台風・顕著現象の機構解明と監視予測技術の開発に関する研究


リスクをとらえ台風・大雨・突風の減災へ

顕著現象を理解し防災につなげる

気象庁では、台風は3日前から、集中豪雨は半日前からの予報精度を、2030年までに大幅に向上させることを目指しています。この目標に沿って、気象研究所における課題解決型研究の一つ「台風・顕著現象の機構解明と監視予測技術の開発に関する研究」に取り組んでいるのが、台風・災害気象研究部です。台風や顕著現象(集中豪雨、竜巻、豪雪など)の実態把握と機構解明を進め、災害発生時には研究成果の速やかな発信にも努めています。

台風災害が相次いだ令和元年(2019年)は、所内の緊急研究課題に参画し、台風第15号による房総半島の強風や、台風第19号の広範囲の大雨などを解析し、地球温暖化の影響も検証しました。翌年の令和2年7月豪雨については、球磨川流域の上空で発生した大規模な線状降水帯の特徴を解析しました。

最新鋭レーダーで大雨や突風の実態を探る

台風・災害気象研究部では、突然やってくる竜巻のリスクを軽減するための研究にも取り組んでいます。2020年には、立体的な高速スキャンが可能なフェーズドアレイレーダーを使って令和元年東日本台風の積乱雲を解析し、小さな渦から竜巻が発生するメカニズムを世界で初めて解明しました。

台風から竜巻まで、現象の理解を深める上で、雨雲の内部構造を探ることができる二重偏波レーダーも重要な役割を果たしています。気象研究所の二重偏波レーダーは、顕著現象の監視技術開発に役立つ主力観測装置であると同時に、気象庁が全国に展開する気象レーダーに導入する技術を見極める実験機としての一面も持っています。

研究例の図
最新鋭レーダーによる研究例。二重偏波レーダーを用いて台風の強風の高精度な観測(右上)を、フェーズドアレイレーダーを用いて竜巻全体の立体視(左下)を実現した。写真は気象研究所に設置された最新鋭レーダー。左上が本館屋上中央にある二重偏波レーダー(ドーム径約7m)、右下が構内にあるフェーズドアレイレーダー(ドーム径約2m)。

甚大な被害をもたらす可能性がある気象を扱う台風・災害気象研究部は、課題解決型研究を4つのチームで機動的に推進しています。

台風の発生、発達から温帯低気圧化に至る解析・予測技術の研究(副課題1)では、台風の詳細なメカニズム解明を目指しています。課題は、台風の急な発達・衰弱の予測と、災害を伴う強風や豪雨などを引き起こす台風の構造変化の解明です。予測技術が進んだ現代でも、世界で年に数回は進路や強度の予測が大きく外れてしまう事例があります。その科学的要因を特定して予測技術を高める研究は、西太平洋熱帯海域を西に進む台風が向かう東南アジア諸国の防災にも貢献しています。

顕著現象の実態解明と数値予報を用いた予測技術の研究(副課題2)では、大雨や大雪・竜巻等の顕著現象の実態把握とメカニズム解明に取り組んでいます。ここ10年で実態解明が進んできた線状降水帯も、発達や持続の要因など未解明の点が残されています。いずれは顕著現象の発生場所や時間を絞り込んで予測することを目指し、現在はこれまでの実例を統計的に解析しています。また、空間的に細かな目の数値予報モデルで再現実験を行い、顕著現象の予測技術向上につながる知見を積み上げています。

顕著現象の自動探知・直前予測技術のための研究開発(副課題3)では、ドップラーレーダーで観測される、竜巻等突風をもたらすパターンの探知と進路予測の研究開発に注力しています。竜巻等突風は、極めて狭い範囲(~10km)で発生し、短時間(~10分)で急激に発達するため、それを的確にとらえ予告的な情報を提供することには大きな技術的困難があります。この課題では、AI技術の中でも特に画像認識分野で実用化が急速に進んでいる深層学習を用いて、渦の特徴を検出する手法を開発しています。深層学習モデルを開発して、30秒~1分に1回という素早さで正確に現象を探知・追跡し進路を予測することや、将来型気象庁レーダーとして期待されているフェーズドアレイレーダーに適用することが目標です。気象研究所に設置されたフェーズドアレイレーダーは、アンテナを水平方向に回転させながら、高速に上下方向のスキャンを行うことができます。このような新しい気象レーダーを活用することにより、災害をもたらす顕著現象を素早く立体的に捉えることが可能になると期待されます。

先端的気象レーダーの観測技術の研究(副課題4)では、二重偏波レーダーを使って、雨雲の内部構造を把握する手法や、雨雲から降る雨の強さを正確に推定する手法を開発しています。二重偏波レーダーは水平・垂直の2方向に振動する電波を同時に発射し、反射された電波の水平・垂直方向間の違いから、物体の平均的な縦横比や、混ざり具合の情報を得ることができます。そこで、大雨や大雪、雷、突風、降ひょうなど、雨雲の発達による危険な現象の監視・予測に活かすことを目指して、雲の中のさまざまな降水粒子(雨、みぞれ、雪、あられ、ひょう等)の立体的な分布を把握する手法を開発しています。また、雨の強さをより正確に推定するため、大きな雨ほど空気抵抗でつぶれて横長になる性質を利用して、雨粒の大きさや数を求める手法も開発しています。