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地上GPS観測網の天気予報 への利用

スマートフォンの地図アプリでも知られるGPSと気象学、一見無関係に思える両者ですが、気象研究所が行ったこれらをつなげる研究「GPS気象学」によって、天気予報の精度が改善されています。

GPS(Global Positioning System: 全地球測位システム)に代表される人工衛星を用いた位置測定システム(GNSS: Global Navigation Satellite System) (以下、総称して「GPS」という。)は、以前からカーナビゲーションなどで利用され生活に浸透しています。国土地理院は日本全国に約1200箇所以上という世界的にも稠密なGPS観測網GEONET (GNSS Earth Observation Network)を運用し、地図作成のための正確な測量のほか、科学的な用途では、 GPSの信号を精密に処理して、地震や火山に関連する地殻活動の監視に使用しています。

GPSの信号を精密に処理するとき、大気中の水蒸気は位置測定に誤差をもたらすノイズとなります。水蒸気があると、その影響で衛星からの電波の到達にわずかながら遅れが生じてしまうためです。しかし、視点を変えれば、気象学や天気予報にとっては、このノイズが豪雨や突風等を引き起こす積乱雲の発達と深く関連する重要なシグナルとなります。こういう逆転の発想を活かして、様々な観測手法の研究が行われています。


イメージ図:水蒸気によってGPSの測位観測に誤差が生じる

イメージ図:水蒸気によってGPSの測位観測に誤差が生じる

GPSの信号から水蒸気の情報を取り出すには、GPS衛星の詳細な位置の把握など非常に精密な計算処理が必要になります。また、学術的に水蒸気の情報が抽出できることがわかっても、日々の天気予報に役立てるためには、リアルタイムで処理できるようにする必要があります。このようなことから、GPSの気象への利用に向けて、様々な分野の研究者が共同で、開発に取り組むようになりました。

最初は、1997年度から5年間にわたって実施された、科学技術振興調整費「GPS気象学:GPS水蒸気情報システムの構築と気象学・水文学への応用」で大きく進展しました。この課題では、GPSという研究資源を介して「水蒸気」をキーワードに、測地研究者と気象研究者が学際協力を行い、相互の発展を図ることを目的に、国土地理院、気象研究所、国立天文台、京都大学宙空電波科学研究センター(現:生存圏研究所)をはじめ多くの分野・省庁・機関が参加しました。気象研究所では、測地学やGPS観測・解析技術の習得から始め、同時に数値天気予報の初期値解析にGPSから得られる水蒸気情報を利用する研究を進めました。

GPS水蒸気情報の利用例

さらに実用化に向けた様々な技術開発を行い、気象庁での連続運用実験を経て、GPSによる水蒸気量は2009年10月から数値天気予報に利用されています。現在では、GEONETデータのほか、世界中約400か所のGPS観測点で観測した水蒸気データが、日々の数値天気予報の精度向上に大きく貢献しています。これらには、昨今の情報技術が飛躍的な進歩を遂げたことにより可能になったという背景もあります。

気象研究所では、この研究を更に発展させた、数kmスケールの水蒸気変動の解析と、豪雨や突風の監視・予測に関する研究に現在取り組んでいます。


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