の精度向上のイメージ図
気象予測を精度向上させる戦略のイメージ。人工衛星、船舶搭載GNSS、水蒸気ライダーなどによる観測の充実(図左)とデータ同化技術(図右)が握手をしてより良い予測を実現します。

新たな観測を生かし予測精度を上げる

技術や機器の進化によって次々と新しい観測データが生まれる中、気象観測研究部では、それらを数値予報モデルに取り込む技術を開発する副課題1,2と、主に新しい観測技術を開発する副課題3,4の計4チームで豪雨などの予測に取り組んでいます。

衛星データ同化技術及び全球同化システムの改良(副課題1)では、台風の発生と進路など数日から1週間先の予測を向上させるため、全球モデルの初期値を改善する研究をしています。人工衛星等の観測情報を「全球データ同化システム」に組み込み、大気の状態のより良い再現を目指します。全球の海洋やオゾン、エーロゾルなど多くの予測の改良にもつながる研究です。

メソスケール高解像度同化システム及びアンサンブル摂動作成法の改良(副課題2)では、梅雨前線による豪雨や夏季に発生する局地的大雨の予測精度向上を目指し、数値予報モデルの初期値の水蒸気などが、より正確になるように改善を図っています。また、アンサンブルで見積もった予測の確からしさを活用する研究や、局地的大雨などの激しい現象に対応できる新しいデータ同化理論の構築、観測データの品質管理にAIを用いることなども進めています。

衛星・地上放射観測および放射計算・解析技術の開発(副課題3)では、リモートセンシングの結果から大気放射やエーロゾル分布を精度よく取り出す研究に注力しています。気象衛星ひまわりと別の人工衛星やスカイラジオメータ等の地上観測のデータとを組み合わせて火山灰を解析したり、南鳥島などでのフィールド観測で得られたデータを必要としている全世界の研究者などに提供し、世界的なエーロゾル観測網に貢献したりしています。エーロゾルの種類や雲の分布と移動を地上から観測・解析する方法も考案しています。

地上リモートセンシング技術及びそれらをコアとした水蒸気等の観測技術に関する研究(副課題4)では、新しい水蒸気観測技術の開発と有効性の検証を担います。水蒸気ライダーは、レーザー光線を上空に照射して水蒸気や窒素分子が反射する光の強さから水蒸気量の高度分布を測定します。関東や九州で連続観測を行い、有効性を評価しています。また、水蒸気によるレーザー光の吸収を利用する新たなライダーの開発も行っています。GNSSでは、衛星が送信する電波の遅れから受信機上空の水蒸気の総量を推定します。現在は船舶搭載GNSSの技術開発を行っています。