大気の物理過程の解明と物理過程モデルの開発に関する研究


 観測や実験により大気の各種物理過程を解明し、その物理過程モデルの高度化等を通じて、大雨等の顕著現象、台風の予測、季節予報、地球温暖化予測に用いられる数値予報モデルの予測精度を向上させることを目指します。

          
  • 副課題1:高解像度数値モデルにおける線状降水帯等の激しい気象現象の再現性向上
  • 副課題2:雪氷物理過程の高度化に資する観測的研究
  • 副課題3:数値モデルの予測精度向上に向けた積雲対流・雲・放射スキームの精緻化
  • 副課題4:実験観測に基づくエーロゾル・雲・降水微物理素過程モデリングの改良

P課題 概念図


研究期間

2024年度~2028年度


研究代表者

気象予報研究部長



研究目標

 顕著現象の再現性や予測精度の向上及び雲・降水過程や放射過程などの不確実性やモデルバイアスの低減に資するよう、各種の観測成果や実験施設、観測装置を十分に活用しつつ、素過程の解明から物理過程モデルの高度化までに取り組むことにより、現業数値予報モデルで使用されている各種物理過程の問題点や将来に向けた課題を明らかにし、有効な改善方法を提案する。

副課題1 解像度数百m 以下の数値シミュレーション・実験・観測により、大雨、大雪、突風、線状降水帯、台風などの顕著現象から雲・乱流などの素過程にわたって、詳細な構造分析に基づく機構解明、及び、再現性向上を目指す。日本とその周辺の領域の様々な環境下で発生する激しい気象現象について、
① 数値モデルによる積乱雲・降雪雲内の鉛直流や雲・降水粒子特性など詳細な内部構造を観測データと比較することで検証する。
② 高解像度数値シミュレーションを活用した解像度に応じた物理過程の検討などに基づき、数値モデルの課題を抽出し、再現性向上のための方策を示す。
③ 大気境界層において線状降水帯の発生や維持に特に重要な以下の乱流現象を1.数値計算、2. 風洞実験、3. 野外観測により明らかにする:
(a) 不安定成層における上昇流の発生、及び地表面近傍に現れるその前兆現象
(b) 潜熱(水蒸気)の供給に寄与する鉛直輸送と地表面近傍の水平輸送
(c) 顕熱、運動量の鉛直輸送と地表面近傍の水平輸送
④ 得られた知見を統合し、境界層過程の改善策を取りまとめて、乱流輸送に関する新たなスキームを構築する。風洞実験や野外観測による検証を経て、気象モデルasuca に実装し数値実験による検証を行う。
⑤ 関連課題との連携により課題を抽出するとともに解決法を検討する。高解像度モデルの予測精度の解像度依存性について評価して問題点を抽出し改善の方策を示すとともに、高解像度モデルに適した力学フレームを検討する。広領域で実行可能な高解像度領域モデルを開発し、台風による局地的な降水や風の予測精度を評価して問題点の抽出と改善のための方策を示す。また、他副課題で得られた物理過程改良の成果を現業数値予報モデルを用いて総合的に確認し、予報精度向上にかかる改善の提案を目指す。
副課題2 ① 地上観測に基づく雪氷物理過程の解明
雪氷物理量観測の基盤技術を開発しつつ放射・気象・積雪の地上観測を国内(札幌・北見・長岡)において実施し、観測データに基づいた雪氷物理過程の解明を進める。また、観測データを活用して、雪氷圏を対象にした放射伝達モデルの開発を行う。
② 雪氷に関する衛星リモートセンシングアルゴリズムの開発及びデータ利活用地上観測データから得られた知見や、雪氷圏を対象にした放射伝達モデルを活用して衛星リモートセンシングアルゴリズムを開発・改良し、雪氷圏変動の面的な実態把握を行う。また、次期衛星を含む静止衛星ひまわりによる積雪・海氷の質的な雪氷プロダクトの充実及び現業利活用の検討を行う。
③ 雪氷物理過程モデルの高度化
観測データの検証データとしての利用や、観測から得られた積雪・海氷に関する物理過程の知見を活用することにより、これまで開発を行ってきた積雪変質モデルや海氷モデルの高度化を図る。特に世界的に見てもアルベド再現の不確実性に係る課題となっている積雪変質モデルにおける光吸収性不純物の積雪時空間変動への影響考慮、及び、海氷モデルにおける融解期のメルトポンドの影響考慮について改善を進める。さらに、積雪変質モデルの現業予測情報への高度利用を進め、海氷モデルの海洋モデルへの組み込みを行う。
副課題3 ① 積雲対流スキームの精緻化
将来の気象庁全球モデル(GSM)の水平高解像度化や気象庁メソモデル(MSM)による顕著現象などの予測精度向上に向け、対応する格子間隔に適合が必要となる積雲対流スキームなどの物理過程の問題点を抽出し、改善のための方策を示す。
② 雲・放射スキームの精緻化
長期の予測やデータ同化において重要となる放射収支やモデルバイアスの改善に向け、関連する雲・放射スキームといった物理過程の問題点を抽出し、改善のための方策を示す。
副課題4 ① 世界的にみて未解明かつ雲生成にインパクトが大きいエーロゾル粒子を対象とした室内実験や多様な地点での野外観測によるエーロゾル物理・化学分析データから、エーロゾルタイプ別の雲核(CCN)・氷晶核(INP)の特性を解明し、定式化を図る。 ② 実大気で見られるエーロゾル粒子の混合・変質過程に基づき、野外観測と室内実験との比較、ボックスモデル数値実験との比較検証から雲粒・氷晶発生過程に関する雲物理パラメタリゼーション改良を行い、雲生成過程の解明を進める。 ③ 室内実験や野外観測の結果を基に、詳細微物理モデルによる数値実験との比較検証を行い、CCN・INP 特性、エーロゾル粒子の混合・変質過程を含めた詳細微物理モデルの改良を図る。 ④ 詳細微物理モデルを導入した3次元改良モデルによる数値実験を大気汚染によるインパクトの高精度な評価等を観点に実施し、エーロゾル・雲・降水モデリングの精緻化を進める。


各年度の研究計画

研究計画の詳細は以下のファイルをご覧ください。

2024年度(PDF 300KB)